更年期の症状は千差万別です
更年期によく起こる症状は、ホットフラッシュ(顔ののぼせ、ほてり)、発汗(多汗)、冷え、めまい、耳鳴り、頭痛、動悸、息切れ、イライラ、落ち込み、不安、不眠、うつ、無気力、肩こり、腰痛、関節痛、疲労感、皮膚症状(乾燥、かゆみ、湿疹、かぶれなど)、腟の乾燥、性交痛、頻尿、尿失禁、膀胱炎など、さまざまです。
その人によって起こりやすい症状も異なり、複数の症状がいっぺんに起こったり、ひとつ治ったと思ったらまた別の症状が現れるなど、気まぐれのところも。 「つらくて、つらくて……」と言う人もいれば、「それほど、つらくはないけど、少しの不調も改善して快適に過ごしたい」と言う人もいます。
治療もひとつではなく、いくつかの方法を組み合わせていくことも少なくありません。気になる症状は、ぜひ更年期障害の治療を行っている婦人科で相談しましょう。
予防にも治療にも生活習慣を整えることが大事に
「更年期障害というほどでもない……」と思っても、多少でも更年期の症状を改善したい人は、婦人科での治療を行っていいと思います。早めに行うことで、つらい症状が起こる前に予防になる可能性も少なくありません。
また、更年期と思っていたら、甲状腺や膠原病(関節リウマチ)など、別の病気が背景にあることも考えられますので、更年期以降も婦人科でのチェックは、年1回程度は行いましょう。
まずは普段の生活を見直すことがとても大切です。更年期前と同じ生活をしていては、不調は改善できません。更年期をいいきっかけにして、運動、食生活、生活習慣(睡眠や生活リズム)を規則正しくすることが予防にも、治療にも大切です。
更年期症状の2大治療は、ホルモン補充療法と漢方療法
更年期のさまざまな症状は、婦人科で治療可能です。 低用量ピル(OC)、エストロゲン剤などのホルモン剤によるホルモン補充療法(HRT)、漢方薬などで、更年期のつらい症状を和らげることができます。ひとつの方法だけでなく、低用量ピルと漢方薬、ホルモン補充療法と漢方薬を組み合わせて使う場合もよくあります。
45歳までのプレ更年期世代なら、低用量ピルで不調を治療することができます。低用量ピルは卵巣の働きを休ませ、女性ホルモンの量を一定にすることができます。ずっと低用量ピルを使ってきている人は、閉経の頃まで使い続けて、その後、ホルモン補充療法に切り替えることもできます。
45歳を過ぎて閉経したら、低用量ピルよりもっとホルモン量を抑えたホルモン剤を使うホルモン補充療法(HRT)があります。 ホルモン補充療法を始める時期は、閉経後や、閉経まででも生理期間がばらついてきて、さまざまな不調が起こってきたらでも可能です。いずれも婦人科で相談にのってもらえます。
更年期に使われるホルモン剤の種類は…
女性ホルモン剤には、おもにピル(低用量ピル(=OC)、中用量ピル、高用量ピル)、エストロゲン(卵胞ホルモン)剤、プロゲステロン(黄体ホルモン)剤があります。
ピル(低用量ピル、中用量ピル、高用量ピル)は、エストロゲンとプロゲステロンが両方含まれている薬です。 含まれているホルモン量によって多い順から、高用量ピル(エストロゲン50μgより多いもの。1μg=0.001mg)、中用量ピル(エストロゲン量50μg)、低用量ピル(エストロゲン量30~35μg)となります。
現在、よく使われているのは低用量ピル(=OC)で、生理周期による女性ホルモンの波(揺れ動き)を抑えて、一定にする効果があります。 生理のある間は、ホルモン量の少ない低用量ピルで女性ホルモンを一定にすることで、体、心の不調を解消し、体調を安定させることができます。
閉経前後にはエストロゲン剤で
生理が終わる閉経前後になると、毎月の女性ホルモンの波はなくなり、女性ホルモンの全体量が一気に下がります。 女性ホルモンの量が一気に低下するため、さまざまな不調が起こるわけです。
そこで、女性ホルモン剤(おもにエストロゲン剤)を使って、体内の女性ホルモンの量を持ち上げてあげることで、不調を解消できるのです。これをホルモン補充療法(HRT)といいます。
「生理のあるうちはOCで、閉経近くになったらHRTで」というのが女性ホルモン剤のかしこい使い方と言われています。 たとえれば、女性ホルモン剤は美容液と同じ。年齢に応じて、その人の体質や必要性に合わせて、女性ホルモン剤を選んでいけばいいのです。
低用量ピルとホルモン補充療法の効果はどれくらい?
まず、女性ホルモンのバランスを整える低用量ピル(OC)の効果ですが、避妊だけでなく、ニキビや多毛症、肌あれなどの治療効果があります。
また、生理周期が整い、生理痛、生理の出血量が減る、貧血の改善、月経前症候群(PMS)の緩和など、生理にともなう不調への効能があります。
さらに、卵巣機能の低下の改善、更年期症状の緩和、骨粗しょう症、卵巣がん、子宮体がん、卵巣のう腫、良性乳腺腫瘍の予防、子宮内膜症の進行や再発の抑制などの効果もあることがわかっています。
次に、不足したエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)では、ほてり、のぼせ、発汗、動悸、イライラ、不眠、うつ、頭痛、肌の乾燥などなどの更年期症状全般に効果があります。
骨や血管、肌への効果も高く、状態を維持、改善する効用やアンチエイジング効果もあります。 また、コレステロール値を下げ、肝機能障害、高血圧、骨粗しょう症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマーなどの病気を予防する働きもあります。
それぞれの効果を比べてみると、プレ更年期から更年期になる40代後半が、低用量ピル(OC)からホルモン補充療法(HRT)への切り替えどきと言われています。
必要以上に女性ホルモンを怖がらないで
日本では、欧米に比べ、低用量ピルの導入が30年以上も遅れ、私たち日本女性は、女性ホルモンについての大事な情報を知ることができずにこれまできました。
欧米では10代の女性でも、ニキビの治療や予防のため、生理痛対策のために、低用量ピルを飲んでいます(もちろん避妊薬として使ってもいます)。
低用量ピルに含まれている女性ホルモンは、10代、20代の若い女性だけでなく、30代、40代の更年期前の女性にも全身のさまざまな箇所で活躍します。 更年期の女性たちには、HRT(ホルモン補充療法)という、さらに少ない量のエストロゲンを補充する治療もあります。
日本では“ホルモンを使う”と聞くと、誤った情報で「怖い」と誤解している人も多くいます。
低用量ピル(OC)やホルモン補充療法(HRT)のデメリットは、服用当初に不正出血、吐き気などの不快症状や、ホルモンが低下していないと効果が期待できない、長期使用により乳がんリスクがわずかに上がるなどがあります。 乳がんや子宮体がん、血栓症などの経験のある人には使えませんが、多くの健康な女性なら使用可能です。
女性ホルモンは、正しく上手に使えば決して怖いものでも、不自然なものでもありません。使用例も多く、使用実績のある安全な薬と考えていいと思います。
次回はもうひとつと更年期の治療法、漢方療法について紹介します。
増田美加・女性医療ジャーナリスト
予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。公式ホームページ http://office-mikamasuda.com/
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