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長谷川幸洋 コラム第17回「歴代政権がボロ儲けを看過したせいでニッポン農業は改革できずにきた」
2013-09-05 12:00330pt[Photo] Bloomberg via Getty Images
規制改革会議で農業改革の議論が始まった。
農業改革はアベノミクス第3の矢である「成長戦略」でも、改革の象徴とみられてきた分野だ。改革の必要性は長年、叫ばれながら、既得権益勢力の抵抗に遭って先送りされてきた。環太平洋連携協定(TPP)への参加を視野に入れれば、もはや改革は避けて通れない。
それでなくても農家の高齢化が進んでいるのに、TPPに加わる一方、農業改革に手を付けなければ、衰退は必至である。
そこで、どうするか。農林水産省が8月22日の規制改革会議に提出した資料をたたき台に、問題点を探ってみたい。
農水省はいま「農地中間管理機構(仮称)」という組織を新設して、それをテコに農地の集積、ひいては生産性の向上をめざしている。
耕作放棄地の面積は滋賀県のそれに匹敵する
この農地中間管理機構は何をするのか。
簡単にいえば、高齢化などの理由で耕作していないような土地を農家から機構が借りて、大区画化の整備をしたうえ、新たな担い手に貸し出す。農水省は「農地の中間的受け皿」とか「農地集積バンク」と呼んでいる。
農家はもちろんタダで機構には貸さないから、国は機構に公費を投入し、リース代を払って借り受ける。首尾よく新たな借り手=農業の担い手が見つかれば、そこから地代(リース代)が機構に入ってくるから、事業がうまく回れば、やがて公費負担は抑えられる、という仕組みだ。
なぜ、こんな機構が必要かといえば、いま農村には膨大な耕作放棄地が広がっているからだ。全部で40万ヘクタールもあるといわれ、ほぼ滋賀県に匹敵する規模だ。
一方、地域の中心になって農業を営む担い手(認定農業者や農業法人など)が利用している農地は全体の半分にすぎない。
耕作放棄地が拡大したのは、農家の高齢化が進んで跡継ぎがいない、耕作しても儲からないなど理由がある。ともあれ、各地の農村は細切れになった農地と放棄地、大規模農地がばらばらと併存して、結果的に農地集約は進まない、企業の参入も進まない、という事態に陥っている。
そこで、政府が農家と新規参入をめざす担い手の間に入る。機構(=農地集積バンク)がいったん借り受けて整備した後、新たに貸し出せば、相手が公的機関だから貸す方も安心、借りる方も安心で集積が進むはず、というのが農水省の目論見である。
はたして、この絵は狙い通り成功するのか。それとも単なる「獲らぬ狸の皮算用」にとどまるのか。
規制改革会議では、すでに多くの疑問や問題点が指摘された。最大の論点が何かといえば、公費の無駄遣いを防ぎつつ、新たな担い手とりわけの企業の新規参入が進むかどうか、である。
次の世代でヤル気が出たらどうなるか
まず農家の側からみると、自分にヤル気があって優良な農地なら、別に機構に貸す理由はない。自分はヤル気がなくて、荒れた農地なら貸してもいいだろう。
では、機構が公費で農地を整備して、それを借りた企業が農業を始めて、儲かるようになったところで「やっぱり返せ。自分がやる、あるいは息子がやる」という話になったら、どうなるか。
整備された農地は当然、価値が高まる。普通の企業でいえば、設備投資を公費で負担してもらったようなものだ。
後で「返せ」というなら、国の負担で整備してもらった分は当然、もとの農家が負担しても良さそうなものだが、農水省は「負担を求めない」という考えだ。
それでは、自力で整備した農家と比べて、モラルハザードにならないか。民法には、こうした事態を想定して「有益費償還請求権」という考え方もある。
借家人が借家の利便向上に費やした費用は契約終了時に貸し手に請求できるという話だ。それと同じである。どうも既存の農家に甘い話なのだ。 -
田原総一朗 自民圧勝で日本経済、次はどうなる?アベノミクスの本気度は「TPP」と「農業」でわかる
2013-07-29 12:00330pt参議院選挙、自民党の圧勝に終わった。52.61%という投票率の低さが象徴しているように、非常につまらない選挙だった。では、なぜつまらなくなってしまったのか。
経済問題、TPP問題、原発問題、そして外交や社会保障など、本来、争点はたくさんあったはずだ。それなのに、野党が与党・自民党に対抗できる政策を打ち出せなかった。その結果、野党は、単なる自民党の「亜流」になり下がってしまったのだ。だから争点のはっきりしない、つまらない選挙になってしまった。
もちろん、経済ではアベノミクスが、「今のところ」成功している、という要因は大きいだろう。折しも政府は、7月の月例経済報告で景気の基調判断を「自律的回復に向けた動きもみられる」と発表している。3カ月連続で上方修正したのだ。「回復」という表現が使われたのは、2012年9月以来、実に10カ月ぶりである。これは、選挙直前の好材料だったといえるだろう。
