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記事 72件
  • 長谷川幸洋コラム【第60回】日中首脳会談が実現しそうな習近平の5つの事情

    2014-08-26 20:00  
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    日本と事を構えている場合ではない?〔PHOTO〕gettyimages
    中国・北京で11月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて、途絶えたままになっている日中首脳会談が開かれそうな気運が出てきた。ポイントは中国を取り巻く内外情勢の変化だ。はたして、安倍晋三首相と習近平国家主席の会談は実現するのか。7月下旬に訪中した福田康夫元首相が習氏と極秘に会談し、膠着状態に陥っている日中関係を前進させるために首脳会談をもちかけたのは、各紙が報じたとおりだ。そのうえで、産経新聞は習氏が「現在の日中関係を打開しなければならないとの考えを伝えた」と中国側の前向き姿勢を報じている(8月7日付)。中国はこれまで、尖閣諸島の領有権をめぐって争いがあることを認めない限り、日中首脳会談に応じない姿勢を示してきた。頑なな姿勢に変化が出てきた背景として次の5点を指摘できるだろう。
    南シナ海では中国は守勢に回る
    まず南シナ海である。中国の巡視船は5月以来、西沙諸島でベトナムの船に体当たりや放水を繰り返して緊張を高めていた(http://ch.nicovideo.jp/gendai/blomaga/ar532420、を参照)。それは石油探査作業をベトナムに邪魔させないためだった。現場はベトナムの排他的経済水域(EEZ)の中だったが、中国は「自国の水域」と主張して深海探査リグを稼働させていた。これに対して、ベトナムのグエン・フー・チョン総書記は「戦争に突入したらどうするか、と多くの人に聞かれる。われわれはすべての可能性を想定して準備をしなければならない」と語り、いざとなったら戦争も辞さない強硬姿勢を示した。米国も対中姿勢を修正した。昨年6月の米中首脳会談では中国が提唱する「新型大国関係」に理解を示していたが、7月に北京で開かれた米中戦略・経済対話では、ケリー国務長官が「大国」の2文字を削除して語り、オバマ大統領も「新しい型とは意見の違いを建設的にコントロールすることだ」という声明を出している。すると中国は7月15日に突如として石油探査の中止を発表し、探査リグを現場から撤収した。それまでの強硬姿勢からみれば、大きな方針転換だ。タイミングからみて、ベトナムの抵抗と米国の圧力が功を奏した形である。南シナ海で中国はあきらかに守勢に立たされている。 
  • 長谷川幸洋コラム第59回 「圏子(チェンツ)」の概念で読み解く、前政治局常務委員・周永康の摘発事件

    2014-08-07 20:00  
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    「重大な規律違反」で摘発された周永康・前政治局常務委員 〔PHOTO〕gettyimages
    中国の最高指導部メンバーだった周永康・前政治局常務委員が「重大な規律違反」に問われて摘発された。汚職で築いた資産は1兆5000億円
    新聞紙面には習近平指導部による「反腐敗」闘争といった文字が踊っているが、それを真に受けて「清廉潔白な権力者が腐敗勢力の退治に乗り出した」などと理解すると、本質を見誤ってしまう。そもそも中国に「法による統治」があるのか。まず簡単に事態を整理する。今回の事件に先立って、2013年3月に四川省の企業グループ「四川漢龍集団」のトップだった劉漢が逮捕された。この男は文字通りマフィアの親分だ。商売敵を何人も殺してのし上がり、約400億元(約6,700億円)の資産を築いていた。劉には死刑判決が下っている。劉の後ろ盾になっていたのが、今回摘発された周永康である。だから、劉漢逮捕のころから「やがて周永康も摘発される」という見方が広がっていた。周永康が汚職で築いた資産は900億元(約1兆5,000億円)という、気が遠くなるような額だ。周の摘発とともに約300人もの一族郎党が拘束された、と報じられている。劉漢や周の親族らも摘発された、という点は後で述べるように重要だ。一方、偶然だろうが事件と時を同じくして、新疆ウイグル自治区のカシュガル地区ヤルカンド県で数百人から千人規模の騒乱が起きた。