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長谷川幸洋コラム【第68回】リスク重なる世界経済。それでも「消費税10%」というエコノミストやマスコミは財務省の「ポチ」ではないか
2014-10-23 20:00330pt
もし、イスラム国が中東の原油を制圧したら… 〔PHOTO〕gettyimages
世界経済の先行き不透明感が強まっている。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しは「下ぶれリスクは明白である」と強い言葉で警告した。欧州ユーロ圏は4~6月期にゼロ成長に落ち込み、中国も「すでにマイナス成長ではないか」という声がある。これで日本は消費税を10%に引き上げられるのか。欧州経済の先行きは悲観的
まずIMFの予想をみよう。10月7日に発表された世界経済見通し(http://www.imf.org/external/japanese/pubs/ft/survey/so/2014/new100714aj.pdf)によれば、好調なのは米国と英国くらいだった。あとは日本を含めて悪化か、せいぜい横ばいだ。なかでも停滞が際立っているのは欧州である。ユーロ圏は債務問題という負の遺産から抜け出せず、2012年は▲0.7%、13年も▲0.4%とマイナス成長を続けた。14年はようやくプラス0.8%に転じる見通しだが、これは希望的観測かもしれない。欧州連合統計局(eurostat)が9月5日に発表したユーロ圏18カ国の4~6月期の国内総生産(GDP)は前期比0%成長だった(http://epp.eurostat.ec.europa.eu/cache/ITY_PUBLIC/2-05092014-AP/EN/2-05092014-AP-EN.PDF)。この後に発表された7月の鉱工業生産は前月比1.0%増とプラスを保ったが、建設部門の生産高は同じく0%と横ばいにとどまっている(いずれもeurostat)。景気回復はとても視野に入っていない。IMFも「ユーロ圏の回復が失速し需要がさらに弱まり、低インフレがデフレにシフトするリスクがある」と先行きには悲観的だ。
イタリアを訪れた李克強首相。中国も欧州も経済に暗雲 〔PHOTO〕gettyimages
中国の金の卵は壊れた
それから中国である。IMFの見通しは14年に7.4%成長を見込んでいる。これは中国政府の公式目標7.5%とほぼ同じだ。ところが、中国出身の中国ウォッチャーである石平・拓殖大学客員教授は最近発売された『月刊Voice』の論文で「中国経済はいま、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている」と書き出して、次のデータを紹介している。「それを端的に示しているのは、今年8月20日に中国煤炭工業協会が公表した2つの数字である。今年1月から7月までの全国の石炭生産量と販売量は前年同期比でそれぞれ1.45%減と1.54%減となったという」そのうえで、李克強首相が公式のGDP統計を信用せず、もっぱらエネルギー消費量や物流を基に本当の成長率を判断する、という有名なエピソードを紹介しつつ「このような物差しからすれば、…政府公表の『7.4%』ではなく、実質上のマイナス成長となっている可能性がある」と指摘している。日本の市場関係者に聞いてみても「7%成長は信用できない。実際はせいぜい3~5%くらい、というのが市場のコンセンサス」という。先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40720)でも指摘したが、中国では不動産バブルがすでに弾けた。中国の国家的闇金融であるシャドーバンキングは、不動産バブルが高金利を生み出す金の卵になっていた。その卵が壊れたからには、いずれシャドーバンキングの破綻も免れない。GDPの半分に達する500兆円規模ともいわれる闇金融システムが壊れれば、どうなるか。中国だけにとどまらず、中国への輸出で息をついている韓国、さらに世界経済への打撃も避けられない。 -
