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記事 9件
  • 田原総一朗 集団的自衛権問題から考える真の「保守」とは?

    2014-05-29 20:00  
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    5月15日、安倍首相の私的諮問機関、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が開かれ、座長の柳井俊二さんから報告書を受け取った。そして安倍首相は、集団的自衛権の行使容認へ強い意思を示したのである。僕は、集団的自衛権の行使容認について、全面否定するつもりはない。いま、日本を取り巻く世界情勢は大きな変化を迎えている。長い間、「世界の警察」を自任してきたアメリカが、その役割を辞めようとしている。一方、お隣の中国は、経済的に急成長を遂げ、軍事的にも急拡大し、東アジアにおける安全保障上の重大な脅威になっている。僕たちはいま、安全保障について真剣に考えざるを得ない局面にあるのだ。もちろん、国家的な議論を尽くすことが大前提だ。また、集団的自衛権が行使できる条件を明確にすることも不可欠である。そのひとつの答えが、安倍首相がいう、「戦後レジームからの脱却」であろう。ただ僕は、このような時にあって、危機感を覚えることがある。それは、安倍内閣の動きに呼応するかのように、いわゆる「保守」層が「原理主義」化していることである。彼らが目指すのは、次の4つの変化だろう。つまり「憲法の改正」「靖国神社の参拝」「東京裁判否定」「アメリカからの自立」だ。ひと昔前なら過激と受け取られていたのだが、保守系メディアで日常的にこれらの主張を目にするようになった。いまや「タブー」ではなくなったのである。こうした「保守原理主義」層がなぜ増えたのか。ひとつは、先にも述べた世界情勢の大きな変化によるものだろう。しかし、それに加えて、戦争を知らない世代が日本人の大部分を占めるようになったことと大きく関連するように思われて仕方がない。僕のように戦争を知っている世代は、「もう戦争なんてこりごりだ」という強い思いを抱いている。実体験がともなっているから、「戦争を憎む」気持ちも強い。だが、戦争を体験していなければ、「戦争はいけない」と頭でわかっていても、実感がわかないのではないか。繰り返しになるが、僕は集団的自衛権を否定しない。「憲法改正」「靖国参拝」「東京裁判否定」「アメリカからの自立」といった4つの変化についても、頭ごなしに否定するつもりなどない。僕は以前、明治維新以来の日本の近現代史を徹底的に調べた。そこで感じたのは、「東京裁判」はインチキだということだ。たとえば、「平和に対する罪」である。太平洋戦争末期まで存在しなかった罪名を、連合国が勝手に作ったのだ。そして、満州事変までさかのぼってその罪状を適用したのである。 

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  • 長谷川幸洋コラム第50回 集団的自衛権の行使容認を「戦争に巻き込まれる」と反対している場合ではない