死傷者は100人にも上る、といわれている。警察当局は「組織的で計画的なテロ」としているが、一部には「前夜、警察に子どもや老人など一家が殺される事件があり、それに反発した騒乱」という説もある。真相は不明だ。新疆ウイグル自治区では、これまでテロや騒乱事件が多発している。昨年10月には北京の天安門広場でも暴走車両が歩行者をはねて突入、炎上する自爆事件が起きた。ウイグル人の間では、習指導部に対する不満が鬱積している。ウイグルだけではない。中国当局は各地で農地の強制収容を繰り返し、それに抗議する農民たちが役所や請願所の前で座り込みする姿が何度も報じられている。
    中国は海でも空でも法やルールを無視
    一方、国内から国外に目を転じれば、中国は他国を相手に国際ルールを無視した行為を繰り返している。南シナ海では、1992年に独自の領海法を制定して「九段線」と呼ばれる線の内側を「中国の領海」と主張している。これは南シナ海のほぼ9割を占める。中国にとって、周辺の「公海」はなきも同然だ。中国も調印している国際海洋法条約では、沿岸から200海里(約370キロ)は排他的経済水域(EEZ)とされ、領海(12海里)とは異なり、自由な航行を認められている。ところが、中国の海軍艦船は昨年9月、EEZ内で偵察行動をしていた米ミサイル巡洋艦、カウペンスにあわや衝突寸前の事件を引き起こした。EEZを領海同様にみなしているのだ。そうかと思えば、中国はことし5月、ベトナムのEEZ内で石油掘削リグを稼働させ、掘削活動を妨害させないために、巡視船がベトナムの船に体当たりや放水を繰り返した。一方では「自国のEEZは自国の領海」であるかのようにふるまいながら、他方で「他国のEEZで自国の行動は制限されない」というのだ。まったく自分勝手というほかない。海だけでなく空も同じである。中国は昨年11月に突然、防空識別圏(ADIZ)を設定した。ADIZは領空とは異なり、あくまで事前通報がない航空機に対して領空を侵犯する可能性を警告するための空域だ。ところが、中国はADIZの設定に際して、国防省の指示に従わない場合「武力で防御的な緊急措置をとる」と表明している。つまり「いざとなったら撃墜するぞ」と脅したのだ。これもADIZに関する国際ルール無視である。こうしてみると、中国は国内でも国外でも、根本的な政治姿勢として「法やルールに基づく統治」を目指しているとは言えない。逆に、法を無視したふるまいを繰り返し、そうした行動を反省したり改める気配はない。 
  • 長谷川幸洋コラム第58回 「中国期限切れ鶏肉問題」マックやファミマが「だまされた」では済まない 3つのポイント

    2014-07-31 20:00  
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    中国製のとんでもない鶏肉を使っていたマックとファミマ  photo Getty Images
    中国の期限切れ鶏肉輸入問題が波紋を広げている。日本マクドナルドとファミリーマートは問題の「上海福喜食品」から輸入した鶏肉関連食品の販売を停止したが、ファミマの社長は「中国だから輸入しないということはない。信頼できるパートナーを見つける努力をする」と語っている。それで信頼を取り戻せるのだろうか。「米国系中国現地法人」の「会社ぐるみ」の犯行
    今回の問題はポイントが3つある。まず、輸入していたのがマクドナルドとファミマという、だれもが知っている業界の大手だった。それから問題を起こした上海福喜食品は米国の食肉大手OSIグループの中国現地法人だった。最後が、期限切れの鶏肉を混ぜたのは取り扱いの誤りとか個人の仕業ではなく、会社ぐるみだった、という点である。問題の「チキンナゲット」や「ガーリックナゲット」を売っていたのがマクドナルドやファミマだったからには当然、両社は取引を始める前に上海福喜食品の現地工場をはじめ、それなりに安全管理体制をチェックしていたはずだ(それは後で紹介する輸入食品の安全に関わる指針で義務付けられている)。実際、マクドナルドの関係者が工場に立ち入り調査している映像が報じられ、米マクドナルドの最高経営責任者(CEO)は「我々が少しだまされた」と語っている。だが、結果的に不正行為を見抜けなかった。米国企業の現地法人だったにもかかわらず、床に落ちた肉を拾って加工するような信じられない行為が起きていたのは、会社のガバナンス(統治)やコンプライアンス(法令遵守)がまったく機能していなかったことを物語っている。親会社が米国企業だからといって安全とは言い切れないのだ。最後の会社ぐるみというのも深刻な事態だ。2008年1月に起きた毒入りギョーザ事件は個人の犯行だった。今回の事件はまったく異なる。従業員の証言からあきらかなように、この会社は「経営方針」として期限切れ鶏肉を使用したり、カビで青く腐った牛肉を使っていたのだ。つまり、不正が摘発され制裁を受けるリスクと、不正による利益増大を天秤にかけて判断した結果、リスクに目をつぶって目先の利益を追い求めた、という話である。それが合理的な判断だった以上、単に「モラルの腐敗」を責めてみても問題は解決しない。 
