自分のカウンセリングを公開することで、もっと多くの人に「悩む前に精神科に行こう」と言いたかったという、いとうさん。
精神科医であり、いとうさんの主治医でもある星野概念さんとの対談をまとめた『ラブという薬』から、2人が語る「対話」の大切さについてご紹介します。
診察室の話をみんなに伝えたい
物事を突き詰めて考えすぎるタイプで、これまで何度か精神的な危機を迎えてきたという、いとうさん。しかし、人に弱音を吐けない性分なのが災いし、カウンセリングを受けようとは思いもしなかったそうです。
ところが“音楽つながり”で出会った星野概念さんの「ある発言」に、この人は信用できる、とピンときたそう。
そしてカウンセリングを受けるうちに、「自分自身のことも、社会のことも、どんどんクリアになっていく」感覚があったといいます。
ずっと我慢していたつらさを聞いてもらうことで、自分の思考のクセがわかり、現実がちょっと生きやすくなる。
それを知ったいとうさんは、自分の診察の様子を本にして公開することで、精神科に行きやすくなる人が増えるのでは……と考えました。
こうして、患者と主治医が診察室を出て、公開を前提に対話するという、一風変わった対談本が世に出ることになったのです。
怪我をしたら外科、つらい気持ちなら精神科へ
『ラブという薬』は、ひと言でいうと「読む薬」。
ちょっとゆるっとした雰囲気で語り合う2人のトークを楽しみながら、自然に「精神科に行く」ということに対して感じていたハードルや、くよくよ同じことで悩んでしまう自分への罪悪感が和らいでいくのを感じます。
星野さん:怪我したら病院に行くように、落ち込んだら、すぐ相談に行けばいいと思うんですよ。だって、怪我の専門家は、外科医だし、心の傷の専門家は、精神科医やカウンセラーなんですから。
(『ラブという薬』18ページより引用)
海外ドラマを見るとカウンセリングのシーンは頻繁に出てくるのに、日本のドラマで見かけることはごくわずかです。
日本人はとくに、我慢や忍耐を美徳とし、人前で本音や弱音を吐くことを恥としてしまう文化があるからかもしれません。
日常から「対話」が減っている
しかし、人前で弱音を吐くことをよしとしない文化は、心の弱さや傷を抱えた人への無意識の差別にもつながります。
いとうさん:弱さの場合は、「もっと強くなれ」って言われるし、傷の場合は「なんでそんな傷を受けたんだ」って言われる。それで傷ついた人が泣き寝入りしなきゃいけない。要は「泣き寝入り文化」なんだよね。
(『ラブという薬』36ページより引用)
いとうさんが言うように、傷ついた人が落ち度を責められ、傷つくことすら許されない現代の風潮は、どこから生まれるのでしょうか。
2人が指摘するのは、私たちの日常から「対話」が減っている、ということ。いとうさんと星野さん、2人の対話を通して「対話のしかた」を考えることは、本書の大きなテーマになっています。
「愛してるよ」と言うより「話を聞く」
精神科医が患者と向き合い「対話」を行うときは、結論をすぐに求めず、否定や批判をせず、ひたすら話を聞く「傾聴」の姿勢が求められます。それは、相手に共感し、相手の身にならないとできないこと。
『ラブという薬』を読んで、愛のある対話は人の心の抑圧を取り除き、きつい現実を「少しゆるく」してくれるパワーがあることを知りました。
いとうさん:やっぱり傾聴って愛だよなと思った。愛してるよ、と自分が言うよりも、まずその人の話すことをとにかく聞く。逆に愛されるっていうのは、相手に自分の話を聞いてもらうことだと思うんだよ。
(『ラブという薬』42ページより引用)
たとえ元気に生きていても、人生のつらさを感じる瞬間は誰にでもあります。だからこそ誰かと話すときは、そのつらさがちょっと和らぐような「対話」ができたら素敵。
大切な人と過ごす時間が増える年末年始、『ラブという薬』のメッセージを心にとめて話すことができたら、いつもよりも充実した時間が過ごせそうな気がします。
聞いて会話をすることが薬に
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[ラブという薬]
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