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田原総一朗「舛添東京都知事は、いい知事になれるのか?」
2014-02-28 11:37330pt新しい東京都知事が誕生した。選挙が終わった僕の感想は、やはり舛添要一さんだったか、という印象だった。世論調査でリードしていたからとか、自公の応援があったから、ということだけが理由ではない。実は「朝まで生テレビ!」で僕は主要候補と議論している。
細川護煕さんの票が伸びなかったことも、納得できる。当選したら困ったことになったと思うのではないかと、細川さんの話を聞いたときに、僕は感じたのだ。細川さんにとって都知事選は、都知事になるための戦いではなく、「脱原発運動」の場であった。応援していた小泉純一郎さんも同じだ。僕には、そのように思えて仕方がなかった。小泉さんとのツーショットの映像を、テレビであれだけ流してもらえたのだから、アピールとして十分だったのだろう。
そういう意味で、前日本弁護士連合会会長の宇都宮健児さんに対しても同じ印象だ。「朝まで生テレビ!」で僕は宇都宮さんに、「脱原発という点で一致しているのだから、立候補を辞退して細川さんと共闘してはどうか」と提案した。すると宇都宮さんは、それは断じてないと言い切ったのだ。
本気で「脱原発」を実現したいのなら、そして本気で「政治家」になるつもりなら、真剣に考えるべきではないだろうか。選挙を辞退できないのは、単に自分の考えをアピールしたいからだとしか、僕には思えなかったのだ。
僕は、舛添さんと古くからの知り合いだ。学者であった彼がマスコミに出るようになったきっかけは、「朝まで生テレビ!」への出演だった。当時「サンデープロジェクト」に出演していた政治学者の高坂正堯さんと同じような立場で「朝まで生テレビ!」に出演してくれる政治学者を僕は探していた。そんなときに、舛添さんを紹介されたのだ。 -
長谷川幸洋コラム第38回 子どもの口喧嘩レベルで米国との信頼関係損ねた衛藤〝失望返し〟発言の危うさ
2014-02-28 11:27330pt影響は今も尾を引く[PHOTO]Bloomberg via Getty Images
安倍晋三首相の靖国神社参拝に関連して、衛藤晟一首相補佐官が動画サイトYouTubeへの投稿で「むしろ我々のほうが(米国に)dissapointだ(失望した)」と述べた。衛藤は発言をすぐ取り消し、動画も削除した。
だが、これは外交防衛問題の基本認識にかかわっている。取り消したからといって、衛藤の理解の枠組みは変わらないだろう。衛藤の個人的認識の問題でとどまれば良いが、そうではなく、米国はじめ諸外国が「政権全体の考え方ではないか」と受け止めるとしたら、事は重大だ。安倍政権の危うさを暗示している。
「外交防衛政策」と「リーダーの信念」は別問題
衛藤は何と言ったのか。私は動画が削除される前に2回再生して、手元のスマートフォンに発言を録音した。それによれば、衛藤はこう言っている。
「防空識別圏の中国の一方的な発表があった。このときに、私は『ああ、日本がいくら抑制的に努力しても、中国の膨張政策が止まることはないな』と(思った)。抑制的なことをいろいろやってきたことのほうが、日本にとってむしろ良くない、という判断をすべきだ、と私は思いました」
「小泉元総理も言ってますが『私の後に(首相は)だれも靖国に行かなかったが、それで日中関係が少しでも良くなったんですか』と。その挙句の果てが尖閣(の問題)であったし、防空識別圏(の設定)だった。そんな、ぎりぎりの中で安倍総理の決断があったんじゃないかと思います」
「私は12月最初の段階でアメリカ大使館に行った。総理がはっきり言っているのは『日米関係を大事にしている』と。だから『アメリカにもちゃんと通告しますよ』と(言った)。しかし私の推測ですが、いずれ総理は行くでしょう。総理が行くのは当たり前だし、それ(靖国参拝)を総理はずっと言われてきたのだから、そのとき、できれば賛意を表明してもらいたいが、それが無理なら反対はしないでもらいたい、ということを伝えました」
「首席公使からは『慎重に』という言葉が返ってきた。総理はバイデン副大統領にも、それ(靖国参拝)をちゃんと伝えている。その中で、一番いい時期を決断されたと思っています」
「ですから、アメリカがdissapointと言ったことに、むしろ我々のほうがdissapointなんですね。アメリカが同盟関係の日本をなんでこんなに大事にしないのか。アメリカが、ちゃんと中国にモノを言えないようになりつつある」
「あのdissapointはだれに対して言ったか。日本に対して、と思うかもしれないが、それは違いますね。あきらかに中国に向けて『我々(米国)は実はdissapointしているんだ』と(言った)。あの言葉は中国に対する言い訳として、アメリカは言ったにすぎない、と理解しています」
