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2012年12月の記事 4件

塀の上を走れ!「ドロップイン」な生き方について考える

今年も残りわずかとなった。この1年間も、多くの人と会い、いろいろな話を聞いた。 テレビ番組にも出て、原稿を書き、講演会で日本各地を訪れた。 海外にも取材に行った。休まずに走ってきたと思う。 この年齢になって、いったいなぜこんなにも忙しく過ごしているのだろうと、 我ながら笑いたくなることもある。 しかし、僕は一生、いちジャーナリストでいたい。好奇心のままに仕事をし、 人生を駆け抜けたいのだ。そんな人間のあり方のお手本にしている作家がいる。 森鴎外である。 僕の好きな作家が明治の文豪とは、意外に思われるかもしれない。 実は、若いころから鴎外が好きだったのだ。 大学の卒論のテーマは、「鴎外をめぐる女たち」だ。 鴎外は、海外留学中に知り合ったドイツ人女性と恋に落ちた。 帰国すると、その女性が日本にまで追いかけてきた。 結局、説得して国へ帰すのだが、情けないことに、説得したのは、 鴎外自身ではなく父親である。 初期の代表作『舞姫』のもとになったエピソードだ。 その後、鴎外は母の勧めで結婚。無事に長男が生まれるものの離婚する。 後に再婚し、4人の子どもをもうけた。 鴎外は「闘う家長」というイメージが強い。 ところが、実の母親をはじめ、ドイツ人女性、最初の妻、二番目の妻と 4人の女性に翻弄されてきた、と僕は卒論で論じたのだ。 鴎外は、弱い男だと思う。 けれどその弱さを克服して、作家としてラジカルに生きた。 一方で軍医総監として、そしてまた家長として、体制内に留まった。 先日、僕は自伝『塀の上を走れ』を書いた。 そこで、自分の生き方をドロップアウトならぬ「ドロップイン」という言葉で 表現した。 仕事はラジカルに、そして自分の属する組織を自分から捨てない。 無茶をして迷惑もかけるが、家族は守る。 この鴎外こそ、まさに「ドロップイン」の元祖なのだ。 かつて僕は、自分が司会を務めたテレビ番組で、時の首相3人を追及し、 退陣に追い込んだ。 だが、いくら首相を攻めたてても、いくら政権を交替させても、日本はちっとも よくならない。そのことに気づいたのだ。 もはや壊すべき強固な「体制」などない。 むしろこちらがさまざまな提案をしていくべきだと考えたのである。 僕のこの「転向」に対して、「田原は日和(ひよ)った」「体制側に寝返った」 などと非難された。 だが、これは思想の「ドロップイン」なのだ。 傍観者の視点からは、何も生まれない。目指すのは、日本をよくすることだ。 だから僕はどう言われてもよい。 まもなく、安倍政権が誕生する。 政権が変わっても、僕は変わらずに、日本が少しでもよくなるなら、という気持ちで 活動していく。そして、来年も突っ走り続けていきたい。

