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記事 10件
  • 長谷川幸洋 コラム第9回 『アベノミクス失速』は日本人の自信喪失の表われ G8各国は前向きに評価

    2013-06-27 12:00  
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    安倍晋三政権が進める経済政策は正しいのか、それとも誤っているのか。日本国内では円安株高の修正もあって、早くも「アベノミクス失速」とか「変調」「乱気流」といった見方が出ている。
     だが、一歩外へ出てみると、前向きに評価する声が目立つ。
     デフレと停滞の20年間を過ごすうち、多くの日本人には「自信喪失モード」が染み付いてしまった。そろそろ元気を取り戻して、アクセルを踏んでもいいのではないか。海外の論調や識者の発言をみていると、そんな思いを強くする。
     最近の動きを拾ってみる。
     まず、英誌「エコノミスト」だ。同誌は5月18日から24日号で久々に大型の日本特集を組んで安倍政権について論評した。その中でこう書いている。
    「日本を停滞から脱出させるのは大仕事だ。失われた20年を経て、名目国内総生産(GDP)は1991年当時と同じ水準にとどまっている。平均株価は最近、上昇したとはいえ、ピークの3分の1にすぎない。新しいアベは(日本を再生できる、と)あらゆる点で証明しなければならない。だが、計画が半分でも達成できれば、アベは間違いなく『偉大な首相』とカウントされるだろう」
     英誌らしい皮肉を込めつつ、安倍の政策に期待を込めている。
  • 田原総一朗 『元オウムの上祐氏に会って考えた、「宗教」と「哲学」人を救えるのはどっちだ?』

    2013-06-25 12:00  
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    先日、ラジオ番組で上祐史浩さんと対談をした。上祐さんはオウム真理教で外報部長、つまり広報をしていた人物だ。
    オウム真理教とは、教祖・麻原彰晃の「ポアせよ」という指令のもと、坂本弁護士一家をはじめ、多くの人間を殺した団体である。後に、ほかにも多くの人間を殺そうと謀っていたことが判明した。1995年に彼らが起こした「地下鉄サリン事件」は、日本中を震撼させた。
    「ポア」とは本来、仏教用語で「人の意識を別の次元に移す」、「転生する」という意味である。教祖の麻原は、「悪い人間は早く死なせてあげて、生まれ変わらせるのだ」という意味でこの言葉を用いた。つまり、その人間にとって死ぬほうが幸せなのだと、非常に曲解した意味で、この言葉を使った。「ポアする」は、オウム真理教では、「殺す」という意味で使われるようになったのだ。
    先行きが見えない、不安と混沌の時代に生きる人間は、支えがほしくなるものである。そんなとき人が求めるものの代表のひとつが、「宗教」なのだと僕は思う。
    もちろん、ぼくは宗教を否定しない。宗教が怖いのは、教祖に頼り、心を委ねるあまり、自分自身で考えなくなったときだ。信者たちが自分で判断せず、麻原の言うがままに行動し、いつしか殺人者集団と化したのが、オウム真理教だった。
    一連の事件が起きたとき、上祐さんはロシアにいた。だから偽証と有印私文書偽造・同行使の罪で、懲役3年の実刑判決を受けたが、ほかのことでは罪に問われなかった。
    上祐さんは、1999年に出所する。そして2002年、「麻原の影響を排除」した宗教団体「アレフ」を設立。翌年、アレフはアーレフと改称する。そのアーレフ内には、麻原逮捕後も麻原を崇拝する信者が多く、逆に上祐さんが排除される立場になった。2007年、上祐さんはアーレフを脱退、「ひかりの輪」という団体を立ち上げたのだ。
    上祐さんは「ひかりの輪」は、宗教団体ではないという。なぜか。「教祖」がいないからだ。上祐さんは、オウム真理教での経験から、教祖に引きずられる怖さを知った。それが理由だという。
    宗教に教祖がいる一方、「いかに生きるか」「どう生きるべきか」をひたすら自分で考えるのが「哲学」だ。教祖に頼り、すがるのではないから、哲学は宗教に比べてしんどい。
    「教祖がいなければ教祖に引きずられることもない」、だから「ひかりの輪」は「哲学する集団」なのだと上祐さんはいう。とはいえ、上祐さんという存在がある以上、その「教祖性」から完全に逃れることは、難しいだろうとも僕は思う。
  • 長谷川幸洋 コラム第8回 「新聞からは読み取れない 東アジア情勢の今と、日本の本当の立ち位置」

    2013-06-20 12:00  
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    このところ日本をとりまく国際関係が大きく動いている。
     主な動きだけを拾っても、2月に安倍晋三首相とオバマ米大統領の日米首脳会談があり、4月には安倍とロシアのプーチン大統領による日ロ首脳会談が開かれた。
     6月7日に安倍とフランスのオランド大統領による日仏首脳会談があったかと思えば、直後の7、8日には首脳外交のハイライトと呼ぶべきオバマと中国の習近平国家主席による米中首脳会談が開かれた。