「日本は単なるサプライズで靖国参拝をやったんではなく、官邸の中でも意見を固めて、総理がやる、ということについて『みんなが協力してくれ』、外務省に対しても『協力してくれ』という具合に、日本外交としては珍しくちゃんと意思表示をしたと思う」
「平和を祈念する。不戦の誓いをする。当たり前でしょう。そういう純粋な気持ちで行っている。中国や韓国に対して、いろいろなことをやっているわけではない」
「A級戦犯も処刑されたから祀られているわけで、英雄として祀っているわけではない。246万人の国のために亡くなった方と同じ列においてお祀りをしている。慰霊をしている。ほんの何人の方がいるからといって、ここに参らないという理由には、まったくならない。これが今回の靖国参拝に対する私の見解です」
以上の発言で注目するのは、まず「日本が抑制的にするのは良くない」という部分だ。「中国が膨張政策を展開しているから、それに対して抑制的にするのは良くない」という発言は、まず是非はさておいて、外交防衛政策上の判断を示している。
これに対して、後段では「平和を祈念し不戦の誓いをする純粋な気持ちで参拝した。それは当たり前だ」と言っている。こちらはリーダーの心の問題である。
私は外交防衛政策をリーダーの心、あるいは信念の問題とごっちゃにして判断するのは危険だと思っている。外交防衛政策はあくまで相手の意図と力を見極めて、どう対応したら自国の平和と安定が確保できるか、という問題だ。それとリーダーの心や信念は別次元の問題である。 -
長谷川幸洋コラム第37回 都知事選・細川惨敗で見えた民主党の政策なき「漂流状態」
2014-02-20 20:00330pt舛添要一知事を誕生させた東京都知事選は、やはり単なる地方選挙にとどまらなかった。選挙結果は、いまの永田町の姿を象徴しているようだ。
まず、都知事選は民主党の漂流状態をくっきりと浮かび上がらせた。それから、日本共産党の躍進もあらためて印象づけた。永田町では野党再編論議がくすぶり続けているが、今回の都知事選の教訓をしっかり整理して、次に備える必要がある。
「即脱原発」に「脱成長」。党左派より過激だった細川の主張
民主党は当初、舛添支持に傾きながら、細川護煕候補の出馬が固まると、一夜にして細川に乗り換えた。「そんな簡単に支援候補を切り替えられるのか」という思いは民主党支持者でなくても感じたに違いない。
舛添と細川では何が違ったか。両者とも脱原発を唱えたが、舛添は「エネルギー政策は基本的に政府の仕事」と認識して段階的な脱原発を主張した一方、都知事にできる部分として、再生エネルギーの活用や省エネ推進を訴えた。これに対して、細川は即原発ゼロだった。
私がもっとも重要な違いとみたのは、細川が出馬の第一声で「経済成長至上主義からの脱却」を唱えた点だ。舛添は、そんなことは言っていない。脱原発に加えて脱成長となると、たとえ即原発ゼロに賛成でも、首をかしげる有権者もいたのではないか。
この路線は、民主党左派をさらに過激にした路線でもある。民主党は2030年代までの段階的な脱原発を志向しつつ、経済成長については成長志向派と格差是正(=公正な所得再分配)派の間で内部対立がある。
民主党が当初、舛添に傾いていたのも、成長志向派からみれば、政策的にそう違和感がなかったからでもある。だが、結果的に細川が即原発ゼロと過激になり、かつ脱成長まで唱えたものだから、せいぜい民主党左派を支持する勢力がうなずける程度になってしまった。
そうなると、実は宇都宮健児候補が有利になる。宇都宮を支援した日本共産党と社民党は、即原発ゼロと脱成長・格差是正路線の元祖であるからだ。同じように即原発ゼロと脱成長を唱えるなら、突然、湯河原の里から降りてきた細川よりも筋金入りの共産党・社民党のほうが信頼できる。そう考えた有権者も多かったはずだ。
皮肉を込めて言えば、15年間も釜を焼いたり絵を描いたり、畑をいじって優雅な隠遁生活を送ってこられた殿様に、選挙カーの上から「脱成長を」なんて言われるより、戦前から一貫して労働者の側にいた共産党のほうが、はるかに「格差是正」に真剣に取り組むだろう。そんな思いが細川の上に宇都宮を押し上げた理由である。
有権者の一番の関心は何だったか。それは昨年の参院選、一昨年の総選挙から一貫している。それは景気回復と安定成長の実現である。各種世論調査をみても、今回の都知事選で有権者の関心は「景気・雇用」と「医療・福祉の充実」に集中していた。
有権者はまず長く続いた低迷を脱して「安心して暮らせるように生活をしっかり立て直したい」と考えているのだ。そういう目線からみると、脱原発は重要課題ではあっても、有権者の関心からは少しズレていた。 -
田原総一朗 焦る橋下徹市長が、今やるべきことはこれだ!
