ところで、お年玉って、フランスにもあるのでしょうか?
こたえは、イエス。フランス語で「etrenne(エトレンヌ)」と呼ばれます。
このエトレンヌ、現金とは限りません。
というのも、私の住むフランス北部の伝統的なお年玉は、「フランドルのゴーフル」と呼ばれるお菓子なのです。
フランドルは、旧フランドル伯領のフランス北部からベルギー、オランダ一部にまたがる地方で、英語だとフランダース。懐かしの『フランダースの犬』の舞台です。
フランス語の「ゴーフル」は、英語やオランダ語だと「ワッフル」になります。
ゴーフル=ワッフルは形も大きさもいろいろでは、ワッフルと聞くと、具体的にどんなものが頭に浮かぶでしょうか。
四角くて、溝が深く、ふんわりとした歯ごたえのもの?
それは、ブリュッセルのワッフル(ゴーフル)です。
それとも、楕円形でパンのようにしっかりとした噛みごたえもの?
こちらは、リエージュのワッフル(ゴーフル)です。
町によって形や大きさもさまざまなワッフル(ゴーフル)ですが、共通するのは、金属製の型ゴーフリエに種を挟んで焼く点。
お年玉として配られるフランドルのゴーフルは、上の2つよりも、ずっと小さく薄い形ですが、真ん中にテンサイから作った粗糖のペーストが挟まっていて、小さいわりにずっしりしています。
各家庭に伝わる「ゴーフルの秘密」先日、その名も「La Gaufre du Pays Flamand(フランドルのゴーフル)」という専門店で、ゴーフル作りの職人芸を見学する機会がありました。
実演してくれたのはJean-Francois Brigant(ジャン・フランソワ・ブリガン)氏。イースト菌で膨らませた生地を、手早くゴーフリエで焼き、器用に真ん中からはがして1枚を2枚にし、間に手作りのペーストを塗っていきます。
ブリガン氏によれば、ゴーフルのレシピは家庭ごとに微妙に異なり、「レシピ」ではなく「ゴーフルの秘密」と呼ばれてきたそうです。
見学者のうちフランドル出身の何人かからは、そうそう、子どもの頃、お正月になるとおばあちゃんのゴーフルをもらったわ、あれがいちばん美味しかった、という声が上がっていました。
話を聞いて、年末になると臼と杵で餅つきをしてくれた田舎の祖父母を思い出しました。お年玉も嬉しかったけれど、作り立てのあん餅のなんと美味しかったこと! 幸せな思い出は、美味しい記憶と絡まって、心の底に温かみをともしてくれるようです。そう考えると、時には面倒に思える料理も、かけがえのない機会に思えてきました。
さあ、今年も、大切な人たちと、たくさんの美味しさを共有するべく、キッチンに立たなくては! と心に決めた年始です。