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長谷川幸洋コラム第29回 国会は会期延長して特定秘密保護法案の慎重審議を!
2013-12-12 20:00330pt特定秘密保護法案をめぐって参院の審議が大詰めを迎えている。政府与党は12月6日までの臨時国会会期中に採決して可決成立させる方針だ。だが、たとえば共同通信やFNNの世論調査では、回答者の8割以上が今国会にこだわらず、慎重審議を求めている。私も同意見だ。さて、そうなると、注目されるのは修正法案の提出者である自民、公明の与党とみんなの党、日本維新の会の対応である。4党は国会の会期延長、あるいは次の通常国会へ継続審議に動くのか。石破幹事長はブログ失言の汚名をそそぐチャンス
自民、公明の与党は、いまのところ会期延長に動きそうにない。政府が強気の姿勢を崩していないからだが、私は今回の問題では、与党が政府の立場と異なって会期延長の判断をしてもいい、と思う。石破茂幹事長はじめ自民党の与党議員は、政府と何が違うのか。政府は法案を国会に提出する立場であり、与党議員は法案を受けて国会で野党と議論を尽くすのが仕事である。今回ほど、そういう役割分担が重要になった局面はちょっと思い出せないほどだ。なぜ、この役割分担が重要か。それは冒頭で紹介したように、国民の8割以上が「国会で議論を尽くせ」と望んでいるからだ。国民は自分たちに代わって議員たちに国会での議論を委任している。議員は「国民の代理人」である。通常であれば、国民は選挙で与党に多数を与えた時点で政府には法案提出、与党にはそれを可決成立させる手続きをほぼ一括して委任している、と考えてもいい。だが、今回のようなケースでは、国民は政府が提出した法案について、国会に「しっかり議論して問題点があるなら修正してもらいたい」と期待しているのではないか。複数の世論調査で8割以上という数字が示すのは、そういう民意であると思う。そうだとすれば、普通は政府を支えるのが与党ではあるが、ここはいったん立ち止まって、国会運営を預かる与党の権限において「慎重審議をしよう」という判断があってもいい。なんでも「政府の言う通り、国会を運営するのが与党」という話になったら、国会や国会議員の権威がないではないか。ここで石破幹事長が英断をふるって、国会会期延長に動けば「幹事長の権威」は間違いなく高まるだろう。ブログ失言の汚名をそそぐチャンスでもある。国民は「国会というのは政府とは違うのだ」と実感する。それは民主主義にとってプラスである。 -
田原総一朗 特定秘密保護法案の危険性に、何度言っても政治家はなぜ気がつかないのか?
2013-12-09 16:30330pt12月6日、特定秘密保護法案が先日の衆議院に続き、参議院でも可決された。そこで、改めてこの特定秘密保護法について話をしたい。先月11月29日の「朝まで生テレビ!」は、特定秘密保護法案を取り上げて激論をした。法案への反対側は、青木理さん、長谷川幸洋さん、江川紹子さん、手嶋龍一さんなど、ジャーナリストたちが揃った。一方、与党側は元防衛庁長官の中谷元さん、総理大臣補佐官の磯崎陽輔さんが出演した。彼は、今回の法案の直接担当者だ。番組では、この法案に反対する側から、次のような意見が出た。「チェック機関がない」「対象分野が曖昧」「恣意的な運用が可能」「取材が実質規制される」。対する政府側は、「そんなことはあり得ない」と答えていた。僕の考えは、この法律は必要だが、法案自体に不備があるというものだ。司会という立場から、中谷、磯崎両議員を一歩引いて見ていると、決して「国民を騙そう」とか、「ごまかそう」という気持ちは彼らにはないということがわかった。政治家たちは、本心から「だいじょうぶ」だと思っているのだ。自分たちに「悪気」がないからだろう。よく言えば、人がよいのだ。だが悪く言うと、彼らには想像力が足りない。彼らには、この法律を悪用する気持ちがまったくないのかもしれない。けれども、後世の政治家、あるいは官僚はどうか。未来の政治家や官僚が、この法律を恣意的に運用する可能性がある。その危険性が彼らにはわからないのだ。しかし、議論が進むうちに、両議員にもその「危なさ」に気づいたようだ。ついに、磯崎さんは、「チェック機関を検討する」と答えたのだ。だが僕は「検討じゃダメだ」とさらに詰め寄った。磯崎さんは最後には、「チェック機関を設置する」と、番組内で明言したのだ。これは初めてのことであった。 -