  • 長谷川幸洋コラム第57回 原発再稼働は止めたほうがよい

    2014-07-24 20:00  
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    原子力規制委の決定を受けて国会周辺で「川内原発再稼働反対」の声が飛び交った〔PHOTO〕gettyimages
    原子力規制委員会が九州電力の川内原発1、2号機(鹿児島県)について「新たな規制基準を満たしている」と認めた。これで再稼働に向けた前提条件が整った形になり、安倍晋三政権は秋以降にも再稼働させる見通しだ。この問題をどう考えるか。「再稼働決定」に関する新聞報道は隔靴掻痒である
    各紙の報道をみると、脱原発派の朝日新聞は「責任あいまいなまま」「避難計画 審査の対象外」との見出しで批判的に報じ、同じく東京新聞も「『厳格審査』に穴」があるとして「作業員拠点、ベント、第2制御室」の3つが「未完成」と見出しで問題点を指摘した。一方、原発賛成派の読売新聞は「秋に再稼働 準備本格化」「安全『世界最高レベル』規制委委員長」と安全性を強調し、産経新聞も「川内原発 秋にも再稼働」「規制委 安全新基準に『合格』」と旗を振っている(いずれも7月17日付朝刊1面)。私は原発を止めたほうがいいと思っている。だから朝日や東京にシンパシーを抱くが、それでも報道ぶりには隔靴掻痒の感を拭えなかった。集団的自衛権の問題でも指摘したが(6月27日付け公開コラム)、今回も記事は基本的に原子力規制委が展開した議論の枠組みにとらわれていて、原発がもつ本質的な恐ろしさや矛盾に迫っていなかったように感じるのだ。こう書くと、朝日も東京も「いや、たとえば規制委が視野に入れていない住民避難の問題だって、ちゃんと指摘している」と反論するだろう。それはその通りだ。万が一の場合、住民をどう避難させるかが重要課題だが、規制委は「それは自分たちの仕事ではない」といって手を付けていない。政府はどうかといえば、政府もそれは「自治体の仕事」といって知らん顔している。だから、そういう抜け落ちた問題を指摘するのは、大事なマスコミの仕事である。それでも、あえて言おう。では、住民避難の問題がクリアできれば、原発再稼働を認めるのか。私は「そうではない」と考える。
    大飯原発運転差し止めの福井地裁判決こそ原発問題の核心
    原発の根本的な矛盾や恐ろしさは、住民避難の難しさのような派生的ポイントにあるのではない。もっと別な次元だ。それはつい2ヵ月前、福井地裁で下された福井県の大飯原発運転差し止め請求事件判決によく述べられている。・判決文の読みやすい要旨 http://www.news-pj.net/diary/1001・判決文原本の前半部分 http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/e3ebefe20517ee37fc0628ed32be1df5.pdf・判決文原本の後半部分 http://www.cnic.jp/wp/wp-content/uploads/2014/05/8d7265da36628587548e25d7db234b7d.pdfこの判決について、新聞は大々的に報じていたはずだ。だが今回は朝日と東京が社説でごく短く触れたくらいで、報道記事ではほとんど紹介されなかった。今回はニュースの焦点が規制委の判断にあったから、2ヵ月前の地裁判決に触れる必要はない、と考えたかもしれない。それは記者の習い性のようなものだ。とにかく一番新しい出来事にワーッと集中して報じてしまうのである。だが、読者のほうは2ヵ月前であっても、再稼働に関わる物事の本質を知りたいと思っているのではないか。少なくとも一読者である、私はそうだ。そこで、あらためて福井判決の中身を紹介したい。判決は本文だけで68ページ、加えて参考の別紙が付いている。私は2ヵ月前は新聞記事を読んだだけで、判決文までは目を通していなかった。今回、全文をあらためて読んでみて、頭の中がスッキリした。あれこれ論評するより、とにかく現物を読んでいただくのが手っ取り早いだろう。ここに原発問題の核心がある。以下はごく短い要約にすぎないが、関心がある読者はぜひ、上に挙げた判決本文を読んでいただきたい。これさえ読めば、あとは何も読む必要がない、と思えるほど核心を突いた判決である。 