長谷川幸洋 コラム第18回 政治家・エコノミスト・記者が消費増税に賛成する理由
2013-09-12 12:00330pt[Photo] Bloomberg via Getty Images
日銀が景気判断を上方修正した。
5日に発表した「当面の金融政策運営について」(PDFです)という文書で、景気は「緩やかに回復している」とはっきり書いた。前月は「景気は緩やかに回復しつつある」だった。
どこがどう違うのかといえば、ニュアンスの差みたいなものだが、回復軌道に「もう乗った」というのと「いま乗りつつある」とでは、前者のほうが強い。
8月に判断を据え置いただけで、これで1月以来、ほぼ連続して上方修正を続けている。
景気が良くなっているから増税、は正しいのか
となると、直ちに思い浮かぶのは、では消費税引き上げがどうなるか、だ。
「景気が良くなっているのはたしかだから、予定通り上げるべきだ」という増税派の声が一段と勢いを増すのは、容易に予想できる。
それは正しいのか。
ここは根本に立ち戻って考えなければならない。私は「景気が回復している→だから消費税を上げるべきだ」ではなく「景気が回復している→だから増税せず、過熱するくらいまで待つべきだ」と考える。
まず、日銀の公表文をどう読むか。
日銀の文書を読むと「輸出は持ち直し傾向」「設備投資は企業収益が改善する中で持ち直しつつある」「公共投資は増加を続け」「住宅投資も持ち直しが明確」「個人消費は雇用・所得環境に改善の動きがみられるなかで、引き続き底堅く推移している」とある。
日銀は全体の基調判断で「緩やかに回復している」と言っているが、実は個別の需要項目を見ると、輸出も設備投資も住宅投資も「持ち直し」と表現している。個人消費については「底堅く推移」と一段と慎重である。
回復といっても、内実は「悪かった状態から少し改善した、ないし堅調になってきた」という程度なのだ。
新聞には「景気回復」という文字が踊っているが、実は「景気が良い」状態にはほど遠い。これが現状認識である。
そこで消費税だ。
政権内の増税派からは「消費税を上げても、景気を冷やさないように予算で大盤振る舞いする」という話が盛んに出ている。これは一見、もっともらしい。だが、ちょっと考えてみれば、財政政策として完全に倒錯している。 -
長谷川幸洋 コラム14回「黒田氏を日銀総裁に決めたように 安倍総理が消費税増税延期を決断する日」
2013-08-08 12:00330pt黒田東彦日銀総裁 [Photo] Bloomberg via Getty Images
消費税引き上げをめぐって、政府与党内の議論が激しくなってきた。安倍晋三首相や菅義偉官房長官は慎重に判断する姿勢を変えていないが、麻生太郎副総理兼財務相、甘利明経財財政担当相、高村正彦自民党副総裁らは増税に傾斜した発言を続けている。
はたして消費税は引き上げるのか、それとも引き上げを延期するのか。引き上げるとしても、当初予定の2014年4月に8%、15年10月に10%へという2段階路線を修正し、たとえば1%ずつといった小刻みな引き上げに修正するのか。
結論がどうなるにせよ、この問題を最終決断するのは安倍首相以外にない。逆に言えば、いまの段階で政府与党内からどんな声が上がっていようと、安倍が「こうする」と言えば、そうなる。アベノミクスを引っさげて参院選に圧勝した安倍の方針に弓を引いてまで抵抗するような閣僚や自民党幹部はいない。
安倍総理は消費増増税を延期するだろう
そこで、安倍がどうするかが唯一最大の焦点である。
閣僚らの増税傾斜発言の裏側には、もちろん増税に執念を燃やして、糸を引いている財務省がいる。ということは、増税問題とは安倍が財務省の意向をどう受け止めて対処するか、という問題でもある。
