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痛みにまでジェンダー格差が……女性をリスクにさらす医療の裏側
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痛みにまでジェンダー格差が……女性をリスクにさらす医療の裏側

2018-08-03 20:30
    ケイティー・エルンストさんに発疹、関節痛、脱毛、発作的な疲労、心臓の動悸、失神などが始まったのは19歳のとき。自己免疫と心臓病の検査結果は陰性。それからの13年間、医師という医師はそれをうつ病かパニック障害だと診断。彼女が感情面では何ら問題なかったにもかかわらず。

    「私はむしろ仕事ができていた方」と語るエルンストさんは、現在35歳。ペンシルバニア州ノーリスタウンの弁護士。「詐病だといわれ続け、腹が立ちました」。

    彼女は結婚した後、夫を診察に同行させるようにしたのです。最終的に多くの検査を行ってくれる医師を見つけ、「狼瘡」(ろうそう、免疫系が自身の組織や器官を攻撃する炎症性疾患)であることが判明。その医師によると「旦那さんを連れてくるのはよいアイデア。これまでも似た症状の患者をみてきましたが、いつも心身症と考えてきたのです」。

    医師の偏見を乗り越え、効果的な治療を受けることはどれほど難しかったことでしょうか。

    ジョンズ・ホプキンス大学の研究者の最近の報告によると、脳卒中を起こした女性は、救急治療室で誤診される可能性が男性より33%高く、怖い結果を招く可能性もあるそう。研究によると心臓発作を経験した女性もまた誤診される可能性が高いのです。女性はそもそも女性特有の病気について、正しい診断を受けるのが難しいとわかりました

    例えば、自己免疫疾患のある患者の約75%が女性。アメリカ自己免疫疾患協会の調査によると、そうした病気を持っている女性は、病気が特定される前にかかる医師が4年間で平均5人。加えて、45%以上が慢性的な愁訴を訴え続けるというのです。

    アビー・ノーマン著『私の子宮について聞いてください:女性の苦しみを医師に信じさせるには』によると、子宮内膜症および多嚢胞性卵巣症候群のような婦人科の疾患を持つ女性は、似たような困難に直面していると伝えています。

    ケイティー・エルンストさんは、患者の権利擁護に取り組む。娘には同じ経験をしてほしくないと思っている。

    女性はより多くの痛みを抱えている

    ジェンダー格差が顕著なのは、痛みについても。救急医療分野の『アカデミック・エマージェンシー・メディシン』誌で発表された研究によると、女性のER患者は、男性よりも鎮痛薬を受け取るまでに長い時間が必要なのだそう。男性の中央値49分に対し、65分。そして薬を受け取らない傾向があるとも。

    ジャーナリスト、マヤ・デュセンベリーさんの新著『害悪。悪い医療と怠惰な科学がいかに女性を置き去りにしてきたか。誤診と病気』では“信頼格差”について述べています。女性の症状についての説明は、あまりにも信じられていないのです。

    ナショナルペインレポート(痛みの情報に特化した医療ニュースサイト)の2014年のオンライン調査によると、女性の65%が、痛みについて医師が真剣に取り合ってくれないと感じているそう。「医者の女性の慢性疼痛患者への態度は『ああ、神経症ですね』ですから」とは、ある回答者。

    アトランタのデジタル・マーケティング・マネージャー、アリー・ニエミエツさん(27歳)は、頻繁な腎臓結石に苦しみはじめた20代前半に、そうした経験がよくありました。

    数週間おきに、彼女は腹部や背中に刺すような痛みを訴え、地元の病院の緊急治療室に足を引きずって訪れたものでした。そのような症状を引き起こす「髄質性海綿腎」と呼ばれる遺伝性の病気と診断されていたにもかかわらず、「医師たちは、受診をよく思っていなかった」とニエミエツさん。注意を引いたり、鎮痛薬をもらったりするために苦しさを誇張していると非難されて、最終的には、もう来ないようにと伝えられたのです。

    その後、ニエミエツさんはアトランタ周辺の他のERを頼りましたが、何度も追い払われるはめに。何時間も運転した末、やっとある病院で医師が痛みの原因を特定してもらえたのです。それは腎臓の結石。外科的に取り除くに至りました。「そうでなければ腎臓を失っていたのでは」とニエミエツさん。

    結局は、薬を組み合わせた服用で、障害の頻度と鎮痛薬の量も減らすことができました。また、同じ症状に苦しむ男性と女性のためのサポートグループに参加し、ひどい経験をしているのは自分だけでないことを認識。

    仲間のERからの“追放者”たちにはひとつの共通点がありました。それは性別。「グループの他の女性の多くは、病院に行くと薬目当てだと責められていました。でも男性は疑われずにすぐに痛み止めをもらえていたのです。とても腹立たしく思えました」(ニエミエツさん)。

    すべての女性が知るべきこと

    医師が話を聞いてくれないと感じたら

    セカンドオピニオン、もしくは新しい医師を探します。「全国的に女性の保健センターが増えています」と、ロサンゼルスのシダーズ・サイナイ病院のバーバラ・ストレイサンド女性心臓センター医師のノエル・ベイリー・メルツさん。