  • 長谷川幸洋コラム第56回 現実主義の安倍政権に置いていかれるマスコミの「思考停止」

    2014-07-18 20:00  
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    安倍晋三政権が集団的自衛権の憲法解釈見直しに伴う自衛隊法など関連法の改正審議を来年の通常国会に先送りした。当初は改正内容が整った法案から随時、今秋の臨時国会に提出して審議を仰ぐ予定だった。ここへ来て、先送りしたのはなぜか。改正が必要な法案はぜんぶで15本以上ある、といわれている。まず、これらの改正案づくりが大変な作業で時間がかかる、という事情はあるだろう。安倍首相は日本経済新聞との会見で「全体を一括して進めたい。少し時間がかかるかもしれない」と説明している。中身は相互に密接にかかわっているので、法案を1本ずつ審議するより、まとめて審議したほうが効率的で議論の密度も濃くなるのはたしかだ。だが、本音は「ここで一息入れて、じっくり国民の理解が熟成するのを待つ」という政治判断ではないか。解釈変更を閣議決定してから、マスコミ各社の世論調査では内閣支持率が急落した。たとえば解釈変更を支持している読売新聞(7月2~3日)でも、支持率は57%から9ポイント下落し、48%と初めて5割を切った。肝心なのは閣議決定ではない
    安倍政権は解釈変更を急ぐ理由を「12月に米国との防衛協力指針(ガイドライン)の改定作業が控えているので、それに間に合わせる必要がある」と説明していた。だが、専門家によれば「ガイドライン見直しに間に合えば、それに越したことはないが(日本の政策方針変更と法整備の方向について米国が確信できれば)すべての法案が見直しまでに成立している必要は必ずしもない」そうだ(森本敏『日米同盟強化のための法整備を急げ』「Voice」8月号)。森本によれば、現行ガイドラインも策定後に「おおよそ3年ほどかかって一連の有事法制を整備していった。ガイドラインの前に1本の法律も成立していなかったのである」という。そうだとすれば、ガイドライン見直しの話は、公明党の妥協を促す方便の1つだった、ということになりかねない。このあたりはプロ同士は分かっていたのだろうが、報じるマスコミ側を含めて、政府の話はあまり鵜呑みにしないほうがいい、という例の1つではある。それはともかく、あれほど大騒ぎした解釈見直しを受けて、肝心の法改正は先送りとなると、これをどう受け止めるべきか。まず強調しなければならないのは「肝心なのは最初から法改正であって、閣議決定ではない」という点だ。閣議決定は所詮、政府内の話である。それで物事が決まるわけではない。日本は法治国家であり、実際の政策はあくまで法律に基づくのだから、法改正されなければ、何一つ事態は変わらない。極端に言えば、政府がいくら閣議決定しようと、国会で関連法案を否決されてしまえばそれまでだ。そこを、大々的に反対論を展開したマスコミは勘違いしているのではないか。国会は衆参両院とも与党多数なので、国会で関連法案が可決成立する見通しはたしかにある。だが、たとえばその前に衆院解散・総選挙があって与党が敗北したり、あるいは与党の中から採決で造反が起きて可決できなければ、何も起きない(もっと言えば、法案が可決成立したとしても、その後に政権交代が起きて、見直しに反対する勢力が法律を元に戻してしまえば同じである)。安倍政権はだから当たり前の話だが、法改正こそが主戦場とみていた。「閣議決定は政府の仕事だから、本格的な国会審議は法改正のときに」と説明していたのは、そういう事情である。そう考えると、そんな大事な法改正を先送りしたのは、別に本質的な理由がある。私は「安倍政権が現実主義を身に付けてきた証拠」とみる。 

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  • 長谷川幸洋コラム第55回 拉致被害者の生存情報を得た!? 安倍政権が北朝鮮に関する制裁の一部を解除!

