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記事 7件
  • 長谷川幸洋 コラム第16回「原発、消費税、TPP、集団的自衛権に憲法改正 政府は国民を騙してるのか」

    2013-08-29 12:00  
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    2013年8月15日の靖国神社 [Photo] Getty Images
    猛暑が続く中、各地でさまざまな勉強会や研修会が開かれている。昨日(8月22日)は愛知県蒲郡市で開かれた私学教職員の研修会に招かれて話す機会があった。与えられた演題は「政府はこうして国民を騙す」。昨年、出版した私の本のタイトルである。
    当時と政権は変わっているが、政府とメディア、国民の関係をめぐって変わった部分もあれば、変わっていない部分もある。政府は国民を騙しているのか、いないのか、あらためて考えてみたい。
    私が講演で扱った材料は福島第一原発の汚染水問題と消費税、環太平洋連携協定(TPP)、それに集団的自衛権と憲法改正問題だ。
    汚染水問題は事故の第2ラウンドの幕開け
    まず汚染水問題をどうみるか。流出した汚染水は300トンとされていたが、講演を終えた後になって「新たにタンク2基で流出か」という記事が流れた。
    報道によれば、東電関係者は外洋に流れた可能性を認めている。そうだとすれば、大変な事態である。事故の第2ラウンドが始まったと言ってもいい。なぜなら第一に、すでに情報提供を求めている韓国はじめ、欧米にも強い懸念が出ている。つまり事故の影響と被害が国際的に広がり始めた。
    第二に、汚染水の流出を止める有効な手段が見つかっていない。半面、地下水の流入は続いている。遮水壁を作るとしても、完成には年単位で相当な時間がかかる。それまで被害の拡大は待ってくれない。そうなると、日本への国際的な批判が高まるのは避けられない。
    前回コラムで書いたが、汚染水対策が遅れた本質的な原因は、事故当時の民主党政権が東電を破綻処理せず、会社を存続させたまま事故に対応しようとしたからだ。
    被災者への賠償も除染も国は一時的に費用負担するだけで、最終的には東電に費用を返済させる仕組みをつくった。会社をつぶさないことが前提なので、国は原理的に東電をさしおいて積極的に事故に対応できない。自分のビジネスで投融資した株主と銀行の責任を棚上げしたまま、国民に負担を求めるわけにはいかないからだ。
    したがって、国が前面に出て対応するには、まず東電を破綻処理することが前提になる。いまの安倍晋三政権も東電を存続させる枠組みを踏襲している。そのままで国が汚染水処理をするには「研究名目」のような苦し紛れの弥縫策をとるしかない。
    廃炉についても、国が民間会社である東電の仕事について費用負担する法的枠組みがないから、研究費用として独立行政法人に予算をつけた。だが、そうした場当たり対策は行き詰まる。汚染水対策に本腰を入れて対応するためにも、あらためて東電を破綻処理する必要がある。
    政府は国民負担の最小化という原則を貫け
    東電問題は政府と民間企業、エネルギー政策が複雑に絡み合っているが、民主党政権から現在に至るまで基本的構図は変わっていない。東電を破綻処理して株主と銀行に責任を分担してもらえば、その分、国民負担は減る。「国民負担の最小化」という原則について、政府はいまからでも遅くはないから本来、あるべき選択肢を示すべきだ。
    それはメディアの責任でもある。
    破綻処理すれば国民負担が減ることは明らかであるにもかかわらず、一部のメディアは破綻処理に口をぬぐったまま「東電任せにせず、政府が対応を」と叫んでいる。政府は国民の税金で仕事をしているのを忘れているかのようだ。
    政府が本腰を入れるとは、すなわち国民が重荷を背負うという話である。それには東電存続でビジネスをした投資家や銀行の存在を見逃してはならない。規律なき単純なメディアの「政府が対応せよ論」に騙されてはいけない。 
  • 長谷川幸洋 コラム第13回 TPP脱退の選択肢はない 政治もメディアも国民もリアリズムを受け入れよ

