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記事 3件
  • 長谷川幸洋コラム【第60回】日中首脳会談が実現しそうな習近平の5つの事情

    2014-08-26 20:00  
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    日本と事を構えている場合ではない?〔PHOTO〕gettyimages
    中国・北京で11月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて、途絶えたままになっている日中首脳会談が開かれそうな気運が出てきた。ポイントは中国を取り巻く内外情勢の変化だ。はたして、安倍晋三首相と習近平国家主席の会談は実現するのか。7月下旬に訪中した福田康夫元首相が習氏と極秘に会談し、膠着状態に陥っている日中関係を前進させるために首脳会談をもちかけたのは、各紙が報じたとおりだ。そのうえで、産経新聞は習氏が「現在の日中関係を打開しなければならないとの考えを伝えた」と中国側の前向き姿勢を報じている(8月7日付)。中国はこれまで、尖閣諸島の領有権をめぐって争いがあることを認めない限り、日中首脳会談に応じない姿勢を示してきた。頑なな姿勢に変化が出てきた背景として次の5点を指摘できるだろう。
    南シナ海では中国は守勢に回る
    まず南シナ海である。中国の巡視船は5月以来、西沙諸島でベトナムの船に体当たりや放水を繰り返して緊張を高めていた(http://ch.nicovideo.jp/gendai/blomaga/ar532420、を参照)。それは石油探査作業をベトナムに邪魔させないためだった。現場はベトナムの排他的経済水域(EEZ)の中だったが、中国は「自国の水域」と主張して深海探査リグを稼働させていた。これに対して、ベトナムのグエン・フー・チョン総書記は「戦争に突入したらどうするか、と多くの人に聞かれる。われわれはすべての可能性を想定して準備をしなければならない」と語り、いざとなったら戦争も辞さない強硬姿勢を示した。米国も対中姿勢を修正した。昨年6月の米中首脳会談では中国が提唱する「新型大国関係」に理解を示していたが、7月に北京で開かれた米中戦略・経済対話では、ケリー国務長官が「大国」の2文字を削除して語り、オバマ大統領も「新しい型とは意見の違いを建設的にコントロールすることだ」という声明を出している。すると中国は7月15日に突如として石油探査の中止を発表し、探査リグを現場から撤収した。それまでの強硬姿勢からみれば、大きな方針転換だ。タイミングからみて、ベトナムの抵抗と米国の圧力が功を奏した形である。南シナ海で中国はあきらかに守勢に立たされている。 
  • 長谷川幸洋コラム第59回 「圏子(チェンツ)」の概念で読み解く、前政治局常務委員・周永康の摘発事件

    2014-08-07 20:00  
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    「重大な規律違反」で摘発された周永康・前政治局常務委員 〔PHOTO〕gettyimages
    中国の最高指導部メンバーだった周永康・前政治局常務委員が「重大な規律違反」に問われて摘発された。汚職で築いた資産は1兆5000億円
    新聞紙面には習近平指導部による「反腐敗」闘争といった文字が踊っているが、それを真に受けて「清廉潔白な権力者が腐敗勢力の退治に乗り出した」などと理解すると、本質を見誤ってしまう。そもそも中国に「法による統治」があるのか。まず簡単に事態を整理する。今回の事件に先立って、2013年3月に四川省の企業グループ「四川漢龍集団」のトップだった劉漢が逮捕された。この男は文字通りマフィアの親分だ。商売敵を何人も殺してのし上がり、約400億元(約6,700億円)の資産を築いていた。劉には死刑判決が下っている。劉の後ろ盾になっていたのが、今回摘発された周永康である。だから、劉漢逮捕のころから「やがて周永康も摘発される」という見方が広がっていた。周永康が汚職で築いた資産は900億元(約1兆5,000億円)という、気が遠くなるような額だ。周の摘発とともに約300人もの一族郎党が拘束された、と報じられている。劉漢や周の親族らも摘発された、という点は後で述べるように重要だ。一方、偶然だろうが事件と時を同じくして、新疆ウイグル自治区のカシュガル地区ヤルカンド県で数百人から千人規模の騒乱が起きた。死傷者は100人にも上る、といわれている。警察当局は「組織的で計画的なテロ」としているが、一部には「前夜、警察に子どもや老人など一家が殺される事件があり、それに反発した騒乱」という説もある。真相は不明だ。新疆ウイグル自治区では、これまでテロや騒乱事件が多発している。昨年10月には北京の天安門広場でも暴走車両が歩行者をはねて突入、炎上する自爆事件が起きた。ウイグル人の間では、習指導部に対する不満が鬱積している。ウイグルだけではない。中国当局は各地で農地の強制収容を繰り返し、それに抗議する農民たちが役所や請願所の前で座り込みする姿が何度も報じられている。
    中国は海でも空でも法やルールを無視
    一方、国内から国外に目を転じれば、中国は他国を相手に国際ルールを無視した行為を繰り返している。南シナ海では、1992年に独自の領海法を制定して「九段線」と呼ばれる線の内側を「中国の領海」と主張している。これは南シナ海のほぼ9割を占める。中国にとって、周辺の「公海」はなきも同然だ。中国も調印している国際海洋法条約では、沿岸から200海里(約370キロ)は排他的経済水域(EEZ)とされ、領海(12海里)とは異なり、自由な航行を認められている。ところが、中国の海軍艦船は昨年9月、EEZ内で偵察行動をしていた米ミサイル巡洋艦、カウペンスにあわや衝突寸前の事件を引き起こした。EEZを領海同様にみなしているのだ。そうかと思えば、中国はことし5月、ベトナムのEEZ内で石油掘削リグを稼働させ、掘削活動を妨害させないために、巡視船がベトナムの船に体当たりや放水を繰り返した。一方では「自国のEEZは自国の領海」であるかのようにふるまいながら、他方で「他国のEEZで自国の行動は制限されない」というのだ。まったく自分勝手というほかない。海だけでなく空も同じである。中国は昨年11月に突然、防空識別圏(ADIZ)を設定した。ADIZは領空とは異なり、あくまで事前通報がない航空機に対して領空を侵犯する可能性を警告するための空域だ。ところが、中国はADIZの設定に際して、国防省の指示に従わない場合「武力で防御的な緊急措置をとる」と表明している。つまり「いざとなったら撃墜するぞ」と脅したのだ。これもADIZに関する国際ルール無視である。こうしてみると、中国は国内でも国外でも、根本的な政治姿勢として「法やルールに基づく統治」を目指しているとは言えない。逆に、法を無視したふるまいを繰り返し、そうした行動を反省したり改める気配はない。 
  • 長谷川幸洋コラム第50回 集団的自衛権の行使容認を「戦争に巻き込まれる」と反対している場合ではない