    2014-07-09 20:00  
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    北朝鮮への制裁を通して二人のキズナは生まれた 〔PHOTO〕gettyimages
    安倍晋三政権が北朝鮮に対する制裁の一部解除を決めた。北朝鮮が設置する日本人拉致被害者に関する特別調査委員会の実効性について、前向きに評価したためだ。今回の調査委は国防委員会や国家安全保衛部など金正恩第一書記に直結する組織が主導する形になっている。拉致問題はいよいよ動き出すのだろうか。いま困っているのは北朝鮮
    救う会(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)や家族会(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)、あるいは国会議員らの拉致議連(北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟)など関係者の間には「(救出の前に制裁を解除するのは)順序がおかしいのではないか」(平沼赳夫拉致議連会長)といった声もあった(たとえば「日朝合意『再調査』ーこんな問題が起きないか緊急国民集会」報告、http://www.sukuukai.jp/mailnews/item_4154.html)。そういう思いがあるのは理解できる。だが、いまは日本の中で内輪もめしている場合ではない。安倍首相と菅義偉官房長官、古屋圭司拉致問題担当相の3人は拉致問題で一貫して北朝鮮に毅然とした姿勢を貫いてきた。家族会からも信頼を得ている。自民党内も「あの3人がトップだから心強い」という雰囲気だ。たとえば、2004年に成立した「特定船舶の入港禁止に関する特別措置法」がある。これは、日本独自の制裁措置として万景峰号の国内入港を禁止した法律である。当時、自民党内に強かった慎重論を説き伏せて議員立法で成立させたのは、菅や山本一太、河野太郎の衆院議員(当時)たちだった。菅は自分のブログで「自ら取りまとめ、これまで効力を発揮してきた制裁の解除を、官房長官として発表したことは、大変感慨深いものがあります」と書いている(http://ameblo.jp/suga-yoshihide/entry-11867145205.html)。そして、この立法を後押ししたのが当時、内閣官房副長官だった安倍だ。菅が安倍を信頼し、また安倍も菅を信頼するようになったのは、このときの経緯がきっかけである。北朝鮮に対する制裁こそが、現在に至る2人の盟友関係を築く出発点なのだ。その2人がいま自ら「制裁の一部を解除する」というなら、判断を信頼する以外にない。そう評価したうえで、いくつか拉致問題を考える基本ポイントを指摘しておきたい。もっとも重要なのは「いま困っているのは北朝鮮だ」という点である。ここを間違えて「日本がお願いして生存者を返してもらう交渉」と理解すると、評価と対応を誤ってしまう。それは過去の経緯からもあきらかである。ソ連に見捨てられて金丸訪朝団を受け入れ
    たとえば1990年9月、自民党の元副総裁だった金丸信が社会党の田辺誠副委員長(当時)らと北朝鮮を訪問した。金丸訪朝団は拉致問題をまったく提起しなかった。それどころか、後に東京佐川急便事件で金丸の自宅が家宅捜索されたときには「北朝鮮からのお土産ではないか」と疑われた刻印なしの金の延べ棒が発見されたりした。実態は国交正常化後の経済協力をあてにした「利権外交」だった。金丸の意図はともかく、北がなぜ訪朝団を受け入れたか。それは1989年に冷戦が終了し、北への圧力が強まったからだ。冷戦が終わると、すぐルーマニアで反乱が起きてチャウシェスク大統領夫妻が処刑された。90年に入ると、当時のゴルバチョフ・ソ連大統領が北朝鮮の宿敵である韓国との国交正常化に合意した。そんな中で北朝鮮の金日成主席は「ソ連に見捨てられ、次は我が身か」と心配し、金丸訪朝団を受け入れた。窮地からの出口を日本に求め、関係改善を図るためだった。 
  • 長谷川幸洋コラム第54回 日本が朝鮮半島有事で引き受けなければならない役割について

    2014-07-03 20:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    集団的自衛権の行使容認をめざす憲法解釈の変更について、自民党と公明党が合意する見通しだ。与党協議の最終盤で、国連決議に基づく機雷除去など「集団安全保障」に基づく活動も容認するかどうか、が焦点になった。今回はこの問題を考えてみる。日本の安全保障体制と米軍基地