    2013-08-01 12:00  
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    TPP交渉参加に反対する農業関係者(2011年10月) [Photo] Bloomberg via Getty Images
    マレーシア・コタキナバルで開かれている環太平洋連携協定(TPP)の交渉会合に、日本が初めて参加した。約100人の政府代表団だけでなく、自民党は西川公也TPP対策委員長ら4人の国会議員も送り込んで、農業の重要5品目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、サトウキビなど甘味資源作物)の高関税を死守する構えだ。
    自民党は先の参院選を前に、参加慎重派の議員でつくる「TPP交渉における国益を守りぬく会」(森山裕会長)が「国益が確保できないと判断した場合は交渉からの脱退も辞さない」とする決議をまとめ、政府に提出している。
    これを受けて、党の参院選公約は「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めることにより、国益にかなう最善の道を追求します」と記した。
    これだけ読むと、場
  • 田原総一朗 自民圧勝で日本経済、次はどうなる?アベノミクスの本気度は「TPP」と「農業」でわかる

    2013-07-29 12:00  
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    参議院選挙、自民党の圧勝に終わった。52.61%という投票率の低さが象徴しているように、非常につまらない選挙だった。では、なぜつまらなくなってしまったのか。
    経済問題、TPP問題、原発問題、そして外交や社会保障など、本来、争点はたくさんあったはずだ。それなのに、野党が与党・自民党に対抗できる政策を打ち出せなかった。その結果、野党は、単なる自民党の「亜流」になり下がってしまったのだ。だから争点のはっきりしない、つまらない選挙になってしまった。
    もちろん、経済ではアベノミクスが、「今のところ」成功している、という要因は大きいだろう。折しも政府は、7月の月例経済報告で景気の基調判断を「自律的回復に向けた動きもみられる」と発表している。3カ月連続で上方修正したのだ。「回復」という表現が使われたのは、2012年9月以来、実に10カ月ぶりである。これは、選挙直前の好材料だったといえるだろう。
    しかし、これまでの経済の好調は、いわば「期待値」だ。安倍政権にとって、参院選後こそがさまざまな問題の正念場である。TPPの交渉参加も、ついに今月23日に実現している。このTPPと密接に関係してくるが、アベノミクスの成長戦略、構造改革でもっとも重要な産業は農業だと僕は思っている。高齢化が進む日本の農業は、このままでは衰退するばかりだ。しかし、実は日本の農産物は世界でも高い評価を得ているのだ。
    リンゴのフジ、イチゴやお米……。味といい、見た目の美しさといい、日本人の繊細な感性で作られた農産物は、外国でつくられたものとは、ひと味もふた味も違う。十分に国際競争力を持っている。 
  • 長谷川幸洋 コラム第9回 『アベノミクス失速』は日本人の自信喪失の表われ G8各国は前向きに評価

    2013-06-27 12:00  
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    安倍晋三政権が進める経済政策は正しいのか、それとも誤っているのか。日本国内では円安株高の修正もあって、早くも「アベノミクス失速」とか「変調」「乱気流」といった見方が出ている。
     だが、一歩外へ出てみると、前向きに評価する声が目立つ。
     デフレと停滞の20年間を過ごすうち、多くの日本人には「自信喪失モード」が染み付いてしまった。そろそろ元気を取り戻して、アクセルを踏んでもいいのではないか。海外の論調や識者の発言をみていると、そんな思いを強くする。
     最近の動きを拾ってみる。
     まず、英誌「エコノミスト」だ。同誌は5月18日から24日号で久々に大型の日本特集を組んで安倍政権について論評した。その中でこう書いている。
    「日本を停滞から脱出させるのは大仕事だ。失われた20年を経て、名目国内総生産(GDP)は1991年当時と同じ水準にとどまっている。平均株価は最近、上昇したとはいえ、ピークの3分の1にすぎない。新しいアベは(日本を再生できる、と)あらゆる点で証明しなければならない。だが、計画が半分でも達成できれば、アベは間違いなく『偉大な首相』とカウントされるだろう」
     英誌らしい皮肉を込めつつ、安倍の政策に期待を込めている。
  • 長谷川幸洋 コラム第2回 『政府は公に語らないが、ここだけはおさえておくべき話』