    2014-05-29 20:00  
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    ウォッカで乾杯する習近平国家主席とプーチン大統領。〔PHOTO〕gettyimages
    中国とロシアの連携が急速に進んでいる。中国もロシアも「力による現状変更」を実践している国際秩序への挑戦者だ。両国はともに国連安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国でもある。ということは、両国が国際法に違反しても国連は制裁できない。事実上、国連は無力である。鮮明になった中国の野心
    この両国が連携し、これから事実上の同盟関係にまで発展するとなると、世界情勢への影響は計り知れない。ロシアによるクリミア侵攻からわずか2か月で世界情勢は猛烈な勢いで急展開している。いま日本が立っている地点は、そういう局面だ。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は5月20日、上海で会談し「他国への内政干渉や一方的な制裁に反対する」との内容の共同声明を出した。戦勝70周年行事を合同で開催することでも合意した。これは「ドイツのファシズムと日本の軍国主義」に対する両国の勝利を祝う趣旨であり、当然ながら、とくに中国は日本を念頭に置いている。続いて同夜には、同じ上海で開かれたアジア相互協力信頼醸成会議(CICA)で習主席が基調講演し「アジアの安全保障はアジアの人々が守る」という趣旨の「新しいアジア安全観」を唱えた。これは「中国主導でアジア安保秩序を構築していく」という宣言だ。言い換えれば「米国の好き勝手にはさせないぞ」という話である。アジア相互協力信頼醸成会議(CICA)とは聞き慣れないが、カザフスタンのナザルバエフ大統領が1992年の国連総会で創設を提唱した。99年に15ヵ国で発足し、現在は中ロはじめパキスタン、イラン、トルコ、韓国、イスラエルなど26カ国が加盟している。日本や米国はオブザーバーの立場だ。中国の脅威にさらされているベトナムは加盟しているが、フィリピンやマレーシア、インドネシア、それからロシアと対立しているウクライナもオブザーバーにとどまっている。報道によれば、ベトナムの国家副主席は会議で中国の名指しを避けながらも、南シナ海での衝突事件を念頭に中国をけん制する発言をした、という。中国は首脳会談でロシアと接近しただけでなく、プーチン大統領も出席した国際会議で中国主導の秩序構築を目指す考えを高らかに宣言した。いまや中国の野心は鮮明である。アメリカは中国に弱腰
    習主席は昨年6月、オバマ米大統領との会談で「太平洋は米中両国を受け入れるのに十分に広い」と訴えて事実上、米中による太平洋の縄張り分割を提案した。オバマはこのとき「日本が米国の同盟国であるのを忘れるな」と反撃したが、その5ヵ月後に中国が一方的に防空識別圏を設定すると、米国は識別圏の撤回を求めなかった。それどころか、翌月には訪中したバイデン副大統領が「米国と中国は世界でもっとも重要な二国間関係である」として「新しい形の(米中)大国関係」を呼びかけた。この「新型大国関係」という用語と発想は、もともと中国が提唱したものだ。中国に対する米国の宥和的姿勢が見え始めていたところへ、ロシアがクリミア半島に侵攻した。欧米は経済制裁をしたが、それ以上の手段は手詰まりになって、クリミアは実質的にプーチンの手中に落ちてしまった。これをみた中国が南シナ海で大胆な行動に出る。ベトナムの巡視船への体当たりである。米国は中国の行動を口で批判はしたが、それ以上、軍事はもとより効果的な経済制裁オプションをとる姿勢は見えない。そういう中で、今回のプーチンと習近平の首脳会談、そしてCICAでの習演説という流れである。私は5月18日放送の「たかじんのそこまで言って委員会」で「日本にとって悪夢のシナリオは中国とロシアが手を握ることだ」と話したばかりだ。だが、1週間も立たないうちに、悪夢が現実になって動き出している。予兆はあった。プーチンは3月18日の演説で、クリミア問題でロシアの立場に理解を示した中国に言及し「感謝している」と述べていた。中国はこれに呼応するように、同月27日の国連総会でクリミアの住民投票無効を指摘した総会決議を棄権した(4月4日公開コラム)。新疆ウィグル自治区の独立問題を抱える中国は、たしかにクリミア問題で微妙な立場にあるが、基本的には米欧と対立するロシアと連携しようとしているのは明白だ。中国はこれからロシアとの2国間関係を強め、CICAのような日米欧抜きのフォーラムも使って、自前のアジア秩序構築に全力を傾けるだろう。「新しい勢力図」を早く描こうとするのだ。 
  • 長谷川幸洋コラム第49回 砂川事件の最高裁判決「自衛は他衛、他衛は自衛」という相互依存こそ防衛の本質

