長年ニューヨークで暮らしている岡田光世さんが現地で偶然めぐり会った人々とのふれあいを描く「ニューヨークの魔法」シリーズ。つめたい大都会というこの街のイメージを溶かし去る、ほっこりした人情派エッセイ群です。
ユーモアたっぷりNY流コミュニケーション術
特に2017年12月出版の『ニューヨークの魔法のかかり方』(文春文庫)は「こう話せば相手との関係をあたためられる」というスキルも伝授してくれる一冊。常にユーモアを忘れず、笑顔と言葉を交わし合うNYの流儀に魅了されて、自分にも使えそうなコミュニケーション術をさがしてみました。
ほめ言葉は「それ、好き! 」
岡田さんを喜ばせたニューヨーカーのほめ言葉は「それ、好き! 」。いままで私は相手をほめる際「いいね」「さすが」「すごい」「うまいね」など、相手を評価するようなフレーズをならべてばかりで、「で、どう思ったのか」を表すことを惜しんでいたような気がします。すぐれているかどうかジャッジするより、好きだから声をかける。評価ではなく愛を伝えたほうが、心がつながる会話になると気づきました。
他人同士でもほほえみ合う見知らぬ人同士でも、目が合ったらどちらからともなくほほえみ合うのがニューヨーカー。日本では気まずさを避けるために目を合わせまいとする人が多いのですが、パッと顔をそむけるからもっと微妙な空気に......。真顔のままだから違和感があるのでしょう。偶然目が合ったその瞬間に目や口もとをやさしくゆるめるやり方を身につけると、ぐっと感じよくふるまえそう。
親切はさらっと軽く
この本でおどろいたのが、電車内で席をゆずりたがるニューヨーカーの多さ。ゆずるために疲れている人をさがしているのではないかというほど。「いいこと」だから人にやさしくするのではなく、好んでそうしているような軽やかさだから、嫌味のない行動に映ります。東京の電車でそのまま真似するのはむずかしい。ただ、親切ってこんな風にさらっとできると粋だなと感じます。
「ありがとう」はすかさず伝えるニューヨークの人たちは、お店のスタッフに何かしてもらったり通りすがりの人にドアを支えてもらったりしたときなど、ひんぱんに「Thank you」を口にしているとか。こういうシーンで意外とお礼を言わない日本人が多い、と岡田さんは指摘します。感謝の言葉はたくさん伝えたいもの。何にでも「ありがとう」と言えばいいということではなく、機会を逃さずに相手を尊重する姿勢を示せる人ほどコミュニケーション上手なのです。
古くからの友達のように接する相手が誰だろうとぶれない態度で、ずっと前からの良き友であるかのようにあたたかく接するニューヨーカーたち。初対面でも壁を作らずに会話を楽しんで、その後本当に親しいつきあいになるという順番のようです。彼らの様子を見ていると、「友達と呼べる人はすくない」という悩みが無意味なものに思えてきます。相手が仲良くしてくれてから態度を決めるのではなく、いつでも自分は誰かの友達というスタンスで良いのではないかと感じます。
自ら進んで魔法にかかろう
ニューヨークはコミュニケーションの達人だらけのようだけど、どこに暮らしていたって孤独な人はいるもの。著者自身が人を愛しているからふれあいの連鎖が起きるのだと思います。この本のタイトルが「魔法のかけ方」ではなく「魔法のかかり方」であるところもポイント。何かあってから反応を返すような受け身ではなく、自ら魔法にかかるくらいのつもりでいる人に、心あたたまるチャンスがめぐってくるのでしょう。
愛情と感謝を自ら積極的に表現することで、さらに出会いを引きよせる。そういうニューヨーカーたちの素敵な部分を取り入れて日本風に工夫しながら、私も愛のあるコミュニケーションをとりたいと思っています。
[『ニューヨークの魔法のかかり方』]