    私は5月2日公開コラム(http://ch.nicovideo.jp/gendai/blomaga/ar525582)で、日本が朝鮮半島有事でも米国に基地の使用を認める姿勢を示したときから、実質的に集団的自衛権の行使を容認してきた点を指摘した。おさらいすると、こういうことだ。日米安保条約(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html)は第6条で、日本だけでなく極東(具体的には韓国と台湾、フィリピン)の防衛にもコミットしている。そのうえで1969年、当時の佐藤栄作首相は朝鮮半島有事の際「日本は(米軍の基地使用について)前向きに、かつすみやかに態度を決定する」と米国のナショナル・プレスクラブで演説した。米国は日本の基地を使って戦闘行動に入るとき、日本と事前協議する。だが、それは「建前上の儀式」のようなもので、事実上は「使用を認める」と表明した。米国にとって日本の基地は極東防衛に死活的に重要であり、日本が認めないなら、沖縄は返ってこなかっただろう。したがって北朝鮮が韓国を攻撃すれば、日本は自分が攻撃されていなくても、韓国防衛に出動する米軍に基地提供という形で武器、弾薬、兵力の補給を支援する。これは、本質的に日本の集団的自衛権の行使になる。米軍と一体になって武力行使をするのと基地提供ではレベルの違いはあるが、北朝鮮からみれば、日本と米国は一体である。このコラムを公開した後で、私は安倍晋三政権で要職にある現役官僚を含む複数の外務省・日米安全保障条約課長経験者と意見交換した。私が上記のような認識を述べると、彼らは異口同音に「まったくその通りです」と賛同した。政府はもちろん、私のような考えを表立って表明することはない。そんなことを言い出せば、せっかく苦労して公明党の賛同をとりつけようとしている努力が水の泡になりかねないからだ。それは「政治の現場」の事情である。私には政治的事情など関係ない。ただのジャーナリストが自分の判断を書くのは、大事な仕事だと思っている。それが真実であり、政権の人間が政治的事情で言えないのであれば、なおさらだ。政府が言えない真実をジャーナリストが言わなければ、だれが言うのか。残念ながら、日本のマスコミは毎日のように集団的自衛権の問題を報じていながら、日本の安全保障体制と米軍基地という核心の問題に迫っていない。賛成派も反対派も15事例のような安全保障の根幹から見れば枝葉末節の問題をあれこれと書き飛ばし、最終盤にきて与党が15事例をすっ飛ばして閣議決定する段になると、今度は閣議決定の細かい文言をあれこれと書きつらねている。そうかと思うと「15事例の話はどこに行ったのか」などと批判する向きもある。どこに行ったのか、ではない。そんな話は最初から、ただのたとえ話だ。実際に戦闘になれば、15どころか戦闘のケースは数百も数千もあるだろう。そんな空想のシナリオが真の問題なのではなく、日本が朝鮮半島有事にどう立ち向かうのか、あるいは向かわないのかという問題が核心である。そこを議論しようとすれば、日米同盟と基地の問題に目を向けざるをえない。それを避けているから、議論が枝葉末節の話になってしまう。結局のところ、マスコミは安倍政権が持ちだした問題設定の枠組みから一歩も外に踏み出せないのだ。「政権が言わない話は書けない」マスコミの情けなさを少しは反省したらどうか。政権が言った話しか書けないなら、ジャーナリズムの自立など望むべくもない。そういうマスコミに限って、なにかといえば「報道の自由」とか「取材の自由」を持ち出すのだ。ちゃんちゃらおかしい。自由を放棄しているのは、自分たち自身ではないか。 
  • 長谷川幸洋コラム第53回 北朝鮮に拉致再調査を合意させた深刻な懐事情

    2014-06-26 20:00  
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    横田めぐみさん(左:平壌で撮られた20歳時の写真、右:拉致された13歳当時の写真)
    〔PHOTO〕gettyimages
    日本人拉致被害者をめぐって日本と北朝鮮が全面再調査で合意してから3週間が過ぎた。菅義偉官房長官は5月29日の記者会見で「3週間程度で再調査を開始する」と見通しを述べていたので、そろそろ事態が動き出すタイミングだ。はたして拉致被害者は帰ってくるのか。後ろ盾を失い、カネとエネルギーで兵糧攻めに