    2014-05-22 20:00  
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    極東有事を想定した米韓軍事合同演習には沖縄の海兵隊など在日米軍も参加した photo gettyimages
    「日米安保条約で米軍に基地を提供したときから日本は集団的自衛権を容認してきた」という論点を、5月2日公開コラムで紹介した。今回はその続きを書く。米軍基地と「戦争巻き込まれ論」
    まず1960年に改定された日米安保条約を確認すると、第6条で「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」とある。ここで条約は「日本の安全」とともに「極東における国際平和と安全」にも寄与する、と定めている。とはいえ当時、日本側の主たる関心は「日本自身の安全」だった。一方、米国側は日本はもとより、極東の平和にも重大関心を抱いていた。米国は韓国、台湾と相互防衛条約を結んでおり、西側自由陣営の盟主として韓国、台湾が共産勢力の手に落ちるのは絶対に阻止しなければならなかった。日米の関心のズレが明確になるのは、その後、沖縄返還交渉が始まったときだ。波田野澄雄・筑波大学名誉教授(外務省の日本外交文書編纂委員長)が2013年12月に外交史料館報に書いた「沖縄返還交渉と台湾・韓国」という論文によれば、当時の佐藤栄作首相は「極東防衛と日本防衛のバランスについて発言のぶれが目立つ」という。つまり、韓国と台湾という極東の安全が日本にとって重要と認識しつつも、国内では「日本防衛以外の目的で基地が使用されれば、日本が戦争に巻き込まれる」という国民感情が強かった。そこで、佐藤は政府要人や外務省幹部に対して「(沖縄の基地は)『日本の安全のために必要』という考え方の徹底が必要なり」と説いていた、という。「戦争巻き込まれ論」はいまに始まった話ではない。沖縄返還をめぐる交渉時にも「日本が戦争に巻き込まれる。だから基地は日本だけのために使え」という議論が起きていたのだ。ちなみに、当時の巻き込まれ論は「基地は日本だけのために使え」論だったが、いまの巻き込まれ論は「武器は日本だけのために使え、友邦のために使うな」である。両者はどこが違うかといえば、使用する武器弾薬は日本の基地で補給されるのだから、戦う相手側からみれば、本質的に違いはない。さらに言えば「基地や武器を日本だけのために使え」論なら、日本防衛のために使う基地や武器という話になるから個別的自衛権で説明できる。ところが友邦のためにも使うとなると、集団的自衛権でないと説明できない。沖縄返還時には極東防衛のための基地使用を容認
    脱線した。本論に戻す。日米の関心は当初、日本だけか、それとも極東をどう含めるかでズレていたが、結局、日本は極東、すなわち韓国や台湾にも沖縄の基地は重要と認めて、沖縄返還交渉をまとめる。それが先のコラムでも触れた佐藤首相のナショナル・プレスクラブ演説だ。つまり、朝鮮半島有事に基地が必要になったときは「前向きに、かつすみやかに態度を決定する」と表明した。事実上、基地の使用はOKと米国に譲歩したのだ。極東の範囲についても議論になった。日本は朝鮮半島有事を想定していたが、米国は当時、台湾や戦争中だったベトナムも含めるべきという立場だった。結果的に日米共同声明や佐藤演説で言及されたのは韓国と台湾だけだ。とはいえ、日本は沖縄返還後もベトナムに出撃する米軍に基地使用を認めてきたのは事実である。極東の範囲には過去の議論で想定されていた韓国、台湾、フィリピンのほか、ベトナムも周辺地域として含めることを事実上、容認していた。つまり何を言いたいか。日本は日米安保条約で日本だけでなく極東の平和にもコミットしたが、沖縄返還時には具体的に一歩踏み込んで、朝鮮半島有事でも基地の使用を認めた。認めなければ、沖縄が戻ってこなかったからだ。先のコラムで紹介した岸信介首相や内閣法制局長官の国会答弁(1960年3月31日、参院予算委員会)は、目的を日本防衛に限ったうえで「米軍への基地提供は集団的自衛権とも考えられる」という内容だった(東京新聞の署名コラムlも参照)。だが、それから10年以上を経た72年の沖縄返還のときには、日本防衛だけでなく極東、とりわけ朝鮮半島の防衛にも基地の使用を容認したのである。そうであれば、ますまず集団的自衛権の容認にならざるをえない。繰り返すが、波田野論文にあったように佐藤首相は当初、日本防衛が主眼である点を強調しようとしていたが、それはあくまで国内向けだった。最終的には、演説で述べたように韓国防衛にも基地の使用を認めた。韓国防衛が日本防衛につながるからだ。 
  • 田原総一朗 誰もが「生きづらくない国」をどう作るか、実践者に聞いたヒントとは?

