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記事 10件
  • 長谷川幸洋 コラム第24回「政府も万全とは考えていない凍土壁の建設が予備費 憲法違反の疑念が浮かぶ」

    2013-10-31 20:00  
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    Ustreamで公開されている会合の様子より
    東京電力福島第一原発の汚染水問題が深刻さを増している。そんな中、超党派の国会議員らでつくる「原発ゼロの会」による国会エネルギー調査会(準備会)の会合が10月24日、衆院第一議員会館で開かれ、東電や政府当局から現状報告があった。
    会合の模様や配布資料などはネットで公開されるはずなので、詳しくはそちらを参照していただくとして、ここでは私が感じた問題点をとりいそぎ書いておきたい。
    まず、政府が構築を検討している凍土壁は本当に汚染水を止める効果があるのか、という点だ。これについては、政府や与党内からも効果に疑問を投げる声が出ている。
    国会エネ調の会合では「なぜ凍土壁なのか」の声が相次いだ
    自民党の資源・エネルギー戦略調査会の福島原発事故究明小委員会(村上誠一郎小委員長)は凍土壁ではなく、コンクリート壁による遮水策を提言した。
    国会エネ調の会合でも「なぜ
  • 田原総一朗 『僕が「特定秘密保護法案」成立に反対する理由』

    2013-10-29 20:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    僕はいま、あることで、日本がたいへん危ういと感じている。「特定秘密保護法案」だ。安倍内閣が閣議決定し、おそらく今国会で成立することになるだろう。
    第一次安倍内閣の頃から、安倍首相はこの法律を制定したがっていた。それは、なぜか。「スパイ防止法」の類(たぐい)の法律は、いま、日本にはない。世界の主要国のなかで、そういう法律がない国は日本ぐらいのものだろう。だから、アメリカに言わせれば、「そんな国では、たとえ同盟国であっても、怖くて重要機密を共有できない」というわけだ。
    たとえば、国家公務員が重要な機密を漏らす、つまり守秘義務に反したとする。アメリカでは最高で死刑に処せられる。ところが、日本では最高でも懲役1年、50万円の罰金が課されるのみだ。だが、特定秘密保護法案が成立すれば、最高で懲役10年と刑が厳しくなるのだ。おそらくアメリカからの要請もあっただろう。安倍政権が、この法律の成立を急ぐ気持ちも理解はできる。
    ただ、その内容があまりにも危ない。「知る権利」「取材の自由」は守られる、と言いながらも、その規定がどうにも曖昧なのだ。まず、特定秘密の対象となるのは、防衛、外交、スパイ活動、テロ活動の4分野だ。しかし、その定義は解釈によってどうにでもなる。
    取材の自由については、取材活動を「著しく違法・不当でない限り、正当な業務行為と位置づける」との趣旨を盛り込むという。だが、「著しく違法・不当」とはいったいどこまでを指すのだろうか。例えば、政治家の家やマンションの敷地内に入っただけで、「住居侵入罪」で「違法」とされる可能性もある。政治家や官僚に強引に取材すれば、「不当」とされる可能性もある。どうにでも、政権に都合よく解釈できてしまうのだ。
    さらに、もうひとつ気になることがある。現在の法案には、次のように書かれている。「5年ごとに更新可能。30年目に内閣の承認があればさらに延長できる」。国会ではなく「内閣」だ。政権の意向でいくらでも延長できるのだ。
    僕は、戦時中から戦後にかけて、国家が平気でウソをつき、戦争に負けると、その主義を簡単にひるがえした様子を目の当たりにしてきた。体制とはウソつきなのだ。 
  • 田原総一朗 世界の大学ランキングで東大が32位。日本の教育に何が足りないのか?

    2013-10-24 20:00  
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    最近見たある記事に、僕はショックを受けた。その記事とは、イギリスの調査会社が調べた、世界の大学ランキングである。記事によると、日本でもっとも順位が高いのは東京大学である。だが、その日本のトップの大学の順位がやっと32位なのだ。次にくるのが京都大学で35位だ。
    ちなみに100位までに入る日本の大学は、ほかに大阪大学、東京工業大学、東北大学、そして名古屋大学で、合計6校しかない。私立大学では最高が慶応義塾大学で193位。早稲田大学は220位だ。東京大学は、この5年ほどの間、毎年順位を下げ続けているそうだ。そして、いまやシンガポール国立大学や香港大学にも抜かれてしまった。
    ランキングの要素として大きいのは、その大学に所属する研究者が作成した論文の「引用回数」である。論文が数多く引用されるということは、研究内容が重要だと認められているわけだ。そして、重要な研究と認められるためには、多くの研究者に論
  • 長谷川幸洋 コラム第23回「利子だけで800億円の国民負担。原発事故対応にかかる金額を政府は明らかにすべき」

