それは残念ながら、女性の「体臭」も例外ではありません。
酸化と体臭の関係から、女性特有のニオイの変化、加齢によるニオイを防ぐ方法まで、体臭や多汗症の専門医である五味常明(ごみ つねあき)先生にお話をうかがいました。
体の酸化が進んだことを示すニオイ=加齢臭
もともと人間は、呼吸することで酸素を取り込み、食事で摂った栄養分を燃やして、生きるエネルギーを作っています。
この過程で生じるのが、体内の酸化を引き起こす活性酸素(フリーラジカル)。活性酸素は体全体の老化と深く関わっています。生きるために必要不可欠な酸素が、体内で「悪者」に変身してしまうとは皮肉な話です。
「オヤジ臭などといわれる加齢臭も、加齢とともに体の酸化が進んだことを示すニオイです。
世間では中高年男性の加齢臭が注目されがちですが、加齢臭は男性だけのものではなく女性にも発生します」(五味先生)
加齢臭の要因は「皮脂の酸化」
約33年にわたり体のニオイや汗で悩む多くの人を診療してきた五味先生。そもそも老化は「酸化による現象」と捉えることができ、加齢臭とも密接な関わりがあるといいます。
「加齢臭がどこでできるかというと、皮膚の皮脂腺。肌のうるおいを保つ皮脂を作り出す部分です。
食用油は、置きっぱなしにしていると酸化してクサくなりますよね。皮脂も同じで、年齢を重ねると、この皮脂腺の中のパルミトオレイン酸と呼ばれる脂肪酸が増加します。それと同時に、過酸化脂質という物質も増え始めます。
パルミトオレイン酸が、この過酸化脂質と結びつくことにより、分解・酸化されてできるのがノネナールというニオイ物質です。男性では40~50代から増えてくる人が多く、加齢臭の要因として注目されるようになりました」(五味先生)
加齢臭のニオイ物質は意外にクサくない
五味先生いわく、「人間は呼吸するたびに酸化する生き物」。老化を完全に防ぐことができないのと同じで、酸化によるノネナールの発生をなくすことはできません。
とはいえ意外なことに、ノネナール自体はそれほど不快なニオイではないのだそう。
「実際に嗅ぐと、古本やロウソクのようなニオイで、悪臭という感じではないんですよ。ノネナールを臭くするのは、疲労がたまることで生まれる、もうひとつ別の物質なのです」(五味先生)
加齢臭を悪化させるのは「疲労臭」
その物質とは「ジアセチル」。いわゆる汗臭さや、「ミドル脂臭」の原因ともいわれるニオイ成分です。
「こちらは嗅いでみると、ツーンとくるきついニオイで、ノネナールの比ではありません。じつは性別や年齢を問わず、誰からも出ているニオイであり、疲労とストレスで強くなります」(五味先生)
わたしたちは疲れると、体内で「疲労成分」といわれる乳酸を作り出します。乳酸が汗と一緒に出たものを、皮膚にいる細菌が分解すると、ジアセチルになるのだそう。つまり疲労がたまって乳酸が増えると、ジアセチルも多く出てしまいます。
「乳酸は、酸素を使わないで体内のエネルギーを消費すると多く作られます。忙しさや緊張から、無意識に息をつめて仕事をするのは、乳酸を増やすもとです。
また、冷や汗や更年期のホットフラッシュのような一気にどっと出る汗も、乳酸などの血液成分を多く含んでいます。
こうした汗は、首から頭にかけてかくことが多いので、ミドル脂臭も頭から首の後ろにかけて強くなるといわれています」(五味先生)
女性ホルモンには活性酸素を抑える働きがある
これまで「加齢臭」や「ミドル脂臭」が男性のものと捉えられがちだったのは、ホルモンの働きによるところが大きいと五味先生。
「男性ホルモンは皮脂腺の分泌を促します。男性の場合は30~40代が一番皮脂の分泌が盛んな時期なので、皮脂腺に活性酸素がたまり、40~50代から加齢臭が出てくると考えられます。
女性の体臭が男性よりも弱いことが多いのは、女性ホルモンに活性酸素を抑える働きがあるからです。更年期になると女性ホルモンが減るため、女性も男性と同じように加齢臭が出てきます」(五味先生)
女性の加齢臭は、いくつになっても長続きする?
男性は70歳以上になると皮膚が乾燥してきますが、それは男性ホルモンが減少してきて、皮脂が少なくなってくるから。その結果、男性は70~80代になると加齢臭がなくなるといいます。
いっぽう、加齢とともに女性ホルモンが減り、相対的に男性ホルモンが有利になる女性の場合は、男性よりも加齢臭が長く続く傾向があるのだそう。加齢臭といえば男性のものというイメージは、先入観に過ぎなかったようです。
五味常明先生に聞く、酸化と体臭の意外な関係。後編では酸化による体臭を防ぐ方法や、体臭をセルフチェックする方法を教えていただきます。
五味常明(ごみ つねあき)先生
1949年、長野県生まれ。一橋大学商学部、昭和大学医学部卒。昭和大で形成外科、多摩病院で精神科に携わった後、体臭・多汗研究所を設立。現在は、「五味クリニック」院長として、東京と大阪で診療する傍ら、流通経済大スポーツ健康科学部の客員教授も務めている。
取材・文/田邉愛理、構成/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock