少年の3年間の実話を元にしたストーリー
主人公は8歳のユダヤ人の少年スルリック。ポーランドのユダヤ人強制居住区から脱走し、森に逃げ込みます。同じような境遇の子どもたちに出会い共同生活を始めますが、ドイツ兵に追われて散り散りに。飢えと寒さで倒れたところをボーランド人女性に助けられ、ポーランド人孤児として生きる術を教えられます。ポーランド名「ユレク」に名前も変え、寝る場所や食事を求めて農家を訪ね歩くのですが、大人たちのさまざまな反応に翻弄されることに......。
原作は2001年にイスラエルで発表され、2003年に日本でも出版された小説『走れ、走って逃げろ』(ウーリー・オルレブ:作/母袋夏生:訳/岩波書店:刊)。3年もの間、どんな境遇に置かれても少年が生き抜くというストーリーに勇気づけられますが、これが実話を元にしたストーリーだと聞くと、さらに話にぐっと重みが出てきます。
平和についての思いを巡らせる
少年が生き抜くことができた理由は、本人の賢さや行動力によるものが大きいと思いますが、行く先々で出会ったポーランド人たちの影響が大きかったことも事実。ユダヤ人だと察したうえで彼を守る者もいれば、報酬を得るためにドイツ人に引き渡すものも。ケガをした少年が運び込まれた病院でも、医師によって接し方がまるで違い、そのことが彼のその後に大きく影響を与えます。
重苦しい気持ちになるシーンもありますが、総じてポジティブな映画であることに救われます。とはいえ、戦争を描いた作品であることに変わりはなく、戦闘シーンはほとんどありませんが、登場するすべての人の人生に戦争が影を落としています。直接命を狙われることはなくても、日々の生活のなかで言いたいことも言えず、理不尽な扱いに抵抗することもできない当時の重く苦しい空気はしっかり感じ取ることができました。
監督はドイツ人のペペ・ダンカート。ドキュメンタリーやフィクションなどを数多く手掛けているそうですが、ドイツ人の監督がこの作品に興味を持って撮った、という事実にもまた大きな意味があるように思えます。
少年が生き抜くことができてよかった、という感動とともに、平和についての思いを巡らせたくなる作品です。
監督:ペペ・ダンカート
出演:アンジェイ・トカチ、カミル・トカチホン・カウ
原題:RUN BOY RUN
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中