2014-02-19 19:27330pt1橋下徹さんが大阪市長を辞職して、出直し選挙に再出馬する意向を表明した。橋下さんの行動に対して、「自分勝手だし、そもそも大義がない」「選挙にかかる税金の無駄遣いだ」などといった非難が集まっている。
この騒動の大元には、橋下さんが提唱してきた「大阪都構想」がある。大阪では、大阪「府」と大阪「市」という二つの組織が、それぞれ行政サービスをしている。この「二重行政」の状態が、「おカネ、時間、そして人材のムダを生んでいる」というのが、橋下さんの主張だ。
橋下さんの主張に対して、実はその「ムダ」はさほど大きくない、という反論もある。さらに大阪市議会の議員にすれば、都構想なんてとんでもないことだ。「市」がなくなるのだから、「市議会」もなくなる。彼らは失職するのだ。もちろん自分の足元だけを見て、反対しているのではないと信じたい。とはいえ、議員の大半が「都構想」に反対なのは事実である。
一方の橋下さんにすれば、市議会が反対することが納得できない。橋下さんは、「都構想」を掲げて市長選挙で勝った。つまり、市民の支持は十分に得られているという自信があるのだ。 -
田原総一朗 正念場の安倍政権の行方を左右する「4つの知事選」
2014-02-19 19:25330ptいま、各社の世論調査を見ると、安倍政権の内閣支持率は50%台である。少々不安になる数字だ。その安倍内閣だが、今年は安倍さんにとって正念場の年だ、と僕は考えている。では、どういう課題があるのか、ここで見てみよう。
まず注目すべきは経済だろう。「アベノミクス効果」で、いまのところ経済は好調だ。だが、4月には消費税が3%アップする。その影響による落ち込みは、避けられない。政府は法人税の引き下げを検討しているが、これはあくまでも「企業向け」減税だ。企業がその減税分を社員に還元しなかったり、設備投資による収益アップを実現できなければ、「消費税を上げておいて、企業ばかり減税するのか」と、不満が噴出することになるだろう。
そうならないためにも、アベノミクスの3本の矢のうち、第1の矢「大胆な金融政策」、第2の矢「機動的な財政政策」に続く、3本目の「民間投資を喚起する成長戦略」を思い切って実行できるか、この1点に大きくかかっているのだ。
経済以外の問題も山積みだ。沖縄の基地移設問題は、その最たるものだろう。1月19日に行われた名護市長選挙では、自民党が推薦する候補が敗れ、移設反対の稲嶺進さんが勝利した。ただ、選挙結果にかかわらず、結果的には普天間基地は、名護市辺野古に移転することになっていくだろう。
しかし、たとえば辺野古の埋立て工事が始まるときに、反対派が実力行使に出ることが考えられる。当然、その身体を張った姿は、日本中に報道される。反対派にとって、最大限のアピールになる。辺野古への移設が実現したとしても、政府へのマイナス感情が大きくなることは避けられないだろう。 -
長谷川幸洋コラム第36回 東京都知事選の隠れた争点「天下り利権」の規制に取り組む候補者は誰だ?
2014-02-13 20:00330pt東京都知事選が2月9日、投開票される。課題として脱原発や防災対策、東京五輪への取り組みなどが注目される一方、東京都の天下り問題はあまり注目されなかった。国に比べて地方自治体の天下り問題は陰に隠れがちだが、納税者にとって重要課題であることに変わりはない。
政府の監視を目的にする特定非営利活動(NPO)法人「万年野党」(会長・田原総一朗)は4人の都知事選立候補者に天下り問題についてアンケート調査し、結果を公表している(こちら)。その内容を紹介するとともに、地方公務員の天下り問題について考えてみる。
NPO調査「都職員の天下り249人」は氷山の一角
万年野党は舛添要一、細川護煕、宇都宮健児、田母神俊雄の4氏に公開質問状を送り、うち田母神を除く3氏から回答を得た。まず東京都の「天下り利権」について「重要課題と考えるか」、続いて「問題に具体的に取り組むか」と質問した。回答は「はい」と「いいえ」の二択で求めた。
回答した舛添、細川、宇都宮の3氏は上記2つの質問に、いずれも「はい」と答えている。具体的にどう取り組むかについては、それぞれ記述式で次のように回答した。
舛添は「求められる役職・職責を全うするのに、最適な人材が配置されることがその組織のパフォーマンスを最大化する上で重要なことであると考えています。また、都民の税金を有効に活用していくためにも、極力無駄を排除していくことが必要であると考えます。天下りの問題については、各外郭団体や関連財団において求められる人材要件に対して、最適な人材を個別具体的な人事を通して配置していくことを推進していくことが必要であると考えます」と答えた。