    2013-10-24 20:00  
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    会計検査院が東京電力に対する国の支援状況について調査した報告書を公表した。朝日新聞はじめ各紙が10月17日付朝刊で報じ、国民負担が膨らむ懸念について警鐘を鳴らしている。
    ポイントの1つは、国の支援額を5兆円とした場合、東電と電力各社による返済は最長で31年かかり、国の利子負担は最大で約794億円に及ぶ、というところだ。これを読んで、私は「ちょっと桁が違うのではないか」と目を疑った。
    そこで報告書(http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/25/h251016_1.html)を読んでみると、記事は間違いではなかった。たしかに記載された国の利子負担の単位は「億円」であり、兆円ではない(ここが兆円だったら、あまりに大変すぎるが)。
    すでにギブアップしている東京電力
    それにしても、国の利子負担、すなわち国民負担がわずか800億円弱とは、いくらなんでも安すぎる。そんな金額で済むなら、たとえ完済に30年かかろうと「たいしたことはない」と思われても不思議ではないだろう。
    いったいどうして、そんな話になるのかと思って報告書本体をよく読んでみたら、いくつか現実離れした想定が前提になっている、とわかった。
    まず、報告書が試算の根拠にしているデータがいかにも古すぎる。東電は経営の現状や見通しについて政府に事業計画を提出しているが、今回の報告書が基にしたのは、2012年5月に認定された「総合特別事業計画」の数字である。
    そこでは、たとえば要賠償額を2兆5462億円と見積もっていた。ところがその後、ことし13年2月には改訂版を出して3兆2430億円に膨らんでいる。もちろんこれで足りるわけがなく、6月にはまた計画(http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu13_j/images/130625j0102.pdf)を見直して3兆9093億円になっている。
    これで十分かといえば、まだ足りない。11月には、さらに数字を見直して最新版の総合特別事業計画を発表する予定である。おそらくもっと増えるだろう。
    つまり、会計検査院がいろいろ数字を試算した労は多と評価したいが、残念ながら、事故は現在進行中であり、したがって肝心の国民負担もまだまだ増えるのは確実なのだ。
    以前のコラムで書いたように、そもそも東電は昨年11月の段階で「国の全面的な支援がなければ、もうやっていけません」という内容のギブアップ宣言を出している。
    東電自身が賠償、除染、汚染物質の中間貯蔵施設に加えて廃炉費用も考えると「一企業のみの努力では到底対応しきれない規模となる可能性が高い」ととっくに認めてしまっているのだ。現状はそこから一段と悪化して、汚染水問題は「もはや収拾不能ではないか」と思われるほど混乱を極めている。
    汚染水問題で、政府は当座の資金だけでも470億円を投じる方針を決めた。となると、とてもじゃないが、国民負担が800億円どころですまないのは、だれでも分かる。
    利子は国民負担だと報告書を読んで知った
    それから、報告書が指摘した国民負担は国の利子負担に話を限っている。だが、そもそも東電が国に立て替えてもらっている賠償と除染の費用をちゃんと返済できるのか、という疑念がある。利子どころか元金だって返済できるかどうか、まったく怪しいのだ。
    東電自身がギブアップしているということは、すなわち「いまのままでは賠償も除染も汚染水対策もできません」という話である。だから「国に立て替えてもらっている費用の元金だって返せません」とみても、まったくおかしくない。
    つまり「利子の800億円が国民負担に」などという話ではさらさらなく「元金の数兆円が返せない」というのが実態なのだ。まさに、数字は少なくとも二桁は違っているのである。 
  • 長谷川幸洋 コラム第22回 野党再編前夜、野党政治家に問いたいのは「成長をどう考えるのか」だ

