舞台はポーランド。戦争孤児として修道院で育った見習い修道女のアンナに、実は肉親がひとりいると知らされ、叔母を訪ねるところから物語は始まります。叔母のヴァンダは、アンナに会うなり「あなたはユダヤ人。本名はイーダ」と告げ、これまで会いに行かなかった理由を、お互いにつらい過去を知ることになるからだと話します。
そこから、ヴァンダはイーダを連れ、彼女の両親がかつて暮らしていた村に向かうことに。数日間の旅で、2人はその後の人生を決定づけるような経験をすることになりました。
幼いころから何も疑うことなく聖なる世界に生きてきたイーダと、過去を忘れるためにアルコールとセックスにおぼれ、俗の世界に生きるヴァンダ。2人が出会ったことで、互いの人生は大きく変わることになります。長く封印されてきた暗い過去が明らかにされたとき、イーダは初めて、自分の置かれた状況の重さを知ることになります。
イーダとヴァンダ。それぞれが選んだ道はセリフも少なく感情表現も抑え、静かで美しいシーンのほうが多い印象。ですが、戦争の狂気もしっかり伝え、何気ない行動から2人の女性の心の動きをていねいに描いています。たとえば、ヴァンダとイーダがそれぞれ、部屋でひとりレコードに針を落とすシーン。同じ行動の中にまったく違う決意が読み取れるようでした。
自分は何者なのか。どうして生きているのか。すべてが終わり、ラストにイーダが選んだ道には、惜しみない拍手を贈りたくなりました。
公開規模の小さい作品ですが、心に残る映画としてずっと語り継がれるような気がします。
『イーダ』
監督:パヴェル・パヴリコフスキー
出演:アガタ・チュシェブホフスカ、アガタ・クレシャ
原題:ida
8月2日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国にて公開
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