     日米だろうと米中だろうと、国際関係は二国間だけでは動かない。これは世界の情勢を眺めるうえで基本中の基本だ。
     当事者以外の第3国、あるいは第4国も含めた全体の構図の中で相手を捉えなければ本質を見失ってしまう。
     どの国でもトップリーダーたちは経済、安保、防衛とすべての分野に目を配っている。それは当然だ。考え方で言えば、まず安保・防衛があって、それから経済という順番になる。
     平和と繁栄を追求するのが政治の役割だが、繁栄の前提、必要条件が平和であるからだ。
     平和を追求するために、繁栄(=経済的利益)を交渉のてこにすることはあっても、けっしてその逆はない。
    メディアの縦割り体制が外交をわかりにくくしている  ところが、首脳会談を報じるメディアの側は新聞もテレビも「経済ニュースを書くのは経済部の仕事」「永田町の権力争いや防衛問題は政治部」「外交・国際関係は外報部」などと縦割りのタコつぼ取材体制が貫徹している。
     同じ外報部でも「米国担当はAさん、中国担当はBさん」といったように、タコつぼ体制はさらに細分化されている。
     その結果、何が起きるかといえば、同じリーダーが語っているのに、経済と政治の記事は相互に分断され、かつ、実は水面下で連動している外交の話であってもテーマごと、地域ごとに分断されたりする。
     読者は個々のタコつぼの中身は分かっても、全体がどう動いているのか、さっぱり分からないという状況に陥っているのではないか。
     そこで今回は流動する東アジア情勢に絞って、目についた動きをトレースしてみたい。
     俯瞰して眺めれば、全体情勢が浮き彫りになってくる。
     まず2月の日米首脳会談だ。
     日本の新聞は会談の結果について、どこも「環太平洋連携協定(TPP)に参加へ」という話を一面トップにして報じた。両国が発表した共同声明で「聖域なき関税撤廃」というTPPの原則について「聖域があるかどうかは交渉の結果次第」という共通理解が確認された。それで日本のTPP参加に道が開けたからだ。
     だが、私はこの会談の最も大きなイシューは北朝鮮問題だったと思っている。
     首脳会談の10日前、2月12日に北朝鮮は3回目の核実験をした。核の小型化に成功したのだ。
     弾道ミサイルに積んで米国本土を狙うには、まだ技術が足りない。だが2012年末のミサイル発射実験成功と合わせて、この核実験成功によって米国ははっきりと北を「脅威」と認識するに至った。
     それは前のコラム「北朝鮮はどこまで本気なのか!?米・国防総省の報告書から読み解く"北の現状と実力"」で紹介したように、国防総省の報告書にしっかり書き込まれている。
     この事態を受けて、日米は首脳会談で韓国を加えた3カ国で北朝鮮の脅威に対処していくことで合意した(外務省発表資料はこちら)。
     ここで安倍が切ったカードは、米軍が京都に弾道ミサイルを追尾するためのXバンド・レーダー(TPY-2レーダー)を追加配備するのを認めたことだ。
     このレーダーは弾道ミサイルがどこへ飛んでいくのか、日本なのか米国なのかを早期に探知する高い性能を持っている。
     逆に言うと、これがないと米国は(もちろん日本もだが)防衛能力が劣ってしまう。
    安倍総理曰く「京都のレーダー配備が大きかった」  北朝鮮への対応は緊急課題だった。加えて、日本は尖閣諸島問題で中国と険しく対立している。日本の平和と安全が脅かされているからこそ、TPPが以前にも増して重要になった。
     TPPは自由と民主主義、市場経済、法の支配という価値観を共有する国々(とりわけ米国)との通商枠組みであるからだ。
     別のコラムで書いたように「北朝鮮ファクターからTPPへ」という流れは、菅義偉官房長官も私の質問に「そうではないと言ったら嘘になる」と認めている。私は後で安倍総理自身にも直接、確かめたが「京都のレーダー配備が大きかったね」と言っていた。
     この日米会談にはもう一つ、成果があった。
     米国産シェールガス(液化天然ガス)の対日輸出に道が開かれたのだ。それが、4月の日ロ首脳会談につながっていく。
     ロシアは日本と石油・天然ガスなどエネルギー分野で協力を強めていくことに同意したのだ(詳細はこちら。PDFです)。
     実際、会談から1か月後の5月29日には、日ロがオホーツク海で海底油田の共同開発に乗り出す、と報じられた。
     日ロ首脳会談は大成功だったと思う。なぜなら、これで「ロシアが日本の友好国になる」という方向性がはっきりしたからだ。
     象徴的な出来事は両国の外相・防衛相同士の会談、いわゆる「2+2」会合の開催が決まった点だ(詳細はこちら)。
     2+2会合という枠組みは、これまで日米、日豪でしか動いていない。それをロシアとも開くのは、ロシアを米国、オーストラリア並みの友好国として扱う、という意味合いが背景に込められている。
     会合を開いたからといって、直ちに友好国になるわけではないが、枠組みが設けられた意義は大きい。
     同じ2+2会合は6月の日仏首脳会談で日仏間でも設置が決まった。
     つまり日本と米国、オーストラリア、ロシア、それにフランスが同じ枠組みの閣僚会合を設けたのである。