    2013-10-17 20:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    野党再編をめぐる駆け引きが活発化している。
    9日夜には、民主党の細野豪志前幹事長、日本維新の会の松野頼久国会議員団幹事長、みんなの党の江田憲司前幹事長らが新党結成も視野に会合を開いた。
    会合には3党所属の議員らのほか、みんなの党を追われて無所属になった柿沢未途衆院議員も参加している。
    一方、みんなの党は10日、両院議員総会を開いて「新党ではなく政党ブロックによる政界再編をめざす」という方針を機関決定した。渡辺喜美代表は江田たちの新党構想を力づくで封じ込める姿勢だ。渡辺と江田の対立は、もはや抜き差しならない段階まで深刻化している。
    こうした動きをどう評価したらいいか。
    今の日本にはどんな野党がふさわしいのか
    先の参院選で自民党が圧勝し、衆参両院のねじれ状態が解消した中、野党がどう存在感を示していくか。この「野党問題」は当の野党議員だけでなく、多くの国民が気にかけている。
    政権与党がなんでも勝手に決められる政治よりは、与野党が互いに政策を競い合っていく姿のほうが健全である。だから、なんとか野党にはがんばってほしい。
    そんな期待を前提にしたうえで、では、どんな野党が望ましいか。永田町の政争をひとまず離れて、国民の側から考えてみると、大事なのはやはり政策である。数はもちろん重要だが、数さえあればいいのかといえば、そうはいかない。
    それは、いまの民主党をみればあきらかだ。
    民主党は一度は多数派を形成して政権奪取に成功しながら、昨年末の総選挙、7月の参院選で国民の支持を得られず、大敗北を喫した。
    いまや「流れ解散しかないのではないか」と思われるほどだ。
    なぜ、民主党は負けたのか。
    私は、民主党が安倍晋三政権のアベノミクスに対抗できる経済政策を打ち出せなかったからだ、と考えている。
    参院選では憲法改正や原発、環太平洋連携協定(TPP)問題など多くの争点があったが、有権者がもっとも切実に問うたのは景気回復への方策だった。
    15年にわたるデフレを脱却し、日本を再び成長軌道に戻せるのは、どの政党か。
    民主党は子ども手当や高校授業料無償化、農家への戸別所得補償を掲げた。これを一言で言えば、税金を原資に「政府による所得再配分で成長を」という政策である。
    国民は所得再配分ではなく成長路線を選んだ
    これに対して、安倍政権はアベノミクス、とりわけ大胆な金融緩和でデフレを克服し、規制改革で自由な企業活動を応援する政策を用意した。
    国民の多数が選んだのは、所得再配分政策ではなく、活発な企業活動をエンジンにした成長路線だった。
    民主党内にも成長を重視する議員はいる。だが、多数派ではない。
    労働組合の支援を受けている議員は当然ながら、公正な所得再配分を重視している。成長か再配分かという対立軸は、必ずしもマスコミの世界では明確に報じられなかったが、国民は直感で理解していたのではないか。
    日本共産党の躍進は、その証明である。
    共産党は資本家と労働階級の階級対立が歴史の原動力と考え、公正な所得再配分の実現こそが政治の大義と考えている。公正な再配分を最優先で求める国民は、あいまいさが残る民主党より共産党を選んだのだ。 
  • 田原総一朗 「アメリカ、中国、韓国が弱っている今だからこそ、日本ができることがある」

    2013-10-16 20:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    いま、アメリカが大変なことになっている。先月30日深夜、オバマ大統領は、「政府機関は活動ができなくなった」と言った。
    アメリカ議会で、暫定予算案が通過しなかったことを受け、連邦政府の一部が閉鎖した。実に17年ぶりのことだ。いまアメリカは、国が国として機能していないわけである。
    なぜこうなったかといえば、オバマ大統領が公約として掲げ、法案もすでに通っている健康保険制度、通称「オバマケア」に反対する共和党のいやがらせのためだ。日本では国民皆保険が当たり前である。だが、アメリカにはその制度がない。だから富裕層はいい医療を受けられるが、貧困層は病院にさえいけない。アメリカは格差社会なのだ。
    オバマ大統領念願の健康保険制度は、2010年3月に、医療保険改革法案に彼自身が署名して成立している。実施は2014年の予定だった。ところが、その直前になって、費用がかかりすぎるなどと、共和党がごねているというわけだ。すでに法律が成立しているにもかかわらず、だ。
    アメリカ議会には上院と下院がある。その上院の第一党は民主党だが、下院の第一党は共和党だ。いわゆる「ねじれ」国会なのだ。そしていま、オバマ大統領の支持率が落ちている。これが、共和党の嫌がらせの背景にあるのだ。 
  • 長谷川幸洋 コラム第21回 あえて言う 安倍首相はやっぱり消費税引き上げを先送りすべきだった