長谷川幸洋コラム第28回 特定秘密を法律で決めるのは前進 参院で審議中の法案の何が問題なのか
2013-12-05 20:00330pt
[Photo] Bloomberg via Getty Images
特定秘密保護法案の参院審議が本格化している。ここでは本来の問題である「特定秘密」がいま、どういう扱いになっているのか、について確認しておきたい。というのは、まだ法案は成立していない。では、いま「自衛隊の暗号」とか「日本で活動しているスパイ」といった国家の秘密は世間にずぶずぶに漏れているのか。そんな秘密を含めて「あらゆる情報は国民のものだ」という立場もあるかもしれない。だが、私は「国家に守るべき秘密はある」と思う。政府も当然、そう考えて、いまでも重要秘密を守る枠組みを構築している。それは、内閣官房に設置された「カウンターインテリジェンス推進会議」だ。内閣官房長官を議長に内閣危機管理監ら関係省庁幹部が構成員になっている。事務局を務めているのは内閣情報調査室だ。そこのトップは内閣情報官である。カウンターインテリジェンス推進会議が定める特別管理秘密とは
この会議は第1次安倍晋三政権当時の2006年12月25日に「内閣総理大臣決定」を根拠に発足して以来、日本の重要秘密保護の柱になってきた。会議は秘匿すべき「特別管理秘密」の定義を定めている。それは次のようだ。「国の行政機関が保有する国の安全、外交上の秘密その他の国の重大な利益に関する事項であって、公になっていないもののうち、特に秘匿することが必要なものとして当該機関の長が指定したもの」これを読むと、あえて該当条文は挙げないが、今回の法案が定めた「特定秘密」と実質的に同じであることが分かる。つまり、これまでも政府は実質的に特定秘密を指定してきたのだ。具体的にどういう取り扱いをしているか、各省庁によって異なるが、たとえば、警察庁は訓令(PDFです)で特別管理秘密について「内閣衛星情報センターが偵察衛星で得た画像情報」とか「重要政策に関する情報検討会議で警備局長が議事とした事項」とか「他の官公庁が国の安全、外交上の秘密として、特に秘匿することが必要としたもの」などと定めている。秘密は取り扱う人間の適正評価も重要だ。今回の法案がどうなっているかといえば、特定秘密を取り扱える人間を厳格に制限して、たとえば「テロリズムとの関係」とか「精神疾患に関する事項」とか「飲酒の節度に関する事項」などについて適正評価をする、と条文で定めている(第12条)。これまではどうだったのか。私は「政府には、従来から『特別管理秘密』がある」という話を聞いて、それはいったい、どういうものか、念のために関係機関の最高幹部に確かめてみた。 -
長谷川幸洋コラム第28回 特定秘密保護法案成立。秘密を守れない国会議員と暴けないマスコミは自省せよ
2013-11-28 12:00330pt特定秘密保護法案の審議がヤマ場を迎えている。みんなの党に続き、日本維新の会も自民、公明の与党と修正協議で合意し、臨時国会での法案成立が確実な見通しになった。
この問題をどう考えるか。
多くのジャーナリストやマスコミはこの法案に反対している。私は外交や安全保障、防衛分野で秘密があるのは当然だと思う。それでも、法案は多くの問題を抱えている。ここは時間をかけて、12月6日までの国会会期を延長するか継続審議にして、しっかり議論を尽くすべきではないか。
会期延長または継続審議で議論を尽くすべき
外交や安全保障、防衛にかかわる秘密保持と国民への情報公開をどうバランスさせるか、は民主主義国家にとって重要な問題だ。
これについては、世界70カ国以上の500人以上の専門家が討議してまとめた「ツワネ原則」と呼ばれる考え方がある。いわば国際標準といってもいい。
ツワネ原則は14回にわたる討議の末、ことし6月に南 -
改めて言う!特定秘密保護法案をめぐる「危ない空気」とは?