  • 田原総一朗 『業競争力会議メンバー、竹中平蔵教授に聞く、「日本経済、次はどうなりますか?」』

    2013-06-17 20:00  
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    「竹中平蔵」という人物は、実に興味深い。小泉純一郎内閣は、日本経済に溜りに溜まっていた不良債権という膿を出し切った。だから、小泉政権の後半は、GDPは増え、失業率の低下、税収の増加によって財政再建の道筋がほの見えたのだ。その立役者が竹中さんだった。
    ところが、小泉さんの政治的手腕を評価する声はあっても、なぜか竹中さんへの賞賛はなかった。それどころか、逆に「竹中さんの規制緩和で格差が広がった」といった否定的な報道がなされた。経済学者やエコノミスト、マスコミにとって、竹中さんは叩きやすい「サンドバッグ」なのだ。
    けれど、その竹中さんの手腕を、安倍晋三首相は熟知している。安倍さんは小泉内閣で官房長官を務め、竹中さんの働きを間近で見ていたからだ。
    アベノミクスの成否は、安倍さんのいう「アベノミクス」の3本目の矢である「成長戦略」が成功するかどうかにかかっている。バブル崩壊以後の「失われた20年」から脱却できるかどうかの、まさに正念場なのだ。
    安倍内閣の目玉である「産業競争力会議」のメンバーに竹中さんは選ばれた。「アベノミクス」の3本目の矢である「成長戦略」を提案するためのブレーンになったのだ。つまり、アベノミクス推進の中心人物は、竹中さんであるといっていいだろう。
    僕は、その竹中さんにとことん「日本経済復活のカギ」を聞いた。その内容を先日、『竹中先生、日本経済 次はどうなりますか?』という本にまとめた。その一部を紹介しよう。
    まず竹中さんは、「日本は必ず経済成長できる」と断言する。ただ、そのために必要なことはさまざまな抵抗勢力に打ち克って、どこまで徹底的にやれるか、ということだ。
    ひとつは、企業の問題だ。高い法人税率、厳しい労働規制と環境規制……。「日本ほど規制が厳しい先進国はない」と竹中さんはいう。だから、外資企業は日本から逃げる。一方で日本の企業はどうか。
    日本企業の開業率は低いとよく指摘される。だが、実は企業の開業率は低いが、同時に企業の廃業率も低い。つまり企業の新陳代謝が進んでいないのだ。ダメな企業がゾンビのように生き残り、やる気のあるベンチャー企業が出てこない。これでは、経済成長に必要な技術革新も生まれにくい。なぜなのか。
    さまざまな要因はある。だが竹中さんは、「最大の問題は『ダメな社長』をクビにできない」ことにあると言い切る。「社長をチェックし、ダメなときは『お辞めなさい』と言える独立した社外取締役が必要」なのだが、今の日本にその義務づけはない。
    そして女性の活用の問題もある。世界経済フォーラムが毎年出している、「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告」、つまり男女格差の通信簿ともいえるレポートで、日本は135カ国中101位だ。竹中さんは、女性をもっと登用するため、「女性取締役が2割以上の会社は法人税を何%か割り引く」というような制度の導入を提言している。僕もまったく同感だ。
    日本企業が抱えている問題はまだまだある。だが、要は、「緩和すべき規制は緩和し、義務づけすべき制度は義務づける」ことが必要なのだ。
  • 長谷川幸洋 コラム第7回 「待機児童問題 旧態依然の認可保育所は60万人の潜在保育士は活かせない」

    2013-06-13 12:00  
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    前回と前々回のコラムで、私も加わっている規制改革会議の議論を紹介しながら待機児童問題について書いてきた。  会議は5日に安倍晋三首相に答申を手渡したので、ひとまず一段落である。  そこで、どういう結論になったか、書いておこう。  以下は、いずれも所管する厚生労働省も同意した内容だ。  株式会社形態による保育所事業への参入は、地方公共団体での裁量で実質的に阻まれている例が少なくない。  そこで規制改革会議は厚労省に対して以下のよう求めた。 (1)経営形態にかかわらず、公平・公正な認可制度の運用がなされるよう都道府県に通知する (2)あわせて通知の趣旨が市区町村に周知徹底されるよう、都道府県に通知する  なかなか株式会社が参入できない大きな理由の1つは、現場で仕事をしている市区町村が、独自の規制を設けて、それを認めなかったからだ。  そこで、まず国が許可権限を持っている都道府県に対して「公平・公正な運用をせよ」と指導し、そこから市区町村にも趣旨を徹底させる、という二段構えの作戦にした。  この要請を受けて、厚労省はすでに通知した。  結果がどうなるか、はこれからである。 待機児童の親は候補者にこの問題を問うべきだ  国の指導もさることながら、鍵を握るのは住民の声ではないか。切実な思いを抱いているのは、母親や父親だ。選挙の際に「待機児童問題にどう取り組むのか、株式会社の参入をどうするのか」と候補者に問うべきだ。  ついでに言えば、私は「なんでもかんでも国の指導に頼るのは良くない」とも思っている。地方分権に反するからだ。  