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記事 48件
  • 夜ふけのなわとび 第1875回 林真理子「SNSしかしない人生って…」

    2025-01-30 05:00  
     日大の理事長にならなければ、ずっといい関係だったのに、と思う知り合いは何人かいる。
     人間ではないけれど、フジテレビがその最たるもの。もう憶えている人も少ないと思うが、デビューしてすぐの頃、私はフジテレビのキャンペーンキャラクターをしていた。
     時はあたかもフジテレビが黄金期を迎えようとしていた頃。
    「おもしろロマン」というキャッチフレーズで、いいとも青年隊と踊り歌っていた私。
     落ち着いて作家になってからは、十七年間番組審議委員をさせていただいた。いろいろなイベントに呼んでもらっていたし、社内に親しい人は何人かいる。自分でも「フジの準社員」として、ずっと視聴率やいろんなことを気にかけてきたつもり。
     それが理事長になってからは一変。大学や私個人への攻撃が始まったのである。不祥事に伴う一連の報道の後もそれは続き、その執拗さと歪曲ぶりは異様であった。 
  • 夜ふけのなわとび 第1874回 林真理子「正月の冒険」

    2025-01-23 05:00  
     暮れに、親しくさせてもらっている相撲部屋のお餅つきに行った。
     お相撲さんのついたお餅は、粘り気が強く本当においしい。アンコや納豆、キナコと三種類頬ばったうえ、大鍋のちゃんこ汁もいただき本当にお腹いっぱい。
     帰りにのし餅を二枚いただいた。
     帰ってそれを切りながら、しばし思い出にふける私。子どもの頃のお正月、どうしてあんなにたくさんのお餅を食べたんだろう。三ヶ日、家族が食べる数の切り餅をとりに行くのは私の役目であった。父親が六つ、母が四つ、私と弟が三つ。うちの中でいちばん寒い、階段下のダンボールの中、それをとって火鉢の網の上に置く。やがてぷっくりふくれていく切り餅は、今よりもはるかに大きかった。 
  • 夜ふけのなわとび 第1873回 林真理子「沖縄に行こう」

    2025-01-16 05:00  
     年の瀬も迫った頃、知り合いからこんなLINEが届いた。
    「ハヤシさん、お元気ですか。先日沖縄へ行きA子さんにいろいろなパワースポットに連れていっていただきました。とてもよかったです」
     あれ、と私。
    「A子さんご存知なの?」
    「ハヤシさんにご紹介いただきましたけど」
     いつも私はそうしたことを忘れてしまう。
    「本当にいろいろなことがあったのですが、A子さんと沖縄に救われたような思いです」
     それならばよかった。その知り合いは、とてもピュアで感じのいい女性である。世間的に大変な仕事をしている。彼女なら、A子さんもひと肌脱ごうという気持ちになったに違いない。 
  • 夜ふけのなわとび 第1872回 林真理子「銀座の不思議」

    2025-01-08 05:00  
     銀座にはしょっちゅう行っているが、範囲が限られている。
     日比谷近くのクリニックで、ビタミン注射をしてもらい血圧も計る。インフルエンザや帯状疱疹の予防接種もここでやってもらった。
     帰りは四丁目の交差点に背を向け、数寄屋橋公園の前を通る。そして銀座ファイブを抜け、帝国ホテル近くの階段から地下鉄日比谷駅に向かうのがいつものコース。
     銀座ファイブは、ちょっとあやし気、というと失礼か。あまり見かけないお店が並んでいて大好きなところだ。
     コインやブランド品だけでなく、ウイスキーを高値で買い取ってくれるところがある。
     そうかと思えば、
    「このお洋服、いったい誰が着るんでしょうか」
     と尋ねたくなるぐらい、キラキラの少女趣味のものを集めたお店も。近くの東京宝塚劇場に行く方々の趣味とも思えない。 
  • 夜ふけのなわとび 第1871回 林真理子「星に願いを」