    あなたの医師が薬を処方するとき

    女性ならではの投与量や副作用があるかどうか質問します。「医師として、オーダーメイドの治療計画を立てなければなりません。性別ならではの要因を取り入れる必要があります」と、アメリカ国立衛生研究所の女性の健康に関するリサーチオフィスの担当者で、医師のジャニー・オースチン・クレイトンさん。

    手術が必要な場合

    その手術法が女性にとってよりメリットがあるのか、もしくはよりリスクがあるのかリサーチ。「女性は男性より手術中に目を覚ます可能性が高いので、担当の麻酔医が、あらゆるリスク要因を把握しているか確認します。あなたが服用する薬物や普段飲んでいるお酒の量もそう」(医師、カリフォルニア大学ロサンゼルス校臨床麻酔学教授のダニエル・J・コールさん)。

    知識の格差

    「ヘルスケアの仕組みに男女の不公平がある」と批判するデュセンベリーさん。問題はふたつ。女性が症状の説明を疑われたり、男性に比べて真剣に受け取ってもらえなかったりする「信頼の格差」に加えて、より危険なのが「知識の格差」。女性の身体や、男性以上に悩まされる病気について、医学的にはるかに理解されていないのです。

    「これは本当に悪循環」とデュセンベリーさん。数多くの患者、医師、研究者にインタビューし、著書のために医療の歴史も深く掘り下げたといいます。「医学は伝統的に男性が支配する分野であったため、女性の症状を科学的に説明する研究にはほとんど投資してこなかったのです。医療提供者が説明できない症状を女性が抱えている場合、そうした症状は、患者の頭の中にあるでっちあげや、誇張されたもの、または心因性のものと切り捨てられてしまう」と、デュセンベリーさん。

    女性についての研究が足りない

    女性の健康問題についての研究は慢性的に不十分ということ。例えば、過去10年間に、アメリカ国立衛生研究所が、狼瘡のような自己免疫疾患の研究に費やしたのは毎年約8億8300万ドル(日本円でおよそ1000億円)。狼瘡に悩むアメリカ人は2300万人とされますが、そちらへの支出は1400万人のがんの6分の1。がんは明らかに命にかかわるものの、狼瘡に悩む人に人数、QOL(生活の質)への影響を考えると、支出の格差は依然として大きいと見られます。

    同様に、慢性疼痛は1億人のアメリカ人を苦しめ、女性がなりやすい症状。患者人口では糖尿病、心臓病、およびがんを合わせた以上ですが、その研究につく資金はこれらの疾病のわずか5%。

    さらに、女性は、変動するホルモンが結果を歪めると懸念されていたため、何十年にもわたって臨床研究から大きく除外されてきました。同様の理由から、科学者たちはオスの実験動物に依存していました。このような慣行は間違いだったのがわかっています。

    アメリカ国立衛生研究所の女性健康リサーチオフィスの担当、医師のジェナイン・オースチン・クレイトンさんによると、「いま性別は、必須の生物学的変数としてとらえられます」。ひとつの例は「心臓血管病」。男性は普通、心臓の血管が詰まりやすいのですが、女性は血管が広がりにくいという違いがあります。このほか女性は男性よりも、「線維筋痛症」や「慢性疲労症候群」のようないまだ未解明の病気や、「多発性硬化症」や「アルツハイマー病」にもかかりやすく、非喫煙者も肺がんになりやすいといった差があるのです。このような傾向を理解するために、男女差が必ずしも条件とならないような研究であっても男女ともに含めることは「決定的に重要」とクレイトンさん。

    活動家からの長期にわたる圧力を受けて、議会はアメリカ国立衛生研究所が資金を提供する臨床研究に女性を含めるよう1993年に義務づけました。今日ではそうした研究の参加者の半数は女性です。

    ところが、現在使用されている治療法は、その前に集められたデータを用いて開発されたものばかり。さらに、アメリカ国立衛生研究所は助成申請者に、動物実験においてもオス・メス両方について研究することを求める規則を作りましたが、それもようやく2016年のこと。今日でも研究用ラットの大半は依然としてオスなのです

    あとから副作用が判明する問題も

    臨床試験から長年にわたって女性が除外されていたがゆえの問題も起きています。というのも、過去20年間で、多数の薬物や医療機器が市場から追い出されたのですが、その理由は男性よりも女性に大きな副作用を及ぼすことが判明したためだったのです。ある研究によると、1997年から2000年の間に排除された治療法のなかで、10のうち8は、その理由だったとしています。

    例えば主に女性のために処方され、多くの患者が心臓の問題を起こした体重減少薬フェンフェン(フェンフルラミンとフェンテルミンというふたつの薬の併用、日本では承認されていません)、そして女性のためにより頻繁に処方され、肝不全を引き起こす可能性のある糖尿病薬トログリタゾン(日本も含め、すでに販売中止)。2013年、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、前夜に摂取した人の自動車事故が相次いでいるのを受け、アンビエンの商品名(日本ではマイスリー)で発売されている睡眠薬ゾルピデムの女性の推奨投与量を下げました薬物が身体から消えるまでの時間が長く、女性では事故を起こす可能性が高かったのです。