細川は「就任後に、皆様のご意見も参考にしながら、検討し、判断してまいります」という。
そして、宇都宮は「北海道ニセコ町などに学んで、都予算の財源・積算、また入札・コンペの評価などを市民が分かりやすい形で公開します。都の出資25%未満の監理団体も監査の対象とし、天下りや利権による都費の流出を防ぎます。監査委員(知事指名2)の人選を公開で拡げ、計数だけでなく仕事内容にもメスを入れてもらいます。天下りの受け皿を生むような、湾岸地域などの巨大開発予算を抑制します。特別会計で借金を作りながら巨大開発が進められており、都財政のあり方を歪めていると考えられます」と答えた。
簡単なアンケート調査だけで候補者の問題意識を評価するのは早計だ。それを認めたうえで、回答にはなんとなく各候補者の考え方がにじんでいる。
万年野党は、東京都にどんな天下り利権があるかについても独自に調査している。それによれば、課長級以上の東京都職員が再就職した先は、たとえば臨海地区の施設を束ねた臨海ホールディングスグループに25人、東京都公園協会に16人、東京都下水道サービスに14人など、合計249人という結果が明らかになった(こちら)。
これらは氷山の一角ではないか。というのは、私自身が人事監察委員会委員として天下り問題に取り組んだ大阪市の例と比べても、人数が少ないように思えるからだ。
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長谷川幸洋コラム第35回 選ぶべきは「日米同盟の強化」 国連憲章に基づく「集団的自衛権見直し」は当然
2014-02-06 18:53330pt1月24日の施政方針演説で、集団的自衛権の行使容認について「対応を検討する」と述べた安倍首相[PHOTO]Bloomberg via Getty Images
ことしの大テーマの一つは集団的自衛権の見直し問題である。
安倍晋三政権はできれば6月下旬までの通常国会会期中にも憲法解釈を変更して、行使容認に踏み切りたい意向だ。一方、日本共産党は言うに及ばす、民主党は見直しに反対する勢力が多い。与党でも公明党は慎重だ。この問題をどう考えるか。
見直し反対論は国連憲章に反している
まず、意外によく知られていない話から書こう。先の大戦が終わった後「悪漢はみんなで退治する」という集団による平和維持という考え方は、世界でとっくに共有されている。それは国際連合の存在理由そのものなのだ。
国連の目的は憲章第1条にこう書かれている(訳文は国連広報センターによる)。
〈国際連合の目的は、次のとおりである。
国際の -
田原総一朗 原発以外の争点は? どうなる、東京都知事選挙
2014-02-04 11:50330pt1月23日、東京都知事選挙が告示された。前知事の猪瀬直樹さんが、金銭問題で辞職する事態を受けた選挙だ。世論調査によると、元厚生労働相の舛添要一さんが、元首相の細川護煕さんをリードしているようだ。
細川さんは、原発問題について「即原発ゼロ」を表明した。この点について、細川陣営内ではかなり論議があったと聞いている。「即原発ゼロ」が現実的でないことは、細川陣営もよくわかっているからだ。だが、ゆるやかな「脱原発」では、「即原発ゼロ」の立場をとる、小泉純一郎さんの支援が受けられない。つまり、「非現実的」という理由で離れていく票より、細川さんと小泉さんという元首相のツーショットによって増える票の方が大きいと読んだのだ。選挙運動が始まり、小泉節が炸裂すれば、細川さんは、舛添陣営を脅かすことになるだろう。
ただ、細川さんはスネに傷を持つ身である。首相在任中の1994年、佐川急便から1億円を借り入れていた、という件で追及されたのだ。細川さんは「全額返済した」と弁明しているが、なんとも心もとない。そもそも今回の都知事選は、前知事の猪瀬さんが徳洲会から「借金」をして辞職したため、行なわれるものだ。釈然としない都民も多いだろう。
一方の舛添さんは、自民党の支援を受けている。ただ、舛添さんは、2010年に自民党から除名処分を受けた。除名処分にしておきながら、支援する自民党はどうかと思う。
もうひとつ僕は、都知事選に対して、おおいに不満に感じていることがある。候補者の年齢が全体的に高いのだ。細川さんは76歳、舛添さんは65歳だ。ほかに元航空幕僚長の田母神俊雄さんは65歳、元日弁連会長の宇都宮健児さんも67歳。
もちろん、高齢だからダメだとは言わない。僕だって今年で80歳になる。充分に高齢者であるが、まだまだ現役だ。だが、ここまで候補者の年齢が高いと、日本に人材はいないのかと不安になる。
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