    2013-05-09 15:30  
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     政府は口が裂けても言わないが、実は「この問題はここがキモ」という話はたくさんある。本来なら、メディアが問題のポイントを鋭く突いて広く議論を促すべきなのだが、どうも日本では政府や官僚、政治家が言わないと、メディアも積極的に書かない風潮がある。
     政府が公に語らない話をズバズバ書いて「もしも自分の理解がトンチンカンだったら大変だ」とビビッているような感じなのだ。つまり、あえてリスクをとりたくない。そこで今回は「政府は絶対に言わないけど、ここはおさえておくべきだ」という話をまとめて紹介しよう。
    ◆メディアが正面から書かないTPPの本質
     まず、環太平洋連携協定(TPP)だ。
     TPPについては「日本が自動車で米国に譲歩した」とか「米国にやられてしまう」といった話が相変わらず流れている。ところが、そういう見方は評価の基本軸がずれている。TPPは単に貿易自由化を目指す通商交渉ではない。米国を軸とした外交・安全防衛上の枠組みに参加する意味合いがあるのだ。
     TPP交渉に参加している国はいずれも自由と民主主義、市場経済、法の支配といった理念と価値観を共有している。だが、たとえば北朝鮮はそうではない。民主主義どころか貿易すら極めて限定的で、鎖国した独裁国家だ。他国と貿易を通じた相互依存関係にないから、ともに利益を享受する「ウィンウィン関係」には入りようがない。
     それどころか核ミサイルを振りかざし、日本や米国、韓国を脅して生き残りを図ろうとしている。こういう国に対処するために、米韓はいま日本海で合同軍事演習を展開中だ。日本もイージス艦を出して米韓と隊列を組んでいる。
     中国はどうか。こちらは市場経済に移行しつつはあるが、政府の関与はまだ非常に大きい。民主主義や法の支配もけっして十分ではない。日本とは尖閣諸島問題で険しく対立している。
     そういう中で、TPPはアジア太平洋地域の平和と繁栄に寄与する枠組みになる。言うまでもなく、地域の「平和と安定」は「繁栄」の前提だ。だから、TPPの損得勘定は繁栄=貿易自由化だけでなく、平和と安定=安保防衛という側面も視野に入れて考えなければならない。
     はっきり言えば、日本がTPPの枠組みに入って平和と安定の基礎が強化されるなら、貿易自由化で多少、譲歩したところでトータルでみれば収支が合うのだ。こういう議論を表立って言うと「日本は米国の属国になるのを認めるのか」といった感情的な反発が起きたりする。だから、メディアもなかなかずばりと書かない。

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  • 入院中のベッドの上で考えた【その2】、理想論と現実論、相反する問題解決に何が必要か?

    2013-03-11 14:00  
    3月7日に無事退院しました。みなさんには本当にご心配をおかけしました。 お見舞いや励ましのお言葉、ありがとうございました。
    さて、入院中、ベッドで大人しくしていると、普段は気にも留めていなかったことが 気にかかったりする。たとえば新聞の記事だ。 いま国会で侃々諤々の議論が繰り広げられている、TPPについての記事だ。 僕はそれを読んで、いくばくかの違和感を覚えた。 TPPに反対する理由として、「震災後、循環型地域社会を目指す日本にとって」と いうようなことが書かれていたのだ。
    「循環型地域社会を目指す」といえば、たしかに響きはよい。 だが、その言葉は何を意味するのか。 いうまでもなく、地域内で食糧もエネルギーも自給自足していく、ということである。 だが、そんなことは果たして可能なのか。そもそも、そんな社会を目指したら 日本は貧しくなるだろう。 もちろん、それぞれの地域が自分の地域の農産物などを大切にすることに、僕は大賛成だ。 けれど、それは地域社会という狭い範囲の考え方である。
    この記事はひとつの例にすぎない。このように口当たりのよい言葉が、 あらゆるところに見受けられる。 耳にやさしい、一見、受け容れやすそうな発言をする論者が、いまだに多くいるようだ。 現実をしっかりと見ていれば、こんな発言はできないはずだと僕は思う。
    現実は甘くない。 だから、現実を見すえた議論からは、口当たりのよい言葉で言い表せるような結論が 生まれるはずがない。 気迫に満ちた議論の過程では、人心を惑わす優しげな言葉は、ふり落とされるものだ。
    徹底した議論こそが、現実に即した、堅実な答えを導き出すことができる。 僕はこれからも厳しく議論を重ねていきたい。 そうして初めて、現実の厳しさに向き合える答えを出していけると思うからだ。

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  • 選挙の争点TPPの基礎知識「農水省発表の日本の食料自給率39%、実は70%である」