    2014-05-16 12:00  
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    僕の母校、早稲田大学には、大隈塾という、僕が塾長をつとめる講座がある。第一線のジャーナリストたちとともに、 「21世紀のリーダー、あるいは世界で活躍する日本人」の育成を目標として、各界の著名人を招き、学生たちを交えてディスカッションしている。とても贅沢な授業だ。先日、家入一真さんにこの大隈塾へ来てもらった。彼が今年の1月、東京都知事選に出馬したことは、みなさんの記憶にも新しいだろう。そのとき家入さんは35歳。候補者の中でもっとも若かった。じつは家入さんは、中学2年生のときから引きこもりだったそうだ。高校卒業後に就職したものの、「まともに働けなかった」という。だが、そこからが彼のすごいところだ。インターネット関連の会社を起こして、最年少で株式上場したのだ。29歳のときのことである。そして、十数億円という資産を得たそうだが、カフェ経営等々で、結局すっからかんになってしまう。このような経験から、家入さんは、給与のためだけに働くのではない、ものづくりの集団ができないかと考えた。そして作ったのが「リバティ」である。つづりは「Liverty」。「自由」「解放」を意味する「Liberty」に、「生き方」である「Live」を組み合わせた造語だ。家入さんによれば、「サークルのような団体」。会員の中には、会社を辞めた人、大学は卒業したけど就職しない人やできない人、自殺したいという人も多いという。つまり彼らの多くは、「メインのシステムからこぼれ落ちた人たち」なのだ。家入さんが給料を払うわけではない。「たくさんいる仲間たちと一緒に、プロジェクトを立ち上げてお金を稼げればいい」ということだそうだ。一方で、「リバ邸」というシェアハウスも作った。現代の「駆け込み寺」だ。渋谷、六本木、仙台、大阪、京都など、10カ所くらいあるそうだ。 

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  • 長谷川幸洋コラム第48回 ベトナム船衝突事件から読み解く中国の「尖閣侵攻リスク」

    2014-05-16 12:00  
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    中国の公船が5月2日以降、南シナ海のパラセル(西沙)諸島付近でベトナムの巡視船などに繰り返し体当りや放水をしていた。現場海域で進める石油掘削作業をベトナムに邪魔させないための実力行動である。衝突はベトナム側の発表であきらかになったが、中国外務省は8日、中国とベトナムの船舶が衝突したという事実関係そのものを否定した。その後、中国は「ベトナム側が衝突してきた」と言い分を修正した。このあたりは階級章などを外してロシアの武装勢力であることを隠しながら、クリミアに侵攻したロシアの手口をほうふつとさせる。私は3月6日公開コラム以降、一貫してロシアのクリミア侵攻が中国に伝染する可能性を指摘してきたが、わずか2ヵ月で早くも現実になった形だ。中国は「力による現状変更」の意思を変えるつもりはまったくない。こうした中国の力づくの挑戦は遠からず、東シナ海の尖閣諸島をめぐっても現実になるとみるべきだ。日本は集団的自衛権の見直しはもとより、漁民を装った尖閣侵攻など、いわゆる「グレーゾーン」問題への対応も急がなければならない。こう書くと、必ず一部から「中国の脅威を煽っている」という反発がある。そういう意見に対しては「起こるかもしれない危機を予想して対応策を考えるのが政治だ」と答えよう。それは原発事故とまったく同じである。原発でも事故が起きる可能性はあったのに「起きない」という前提で政策が展開され、惨事を招いた。原発反対を叫んでいる同じ勢力が集団的自衛権見直し反対を叫ぶのは、私に言わせれば、やや滑稽でさえある。原発も中国の動向も、日本にとっては同じ大きなリスク要因である。リスクには対応策を整えておくべきだ。見たくないシナリオだからといって、中国の尖閣侵攻リスクから目をそらせてはいけない。 

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  • 長谷川幸洋コラム第47回 「集団的自衛権の行使」を容認してきた事実を直視しよう