    2024-12-26 05:00  
     沖縄の知り合いから車海老が送られてきた。オガクズの中でまだ元気に動いている。
    「ひえーっ」
     ライブは苦手である。しかし新鮮な車海老は食べたい。お手伝いさんに頼んでお刺身にしてもらった。
     秘書のセトにも三尾あげた。
    「新婚の食卓にどうぞ。海老フライにでもしたら」
     しかし彼女はその車海老を、水槽の中で飼い始めたという。
    「シャーロットと名前をつけました。見ていたらなんだか可愛くなって」
     変わってるーと思ったが、忙しさにまぎれてすっかりそのことを忘れてしまった。昨日、ふと思いだし、
    「シャーロット、どうした」 
  • 夜ふけのなわとび 第1870回 林真理子「朝食の幸せ」

    2024-12-19 05:00  
     このところの時間の過ぎる早さといったら、空怖ろしくなるほどである。
     もはや「十二月は逃げる」などといった、古風なやさしい表現など出来ない。
     あっという間に週末がきて、月曜日になるとまたすごいスピードで金曜日が訪れる。そして土日も、これまたスケジュールがいっぱいだ。家でゆっくりしたことなど、この半年なかった。
     そんなある日、
    「ハヤシさん、さぞかし忙しいことでしょう。息抜きに京都にいらっしゃいませんか」
     というお誘いをいただいた。
    「紅葉の頃にぜひ」
     といっても十一月の土日も、びっしり予定が入っている。空いているのは十二月七日と八日の週末だけ。
    「もうとっくに散っちゃってますよね」 
  • 夜ふけのなわとび 第1869回 林真理子「資生堂のポーチ」

    2024-12-12 05:00  
     知り合いの作家が言った。
    「ハヤシさんのエッセイで、文藝手帖が今回限りだということを知った。すごくショック」
     やはりあれは、文藝春秋から毎年送られてくるものだと思っていたらしい。
     今年すでになくなっていたものがあった。それは新潮社のカレンダーである。余白のある大きなカレンダーをとても重宝していたのであるが、もうそれも廃止することにしたそうである。
    「ずうっとあると思い込んでいたものが、突然なくなるって、すごく寂しいよね。それが手帳とかカレンダーだとしても」
     その作家も、そうそう、と頷いてくれた。
    「ハヤシさん、年賀状今年はどうしますか」 
  • 夜ふけのなわとび 第1868回 林真理子「アリダサイコー」

    2024-12-05 05:00  
     有田と書いて、アリダと読むということを初めて知った。
     和歌山県有田市のことである。ここで第二十回エンジン01文化戦略会議のオープンカレッジが開かれることになった。これまでの開催都市に比べてこぢんまりとした市で、人口は二万六千人だ。ここで一万数千人を動員するイベントを行なおうというのだから大変なことである。最初はなかなか講座の席も埋まらなかった。
     私など当日行っただけで何もしなかったのであるが、大会委員長の鎧塚俊彦さんはどんなにご苦労されたことだろう。
     大会委員長というのは、その大会を全部仕切る。 
  • 夜ふけのなわとび 第1867回 林真理子「谷川さんのこと」

    2024-11-28 05:00  
     谷川俊太郎さんが亡くなった。
     SNSというものによって、言葉は使い捨てになり、同時に人を傷つけるための小石やこん棒になった。
     その小石をいかに効果的に投げられるか、人が競い合ったアメリカ大統領選挙や、兵庫県知事選挙が終わった頃、谷川さんの訃報が伝えられたのだ。
     先週このページで、ずっとあると思っていたものが無くなるのは本当に寂しい、と書いたが、谷川さんはその最たるものであった。日本人なら詩集を開かなくても、教科書で多くの作品に出会っているはずだ。 
  • 夜ふけのなわとび 第1866回 林真理子「文藝手帖、お前もか」

    2024-11-21 05:00  
     今日はショックなことがあった。
     毎年十一月になると送られてきた、文藝春秋の「文藝手帖」。これが今年でなくなるそうだ。
    「戦前より発行してきた当手帖ですが、誠に勝手ながらこの二〇二五年版をもちまして、発行を終了することとなりました。
     長年にわたり、日々の供としてご愛用くださりまことにありがとうございました」
     そう書かれた紙がはさまっていた。本当に長年愛用してきたのに……。最近はスマホのタイムツリーと併用していたが、あちらは老眼の目につらい。
    「やっぱり文藝手帖だわ」