コラムで紹介したように、厚労省の姿勢には大いに問題があるが、地元自治体がしっかり取り組むつもりなら、できることはある。横浜市がいい例だ。そこを見習いたい。  それから、社会福祉法人の財務公開について。  規制改革会議の要望を受けて、厚労省は「すべての社会福祉法人について2013年度以降の財務諸表を公表する」「公表が効果的に行われるための具体的方策について13年度中に結論を得て、14年度当初から実施する」という方針を決めた。    さらに「12年度の財務諸表も公表するよう社会福祉法人に周知指導し、その取り組み状況を調査し、規制改革会議に報告する」「(都道府県など)所轄庁のホームページにも公表するよう協力を要請し、所轄庁の取り組み状況について調査、会議に報告する」とした。  認可保育所の設置主体は社、会福祉法人である場合が多い。  その社福には、補助金の形で税金が投入されている一方、法人税などが免除されている。税金面で優遇されているのは、社福が利益を社会に還元する建前になっているからだ。  ところが、肝心の財務諸表はといえば、自主公開に任されている。  これでは本当に利益が社会還元されているのかどうか、国民はチェックのしようがない。  だから、財務諸表の公開が重要になる。 同族や家族経営の多い社会福祉法人こそ財務諸表を公開せよ  社会福祉法人は実態として同族や家族経営が多く、事業の裏側には営利目的の企業があったりする。「ばく大な内部留保を溜め込んでいる」という指摘もある。  そうなると、社会還元どころか「実は個人的な利益追求が優先されているのではないか」という疑惑が生じる。  「そうではない」というなら、まず社会福祉法人自ら率先して財務諸表を公開すべきだ。  彼らが「利益優先」と主張する株式会社は、上場企業であれば財務諸表を公開し、公認会計士による監査も受けている。  税金優遇を受けているのだから、企業並みどころか、それ以上にもっと透明にすべきではないか。  財務諸表の公開問題は、奥の深い所で「保育士不足問題」にも絡んでいる。  それは、こういう事情だ。  まず「保育所だけを増やしても、保育士が足りないから問題解決にならない」と指摘がある。だから、規制改革会議は保育士が増えるように、保育士資格試験で合格した科目の再試験免除期間を、3年から5年に延長するなど緩和策を提言した。  それはもちろん大事だ。  だが、実は保育士の免許を持っているのに、実際には保育所で働いていない「潜在保育士」が60万人以上もいるという推計がある。 (厚労省資料はこちら。PDFファイルです)    彼ら彼女たちは、なぜ資格があるのに働いていないのか。 保育士の給与が低いのはオーナーの取り分が多いから  理由の1つが、給料の低さである。それは4月1日の会議で議論になった。  参考人「社会福祉法人の場合は人件費率が高いと言いながら、そこに占めるオーナーの取り分が高い。一般職員の人件費は株式会社でも社会福祉法人でも変わらない」  委員「私はある会社の社外役員をやっていたが、そのときの経験で保育士は大変な仕事の割に待遇は低いと知った。すると運営費に占める(会社と社福の)人件費の差は保育士の給与の差ではなく、それ以外の方の人件費と理解していいか」  参考人「それだけではないと思うが、大半はそういう要素が強い」  別の参考人(大学教授)「私立の保育所で重要なのは肩たたき。『そろそろいいお婿さんがいるよ』と言って、早く辞めてもらう。それが人事管理の要諦。非常にいびつで人件費を歪めている構造がある。差額はどこにあるのかといえば、他のところでとっているのはあきらかと思う」 (議事録はこちら。PDFファイルです)    つまり、せっかく政府が保育士対策で予算を増やしても、カネはオーナー周辺に流れて、肝心の保育士に回っていないという指摘である。
  • 田原総一朗 「アベノミクス正念場、失望を招いた安倍首相の成長戦略、なぜ具体策がなかったのか?」

    2013-06-11 16:00  
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     5月下旬以降、日経平均株価が下がり続けている。6月7日の終値は、1万2877円53銭。暴落が始まる5月23日には、間もなく1万6000円に届こうかという高値になっていたのだから、約3000円も値を下げたことになる。円相場も、これまでの円安の流れが円高に転じ、一時1ドル95円台となった。「金融緩和」「財政出動」、つまり「アベノミクス」発表以来続いていた株価上昇、円安の流れが止まったのだ。
     いくつかの要因は考えられる。だが、大きかったのは、来週閣議決定される成長戦略の内容が漏れ聞こえてきたからだろう。はっきりいえば、失望感である。思い切った政策を何も打ち出していないのだ。
     例えば農業だ。日本の農産物は質も高い。改革さえすれば、日本の農業は、国際競争力を持つ重要な産業に十分になり得る。そのためにも、まず保護一辺倒の現在の農業政策をやめなければならない。そして、農業への企業法人の参入、農地集約による大規模化をしやすくすることが必要だ。安倍首相も、その必要性は痛いほどわかっているはずなのだ。ところが、それができない。農水省、農協の抵抗が強いからだ。