    2014-05-08 20:00  
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    沖縄の嘉手納基地を飛び立つ米軍機 〔PHOTO〕gettyimages
    安倍晋三政権が目指す集団的自衛権の行使容認論に対して、代表的な反対論は「日本が戦争に巻き込まれる」という議論である。たとえば、朝鮮半島有事のような身近なケースでも考えられる。「北朝鮮が韓国を攻撃した。韓国に味方して反撃する米国を日本が支援すれば、日本が北朝鮮の標的になってしまう」というものだ。これをどう考えるか。このケースをめぐる議論で鍵を握るのは、米国が韓国を助けるために出撃する基地はどこか、という点だ。普通に考えれば「それは日本の基地」と思われるだろうが、必ずしも自明ではない。
    事前協議がなくても米軍が基地を利用できる「密約」
    そこで、そもそも日本の米軍基地は何のためにあるのか、という点を確認しておこう。それは、もちろん日本を守るためだ。日米安保条約(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html)は第6条で次のように定めている。<日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、1952年2月28日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。>基本的に日本を守るために存在している基地を、朝鮮半島有事の際に米軍が使えるかどうか。これは1960年に安保条約を改定したときから大問題だった。もしも日本が認めなければ、米軍は、たとえばグアムやハワイから出撃せざるをえなくなる。それでは遠すぎて、緊急時には支障があまりに大きい。日米両国は安保条約改定時に結んだ「岸・ハーター交換公文」で、日本の基地を米軍の戦闘作戦行動に使うには「事前協議」の対象とすると合意した。だが、朝鮮半島有事で日本が基地使用を認めるのに時間がかかったり、もしも認めなかったら大変なので、米国の要求を受けて日米は例外措置として「事前協議がなくても米軍が基地を使用できる」という非公開の「密約」を結んだ。覚えている読者もいるかもしれないが、この密約は民主党政権時代に大問題になった。そこで当時の外務省は有識者委員会を作り、2010年3月に報告書(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mitsuyaku/pdfs/hokoku_yushiki.pdf)をまとめている。報告書の内容は「密約はたしかにあった」。だが、その後、佐藤栄作政権が1969年11月の沖縄返還にともなって「(米軍が朝鮮半島有事で日本の基地を使わなくてはならなくなったときは)日本政府は事前協議に対し前向きに、かつすみやかに態度を決定する」と米国ナショナル・プレスクラブでの演説で表明した。その結果「密約は事実上、失効した」と報告書は結論付けている。
    安保条約締結時から集団的自衛権の行使は認められていた
    つまり日本は米国と事前協議をするが、それはあくまで形だけで、結論は基地の使用を「前向きに検討する」、つまり「認める」という話である。「それはダメだ」という立場もあるだろう。私は米軍に基地使用を認めるのは当然と思う。なぜなら、もしも日本が基地使用を認めなかったらどうなるか。米国の韓国支援に支障が出るかもしれない。その結果、北朝鮮が優勢になって韓国を打ち負かしたら「次は日本だ」となって、日本の安全保障に重大な悪影響が及ぶ。私は「それでも仕方がない」とは思わない。有事を傍観した結果、最悪の場合は自分の首を締める結果になってしまう。ここに集団的自衛権の本質が表れている。つまり日本は安保条約で米国に基地を提供している。その基地は日本の防衛だけでなく、韓国防衛のために出動する米国のためにも使われる。なぜなら米軍の韓国支援を助けることで、日本の防衛にも役立つからだ。実際、歴代の政府はそういう判断でよしとしてきた。安保防衛政策の基本構造は1960年の日米安保条約締結時からできていた。広い意味で集団的自衛権の行使はとっくに容認されてきたのだ。その内容の一部は一定期間、秘密扱いされてきた。それはもちろん大問題だが、政府が秘密にしてきたことと、日本の安保防衛問題をどう考えるかは別問題である。
    事実上、日本はアメリカと一体にある
    ところが、真の問題はここからだ。では、日本政府はどのように説明してきたのかといえば、集団的自衛権の行使を朝鮮半島有事をめぐって日米安保体制に最初からビルトインされた問題であると国民に説明することなく、もっぱら「武力行使と一体化しているかどうか」という狭い観点で説明してきた。たとえば1999年の周辺事態法では、外国軍隊の武力行使と一体化しているような自衛隊の活動は集団的自衛権の行使に当たるからダメで、一体化していない「後方支援」ならOKと整理されている。こういう考え方は、その後のテロ特措法やイラク復興支援法などでも基本的に維持されている。その結果、どうなったか。政府の論法にしたがえば、たとえば周辺事態法で公海上やその上空での武器弾薬の補給はダメだが、日本の領域で行われる物品・役務の提供はOKとされている。だが、そもそも米軍は日本の基地で武器弾薬を補給して出撃している。それを考えれば、こういう整理の仕方は根本的にナンセンスではないか。いくら日本が「公海上で米軍に武器弾薬を補給してませんよ。だから米軍の武力行使と歩調をそろえていませんよ」と唱えてみたところで、北朝鮮にしてみれば「何を言ってるんだ。初めから日本の基地で補給してるじゃないか」と言うに決まっている。つまり日本が安保条約で米国と同盟を結び、かつ朝鮮半島有事で米国の基地使用を(当初は秘密裏に)認めた段階で事実上、日本は米国と一体になっているのだ。こういう構造を「それは日本の個別的自衛権で対応できる」というのは無理がある。なぜなら、このケースでは日本が攻撃されたわけではないからだ。日本が攻撃されていないのに、韓国防衛に出撃する米国を支援するのを正当化するロジックは、集団的自衛権の行使以外にはない(ちなみに、ベトナム戦争で米軍機が日本の基地から出撃した例があるが、このときは「米軍機は出撃してからベトナム行きを命じられた」という屁理屈を考え出したようだ)。 
  • 長谷川幸洋コラム第46回 TPP協議は継続。アジア太平洋の連携強化を鮮明にした日米共同声明を評価する

