アンチエイジングにインフルエンザ予防、がんや肥満、脳卒中予防まで期待できると、実は今、唾液が注目されており、「老けたくなければ、“唾液力”を上げるべき」と歯学博士の槻木恵一先生は言います。
新時代の万能薬とも言われる唾液に着目し、「唾液力」を上げる方法を教えてくれるのが、唾液腺健康医学や口腔病理診断学の知識が詰まった槻木先生の著書『唾液サラネバ健康法』です。
単なる消化液じゃない、唾液の重要な役割
神奈川県歯科大学副学長を務める槻木恵一先生。唾液腺健康医学や口腔病理診断学を専門とし、口腔ケアの著書などで知られています。
近年は、消化液の役割にとどまらず、脳卒中、がん、肥満、歯周病などの生活習慣病予防、そして快眠・リラクゼーション、アンチエイジング、さらにインフルエンザ、誤嚥性肺炎などの感染症予防などにも唾液が深く関与していることがわかってきました。
(『唾液サラネバ健康法』3ページより引用)
槻木先生によると、唾液はまさに新時代の万能薬なのだそう。 主成分は水だけれど、その中にはウイルスや細菌を防いだり、アンチエイジングをしたり、粘膜を保護したりと多くの生理活性物質が含まれており、とても機能性が高い液体なのです。
唾液力は量と質がポイント!
槻木先生が語る「唾液力」とは、“唾液の量+唾液成分”が持つ総合的な力のこと。
健康な人の場合、1日で1Lのペットボトル1本分の唾液が分泌されていて、口の中を清潔に保つのはもちろん、食道や消化器官なども保護して悪い菌の攻撃から守っているのだとか。
量のほか、インフルエンザウイルスや大腸がんの予防効果がある抗菌物質のIgAや、体や肌の老化を遅らせる抗酸化作用のあるラクトフェリンなど、質も重要に。
唾液の質の良し悪しは、こうした成分がしっかりと唾液中に分泌されているか否かで判断されます。唾液が健康なら ば、当然、バランスよく適正な量の成分が分泌されています。また、なかにはIgAなど食物や運動で意識的に増やすことのできる物質もあります。
(『唾液サラネバ健康法』62ページより引用)
適正な量と質を保つことで老化を防ぎ、体の健康を維持できる唾液。その量を増やし、質を高める唾液力アップの5つの秘訣を紹介します。
秘訣その1. マッサージでサラサラ唾液を増やす
口の周りには3つの唾液腺があり、マッサージをするといちばん効果があるのが耳の下にある耳下腺。とくに交感神経が活発になる緊張しているときが効果的で、ほぐすことでリラックスできるそう。
耳の下より少し前の位置に3本の指をあて、そこを中心に円を描くように指を回します。強く押さず、ゆっくりと回すのがポイント。これを2分以内で10回以上繰り返します。
(『唾液サラネバ健康法』115ページより引用)
耳下腺マッサージはいつでもどこでも簡単にできるので、口の中が渇いていると気づいたときにやってみてください。できるだけ毎日続けることが唾液の健康を保つポイントに。
秘訣その2. 1日1~1.5Lの水分をこまめに摂る
image via Shutterstock唾液量を増やすための意外にあなどれない方法は、水分をこまめに摂ることだと槻木先生は言います。体が脱水状態に陥ると唾液は出にくくなるうえ、体の免疫力も低下してしまうのだとか。
体質によっても異なりますが、唾液を健康に保つために必要な1日の水分摂取量は、1日に出る唾液と同じ量の1~1.5Lが目安になります。
(『唾液サラネバ健康法』118ページより引用)
「ただ、ここで注意してほしいのは、水分を摂ればよいといっても、お酒はまったくの逆効果だということです」と槻木先生。アルコールは腎臓内で血液の循環を促す作用があるため尿の量が増え、その結果、多くの水分が体外に排出されてしまうそう。
秘訣その3. 大きめにカットした食物を食べる
image via Shutterstockよく噛んで食べること(咀嚼)は表情筋の発達を促すので、自然に唾液腺のマッサージをしていることにもなり、唾液量そのものも増えてきます。
(『唾液サラネバ健康法』119ページより引用)
ただし、やりすぎには注意!30回噛むことを推奨する人もいるけれど、あまりおすすめしないと槻木先生は言います。唾液にはおいしさを感じると量が増えるという性質もあるので、適度な回数を意識すればOK。大きめに切った食物だと自然によく噛んで食べるのでおすすめです。
また、量アップだけでなく虫歯を予防する重炭酸塩や免疫力を高めるIgA、ストレスを緩和する成分などの分泌も期待できていいことばかり。
秘訣その4. 乳製品を毎日続けて摂る
image via Shutterstock牛乳やヨーグルトなどの乳製品は、唾液の質を高めるのに優れた効果を発揮します。乳製品には唾液の分泌を促し、抗菌物質IgAの濃度を高める作用があるから。また、骨粗鬆症の予防やリラックス効果、整腸作用など健康食品としてもイチオシだと言います。
私の試験では毎日約110gのヨーグルトを食べると、2カ月後には唾液量とIgA分泌量がともに急激に増加するという結果が出ています。
(『唾液サラネバ健康法』133ページより引用)
このように、口内や腸内の環境を変えて免疫力を高めるには、相応の時間が必要に。そのためには、毎日一定量の乳製品を継続して取り続けることが大切です。
秘訣その5. 朝食前に歯みがきをする
image via Shutterstock口の中を常に清潔に保つためには、毎日の歯みがきが欠かせません。槻木先生は、「歯みがきは夜だけではなく、朝起きたときにするのがよい」と主張します。
朝起きたときと聞くと、朝食後の歯みがきを思い浮かべるかもしれませんが、“朝一番”というのがポイントなのです。
口内の細菌叢(細菌の集まり)は起きているときは唾液によってコントロールされているため、むし歯や歯周病菌、インフルエンザウイルスなどの悪い菌に感染しにくくなっていますが、夜間は唾液量が格段に少なくなるため、口の中の洗浄が行われず悪い菌が繁殖して、ものすごく不健康な状態になっています。
(『唾液サラネバ健康法』145ページより引用)
この状態で朝食を摂ると口内が酸性に傾いているため、食べ物によって菌の増殖が一気に加速! そして就寝中に増えた大量の細菌に加え、新たな細菌までも一緒に飲み込んでしまうそう。ゾッとしますね。
就寝前も大事ですが、「朝一番の歯みがき」が最も重要だということを覚えておきましょう。
唾液力をアップする方法には、今すぐ実践できるものがたくさんありました。アンチエイジングと健康をめざして、さっそく試していきたいと思います。
槻木恵一(つきのき・けいいち)氏 歯学博士。
1997年に神奈川県歯科大学大学院歯学研究科を修了後、同大学で助手、特任講師、助教授、教授、歯学研究科長を経て副学長に就任。プレバイオテクスの一種であるフラクトオリゴ糖の継続摂取による唾液中IgAの分泌量増加とともに、そのメカニズムとして腸管内で短鎖脂肪酸が重要な役割を果たすことを明らかにし、「腸一唾液腺相関」を発見した。著書に『がん患者さんの口腔ケアを始めましょう』(学研書院)など。