     また、医療の問題も大きい。現在の日本では、ある患者が1種類でも政府の認可が下りていない治療薬を使うと、その人が受けるすべての治療に健康保険が適用されなくなってしまう。いわゆる「混合診療」が認められていない。この問題については、ガンをはじめとして、さまざまな難病を抱える患者たちが改善を求めている。しかし、これについても何も打ち出していない。厚労省、医師会が反対しているのだ。
     なぜ、安倍首相がこうしたいわゆる「抵抗勢力」に打ち勝てないのか。それは、7月に参議院議員選挙があるからにほかならない。農協や医師会が「反自民」に転じれば、多くの票が逃げてゆくのは明らかだ。安倍内閣は、選挙にがんじがらめになっているのである。安倍首相は、「参院選で勝ちさえすれば」と考えているだろうが、市場は待ってくれない。
     これまで静観してきた政府も、1万3000円を切るかという状況になって危機感を持ったのだろう。5日の講演で安倍首相は、「成長戦略」の第3弾を発表した。10年後に国民総所得をひとり当たり150万円増やすなど、いくつかの目標を掲げたのだ。だが具体策がない。これでは、逆に失望感が増すのは当然だ。いまのところ、株価の下落傾向がとどまる気配はない。6日には、一時1万3000円を割り込んでいる。
     安倍首相が今後、既得権益にしがみつく「輩」と闘い、どこまで思い切った施策が採れるか。日本経済、次はどうなるのか。まさに、日本経済の正念場は今なのだ。
  • 堀潤 連載第6回 『「クール・ジャパン」を成功させるには』

    2013-06-11 12:00  
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     安倍政権が主要政策に掲げ推進する「クール・ジャパン」。経済産業省を中心に、アニメ・ゲームをはじめとしたポップカルチャーや漆・陶芸といった伝統工芸品など、日本の文化芸術を幅広く海外に売り込むための法整備や資金支援のための仕組みづくりなどを急いでいる。
     しかし、映画、ドラマ、ポップソングなどの輸出は、すでに先行する韓国がアジア各地や欧米の音楽・映画市場で着実に実績を重ね売り上げを伸ばしており日本は水をあけられている。
     去年暮れ、アメリカ・ニューヨークのタイムズスクエアで行われた恒例の年越しカウントダウンイベントでは韓国人歌手のPSY(サイ)が招かれ、アメリカで200万枚を売り上げた「江南スタイル」を熱唱。VIP級の扱いで全米中にテレビ中継された。肌も目も、髪の毛の色も違う数万人の観客達が、PSYの歌やダンスを真似して共に踊って年越しをした様子は印象的でもあり「何故、日本には出来なかったか」と考えさせられた。
     韓国では、巨大メーカー・サムスンが設けたシンクタンクが戦略を練り、その青写真にそって政府が強力に文化産業の輸出を後押しする。経産省クール・ジャパン海外戦略室の担当者は「基本的には、日本も韓国の戦略モデルにならう形で進めていく」と語り、政府と民間の協業による輸出支援策を速やかに実行に移すと力を込める。
     しかし肝心の民間企業関係者からは「日本に韓国型モデルは絶対にできない。制約が多すぎる」との声もあがる。
     クール・ジャパンは熱を帯びた成功モデルになりうるのか---。今回、筆者は、経産省でクールジャパン政策の中心人物、海外戦略室長補佐の小田切未来氏(32)とスマートフォン向けソーシャルゲームで成長を続ける株式会社gumi代表の國光宏尚氏(38)を直撃。日本の文化輸出政策の未来を査定した。
    小田切が明かすクールジャパン戦略の実態
     政府が推進するクールジャパン政策とは具体的にどのような取り組みを指すのか。小田切氏はまずこう切り出した。
    「クールジャパンとは何か、実は、一般には誤解されている部分もあります。日用品を作る会社に営業にいった時に、クールジャパンをアニメや漫画だけしか取り扱わないとする偏狭な理解を感じました。メインは確かにファッション、食、音楽、アニメなどですが、本質的には商業施設、温泉、日本の魅力を発信できるものすべてを指します。
     クールジャパン戦略をどう進めているのか、韓国のコンテンツ戦略がそうであるように、事前に設定されたプロセスにしたがい実施・実行しています」
     小田切氏によると、日本のクールジャパン戦略の柱は次の三つ。
     一つ目は海外に展開したい企業とプロモーションに長けた企業とのマッチング。二つ目は、公募で募ったビジネスやプロジェクトの早期支援。三つ目が、ファンドの設立による資金支援の拡充だ。
     マッチングは既に具体的な案件が進んでいる。コンテンツの輸出にあわせ、現地での消費材の販売をセットにした戦略を基本フォーマットにする。例えばテレビ番組の「料理の鉄人」。番組コンテンツ自身の海外輸出にあわせて、国内の食材・食器メーカーと共に現地進出することで市場の拡大をはかるという。
     他にもiPhoneケースに日本の漆を使ったプロダクトの開発、初音ミクの海外現地版の拡大など、早期支援や将来的なファンドを活用した資金支援などを拡充していく計画だ。国内市場が衰退していく中で、特に、新興国市場をターゲットに進めていくと話す。
     一方で、小田切氏は彼らが抱える課題についても率直に語る。
    「現在のクールジャパン戦略の批判点。それは、点が面になっていないこと。単なるイベントにおわってしまうといった指摘です。