    2014-05-07 20:00  
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    中国を注意深くけん制した 〔PHOTO〕gettyimages
    日米首脳会談の共同声明がようやく発表された。主役である安倍晋三首相とオバマ米大統領の会談が終わった後、脇役にすぎない両国の閣僚が環太平洋連携協定(TPP)をめぐって夜を徹した交渉を続けた末、声明発表にこぎつけるという異例の展開である。
    TPP交渉決着へ一歩前進
    これを見ただけでも、両国がいかにTPPをまとめたいかがよく分かる。首脳会談の「陰の主役」である中国をけん制するために、日米としては、なんとしても強固な絆でアジア太平洋地域の連帯感をアピールしたかったのだ。これまで何度も書いてきたように(たとえば、2013年8月23日公開コラム)、TPPは貿易自由化と中国をにらんだ安保防衛という2つの側面がある。ロシアによるクリミア侵攻という「あからさまな力による現状変更」の試みが中国を一層、刺激しかねない局面で、日米関係を軸にしたTPPは一段と重要になっていた。結末は協議継続という形になったが、声明は「TPPに関する2国間の重要な課題について前進する道筋を特定した」と述べている。一歩前進であるのは間違いない。最終合意までには曲折があるだろうが、これで基本路線ははっきりした。日米両国はなんとしても交渉をまとめる方向だ。声明は尖閣諸島の防衛について、あらためて大統領によるコミットメントを明確にした。さらに日本の集団的自衛権の行使をめぐる検討についても「歓迎し支持する」と書き込んだ。これらはもちろん、日本にとって大きな成果である。声明は、中国が昨年11月に設定した防空識別圏について「中国」という国名の名指しを注意深く避けながら「日米両国は、事前に調整することなく東シナ海における防空識別区の設定を表明するといった、東シナ海及び南シナ海において緊張を高めている最近の行動に対する強い懸念を共有する」と記した。これらの記述には、米国の中国に対する警戒感がにじみ出ている。「日米両国は…中国との間で生産的かつ建設的な関係を築くことへの両国の関心を再確認する」という原則を踏まえつつも、しっかり中国をけん制している。
    日米が力を入れる東南アジアほかとの関係強化
    その点は、アジア太平洋の国々に言及した部分に大きなスペースが割かれたことからも読み取れる。声明本文はこう書いている。<日米両国は、地域の安全と繁栄にとっての東南アジア諸国連合(ASEAN)の一体性及び中心性の重要性を認識し、外交上、経済上及び安全保障上のASEANとの協力を深化することに対するコミットメントを新たにする。(中略)この文脈において、日米両国は、東アジア首脳会議(EAS)がこの地域における政治及び安全保障面の主要なフォーラムであると認識している。>ここにある東アジア首脳会議(EAS)という枠組みが、まず1点だ。EASとは東南アジア諸国連合(ASEAN)10ヵ国に日米韓、それに中国、インド、ロシアなどを加えた18ヵ国から成る首脳間の地域的枠組みである。加えて、次の部分では具体的に韓国、豪州、インドという3つの国が挙げられた。<アジア太平洋及び世界における平和と経済的な繁栄を推進するという共有された目標を達成するため、日米両国は、韓国、豪州、インドを含む志を同じくするパートナーとの三か国間協力を強化している。>これだけ読むと、単に「外交、経済、安全保障の側面でEASと韓国、豪州、インドとの関係を強化するのか」と軽く受け止めてしまいかねない。 
  • 田原総一朗 世論調査はこう読め!「安倍首相よ、本気で抵抗勢力と闘え!」