衆院選の「各党の主張」と「国民の関心」の間に、なぜ埋められない大きな乖離があるのか

衆院選を目前にして、マスコミ各社が世論調査を行った。 この中で、僕が興味深く感じた質問項目があった。 毎日新聞が「最も重視する争点は?」という質問をしていたのだ。 これに対して、いちばん多くの人が選んだ回答は「景気対策」だ。 32%の人が選んでいる。 自民党総裁の安倍晋三さんの主張が、反映した結果だろう。 安倍さんは大胆な「金融緩和」を繰り返し述べた。 通貨の流通量を増やし、国債を日本銀行に買わせる、という主張だが、 その内容が報道されただけで、たちまち円安になり、株価は上がったのだ。 その意味では、自民党のやり方がうまくいっていると言えるだろう。 次に多かった回答は、「年金・医療・介護・子育て」だ。23%の人が回答している。 民主党政権が見事に失敗した分野だ。 そして「消費増税・財政再建」は10%、「東日本大震災からの復興」が7%、と続く。 では、いま注目されている、「原発・エネルギー政策」はどうか。 なんと7%にとどまっているのだ。 どの政党も、この選挙の焦点は「原発」だと言わんばかりだ。 各党があれだけ「脱原発」「卒原発」、そして「原発ゼロ社会」をうたったのに、 7%の国民しか関心を示さなかったのである。なぜなのか。 どの政党も本気で原発問題に立ち向かっていないことに、国民は気づいてしまったのだと 僕は見ている。 先日の「朝まで生テレビ!」は、「脱原発」をテーマに取り上げた。 そこで僕は各党からの出演者に次のような問いを投げかけた。 「代替エネルギーはどうするのか」 「原発をなくすのはいいとして、使用済み核燃料の問題はどうするのか」 この僕の質問にきちんと答えられた政治家は、一人もいなかった。 彼らは「脱原発」を主張している。 だが、その主張は単なる掛け声だけで、具体的な道筋がない。リアリティがないのだ。 彼らのそのリアリティのなさが、画面に映し出された政治家の表情に、如実に現れてしまった。 テレビは恐ろしいものである。 この選挙に関する世論調査では、3つの重要な問題が忘れられていると僕は思った。 ひとつは「沖縄の基地問題」だ。2つめが「日本人拉致問題」、3つめが「少子化問題」。 どれも非常に大きな問題である。だが、これらを争点にする政治家は少ない。 理由は簡単だ。票につながらないからだ。 たとえば、「沖縄の基地問題」の現状は非常に危ういと僕は危惧している。 多くの国民が「沖縄だけの問題」と考え、「日本全体の問題」として受け止めていないように 見えるからだ。 だから、僕がテレビ番組で沖縄問題を取り上げても、視聴率はよくない。 この選挙で選ばれた政治家、政権を担うことになる政治家たちに僕は言いたい。 多くの国民が求めている、景気対策、年金・医療の問題は、もちろん早急に取り組むべきだ。 そして、原発・エネルギー問題は、単なる選挙のスローガンで終えてはならない。 現実にどうするのか、はっきりと道筋を示してほしい。 そしてなによりも、選挙の争点にならなかったが、しかし、非常に重要な問題である、 沖縄問題、拉致問題、少子化問題にしっかり取り組む政治家が、出てきてほしいと僕は願う。 これらの問題で苦しむ声なき声が消し去られないように、これからも、この3つの問題に 僕は厳しく斬り込んでいく。

衆議院選挙後の「二つのまさか」を大胆予測する!

今回は、2つの「まさか」を大胆予想してみた。 衆院選がいよいよ公示になったが、その「選挙後」に起こり得るシナリオだ。 ひとつめは、2013年の春から夏にかけてダブル選挙が行われる、という予想だ。 その時期に予定される参院選にあわせ、衆院選が行われるのだ。 「この12月に衆院選をしたばかりでなぜ?」と思われるだろう。 その理由を説明しよう。 実は、今回の衆院選は、「一票の格差」問題が解決されないまま選挙が行われる。 2011年3月に最高裁が格差を「違憲状態」と断じた。 にもかかわらず、「違憲状態」を是正しないまま衆院選に突入したのだ。 このような状態での選挙だ。 選挙後、当選した候補者たちはよいが、落選した候補者たちは黙っていられるだろうか。 「今回の選挙は違憲だったから無効だ」と訴える可能性は充分に考えられる。 もし裁判に訴えれば、選挙の無効が認められるだろう。 当然、選挙はやり直しになり、参院選とのダブル選挙になる可能性は高い。 僕はそう思うのだ。 2つめの予想は、大連立政権だ。それも自民党以外の政党による大連立政権である。 自民党の優勢が言われているが、その獲得議席は、200前後と見られている。 おおかたの予想では、第一党の自民党が、公明党と、それにさらに別の政党を加えて政権をとると言われている。 だが、自民党をはずした、大連立政権の可能性も十分にある、と僕は予想する。 1993年の細川連立政権の成立を思い出してほしい。 このとき自民党は、結党以来、守り続けてきた政権の座から引きずり落とされたのだ。 自民党は第一党ではあるが、単独過半数の議席をとれなかった。 一方、日本新党、日本社会党、新生党、民主党、公明党、そして新党さきがけなどが非自民で連立。細川護煕さんを首班とした内閣ができたのだ。 この前代未聞の政権を作った立役者は、誰か。 それが小沢一郎さんだった。 このとき、官房長官を務めた新党さきがけの武村正義さんと外務大臣となった 新生党の羽田孜さんに、組閣前、僕はインタビューをした。 このインタビューで二人は、「政権とは距離を置く」とはっきりと言っていた。 ところがフタを開ければ、二人とも重要ポストに就いている。 「距離を置くというのはウソだったのか」と、のちに聞いてみた。 すると二人は口を揃えてこう答えた。 「あの言葉は断じてウソではなかった。けれど小沢さんに口説き落されたのだ」 小沢一郎さんは、口説きの天才だ。 今回も滋賀県知事の嘉田由紀子さんを説得して、「日本未来の党」を立ち上げさせた。自分は黒子に徹するという。 その小沢さんが民主党、日本維新の会、社民党、公明党、みんなの党など、 自民党以外の主たる政党を得意の口説きで落としていったら、どうなるか。 ようやく無罪が確定し、「これが最後」と政治への意欲に燃える小沢さんなら、このようなシナリオも充分考えられるだろう。 すでに細川政権で、大連立を実現した男なのだ。 今回の衆院選の「地雷」――。 「一票の格差という違憲」「口説きの天才、小沢一郎」が2013年の政界をどう揺さぶるか。目が離せない。