     実際の企業の戦略面におけるボトルネックとしては、収益モデルの不透明性、不動産担保がない中での資金調達、海外進出の足がかりとなる拠点を見つけるのが難しいこと、言語の問題、華僑ネットワークのような現地の情報・ノウハウ・人材の不足、などです」
     対応策として、小田切氏が今後の構想をこう明かす。
    「対応策としては、拠点となるようなメディア空間を作る。物理的、精神的空間を作っていきたいと考えています。出資だけが大切という訳ではありません。現地企業へのサポートなど、お金の使い方は様々だと考えています。
     海外にクールジャパン発信拠点になる、『ジャパンイニシアチブモール』や『ジャパンストリート』の設立、日本食を提供する食品街の建設を想定しています。その際、このアクションを点にとどまらせることなく、面となるように尽力せねばなりません。
     さらに、機構のガバナンスとしては、どういった企業に支援を行うかの基準の形成が急務。ビジネスの波及効果、収益が上がる見込みがあるか、国のブランド形成に役立つかなどがあげられます。
     クールジャパン推進機構法案が6月に通れば、秋には、こういったアクションが具体的にスタートできる地盤が整うので、みんなでクールジャパンをもり立てていけたらと思っています」
    「クールジャパンの方向性は間違っている」
     小田切氏の説明を隣で腕組をして聞いていた國光宏尚氏。かつて、中国の大学に留学後、バックパッカーとして世界各地を訪ね、ロサンゼルスを拠点に映画のプロデューサーとして活躍、ドラマやアニメの制作で実績を積んだ後、ゲームの制作会社を設立するという異色の経歴を歩んできた。
     國光氏が代表を務めるgumiは、スマートフォン向けのソーシャルゲームで急成長し、現在東南アジア各地への進出を加速させている。
    「僕こそミスター・クールジャパンですよ」と冗談めかして笑う彼の見立ては厳しかった。
    「クールジャパンの今の方向性は間違っています。問題は、国が支援をしすぎで過保護であること。現地と一人もつながれない雑魚企業を支援する必要はありません。企業に関していえば、いいものを作れば売れると未だに思っていますが、これは大きな間違いです。売れるモデルの構築が大切。
     例えば、ハリウッド映画は全世界同時公開というプロモーションを行い、確実に一定の収益をあげていますが、あれは事前に綿密に構築された盤石のビジネスモデルがあって機能します。アメリカのやり方はそこにソフトをのせていくという手順。世界各地の関係企業などとの事前調整を相当しっかりやっています。
     日本は未だ個別の支援基準の話が中心で、収益見込みがあるかないかという個別対応。プラットフォームをつくるのにはそれなりの大きな金が必要になりますが、そこにこそ国が集中的に投資するべきかと思います。実際、アメリカでは100億くらいの金をピクサーがかけているのに対して、日本はせいぜい数億くらいしかかけられていないというのが実情です」

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  • 長谷川幸洋 コラム第6回 『待機児童問題は深刻なのに10年経っても「保育所事業」へ株式会社の参入が進まない理由』

    2013-06-06 12:00  
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     前回のコラムで待機児童問題について書いたら、思いがけず多くの読者から反響をいただいた。そこで今回も、私が委員を務める規制改革会議での議論を紹介しながら、待機児童問題について続編を書く。
     横浜市が保育所事業への株式会社参入を突破口に待機児童ゼロを達成した例を前回、紹介した。では、なぜ他の都市で株式会社の参入が進まないのか。
     もともと保育所の設置主体は原則として社会福祉法人ないし市町村に限られていた。法律でそう決まっていたわけではない。旧厚生省の「通知」という行政指導によって、そう運営されていただけだ。その設置制限が2000年の規制改革で取り払われて、形の上では株式会社やNPO(非政府組織)法人などが参入できるようになった。
    保育園をつくらせないカルテル
     ところが、それから10年以上が過ぎても、いっこうに参入は進まない。なぜか。その実態把握が規制改革会議で焦点になった。3月21日の会議では、株式会社として保育所を経営する最大手であるJPホールディングスの山口洋社長を呼んで意見を聞いた。
    山口:  「東京都町田市で当社が初めて株式会社立の保育園を始める。そのとき社会福祉法人の団体から『株式会社は質が低いからだめだ』という嘆願書が出た。実は町田市が募集した地域で応募したのは株式会社の2社だけで、社会福祉法人は一切、応募しなかった」
    「なぜかというと、彼らはカルテルを組んでいて、1法人2施設までしか作らせない。将来、子どもたちの取り合い競争を避けるために、保育園を作らせたくないのだ。自治体の後ろにいる社会福祉法人が株式会社に反対して、なかなか参入を認めるに至らないのが全国の実情」(一部略。議事録はhttp://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130321/gijiroku0321.pdf)。