    まず北朝鮮はなぜ、このタイミングで動いたのか。2013年5月10日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35752)で紹介した米国の国防総省報告書が指摘したように、北朝鮮の後ろ盾になっていたのは、長らくロシアと中国だった。北朝鮮は自分たちが乱暴狼藉を働いても限界を超えなければ、中国とロシアが支持してくれるはずだから大丈夫、と思っていた。ところが、ロシアがまず離れ始めた。その点を、ことし2月に出た最新版の国防総省報告書(http://www.defense.gov/pubs/North_Korea_Military_Power_Report_2013-2014.pdf)はこう指摘している。「北朝鮮はロシアとも友好的な関係を有しているが、それは中国との関係に比べれば停滞している。(中略)ロシアから北朝鮮を経由して韓国に通じる天然ガス・パイプラインの建設計画は毎年、トランジット手数料として数百万ドルを北朝鮮にもたらすはずだったが近年、ほとんど具体的な進展がない」ロシアはクリミア侵攻によって世界に衝撃を与えたが、少なくとも、その直前までは日本との関係を改善していた。2013年4月のプーチン大統領と安倍晋三首相による首脳会談では、北朝鮮の核保有を認めないことで一致したのに加えて、拉致問題についてもロシアの理解をとりつけている。最大の支援国であったはずの中国はどうかといえば、ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮に業を煮やして昨年5月、北朝鮮の外貨口座を凍結する金融制裁に乗り出した。金正恩総書記が中国とのパイプ役になっていた張成沢国防委員会副委員長を処刑した後、中国はことし1月から4月まで4ヵ月連続で北朝鮮向け原油輸出をストップしている。カネとエネルギーで兵糧攻めに出ているのだ。先の最新版国防総省報告書は中国について、こう指摘している。「北朝鮮は中国が核実験と高圧的行動を支持していないことを承知しているが、それでも中国は地域の安定維持に主眼を置いて、北朝鮮を厳しく罰したり外交・経済関係を遮断することまではしないだろう、とみているようだ」実際には、この報告書が出た後、北への原油供給が止まってしまった。中国の北朝鮮に対する怒りは相当、深刻とみていい。米国はといえば、北朝鮮を相手にせず、融和的な態度をみせていない。隣の韓国はどうか。反日共闘戦線を築く思惑もあってだろう、中国に接近し、中国もまた擦り寄ってくる韓国を可愛く思っているに違いない。習近平国家主席が7月3日に訪韓し、朴槿恵大統領と首脳会談を開くことがあきらかになった。東アジアにおける以上のような展開の中で、北朝鮮が今回、拉致再調査に同意したのは八方塞がりの出口を日本に求めた結果である。最近、話を聞いた政府高官も「北はとにかくカネがない。日本からの送金を可能にするために再調査に応じたのだ」と語った。今回の日朝合意(http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201405/__icsFiles/afieldfile/2014/05/30/140529nicchou.pdf)は北朝鮮が特別調査委員会を立ちあげた段階で「人的往来の規制措置、送金報告及び携帯輸出届出の金額に関して北朝鮮に対して講じている特別な規制措置、及び人道目的の北朝鮮船籍の船舶の日本への入港禁止措置を解除することとした」と記している。北朝鮮にはこれによって、多少なりともカネが入ってくる。北朝鮮に行く在日朝鮮人が手持ちで現金を持ってきてくれれば、一息つけるのだ。 
  • 長谷川幸洋コラム第52回 集団的自衛権の見直し問題が触媒となる「与野党再編論」の現実

    2014-06-12 20:00  
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    〔PHOTO〕gettyimages
    ようやく野党再編の動きが出てきた。みんなの党と日本維新の会の分裂が引き金になったが、政策的には集団的自衛権の行使容認や憲法改正問題への対応が背景にある。日米同盟を基礎に国の安全保障体制を整えながら、与野党ともに深入りを避けてきた問題が再編を後押している形だ。この流れは今後、さらに加速する可能性がある。集団的自衛権の行使容認について与党が閣議決定すれば、早ければ今秋の臨時国会以降、遅くとも来年の通常国会から自衛隊法をはじめ具体的な関連法の修正作業が始まるからだ。そのとき野党はあいまいな態度ではいられない。国会で関連法の改正案に賛成するか反対するか、選択を迫られる。憲法解釈の見直しは政府の問題にすぎないが、法律の改正となれば国会の仕事であり、まさしく野党の存在意義がかかっているのだ。参院の議席数がどうなるか