    2014-05-07 17:00  
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    『朝日新聞』の世論調査が、今月19、20日に行われた。その結果は、非常に興味深いものだった。まず「集団的自衛権」について賛否を問うている。賛成は27%、反対は56%だ。では、今国会の会期中に、「集団的自衛権」を行使できるように憲法解釈を変える必要があるか。この問いには、必要が17%、必要ないという人が68%だった。消費税についても聞いている。来年10月の消費税率10%への引き上げについては、賛成25%、反対66%だった。エネルギー問題についてはどうか。今後も原発を使っていくとする「エネルギー基本計画」について、評価するが39%、評価しない46%。世論調査をみてわかることは、これら安倍内閣の主な政策が、国民から評価されていないということだ。ところが、不思議なことがある。安倍内閣は、48%といまだ高い支持率を保っているのだ。なぜか。国民が重視しているのは、実は「経済」なのではないか、と僕は思っている。たとえば日経平均株価だ。安倍首相就任時8000円台だったが、4月23日現在、1万4546円だ。1ドル70円台の円高で、輸出産業は大変苦しい状況だったが、いまは1ドル102円になっている。安倍首相が打ち出した「アベノミクス」で、日本経済はここまで回復したのだ。だから「集団的自衛権」に反対でも、「原発」や「消費税」に反対でも、内閣支持率は依然高いのだ。ただし、これは現時点での話だ。アベノミクスの「3本の矢」のうち、金融緩和、公共事業による内需拡大という2本の矢はうまくいった。だが、第3の矢である「成長戦略」がまだまだうまくいっていない。現在の好景気を一時的なものに終わらせないために、個々の企業が本当の力をつけなければならないのだ。そのためには思い切った規制緩和、改革が必要だ。だが、これが思うように進んでいない。かつて小泉純一郎元首相は、「抵抗勢力」という言葉を使った。思い切った改革をしようとすれば、必ず既得権益を得ていた人たちから強い反対にあう。そして場合によっては、竹中平蔵さんのように国賊扱いされることもあるのだ。それほど、難しいことなのだ。しかし、だからこそ、ここが改革のキモになると僕は思うのだ。ドイツの例をみてみよう。20年ほど前、ドイツは経済的に落ち込んでいた。1989年の東西統一が理由だ。社会主義国家だった旧東ドイツへの投資が莫大な額になり、ドイツ全体の経済を圧迫したのだ。そして、もうひとつ、経済的な落ち込みの理由があった。「大きな国家」だったことである。日本と同じように、ドイツも手厚い社会保障が重い負担だった。この危機的状況に、シュレーダー首相が現れたのだ。 

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  • 田原総一朗、人生初の80歳、なってみてわかったこと

    2014-05-07 16:23  
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    去る4月15日は、僕の80回目の誕生日だった。その日の夜、うれしい出来事があった。僕は、ある打ち合わせのため、指定された場所に出向いた。到着すると、そこにいたのは堀江貴文さん、猪瀬直樹さん、乙武洋匡さん、津田大介さん、東浩紀さん……。「朝まで生テレビ!」の出演者を中心に、多くの友人たちが待っていた。打ち合わせというのは口実で、サプライズの誕生会を企画してくれたのだ。たいていのことでは驚かない僕も、これにはびっくりした。「朝生」での激論風景を再現した人形で飾られた特製「朝生ケーキ」まで用意されていた。このケーキは、津田大介さんがプロデュースしくてれたそうだ。恥ずかしながら、この歳まで僕は自分がやりたいようにやってきた。ひたすら突っ走ってきた。そんな僕なのに、こんなに多くの人たちが受け入れてくれている。僕は力をもらったような気持ちで、まだまだ突っ走っていこうと改めて決意を固めたのだ。実はもうひとつ、80歳の僕に大きな刺激をくれた方がいる。キヤノンの御手洗冨士夫さんだ。雑誌『プレジデント』の取材でお会いしたのだ。御手洗さんは、経団連会長を5年間務めた後、2012年、6年ぶりにキヤノンの社長に復帰、いまは会長職も兼ねて大活躍している。その御手洗さんは、今年79歳、僕とひとつ違いだ。御手洗さんの朝は早い。毎朝4時に起きて、6時には出社する。だから僕は、「社長がそんなに早く来たら部下は困るでしょう」と聞いたことがある。部下も同じように朝早く出社しているから大丈夫だと、彼は答えたのだ。そんなことだから、午前7時からの会議も珍しくないそうだ。朝一番だから効率もよく、会社の好業績につながっている、と御手洗さんは話していた。 

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