時は第二次世界大戦下。クレアは玄関先で、数時間前に生まれたばかりであろうスズメを見つけます。巣から落ちるか、投げ捨てられたそのスズメを彼女は家へ入れ、懸命に看護。それが奏功し、翌日にはかすかな鳴き声を発し、朝食をねだるまでになっていました。ところが右の翼が不自由だったため、外の世界に戻すことはできず、クラレンスはクレアと一生を共にすることになります。
暗い時代の中、クラレンスはその独特の歌声やクレアが教えた簡単な芸で人々の心を和ませ、また、クレアとクラレンスは親密な友情を育みます。しかしクラレンスにも徐々に老いが訪れ、最後の日々が近づいてくるのでした。そんな彼からクレアは教訓を得ます。
「小鳥がこれほどまでに老衰と戦う様子は初めて見た(中略)しかし不屈の意志を持ったこの私の相棒は、決して降参しなかった。
屈する代わりにますます自由が利かなくなっていく状況に自分を適応させ、(中略)味わえる限りの生の歓びを享受し、精いっぱいの活動を楽しんだ」(『ある小さなスズメの記録~人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯~』p124~125より引用)
クレアは自分の人生と重ねて、このクラレンスの様子を「教訓」としましたが、年齢にかかわらず、職場や家庭などで自由にならずに思わず愚痴をこぼすことは誰にもあるはず。そんなときには、今、置かれた環境の中で、充実感を抱けるものを見つけて精一杯楽しむのも一つの方法です。
なお、『ある小さなスズメの記録』を翻訳したのは『西の魔女が死んだ』などの訳も担当した梨木香歩さん。実は梨木さんもこの本を訳している最中に愛犬を亡くされたそう。「その『死』は、キップス夫人がこの本を書かざるを得なかった心情の、真の理解へと私を近づけてくれた」と語っています。
人とスズメの友情を描いた『ある小さなスズメの記録』は、クレアがクラレンスに敬意の念をもって書かれた心温まる一冊です。
[ある小さなスズメの記録~人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯~]
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