中世にはビザンチン人の要塞として栄華を誇ったものの、何百年もの時間が流れるうちに人々に忘れられていきます。だからこそ、まるでここだけ時が止まったように当時の町並みがそのまま残っていて、いつしか「完全に保存された中世の町」と呼ばれるように。
ジェラーチェ遠景、右手にある丘の上が町その特別な景観がいま改めて注目を集め、2015年には「イタリアの最も美しい村20」に選出されて7位を獲ったそうです。先日、親戚がこの村で結婚式を挙げるというので訪れたときの写真を中心に、ジェラーチェの見どころをご紹介します。
圧巻の主祭壇、サン・フランチェスコ教会この記事のトップに載せたのが、サン・フランチェスコ教会の主祭壇です。色とりどりの大理石で象嵌細工を施したこの豪華な祭壇は17世紀に作られたもので、カラブリア風バロック芸術を代表する傑作とされています。
教会自体は13世紀に建てられた、カラブリア州に残る数少ないゴシック様式建築のひとつ。もともとここにあったロマネスク様式の遺跡のうえに建っているのだそう。いまは教会としては機能しておらず、見学用に公開されているだけ。がらんとしたした空間に堂々とある主祭壇は息を飲む迫力です。
騎士ニコラ・ルッフォが眠る棺。主祭壇のうしろにひっそりとあるゴシック様式の扉口。シチリアでアラブ文化と融合して生まれた特有の唐草模様が彫られています。3つの重なるアーチがリズムを感じさせる華やかなデザイン。
南イタリア最大の面積、ジェラーチェの大聖堂ジェラーチェの大聖堂は総面積1690平方メートルもあり、ロマネスク様式の教会としては南イタリア最大の広さなのだそう。8世紀から「聖なる場所」とされてきた場所を礎にして、ノルマン人が11~12世紀に建てました。
ユニークなフォルムの2つの後陣。この右手が「司教の門」 16世紀末に完成したバロック様式の「司教の門」を背後からとても広い内部は、ギリシャ風の列柱で空間が仕切られたバシリカ形式。大理石と花崗岩でできた乳白色の石柱と馬蹄形アーチが優美で、それ以外は装飾がほとんどなく、全体的に清らかな素朴さに満ちてとっても素敵なところでした。
地階だけでなく地下にも聖堂があり、26もの石柱が連なるとても美しい場所。そこに貴重な宝物がたくさん保管されていて、現在は博物館として公開されています。
時代も様式も異なる、個性豊かな教会たちとっても小さな村なのにジェラーチェにはかつて128もの教会がありました。ですが、徐々に減っていき、1783年に起きた地震のあとにはたった17に。けれども残された教会はいずれも個性的で、建てられた時代も様式も異なるので見飽きることがありません。
サン・ジョヴァンネッロ教会写真中央にある、まるで納屋のような慎ましいたたずまいのサン・ジョヴァンネッロ教会は10世紀に建てられたもの。イタリアで最も古い正教会の教会であるとされています。
すぐ隣にあるサン・マルティーノ教会は、ビザンチン時代に建てられたオリジナルは地震で崩壊し、現在見られるのは再建されたもの。素朴な石とれんがの色味に風情があります。外観正面は後期バロックと新古典主義のミックスで、中は身廊がひとつだけというシンプルな造りながら、デコラティブな柱やアーチのおかげで豪奢な印象になっています。
サン・マルティーノ教会 タイムスリップ気分で中世の町をぶらぶらこれら教会のほかにもお城、高見櫓など、歴史的モニュメントが数多く残っています。さらに狭く入り組んだ道、素朴な石造りの住宅など村全体が中世のままだから、まるでタイムスリップしたか映画のセットに迷い込んだかのような不思議な感覚に。
石敷きの道をゆっくり歩きながら、バルコニーに飾られた花を見上げたり、バールで地元のお菓子とエスプレッソを飲んで休憩したり。ただ時間を過ごすだけで絵になる、思い出になる、特別な場所。
日本ではまだまだ知られていなくとも、南イタリアには見るべきものがたくさんあります。2千年前の歴史をそのまま伝える遺構や小さな教会、昔ながらのくらしを守っている人たち。今回のジェラーチェの旅も、そんなイタリアの原風景を肌で感じる印象深いものでした。
アクセスは、レッジョ・カラブリアから車でロサルノ~シデルノ~ロクリを経由して2時間ほど。電車の最寄りはロクリ駅です。
クリスマスシーズンには大聖堂で音楽コンサートが開催されるなど、年間を通してイベント・宗教行事も行われているので、それに合わせて足を伸ばしてみるのもいいかもしれません。かわいい宿泊施設やレストランもありますよ。