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  • 長谷川幸洋コラム 第25回 何でも国が負担はおかしい!株主と銀行の責任、廃炉の枠組が汚染水問題の焦点

    2013-11-07 20:00  
    330pt
    [Photo] Bloomberg via Getty Images
    原発事故の除染費用を東京電力ではなく、国が税金で負担するという話が持ち上がった。「ついに」というか「やっぱり」というべきか。
    こうなると、いよいよ「東電本体の経営をどうするか」が避けて通れない課題になる。
    現行の枠組みがどうなっているかといえば、前回コラムを含め、これまで何度も紹介してきたように放射能汚染物質対処特別措置法の下で国が一時、除染費用を立て替えたとしても「最終的には東電が負担する」と決まっている。
    ところが、東電は昨年11月の時点で被災者への賠償、除染、中間貯蔵費用だけで10兆円程度と目される費用を「一企業のみの努力では到底対応しきれない」として事実上、ギブアップ宣言を出している。これも当時のコラムで指摘したとおりだ。
    東電は無い袖は振れぬと開き直っている
    事態はそこから一段と悪化して、汚染水問題がもはや収拾不能ではないか、と思われるほどになってしまった。
    東電は実質的に破綻しており、賠償も除染も汚染水問題を含む廃炉も東電の手に負えないのは、もはや覆い隠しようがない。
    実際、国はこれまで東電に対して404億円の費用を請求したが、東電はわずか67億円しか払っていない。法律が明確に定めているにもかかわらず、支払わないのは「ない袖は振れない」と居直ったも同然だ。
    以上は、私が指摘するまでもなく、法律の枠組みと東電の発表をそのまま素直に読めば、だれにも分かった話である。
    今回、降ってわいたかのように税金負担の話が出てきたのは、自民党の復興加速本部(大島理森本部長)が「国が一部を負担する」という提言案をまとめたからだ。裏を返せば、自民党も東電のギブアップを認めたのだ。
    それによれば、すでに計画済みの除染(約1.5兆円分)については法律が定めたとおり、東電に費用を請求する。
    だが、それ以上の除染と中間貯蔵費用は国が負担するという。東電は1.5兆円分だって払いたくないし実際、払えないと居直るつもりだろうが、自民党とすれば、まさか法律を横紙破りするわけにもいかず、得意技の「足して2で割った」形である。
    この話をどう考えるべきか。
    国費を使いたくない財務省と東電を生かしておきたい経産省
    法律が東電に全額請求する仕組みになっているのは、当時の民主党政権が「東電を存続させる」という話を最初に決めて、そのうえで一切の事故処理費用は他の電力会社の支援も仰ぎつつ、基本的には東電に長期の分割払いさせる、という方針を決めたからだ。
    これは、国費を使いたくない財務省と東電を生かしておきたい経済産業省の思惑が一致した結果である。
    だが、そもそも賠償も除染もいくらかかるか分からない。廃炉となると、もちろん費用がさらに巨額に上るのは、当時から分かっていた。
    だが、廃炉も計算に含めると「東電に全部負担させる」という話のデタラメさがバレバレになってしまうので、とぼけて先送りを決め込んでいた。
    ところが汚染水処理が大問題になってしまい、いよいよ逃げられなくなってしまった。万事休すなのだ。
    汚染水は原発事故現場では当初から問題視されていた。亡くなった吉田昌郎所長が強く懸念していたのは、よく知られている。
    最近、出版された原発作業員「ハッピー」さんによるツィート記録本、『福島第一原発収束作業日記』(河出書房新社)でも、たとえば2011年6月の段階で「2号機の汚染水、溢れそうでかなりヤバいかも」と記されている。
    ちなみに東電自身が汚染水をどう考えていたのかといえば、はっきり言って、事態をなめていた。それが証拠に、昨年11月に東電が出したギブアップ宣言である「再生への経営方針」では「汚染水」の「汚」の字も出てこない。
    現場では、とっくに問題の所在が分かっていたのに、経営陣は見て見ぬふりをしてきたのである。
    いまごろになって、自民党が「除染は国の負担で」と言い出した。