しかし、これまでの経済の好調は、いわば「期待値」だ。安倍政権にとって、参院選後こそがさまざまな問題の正念場である。TPPの交渉参加も、ついに今月23日に実現している。このTPPと密接に関係してくるが、アベノミクスの成長戦略、構造改革でもっとも重要な産業は農業だと僕は思っている。高齢化が進む日本の農業は、このままでは衰退するばかりだ。しかし、実は日本の農産物は世界でも高い評価を得ているのだ。
リンゴのフジ、イチゴやお米……。味といい、見た目の美しさといい、日本人の繊細な感性で作られた農産物は、外国でつくられたものとは、ひと味もふた味も違う。十分に国際競争力を持っている。 -
選挙の争点TPPの基礎知識「農水省発表の日本の食料自給率39%、実は70%である」
2012-11-21 14:151911月16日、野田佳彦首相が衆議解散を断行した。 この解散を「TPP解散」だという声もある。 TPPとは、環太平洋戦略的経済連携協定のこと。 アメリカをはじめとする、アジア太平洋地域の国ぐにが、高い水準の自由化を 目標にした多国間の経済連携協定のことである。 野田首相は、今回の解散を小泉純一郎元首相が断行した「郵政解散」に なぞらえたとも言われている。 野田首相の本心はどこにあるのか。 衆議院の解散をのばすと民主党の党内から野田降ろしが噴出する、まずそれを 恐れたのだろう。 さらに、TPP参加を打ち出して選挙に臨めば、TPP問題で党内意見が まとまらずにモタモタする自民党を圧倒できる、という目算もある。 だから、野田首相はTPP交渉参加を、民主党の公約にしようとしている。 僕は、TPPには当然、参加すべきだと思っている。 あくまでも協定の内容を決める「交渉への参加」にすぎないのだ。 だから賛成してもいいのではないか。 だが、アレルギー反応のようにTPP交渉参加に反対する議員は多い。 TPPは医療、サービス業も含めたさまざまな産業分野に関連するが、 その中でもとりわけ農業についての反対が強い。 加盟国間で関税障壁がなくなるため、海外から安い農産物が輸入され、 日本の農業が立ち行かなくなるというのが反対派の意見なのだ。 僕は、この考えはまったく逆だと考えている。日本の農業は決して弱くない。 農水省が、日本の農業を守らねばならないと主張する根拠は、日本の食料自給率が 低いということだ。 平成23年度の食料自給率は39%しかないと。 だが、この数字はゴマカシなのだ。 食料自給率39%というのは、カロリーベースの数値である。 生産額ベースで計算すると、66%と、ぐんとアップする。 ただし、これは震災後の低い数字で、震災前の平成22年度は70%にもなる。 70%という数字は諸外国と比べても高く、世界第5位だ。 日本は農業大国なのだ。 さらに言えば、そもそも日本以外の国で、カロリーベースの食料自給率を 採用している国はない。 では、なぜ日本はカロリーベースの数字で統計をとっているのか。 カロリーベースだと、高カロリーの農産物が多いと自給率の数字があがる。 小麦や油脂などがそうだが、それはほとんど輸入している。 一方、日本国内でほとんど生産している野菜などは、カロリーが低いので、 自給率の数値が上昇しない。 また、肉牛や鶏卵は、ほとんど日本で生産されている。 ところが、輸入飼料で生産されたものは「自給」とみなさないため、 これらも自給した畜産物として計算されないのである。 このように、日本の食料自給率は、「自給」の実態を見る指標としては 大いに疑問がある。 それなのに、なぜ農水省はカロリーベースの“低い”自給率をことさら 喧伝するのか。 僕は農水省の「省益」のためだと考えている。 農業に対する危機感をあおり、日本の農業を保護すべきだと主張することで、 農水省は職員の数を減らさず、農業関係の予算を守りたいのだ。 もうひとつ、TPP交渉参加に猛烈に反対するのが、農協である。 農協は「日本の農業が守れない」と主張している。 これも、とんでもない主張だ。 やる気のある農家にとって、TPPはむしろチャンスだと僕は思っているのだ。 時間と手間をかけ、丁寧に栽培された日本の農産物は、世界に通用する。 質が高く、味もよく、安全な農産物は日本産ブランドとして世界中で人気だ。 もしTPPに参加すれば、日本の農業は輸出産業となり、もっと伸びていく 可能性を充分に持っているのだ。 では、なぜ農協はTPPに反対するのか。 農協は、日本の農業を弱いままにしておきたいのではないか。 農家が小規模で弱いままなら、農協の会員数は減らない。 農協の影響力も維持できるのだ。 一方、やる気のある農家が世界に進出して成長すれば、経営も安定する。 そうすると、農協に頼る必要がなくなるから、農協の会員数が減ってしまう。 農協にとっては、許しがたい事態だ。 TPPは、日本の農業の将来がかかっているといっても、過言ではないのだ。 本気で取り組むのなら、そうとうの覚悟とエネルギーが必要なテーマである。 野田首相はこのことをどれほどの覚悟をもって言っているのだろうか。
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