    こうした事実があるにもかかわらず、依然としてアメリカ食品医薬品局は、ほとんどの薬品について性別を考慮に入れて検査することを求めていないのが実態です。女性用のバイアグラとされるフリバンセリンは2015年に承認されましたが、アルコールとの相互作用が検査されたのは、23人の男性とわずかふたりの女性。

    医師教育もまだ偏っている

    医療におけるジェンダー格差は、医師教育にはびこっている不平等にも見られます。アメリカの医学生の半数近くは女性ですが、女性比率は医学部の専任教員のたった38%、(准教授でない)教授の21%、学科長の15%、学部長の16%。アメリカとカナダの医学部への最近の調査によると、性別とジェンダーの問題がカリキュラムに含まれるのはたったの30%。

    「男性と女性の違い、そしてそれがどのように病気に影響を与えるかについては、研究すべきことがまだまだたくさんあります。そのために教育の中身があまり充実していないのです」と、女性健康協会(SWHR)の科学プログラムの担当、レベッカ・ネビルさん。いわゆる婦人病に悩む患者が適切に診断し治療できる医師を見つけるのに苦労する理由はそこ。

    ロサンゼルスに住む45歳の作家、メーガン・クリアリーさんは、10代の頃から耐えがたいほどの月経痛と骨盤痛に苦しんでいました。「私が最初にかかった医師は、身体のことをよく知るのがいいですねというのです」(クリアリーさん)。それで他の専門家では、運動を勧められたり、下剤を処方されたりして、ただそれを受け入れることを提案されるだけ。最終的に2016年、ついに子宮内膜症(子宮の内壁に似た組織が、子宮の外に成長する障害)と診断されたのです。医師は子宮筋腫を除去しつつ、子宮内膜症の病巣に対しては焼灼手術を行いました。

    ところが、そうした治療は症状を悪化させただけ。ネットで調べた後、クリアリーさんは、子宮内膜症のごく一般的な療法と考えられていた子宮内膜を広範囲に取る外科的切除を、北カルフォルニアのトップの専門家に頼むことに。医療保険の条件をクリアしてもらい、治療を受けることができて、手術は成功。「ようやく慢性的に続く痛みがなくなりました」とクリアリーさん。手術に熟練した専門家を探す価値があるといいます。

    彼女はその後、月経異常の女性のための情報サイト、「バッド・ピリオド」を自分で開設。「経験によって人生が変わった」とクリアリーさん。ところが、受けた外科的手術が幅広く受けられないことが腹立たしいそう。「焼灼手術のような役に立たない治療を受けた女性が何百万人といるはず。でも産婦人科医は、医学部で子宮内膜症を勉強するときに、最新の治療技術を学ぶことがないのです。これはとても悲しいこと」。

    適切な治療を受けるのに情報通にならなければいけないのはおかしい」とマヤ・デュセンベリーさんも同意見。

    女性健康協会、アメリカ女性臨床協会、国立女性健康ネットワーク、性とジェンダー女性健康共同体などの組織は、医療研究、教育、および実践におけるジェンダー平等を促進して、そのおかしさをなくそうとしています。でも、「信頼と知識の格差が続く限り、診察室を訪れる女性たちは丁寧にサポートされなくては。大事なことは自分自身を信頼すること自分こそ自分の身体の専門家。だから誰にも切り捨てられることなく、後悔しないようセカンドオピニオンを求めてください」とデュセンベリーさん。

    ケイティー・エルンストさんは現在、狼瘡は症状が消えた状態になっており、ブログ「ミス・トリーテッド」でカウンセリングを提供しています。健康管理でジェンダー偏見に直面している女性が体験談をシェアしたり、よい情報を探せたりするブログです。

    「私にはふたりの娘がいますが、私と同じ問題に直面するかもしれません。私は現実主義者ですから、医療がすべての答えを持っているとは思いません。とにかく大事なのは、医師が女性の意見を聞き、生きた経験を尊重すること。また何よりも、私の娘のことを信じてくれることを祈っています」(エルンストさん)

    女性として、知っておきたいこと

    子宮頸がんを予防できる“HPVワクチン”って知っていますか?

    今回は、「子宮頸がんを予防できるワクチン」について女性医療ジャーナリストの増田美加がお伝えします。 https://mylohas.net/2018/07/strategy27.html?test201808

    卵は毎月300個ずつ減っている。女性ホルモンと排卵の関係とは?

    女性医療ジャーナリストの増田美加さんがお伝えするカラダケア戦術。今回は、「女性ホルモンが気になる人は知っておくべき“排卵”」についてです。 https://mylohas.net/2018/04/strategy21.html?test201808

    Kenneth Miller/How Health Care Fails Women
    訳/STELLA MEDIX Ltd.

    RSSブログ情報:https://www.mylohas.net/2018/08/172482medical.html
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