     このとき、山口は独自に調べた全国自治体の保育所実態一覧表(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130321/item5.pdf)を示した。こういう資料は厚生労働省にもない。その資料で、たとえば東京都では世田谷区が最多の待機児童を抱えながら、区の要綱で「保育所は社福に限る」と定められている実態が明らかになった。
    委員:  「(世田谷区で株式会社が)申請しても認められない根拠はどこにあるのか。法律で認められていないわけではない」
    山口:  「区でなく東京都が許認可権を持っている。区が都に推薦を上げないと東京都も審議ができない。区のレベルで推薦しない、という措置をされているということだ。その法的根拠となると、私もよく分からない。もしかしたら(裁判所に)訴えれば、効果があるのかなとも思う」
     私は「自治体が独自の募集要項とか内部規則を作って株式会社の参入を阻んでいる場合、国が自治体の決めている要綱なり規則に上書きするルールを作って変えることはできるのか」と質問した。厚生労働省の答えは地方分権の趣旨から言って「できない」というものだった。
     すると、問題は自治体(区)の取り扱いという話になる。だが、肝心の実態について山口の資料だけが頼りというのでは話にならない。国が調査すべきである。私は実態について緊急調査を求めた。次の会議で保育チームを率いる大田弘子議長代理が要求資料をまとめて厚労省に突き付けた。
    待機児童ワーストなのに株式会社の参入を認めない世田谷
     結果が出たのは4月17日の会議である。ここで厚労省は待機児童が多い東京都や埼玉県の一部、横浜市、川崎市などについて調べた一覧表を出してきた(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130417/item1-3.pdf)。
     これは待機児童が50人以上存在する関東圏の自治体に限った部分的なものである。それでも国による調査で実態の一部が見えたのは大きな成果だった。これをみると、12年4月1日時点で東京都の待機児童ワースト5は世田谷区(786人)、練馬区(523人)、足立区(397人)、大田区(392人)、板橋区(342人)となっている。
     先の山口の資料によれば、世田谷区は株式会社の参入が認められていない。実際、厚労省調査でも株式会社立の認可保育所は全部で109のうちゼロだった。練馬区では96中の14、足立区は88中の3、大田区は88中の5、板橋区は94中の4しかない。
     このうち世田谷区と足立区は保育所募集で最初から問答無用で株式会社を排除し、板橋区は市有地を使った保育所募集で株式会社を排除している。
     そこで、先の委員と山口社長のやりとりに戻る。そもそも国の行政指導では株式会社を排除していないのに、どうして区が排除できるのか。なにか法的根拠はあるのだろうか。ここが会議で焦点の一つになる。東京都に質問が飛んだ。
    委員:  「(世田谷区などが)株式会社を排除している。これは区が最終権限を持っていて仕方がないということなのか」
    東京都:  「区が現場を預かる立場で自らの責任で行なっている。区市がエリアの保育ニーズなど全部情報を持っており、都としては区市から内申があったものについて認可する仕組みだ」
    別の委員:  「保育所の設置申請に対する許可権者はどなたか」
    東京都:  「東京都」
    委員:  「そうすると、なぜ区の言ったことを丸飲みするのか。法律が東京都知事の権限だと決めていて、区市町村の権限は何も決めていない。区市町村が内申してきたもの以外は認めない、という権限の行使の仕方が法律上、許されるのか」
    厚労省:  「私どもの児童福祉法の理解では、都に裁量権があると理解している」
    別の委員:  「『社福に限る』という区の裁量を東京都は是としているのか」
    東京都:  「都としては、サービス内容とか経営の安定性とか株式会社と社会福祉法人の間に差はないと考えているので、差別的取り扱いを是としているものではない」(議事概要はhttp://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130417/summary0417.pdf)
     ようするに、東京都は「区が上げてきた方向で認可してますよ。でも、都としては差別していいとは思ってませんよ」というのだ。法律が都知事の権限と決めているのに、実態は区の判断任せで結局、株式会社の参入が進まないという話である。

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  • 田原総一朗 『橋下徹大阪市長の「慰安婦発言」、何が問題か?』

    2013-06-04 14:00  
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    5月27日、橋下徹大阪市長は、日本外国特派員協会で会見を行った。「慰安婦発言」についてである。彼は、あらかじめ英語と日本語で作成した文書を記者らに配り、慎重に会見に臨んだ。橋下さんは、どのように答えたのか。