    2013-10-10 20:00  
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    安倍晋三首相が消費税引き上げを決めた。
    本人が記者会見で「最後の最後まで考え抜いた」と明かしたように、一時は先送りに傾いた時期もあったようだ。それでも、政治は結果である。
    今回の増税が吉と出るか凶と出るかは、来春以降の景気と税収状況を見なければ即断できない。ただ、同時に決めた景気対策の中身をみると、安倍の思惑とは裏腹に、かなり財務省に押し込まれた印象がある。
    それは減税規模が1兆円程度になった一方、歳出増が5兆円規模になったことであきらかだ。
    減税額は4兆円の見込みが1兆円程度に
    先のコラムで書いたように、そもそも右手で増税する一方、左手で景気対策をするのが政策として矛盾しているのだが、百歩譲って、増税を減税で打ち消すなら国民経済全体の税負担としては中立になる。
    だが、増税と同時に歳出ばらまきをするなら、単に政府の規模が大きくなるだけだ。
    だから、安倍は補正予算による歳出ばらまきには否定的だった。減税財源についても増税分を充てるというより、アベノミクスによる自然増収分、約4兆円を念頭に置いていた。
    ところが、結果的に減税は1兆円程度にしかならなかった。
    財務省は当初、ゼロ回答だったので、そこからみれば前進だが、とても十分とはいえない。
    しかも法人税引き下げは「真剣に検討」、復興特別法人税も「2013年度末の廃止を検討」である。
    霞が関用語で「検討」といえば、決定ではない。
    文字通りの検討であって、これから結論がどうなるか分からない。年末まで2カ月もあるから、財務省は間違いなく減税の先送りを狙って巻き返すだろう。財務省からみれば、今回の決着はぎりぎりで「減税先送りに成功」した形だ。
    バトルは、実はこれからが本番なのである。
    減税の中身をみても、投資減税と賃上げ減税が中心である
    企業経営者からみれば「自社製品やサービスの売り上げが伸びる」という見通しがあって初めて、設備投資や賃上げを考えるのが普通だ。消費増税で最終需要が冷え込むと分かっているのに、あえて投資や賃上げの約束はできない。 
  • 田原総一朗『田原流仕事術―不器用な僕はどうやって自分の「武器」を手に入れたか』

    2013-10-07 20:00  
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    僕は若い人たちと話をするのが大好きだ。母校早稲田大学に「大隈塾」という講座を作って、学生たちととことん討論もしている。テレビ番組で30代の若者を集めたこともあるし、小学校や中学校に講演にも行く。彼らの、しばりのない鋭い意見を聞くことを心から楽しいと感じている。
    先月の「朝まで生テレビ!」では、「雇用と若者」をテーマに話し合った。いわゆるブラック企業、契約社員などの問題について、徹底的に議論した。僕が若かった頃に比べて、日本は豊かになったはずだ。だが、現代の若者たちには、昭和の時代とは質の違う問題が山積みになっているようだ。そこで、参考にはならないかもしれないが、僕の、仕事にまつわる昔話をしたいと思う。
    実は僕は、子供の頃、小説家になりたかった。野球小説を書いたこともある。その夢はずっと持ち続けていて、小説家になるならばやはり「早稲田」だと滋賀から上京して、夜間の早稲田大学第二文学部に入学した。昼間は日本交通公社(現JTB)で働き、大学に通った。
    日本交通公社で切符切りをしたが、僕の不器用さは度を越していたのである。まともに切符を切ることができず、ずいぶん苦労した。昼間はそんな苦労をしながら仕事をこなし、小説だけはしっかい書いて、文学賞に応募したりした。だが結果は、まったくダメだった。
    ちょうどその頃、石原慎太郎さんが閃光のごとく文壇に現れた。デビュー作『太陽の季節』で芥川賞を受賞したのである。鮮烈なデビューだった。彼の作品を読んで、僕ははっきりと「かなわない」と感じた。
    同じように感じた人間が、もうひとりいた。ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎さんだ。この同年代ふたりの作品は、僕が「負けるものか」と思えるようなレベルではなかった。圧倒されてしまったのである。
    それから僕は、小説家からジャーナリストへと目指す道を変えた。まず就職するために早稲田の一文(第一文学部)に入り直した。そしてNHK、朝日新聞などの入社試験を受けた。しかし、ことごとく落ちる。ようやく11社目で合格したのが、岩波映画製作所だった。そこでカメラマン助手となるのだが、またここで不器用がアダとなる。カメラの扱いがまともにできないのだ。助手としてはできそこないである。 
  • 田原総一朗「バブルが崩壊した「崖っぷち中国」で、いま何が起きているのか?」

