メキシコを代表する女性画家、フリーダ・カーロ。病気や怪我による後遺症に苦しみながらも絵画や壁画を制作し、シュルレアリズムの作家として評価を受けたアーティストです。作品だけではなく、彼女の波乱万丈で情熱的な生き方に共感する女性たちも多く、その生涯は映画化もされました。
明らかになったフリーダの遺品そんなフリーダの死後50年となった2004年。それまで封印されていた彼女の遺品が解禁されることになります。そして、2012年にメキシコ人キュレーターの発案により、その遺品を撮影するプロジェクトが立ち上がり、その依頼を受けたのが、写真家として活動する石内都さんでした。
メキシコへと発ち、フリーダの遺品と向き合い、シャッターを切る石内さん。その様子に密着したドキュメントが、8月8日(土)より公開になる『フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように』です。
フリーダがかつて身に着けていたものカラフルなドレス、ポリオの影響で左右の足の長さの違う靴、身体の痛みが染み付いたコルセット、モルヒネといった医薬品など、石内さんが撮影した遺品からは、フリーダが痛みと戦った跡や自分のアイデンティティを守るために身につけていた様子がわかるものばかり。
石内さんが遺品にカメラを向ける姿を追い、フィルムに収めた小谷忠典監督は、仕上がった石内さんの作品を見て、こう感じたそうです。
「障害や後遺症が露骨にわかるような遺品がたくさんあり、悲しかったり、暗い気持ちになったんですが、石内さんの写真は、全然違いました。フリーダがまるで踊っていたり、楽しんでいるようなんです。とてもキレイな仕上がりだったのでびっくりしました」(小谷監督)
フリーダの遺品を撮影するこのプロジェクト。じつは石内さんの前に2名ほどほかの写真家が依頼されたそうですが、どれもイメージとは違ったそうです。そこで声がかかったのが石内さんでした。それは、時空を超えて、フリーダと石内さんが出会うべきして出会った瞬間でもあります。
遺品を通してメキシコの風土や伝統を知る小谷監督が遺品のなかでも一番気になったというのが、フリーダが日常的にまとっていたメキシコの伝統的なドレスです。
「フリーダは、彼女の母親の故郷で作られたドレスを着ていました。そこで、実際にその場所に行き、民族衣装の刺繍家たちを取材したのですが、今もなお生活のなかに伝統的な刺繍の技術が息づいていたんです。おばあちゃん個人がやっているわけではなくて、ずっと受け継がれている時間がドレスに表れていました。だから、フリーダが、このドレスを着ているときは、安心したのかなぁ、守られていたのかなぁと感じました」(小谷監督)
伝統的な服を着ることで、先祖代々の女性たちの思いを感じていたフリーダ。親から子へ、それは日本の着物にも通じますし、時代、国が違っても同じだということに気づかせてくれます。
遺品が語る、フリーダの素顔フリーダの生き方だけをみると、同性愛を含めた奔放な恋愛遍歴であったりと、スキャンダラスな面が取り上げられますが、今回、遺品を通して知ったフリーダは、人から愛されたいと願う、ごく普通な女性。弱いからこそ、強そうにみえるドレスを着ていたのではないかなと感じました。
石内都さんという女性写真家だからこそ撮れた、フリーダというひとりの女性の生き方。アートの知識は必要ありません。ふたりの女性がクロスした瞬間を感じてとってみてください。
公開:2015年8月8日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開
監督:小谷忠典
出演:石内都
©ノンデライコ2015