    そもそもの発端は、13日に「当時、慰安婦制度が必要だったことは誰でもわかる」などと発言して、波紋を呼んだことだ。この13日の発言と今回の会見内容を併せて読んでも、橋下氏が当時の慰安婦制度を擁護しているわけではないということがわかる。慰安婦制度は「必要悪」だった、ということだろう。さらに橋下さんは、27日の会見でこう語った。
    「戦場の性の問題は、旧日本軍だけが抱えた問題ではありません。第二次世界大戦中のアメリカ軍、イギリス軍、フランス軍、 ドイツ軍、旧ソ連軍その他の軍においても、そして朝鮮戦争やベトナム戦争における韓国軍においても、この問題は存在しました」
    要は「日本だけがしていたことではない」ということで、そして「なぜ日本ばかりがしていたことのように言われなければならないのか」ということだ。
    理屈としてはわかる。だが、ちょっと待ってほしい。「慰安婦」問題で日本を非難するのは、どの国なのか。韓国だけだ。では、なぜ韓国だけが非難するのか。日本が、かつて韓国を植民地にしていたことへの恨みの現れである。このことは間違いないだろう。

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  • 堀潤 連載第5回 オバマ大統領に銃規制強化を決意させた民意陳情サイト 「We The People」

    2013-06-04 12:00  
    330pt
     今月5日。アメリカ中西部オハイオ州コロンバスの州立大学の卒業式で、オバマ大統領は米国議会に対して不満を口にした。多くの有権者が望む政策が、力を持つ特定の団体のロビイストたちの手によって葬り去られているのが現状だと唇を噛んだ。
     この発言の念頭にあるのは、米国議会上院で否決された銃規制強化法案だ。
     昨年12月、コネチカット州の小学校で起きた銃乱射事件では26人の小学生が亡くなった。直後から銃の規制を求める声が高まった。オバマ大統領は、一期目の選挙でも公約に掲げていた銃規制に本腰を入れて取り組むため、より厳格な規制を設けた法案を策定。議会に諮った。
     しかし、共和党のみならず、民主党内の保守系議員からも激しい抵抗に合い、先月、規制法案は上院で否決された。背後には政治力の強い、NRA(全米ライフル協会)の存在がある。
     オバマ大統領は今も、銃規制は諦めないと主張を続けている。銃の所持が合衆国憲法で認められているアメリカでは長年賛否が分かれてきた難しい課題だ。それでも、大統領は「多くの有権者が望む政策」だと断言する。
     オバマ大統領が打ち出す強い姿勢の裏付けには、ホワイトハウスに設けられた陳情サイトの存在もある。
     「インターネットは政治をどう変えるか?」3回シリーズの締めくくりは、この陳情サイトについて報告する。 極めて民主的な請願システム「We The People」
     去年、"オバマ大統領が宇宙要塞・デススターの建造を否定"という見出しのニュースがこちらのメディアで話題になったことがあった。
     当時、何事かと思って確認してみると、アメリカ大統領府・ホワイトハウスのホームページに設けられた陳情サイトに寄せられた市民からの請願に対し政府が回答した中身についてのニュースだった。
     市民からの請願は「政府は雇用対策の一環として2016年までに映画スターウォーズに登場する帝国軍の宇宙要塞・デススターの建造に着手するべきだ」というもの。
     これに対し、政府の科学技術担当の役人が、
    ▼建造に85京ドルもの莫大な費用がかかる計算で、財政赤字の削減に取り組むオバマ政権としては応じられない ▼戦闘機1機の攻撃で破壊されるリスクを持つ要塞に予算をつぎ込めないなどと回答。
     さらに、
    ▼NASAをはじめとした国際チームが既に宇宙ステーションでの様々な実験に着手しており我々は未来空間に生きていると説明し、最後に「科学に従事する研究者達よ、フォースと共にあれ」とおなじみの台詞で締めくくった。(※リンクは該当サイト: https://petitions.whitehouse.gov/response/isnt-petition-response-youre-looking)
     「We The People」と名付けられたこの陳情サイトは、2011年9月にオバマ政権によって運営が開始された。
     アカウントをつくれば、誰でも政府に対し請願ができ、その内容が直ちにサイトで公開される。一般のSNSの投稿サイトのようなデザインで、公開された請願内容に賛同した人がFacebookの「いいね!」を押す感覚で「署名」できる専用のアイコンが設置されている。賛同者が2万5000人に達すると、政府は請願内容を検討し市民に回答する義務を負うという仕組みだ。
     このサイトそのものが、Facebookやtwitterと連動しており、投稿者や賛同者が自らその請願内容をSNS上で広めることもでき、それぞれがSNSを使ってメッセージの拡散を行い、2万5千署名の達成を目指す。
     皆で力を併せて目標数を達成することができれば政府が実際に検討するという、ゲーミフィケーション的な要素も盛り込まれているあたりは、SNSを使った選挙戦略で大統領の座を勝ち取ったオバマ氏らしい取り組みだ。