    2012-11-21 14:15  
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    11月16日、野田佳彦首相が衆議解散を断行した。 この解散を「TPP解散」だという声もある。 TPPとは、環太平洋戦略的経済連携協定のこと。 アメリカをはじめとする、アジア太平洋地域の国ぐにが、高い水準の自由化を 目標にした多国間の経済連携協定のことである。 野田首相は、今回の解散を小泉純一郎元首相が断行した「郵政解散」に なぞらえたとも言われている。 野田首相の本心はどこにあるのか。 衆議院の解散をのばすと民主党の党内から野田降ろしが噴出する、まずそれを 恐れたのだろう。 さらに、TPP参加を打ち出して選挙に臨めば、TPP問題で党内意見が まとまらずにモタモタする自民党を圧倒できる、という目算もある。 だから、野田首相はTPP交渉参加を、民主党の公約にしようとしている。 僕は、TPPには当然、参加すべきだと思っている。 あくまでも協定の内容を決める「交渉への参加」にすぎないのだ。 だから賛成してもいいのではないか。 だが、アレルギー反応のようにTPP交渉参加に反対する議員は多い。 TPPは医療、サービス業も含めたさまざまな産業分野に関連するが、 その中でもとりわけ農業についての反対が強い。 加盟国間で関税障壁がなくなるため、海外から安い農産物が輸入され、 日本の農業が立ち行かなくなるというのが反対派の意見なのだ。 僕は、この考えはまったく逆だと考えている。日本の農業は決して弱くない。 農水省が、日本の農業を守らねばならないと主張する根拠は、日本の食料自給率が 低いということだ。 平成23年度の食料自給率は39%しかないと。 だが、この数字はゴマカシなのだ。 食料自給率39%というのは、カロリーベースの数値である。 生産額ベースで計算すると、66%と、ぐんとアップする。 ただし、これは震災後の低い数字で、震災前の平成22年度は70%にもなる。 70%という数字は諸外国と比べても高く、世界第5位だ。 日本は農業大国なのだ。 さらに言えば、そもそも日本以外の国で、カロリーベースの食料自給率を 採用している国はない。 では、なぜ日本はカロリーベースの数字で統計をとっているのか。 カロリーベースだと、高カロリーの農産物が多いと自給率の数字があがる。 小麦や油脂などがそうだが、それはほとんど輸入している。 一方、日本国内でほとんど生産している野菜などは、カロリーが低いので、 自給率の数値が上昇しない。 また、肉牛や鶏卵は、ほとんど日本で生産されている。 ところが、輸入飼料で生産されたものは「自給」とみなさないため、 これらも自給した畜産物として計算されないのである。 このように、日本の食料自給率は、「自給」の実態を見る指標としては 大いに疑問がある。 それなのに、なぜ農水省はカロリーベースの“低い”自給率をことさら 喧伝するのか。 僕は農水省の「省益」のためだと考えている。 農業に対する危機感をあおり、日本の農業を保護すべきだと主張することで、 農水省は職員の数を減らさず、農業関係の予算を守りたいのだ。 もうひとつ、TPP交渉参加に猛烈に反対するのが、農協である。 農協は「日本の農業が守れない」と主張している。 これも、とんでもない主張だ。 やる気のある農家にとって、TPPはむしろチャンスだと僕は思っているのだ。 時間と手間をかけ、丁寧に栽培された日本の農産物は、世界に通用する。 質が高く、味もよく、安全な農産物は日本産ブランドとして世界中で人気だ。 もしTPPに参加すれば、日本の農業は輸出産業となり、もっと伸びていく 可能性を充分に持っているのだ。 では、なぜ農協はTPPに反対するのか。 農協は、日本の農業を弱いままにしておきたいのではないか。 農家が小規模で弱いままなら、農協の会員数は減らない。 農協の影響力も維持できるのだ。 一方、やる気のある農家が世界に進出して成長すれば、経営も安定する。 そうすると、農協に頼る必要がなくなるから、農協の会員数が減ってしまう。 農協にとっては、許しがたい事態だ。 TPPは、日本の農業の将来がかかっているといっても、過言ではないのだ。 本気で取り組むのなら、そうとうの覚悟とエネルギーが必要なテーマである。 野田首相はこのことをどれほどの覚悟をもって言っているのだろうか。

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