    2014-05-29 20:00  
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    ウォッカで乾杯する習近平国家主席とプーチン大統領。〔PHOTO〕gettyimages
    中国とロシアの連携が急速に進んでいる。中国もロシアも「力による現状変更」を実践している国際秩序への挑戦者だ。両国はともに国連安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国でもある。ということは、両国が国際法に違反しても国連は制裁できない。事実上、国連は無力である。鮮明になった中国の野心
    この両国が連携し、これから事実上の同盟関係にまで発展するとなると、世界情勢への影響は計り知れない。ロシアによるクリミア侵攻からわずか2か月で世界情勢は猛烈な勢いで急展開している。いま日本が立っている地点は、そういう局面だ。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は5月20日、上海で会談し「他国への内政干渉や一方的な制裁に反対する」との内容の共同声明を出した。戦勝70周年行事を合同で開催することでも合意した。これは「ドイツのファシズムと日本の軍国主義」に対する両国の勝利を祝う趣旨であり、当然ながら、とくに中国は日本を念頭に置いている。続いて同夜には、同じ上海で開かれたアジア相互協力信頼醸成会議(CICA)で習主席が基調講演し「アジアの安全保障はアジアの人々が守る」という趣旨の「新しいアジア安全観」を唱えた。これは「中国主導でアジア安保秩序を構築していく」という宣言だ。言い換えれば「米国の好き勝手にはさせないぞ」という話である。アジア相互協力信頼醸成会議(CICA)とは聞き慣れないが、カザフスタンのナザルバエフ大統領が1992年の国連総会で創設を提唱した。99年に15ヵ国で発足し、現在は中ロはじめパキスタン、イラン、トルコ、韓国、イスラエルなど26カ国が加盟している。日本や米国はオブザーバーの立場だ。中国の脅威にさらされているベトナムは加盟しているが、フィリピンやマレーシア、インドネシア、それからロシアと対立しているウクライナもオブザーバーにとどまっている。報道によれば、ベトナムの国家副主席は会議で中国の名指しを避けながらも、南シナ海での衝突事件を念頭に中国をけん制する発言をした、という。中国は首脳会談でロシアと接近しただけでなく、プーチン大統領も出席した国際会議で中国主導の秩序構築を目指す考えを高らかに宣言した。いまや中国の野心は鮮明である。アメリカは中国に弱腰
    習主席は昨年6月、オバマ米大統領との会談で「太平洋は米中両国を受け入れるのに十分に広い」と訴えて事実上、米中による太平洋の縄張り分割を提案した。オバマはこのとき「日本が米国の同盟国であるのを忘れるな」と反撃したが、その5ヵ月後に中国が一方的に防空識別圏を設定すると、米国は識別圏の撤回を求めなかった。それどころか、翌月には訪中したバイデン副大統領が「米国と中国は世界でもっとも重要な二国間関係である」として「新しい形の(米中)大国関係」を呼びかけた。この「新型大国関係」という用語と発想は、もともと中国が提唱したものだ。中国に対する米国の宥和的姿勢が見え始めていたところへ、ロシアがクリミア半島に侵攻した。欧米は経済制裁をしたが、それ以上の手段は手詰まりになって、クリミアは実質的にプーチンの手中に落ちてしまった。これをみた中国が南シナ海で大胆な行動に出る。ベトナムの巡視船への体当たりである。米国は中国の行動を口で批判はしたが、それ以上、軍事はもとより効果的な経済制裁オプションをとる姿勢は見えない。そういう中で、今回のプーチンと習近平の首脳会談、そしてCICAでの習演説という流れである。私は5月18日放送の「たかじんのそこまで言って委員会」で「日本にとって悪夢のシナリオは中国とロシアが手を握ることだ」と話したばかりだ。だが、1週間も立たないうちに、悪夢が現実になって動き出している。予兆はあった。プーチンは3月18日の演説で、クリミア問題でロシアの立場に理解を示した中国に言及し「感謝している」と述べていた。中国はこれに呼応するように、同月27日の国連総会でクリミアの住民投票無効を指摘した総会決議を棄権した(4月4日公開コラム)。新疆ウィグル自治区の独立問題を抱える中国は、たしかにクリミア問題で微妙な立場にあるが、基本的には米欧と対立するロシアと連携しようとしているのは明白だ。中国はこれからロシアとの2国間関係を強め、CICAのような日米欧抜きのフォーラムも使って、自前のアジア秩序構築に全力を傾けるだろう。「新しい勢力図」を早く描こうとするのだ。