-
選挙の争点TPPの基礎知識「農水省発表の日本の食料自給率39%、実は70%である」
2012-11-21 14:151911月16日、野田佳彦首相が衆議解散を断行した。 この解散を「TPP解散」だという声もある。 TPPとは、環太平洋戦略的経済連携協定のこと。 アメリカをはじめとする、アジア太平洋地域の国ぐにが、高い水準の自由化を 目標にした多国間の経済連携協定のことである。 野田首相は、今回の解散を小泉純一郎元首相が断行した「郵政解散」に なぞらえたとも言われている。 野田首相の本心はどこにあるのか。 衆議院の解散をのばすと民主党の党内から野田降ろしが噴出する、まずそれを 恐れたのだろう。 さらに、TPP参加を打ち出して選挙に臨めば、TPP問題で党内意見が まとまらずにモタモタする自民党を圧倒できる、という目算もある。 だから、野田首相はTPP交渉参加を、民主党の公約にしようとしている。 僕は、TPPには当然、参加すべきだと思っている。 あくまでも協定の内容を決める「交渉への参加」にすぎないのだ。 だから賛成してもいいのではないか。 だが、アレルギー反応のようにTPP交渉参加に反対する議員は多い。 TPPは医療、サービス業も含めたさまざまな産業分野に関連するが、 その中でもとりわけ農業についての反対が強い。 加盟国間で関税障壁がなくなるため、海外から安い農産物が輸入され、 日本の農業が立ち行かなくなるというのが反対派の意見なのだ。 僕は、この考えはまったく逆だと考えている。日本の農業は決して弱くない。 農水省が、日本の農業を守らねばならないと主張する根拠は、日本の食料自給率が 低いということだ。 平成23年度の食料自給率は39%しかないと。 だが、この数字はゴマカシなのだ。 食料自給率39%というのは、カロリーベースの数値である。 生産額ベースで計算すると、66%と、ぐんとアップする。 ただし、これは震災後の低い数字で、震災前の平成22年度は70%にもなる。 70%という数字は諸外国と比べても高く、世界第5位だ。 日本は農業大国なのだ。 さらに言えば、そもそも日本以外の国で、カロリーベースの食料自給率を 採用している国はない。 では、なぜ日本はカロリーベースの数字で統計をとっているのか。 カロリーベースだと、高カロリーの農産物が多いと自給率の数字があがる。 小麦や油脂などがそうだが、それはほとんど輸入している。 一方、日本国内でほとんど生産している野菜などは、カロリーが低いので、 自給率の数値が上昇しない。 また、肉牛や鶏卵は、ほとんど日本で生産されている。 ところが、輸入飼料で生産されたものは「自給」とみなさないため、 これらも自給した畜産物として計算されないのである。 このように、日本の食料自給率は、「自給」の実態を見る指標としては 大いに疑問がある。 それなのに、なぜ農水省はカロリーベースの“低い”自給率をことさら 喧伝するのか。 僕は農水省の「省益」のためだと考えている。 農業に対する危機感をあおり、日本の農業を保護すべきだと主張することで、 農水省は職員の数を減らさず、農業関係の予算を守りたいのだ。 もうひとつ、TPP交渉参加に猛烈に反対するのが、農協である。 農協は「日本の農業が守れない」と主張している。 これも、とんでもない主張だ。 やる気のある農家にとって、TPPはむしろチャンスだと僕は思っているのだ。 時間と手間をかけ、丁寧に栽培された日本の農産物は、世界に通用する。 質が高く、味もよく、安全な農産物は日本産ブランドとして世界中で人気だ。 もしTPPに参加すれば、日本の農業は輸出産業となり、もっと伸びていく 可能性を充分に持っているのだ。 では、なぜ農協はTPPに反対するのか。 農協は、日本の農業を弱いままにしておきたいのではないか。 農家が小規模で弱いままなら、農協の会員数は減らない。 農協の影響力も維持できるのだ。 一方、やる気のある農家が世界に進出して成長すれば、経営も安定する。 そうすると、農協に頼る必要がなくなるから、農協の会員数が減ってしまう。 農協にとっては、許しがたい事態だ。 TPPは、日本の農業の将来がかかっているといっても、過言ではないのだ。 本気で取り組むのなら、そうとうの覚悟とエネルギーが必要なテーマである。 野田首相はこのことをどれほどの覚悟をもって言っているのだろうか。
1 / 1