    鍵を握るのは、民主党である。民主党は減ったとはいえ衆院で衆院56、参院59の計115人の議員を擁する野党第1党である。自民、公明の巨大与党に対抗するには、維新やみんな、結いの党といった野党が結集するだけでは、あまりに非力なのは言うまでもない。民主党が大分裂し野党再編に合流するか、それとも独自路線を歩むかどうかで情勢はまったく違ってくる。民主党は集団的自衛権の見直しについて事実上、分裂した状態だが、いつまでも中途半端ではいられない。具体的な法案審議が始まるであろう来年にかけて、事態は大きく動くのではないか。まず、足元の動きを確認する。分党する日本維新の会は橋下徹、石原慎太郎共同代表がそれぞれ結成する新党の勢力が6月5日、決まった。橋下側が37人、石原側が23人で、残る2人が無所属で活動するという。橋下側は江田憲司代表が率いる結いの党(14人)と夏に合流し、この「橋下・江田新党」はいまのところ総勢51人になる見通しだ。加えて、橋下側も石原側もみんなの党(22人)に働きかけを強めている。最近、私が会った安倍政権幹部は野党再編について「参院がどうなるかですよね」と言った。自民党は参院で115議席を確保しているにすぎず、議長を除くと過半数の121に7議席足りない。万が一、公明党が集団的自衛権をめぐって連立を離脱するような事態になった場合、だれが不足分を補うかが安倍政権の生命線になるのだ。 
  • 長谷川幸洋コラム第51回 北朝鮮の拉致問題再調査で浮上する安倍首相の「サプライズ解散」説

    2014-06-05 20:00  
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    集団的自衛権の行使容認をめぐる国会論議が本格化している。政府は与党協議に際して15の事例を提示したが、国会ではそれらの事例について安倍晋三首相が具体的に地域や対象について説明を加えた。一方、北朝鮮の拉致問題について北朝鮮が全面的な再調査を約束し、それを受けて日本政府も制裁措置の一部解除を約束するという進展もあった。これをどう考えるか。まず、集団的自衛権の具体的事例を細かく掘り下げていけば、想定している事態が明確になる一方、結果的にカウントの仕方次第で事例の数が増えていくのは自明である。集団的自衛権行使に反対する新聞はそこを突いて「集団的自衛権もう拡大」(東京新聞)とか「首相、答弁で事例増殖」(毎日新聞)、「自衛隊派遣、中東も想定」(朝日新聞、いずれも5月29日付朝刊一面)と批判した。 これは十分に予想された展開である。なぜなら、集団的自衛権を行使するような事態は戦争に突入しているか、一歩手前の緊張状態だろう。そうであれば、敵がどういう手を打ってくるか、完全には予想できない。15どころか100も200も事例が増えたっておかしくはないのだ。「ポジティブリスト」は公明党対策
    本来なら、緊迫した事態で自衛隊が「何をしてはいけないか」を定める「ネガティブリスト」を決めるのが理想である。それは軍隊を規律付ける国際標準でもある。政府もそれは十分、分かっているが、それでは公明党が納得しない。そこで政府は集団的自衛権の議論を始めるに際して、最初に「何をするのであればOK」と言える「ポジティブリスト」を作る作業を選んだのだ。ポジティブリスト方式でいくと決めた時点で「細部を詰めていけば、いくらでも枝分かれして事例は増殖していく」のは承知の上だった。だから政府は当面、事例増殖の批判は覚悟のうえで論戦に応じるだろう。私自身がどう考えるかといえば、5月8日公開コラムで書いたように「日米安保条約で極東(韓国、台湾、フィリピン)防衛に米軍が日本の基地を使うのを認めた時点で、集団的自衛権の行使は容認されている」という立場なので、日本海で自衛隊の艦船が米艦の防護に動こうと動くまいと本質は変わらない、と考える。事例を枝分かれさせて、いくら細部を突いてみても、そもそも朝鮮半島有事で米軍は日本の基地から出撃するのだから、それはナンセンスな議論ではないか。反対派が「日本は絶対に戦争に巻き込まれたくない、他国の戦争に関わり合いたくない」というなら、極東有事で米軍の基地使用を認めないという話になる。それなら日本海の話ではなく、安保改定を主張すべきだ。ペルシャ湾の機雷除去について言えば、どこかの国(たとえばイラン)が機雷を敷設すれば武力行使に当たる。その機雷を日本が除去するのも武力行使になるから「戦争に巻き込まれるじゃないか」という議論がある。それは「日本が巻き込まれた」のか。そうではなくて「日本の生命線が狙われた」という話ではないか。そういう事態に対する必要最小限の準備として、国際社会の合意の下で、他国とともに機雷を除去する「選択肢」を持っておくのはおかしくない。これは「選択肢」であって、必ず除去するという「政策決定」ではない点にも注意が必要だ。実際に除去するかどうかは、現実の情勢を見極めて、政府が国会の承認を得たうえで決定する段取りになる。判断が間違っていれば、政府は国民の批判を浴びて、政権が倒れる場合だってある。それが歯止めだ。私は政策判断として戦闘中に自衛隊が出動しない場合もあると思う。それは、ときの政府と国会次第である。 

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