政党乱立の衆院選、どこに投票するか迷ったときは、このポイントで考えてみよう!

選挙戦が熱を帯びている。「太陽の党」を結成した石原慎太郎さんが、橋下徹さんの「日本維新の会」と一緒になった。 滋賀県知事の嘉田由紀子さんは「日本未来の党」を立ち上げ、民主党を離党した小沢一郎さんと合流した。「大同小異」なのか。それとも「小同大異」か。政界は混沌している。 この合従連衡に、ほとんどの国民は戸惑っているだろう。誰を信じていいのかわからなくなって当然だ。僕のもとにも、「どこに注目すればいいのか」「どういう人に投票すればいいのか」といった質問がたくさん来る。こんなとき、僕はもっと大きなものに視線を向けるといいと答えている。たとえば、アメリカ大統領選に置き換えて考えてみると、答えが見えてくるのだ。 オバマ大統領と争ったロムニーさんは共和党だ。共和党は、経済に関しては、できるだけ自由に、市場に任せるという自由主義経済である。競争に任せて、なるべく手を出さない。「小さな政府」を目指す。安全保障では、積極的に紛争に介入しようとする。だから湾岸戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争……、すべて共和党が戦争を起こした。 オバマ大統領は民主党だ。民主党は、戦争からの撤退を掲げる一方、経済については政府がある程度、介入していくべきと考える。市場に任せる自由主義経済は、格差が広がると考えるからだ。民主党が目指す「大きな政府」である。だから、これまで実現しなかった国民皆保険の法律を、成立させようともしているのだ。日本では、国民全員がなんらかの健康保険に入っているのが当たり前だ。だが、アメリカではずっと実現できなかった大きな問題なのだ。ところが、このオバマの考えに対して、「民間の保険に入れない貧乏人の分を、なぜ自分たちが負担するのか」という反対の意見も少なくない。 では、日本はどうか。自民党総裁の安倍晋三さんは、大型の公共事業を提案している大胆な金融緩和策の発動させ、経済を活性化させる政策を打ち出した。さらに、憲法改正を掲げている。憲法9条第1項の改正を論じているため、日本を「戦争のできる国」にしようとしているとも言われている。この点は、アメリカでいえば、共和党に近いのだろう。 だが、ここでひとつ疑問が出てくる。尖閣と竹島で問題が起きて、いま、国民の間では中国、韓国への反感が強まっている。ナショナリズムの気運が非常に高まっている。この風潮に、自民党は「乗っかっている」だけなのではないか。もちろん、いろいろな主義主張があっていい。けれど、安倍さんに、自民党に、その主義を貫く「覚悟」がほんとうにあるのか。非常に気がかりである。 対する民主党はどうか。アメリカの民主党に近いことは間違いないだろう。だが、アメリカの民主党のように、明確に「色」を示せていない。「日本維新の会」はどうだろうか。僕は共和党に近いと見ている。嘉田さんの「日本未来の党」は、アメリカの民主党よりさらに「左」とでも言おうか。原発反対、TPP反対、増税反対、と何でも反対。昔の社会党のようだ。 アメリカはオバマさんを選んだ。民主党を選んだのだ。さて日本国民は、誰を、どの党を選ぶか。そのとき、このような視点を持てば、判断をしやすくなるだろう。

ゲキビズ田原通信

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