    となると当然、東電の株主や銀行の責任を追及せざるをえない。株主や銀行は自分のビジネスとして東電に投融資してきたのに、なんの関係もなくむしろ被害者である国民が税金で負担するわけにはいかないからだ。 
  • 長谷川幸洋 コラム第15回「福島第一の賠償---政府は市場経済の原則を厳守し対処せよ」

    2013-08-22 12:00  
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    [Photo] Bloomberg via Getty Images
    東京電力・福島第一原発から1日当たり推定300トンもの汚染水が海に流出している、という政府の試算があきらかになった。政府は数百億円といわれる国費を投入して、原発の周囲に凍土壁を埋め込む計画だ。
    このニュースを聞いて「やっぱり、こういう事態になったか」と暗澹たる気分になった。「汚染水が止まらず結局、海に放出されるだろう」というのは、原発事故の早い段階から十分に予想されていた話である。私は事故から2カ月半後のコラムで、次のように書いている。
    イタチごっこは何十年も続かない
    〈汚染水も毎日、上から大量の水を注ぎ込んでいるのだから、汚染除去に成功して循環システムが構築できない限り、タンクに収容するといっても、いずれ満杯になるのは、だれにも分かる話だった。それなのに「タンクへの収容話」は連日報じられても「一杯になったらどうするのか」はほとんど報じられなかった。
    私は専門家ではないが、常識的に考えて抜本的な解決策が見つからない限り、いずれ高濃度の汚染水が再び、海に垂れ流されてしまうのは時間の問題だと思う〉
    原発を冷やすには上から大量の水を流し続けねばならない。このコラムを書いた当時は、まだ循環システムは完成していなかった。だから、冷やした後の汚染水はタンクに収容する以外になかった。それでタンク作りを懸命に始めたが、そんなイタチごっこが何十年も続けられるわけがない。
    だから循環システム作りが鍵を握ったのだが、そのシステムはいまだに完成していない。放射性物質を完全に除去できないのだ。
    加えて、山側から原発敷地内へ「地下水の流入」という新たな難問が出てきて、汚染水問題は一層、深刻になった。
    コラムを書いた11年5月時点でも、汚染水漏れを防ぐために原発の地下にぐるりと壁を作る案は出ていた。当時の細野豪志原発担当相は同年7月の会見で「できるだけ早い時期に着工できないか、検討を始めた」と語っている。
    ところが、その後、計画は立ち消えになってしまう。費用が巨額に上り、東京電力が「負担しきれない」と渋ったからだ。東電の試算では当時、1000億円レベルに上る可能性があるとされ、そんな費用を新たに計上すると、いよいよ債務超過で経営破綻が現実になる懸念があった。
    ようするに「カネがないから、遮水壁は作れない」という話である。
    カネのない東電の法的整理は避けられない
    汚染水の海洋流出がごまかせなくなって、いよいよ遮水壁の建設は待ったなしの課題になってしまった。汚染水流出を放置すれば、海洋汚染が国際問題になるのは不可避である。東電にカネがない以上、政府がカネを出す以外にない。だが、そうなると次は、必然的に東電の法的整理が課題になる。
    そもそも事故を起こしたのは東電であり、壁を作る場所も原発の敷地内である。究極的には自分のビジネス=カネ儲けで東電の株を買った株主や融資した銀行の責任を問わずに、税金を投入して負担を国民に肩代わりさせるわけにはいかないからだ。
    これまで被災者への賠償や除染については、原子力損害賠償支援機構法と放射性物質汚染対処特別措置法の枠組みで、政府が一時的に資金を肩代わりしても、最終的には東電(および一部は他の電力会社)が負担する仕組みができ上がっている。
    賠償と除染に加えて廃炉もある。
    先の2本の法律では、廃炉費用の一時肩代わりまではできない。だが、政府は実質的に廃炉費用の負担にまで踏み込んでいる。12年度補正予算では独立行政法人の日本原子力研究開発機構に対して「放射性物質研究拠点施設等整備事業」として850億円の拠出を盛り込んだ。
    この施設は放射性物質を扱うロボットの開発研究などが目的である。つまり、廃炉に備えて技術開発をしようという計画だ。これだけでも事実上、東電への支援になるが、今回はもっと露骨に汚染水対策にまで政府がカネを出そうというのだ。