今年のアカデミー賞が発表されました。「ゼロ・グラビティ」「アメリカン・ハッスル」などの話題作を抑えて作品賞に輝いたのは、「それでも夜は明ける」。約12年にわたって奴隷としての人生を強要された、実在の黒人男性ソロモン・ノーサップ氏の伝記をもとにした作品です。
突然自由を奪われた、自由黒人ソロモン・ノーサップ
まだ奴隷制度が残っていた19世紀のアメリカ。自由黒人としての権利を持ち、音楽家として成功していたソロモンは家族と幸せに暮らしていたが、ある日突然誘拐され、家族も、財産も、名前さえも奪われ、遠く見知らぬ地へ奴隷として売られてしまう。自分の身分を証明するすべもないまま12年近く、農園主の財産として人権を与えられず酷使される日々が続く......。
奴隷制という暗い歴史にスポットを当てたストーリー。奴隷制自体が恐ろしい歴史ですが、この主人公のように、自由に暮らしていた人間がある日誘拐され、所持品を奪われて身分を証明できないまま奴隷とされてしまったという事実もショッキング。奴隷制自体は日本人にはなじみのないものですが、誘拐や拉致、といった問題として考えると、その恐ろしさは決して無縁の世界ではありません。
奴隷に優れた能力があることを知ると、かえって痛めつけようとする白人のゆがんだ心理、信頼した相手を簡単に裏切るような奴隷同士の猜疑心など、観ていて心が痛みますが、何があっても生き続けようとする主人公の意志に心を打たれました。
決して気持ちの明るくなる作品ではないのですが、自由に生きる権利について考えるきっかけになるのでは、と思います。
豪華キャストや注目の新人女優、ルピタ・ニョンゴの活躍も
アカデミー賞では、初の黒人監督の作品が受賞したということでも話題になりましたが、監督のスティーヴ・マックィーンは、ロンドン出身で彫刻家、写真家としても活躍するアーティスト。2011年に撮った映画「SHAME ―シェイム―」では、セックス依存症の男という扇情的なテーマを取りあげ、多くの賞を受賞しました。そんな彼がどうしても撮りたかったというテーマが本作。授賞式では「この賞を、奴隷制度を耐え、生き抜いたすべての人たちにささげたい」と述べました。
ほかに、ブラッド・ピットが本作でプロデュースに参加、出演も果たしていること、ベネディクト・カンバーバッチ、マイケル・ファスベンダーといった旬の実力派俳優が出演していること、また今回のアカデミー賞で助演女優賞を受賞した新人女優、ルピタ・ニョンゴがこの春の「ミュウミュウ」のキャンペーンに登場するなどファッションブランドからもの注目を集めていることなど、テーマ以外の部分でも話題性たっぷりです。
監督:スティーヴ・マックィーン
出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ブラッド・ピット、ルピタ・ニョンゴ
原題:12years a slave
TOHOシネマズ みゆき座他公開中
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(文/ミヤモトヒロミ)