新聞はじめメディアは、安倍が日本経済の現状をどう見立てて、それに消費税引き上げがフィットするか否かという観点から増税問題を論じるケースがほとんどだ。言い換えれば、経済政策問題としての消費税問題である。だが「安倍・菅vs財務省」という政治的構図でみれば、消費税問題とは実は「政治主導か官僚主導か」という政治のあり方をめぐる問題でもある。
むしろ「日本の政治そのもの」と言ってもいい。そういう観点から、安倍はどうするかと考えると、私は「増税を延期する可能性がかなり高い」とみる。
なぜか。
それを整理するには、アベノミクス第1の矢である大胆な金融緩和と2%の物価安定目標設定という政策がどうして実現できたか、なぜ黒田東彦日銀総裁を選んだか、という問題を考えてみればいい。
安倍は今回の消費税引き上げ問題でも、黒田日銀の指名に始まる第1の矢と同じ発想で対処する、と考えるのが自然である。黒田日銀の誕生と金融緩和、物価安定目標こそが「安倍政権の原点」であるからだ。
いまとなっては、黒田日銀は「すでにそこにある存在」になった。だが、それはけっして自然とすんなり決まったわけではない。財務省との激しいバトルの末に、安倍が勝ち取ったものだ。多くの読者が覚えているだろう。財務省は当初から、総裁には武藤敏郎元財務事務次官を強力に推していた。
麻生副総理は武藤敏郎元財務事務次官を日銀総裁に推していたが
財務省の意を汲んで武藤総裁実現に汗をかいたのは麻生である。
財務省は安倍対策に麻生を押し立てる一方、主な新聞やテレビ局には幹部が絨毯爆撃して「武藤がいかに日銀総裁にふさわしいか」を力説して歩いた。その結果、NHKはじめ主な新聞、テレビは決定ぎりぎりまで「武藤最有力」と報じ続けた。財務省得意の外堀を埋める作戦である。
だが、私の知る限り、安倍が武藤総裁の可能性を真剣に考慮したことは、ただの一度もない。最初から武藤は除外していた。最終的に武藤を選ばず、黒田で決着したのは承知のとおりだ。
そのとき、麻生はどうしたか。
麻生は武藤を推していたものの、最後は「これは総理のご判断。総理が決めれば、私は全面的にそれを支える」と言って、総理の決断に委ねた。麻生は立派だった、と思う。さすがに内閣総理大臣経験者である。
安倍が黒田を選んだのは、けっして財務省や日銀の意を受けたわけではない。たしかに黒田は財務省出身だが、ナンバー2の財務官当時、その前の国際局長時代から金融緩和と物価安定目標政策に熱心だった。読売新聞やフィナンシャルタイムズにも、その線で寄稿している。現役の官僚でそこまで出来る人は生半可ではない。
そして、ここが肝心なのだが、そもそもアベノミクスの柱である大胆な金融緩和と物価安定目標は財務省や日銀から生まれた政策ではない。それは2006年の第1次政権が倒れた後、野に下った安倍自身が徹底的に経済と経済政策を勉強して身につけた政策である。
今回の安倍以前の政権では、自民党でも民主党でも経済政策を作ってきたのは事実上、霞が関だった。そして金融政策は日銀まかせだった。内閣総理大臣が自前の、いわば手作りの経済政策で勝負したのは、実に今回の安倍政権が初めてなのだ。そういう意味で、アベノミクス第1の矢はまさしく「政治主導」の政策である。 -
長谷川幸洋 コラム第4回 『アベノミクス成功の鍵を握る「消費税増税の延期」を安倍首相に聞いた』
2013-05-23 12:00330ptいよいよ景気回復傾向がはっきりしてきた。内閣府が発表した2013年1~3月期の成長率は実質で前期比0.9%(年率3.5%)、名目が0.4%(同1.5%)成長である。内訳をみると、個人消費の伸びが目立つ。
平均株価は15000円台を突破した。株高効果が次第に消費者に及んで、自動車や外食、高級品などに財布のひもが緩んできたのは間違いない。やがて夏のボーナスが出ると、明るい雰囲気はさらに広がるのではないか。
日銀の金融緩和に続いて、2013年度政府予算も成立した。アベノミクス第1の矢と第2の矢はすでに放たれた。とくに第1の矢(金融緩和)は上手くいきすぎて、天高く飛び出した矢はもはや姿も見えないくらいだ。
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