    2013-10-07 20:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    中国で薄熙来(はく・きらい)被告に無期懲役の有罪判決が出た。収賄、横領、職権乱用というのがその罪状だ。だが中国国民は、この裁判が茶番だということをよく知っている。薄は結局、権力闘争に負けた。だから、どんどん罪が暴かれるのだ、と。
    薄被告は、大連市長や遼寧省長、重慶市党委員会書記を歴任した。特に重慶では経済政策で成果を上げ、毛沢東をモデルとして格差是正や平等をアピール、庶民から厚い支持を受けていた。将来は主席候補の超エリートであった。
    ところが、その薄に次々と疑惑が起こる。きっかけは、2011年に起きた、英国人実業家の殺人事件だ。薄の妻・谷開来が逮捕され、さらに不正蓄財、横領などのスキャンダルが報道されたのだ。薄の妻は、後に執行猶予付き死刑となっている。
    この裁判を、中国の危機感の象徴だ、と僕は思っている。習近平体制は、いまだ固まっていない。というよりも、中国共産党自体が確固たる権力ではなくなっているのだ。
    経済発展によって税収が増えると、「富の再分配」ができる。そんな右肩上がりの時代には、生活が豊かになるから、誰も政治に不満を持たない。日本の70~80年代がまさにそうだった。中国も最近までがそういう時代だった。
    ところが、日本と同じように、中国もバブルがはじけたのだ。経済格差は広がる一方で、人びとは希望が持てなくなっている。当然、政治に不満を持つようにもなるわけだ。この不満を持つ国民を、どうなだめるか。
    ひとつは、「政治の腐敗」を正すとアピールすることだ。横領、収賄は許さない。断固して取り締まる。薄は、そのスケープゴートになったといっていいだろう。ふたつめは、軍をいかにコントロールするかだ。武力を持っている軍で不満が強まると、クーデターを起こす可能性があるからだ。軍が不満を溜めないように、手厚く接する。つまり豊富な予算を与え、軍備拡張するのだ。
    3つめは、言論抑圧である。先日、日本のテレビにもよく出ていた、東洋学園大学教授の朱健栄さんが、拘束されたと報じられた。中国内で違法な情報収集を行ったというスパイ容疑だと言う。朱さんだけでなく、いま中国では多くの言論人、知識人が拘束されている。批判的な意見を持つ言論人を力ずくで抑え込んでいるのだ。中国には、言論の自由がないのである。 
  • 長谷川幸洋 コラム第20回 ねじれが解消し形骸化の懸念がある今こそ メディアは本来の使命を果たせ!

    2013-10-03 20:00  
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    福島第1原発を訪れた安倍首相 [Photo] Bloomberg via Getty Images
    福島第1原発の汚染水問題で、国会の閉会中審査が27日と週明け30日の2日間にわたって開かれる。日本中が心配する汚染水問題がようやく閉会中とはいえ、国会の場で議論されるのは良かった。
    いや「良かった」というのは適切でないだろう。こんな大問題を国民の代表である国会議員が「どうなるのか、どうするのか、こうすべきだ、ああすべきだ」と議論するのは当然である。むしろ、遅すぎたくらいだ。
    今回の対応はもしかしたら、これから先数年間の国会のありようを象徴するかもしれない。大問題が起きても国会の動きは鈍い。ようやく取り上げられたと思ったら、なんのことはない、野党は型どおりに政府与党を追及し、政府はといえば用意した答弁を演説して「はい、おしまい」。そんな結果になりはしないか。
    与党が衆参両院で多数を握ったので予算は必ず成立する
    つまり、国会が形骸化するのだ。
    なぜ、そういう懸念があるかといえば、衆参両院のねじれ状況が解消してしまったからだ。
    政府与党は衆参両院で多数を握っているから、予算案と内閣提出法案(閣法)は必ず成立する。べつに野党が審議拒否して「寝てしまった」ところで、最終的に採決さえすれば決着するのだ。
    国会がねじれていたときは、野党が参院で反対すれば、衆院で与党が3分の2以上の多数で再議決しない限り、法案は通らなかった。衆院の議決が優越する予算案も、予算本体が成立したとしても、関連法案とりわけ特例公債法案(赤字国債を発行するための法案)が野党の反対で成立させられないと、たちまち政権運営が立ち往生してしまう、という事態が続いていた。
    そんな状況を新聞はじめマスコミは「決められない政治」とさんざん批判してきた。今回、ねじれが解消したから「ようやく決められる政治になる」と半ば歓迎するきらいさえある。
    この「決められない政治」というキャッチフレーズは、野田佳彦元首相が2012年1月の施政方針演説で初めて使った言葉だ。
    私は財務省が「消費税引き上げを決める」ために演説の中に入れ込んだのではないか、と疑っている。当時、多くの新聞は演説をそのままパクって、社説などで「決められない政治からの脱却」を訴えた。
    だが、ねじれ状態を解消して実現する「決められる政治」とは、実は「形骸化した国会の下で政府与党が独走する政治」なのではないか。
    そんな政治を新聞が歓迎していいのだろうか。