2013-11-20 15:00330pt11月11日、僕は鳥越俊太郎さん、岸井成格さん、田勢康弘さんら、テレビキャスターの仲間たちと記者会見を開いた。特定秘密保護法案への反対を表明したのだ。10月25日号のメルマガでも特定秘密保護法案について一度書いたのだが、改めてその危険性を訴えたい。正直、僕はこんなアブナい法案は、通らないのではないかと思っていた。ところが野党の反対もほとんどない。このままいけば、可決することになってしまうだろう。だが、僕が何より怖いと思っていることがある。重苦しい空気が、日本中に蔓延し始めているということだ。今回、記者会見を開くに当たり、僕たちは多くのジャーナリストに声をかけた。ところが、10人以上から、「まったく同意見だし、加わりたいのだが、自分の名前を出すことは勘弁してくれ」という返事がきたのだ。誰もが自由に発言し議論を戦わせ、そのうえで物事を決めていく。これが民主主義の根幹であろう。ところが、特定秘密 -
田原総一朗 『僕が「特定秘密保護法案」成立に反対する理由』
2013-10-29 20:00330pt〔PHOTO〕gettyimages
僕はいま、あることで、日本がたいへん危ういと感じている。「特定秘密保護法案」だ。安倍内閣が閣議決定し、おそらく今国会で成立することになるだろう。
第一次安倍内閣の頃から、安倍首相はこの法律を制定したがっていた。それは、なぜか。「スパイ防止法」の類(たぐい)の法律は、いま、日本にはない。世界の主要国のなかで、そういう法律がない国は日本ぐらいのものだろう。だから、アメリカに言わせれば、「そんな国では、たとえ同盟国であっても、怖くて重要機密を共有できない」というわけだ。
たとえば、国家公務員が重要な機密を漏らす、つまり守秘義務に反したとする。アメリカでは最高で死刑に処せられる。ところが、日本では最高でも懲役1年、50万円の罰金が課されるのみだ。だが、特定秘密保護法案が成立すれば、最高で懲役10年と刑が厳しくなるのだ。おそらくアメリカからの要請もあっただろう。安倍政権が、この法律の成立を急ぐ気持ちも理解はできる。
ただ、その内容があまりにも危ない。「知る権利」「取材の自由」は守られる、と言いながらも、その規定がどうにも曖昧なのだ。まず、特定秘密の対象となるのは、防衛、外交、スパイ活動、テロ活動の4分野だ。しかし、その定義は解釈によってどうにでもなる。
取材の自由については、取材活動を「著しく違法・不当でない限り、正当な業務行為と位置づける」との趣旨を盛り込むという。だが、「著しく違法・不当」とはいったいどこまでを指すのだろうか。例えば、政治家の家やマンションの敷地内に入っただけで、「住居侵入罪」で「違法」とされる可能性もある。政治家や官僚に強引に取材すれば、「不当」とされる可能性もある。どうにでも、政権に都合よく解釈できてしまうのだ。
さらに、もうひとつ気になることがある。現在の法案には、次のように書かれている。「5年ごとに更新可能。30年目に内閣の承認があればさらに延長できる」。国会ではなく「内閣」だ。政権の意向でいくらでも延長できるのだ。
僕は、戦時中から戦後にかけて、国家が平気でウソをつき、戦争に負けると、その主義を簡単にひるがえした様子を目の当たりにしてきた。体制とはウソつきなのだ。
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