私は、物心ついたときから「ごはんを作ること」が大好きでした。(中略)調理関係の仕事に就きたくて、プロ育成のための料 理専門学校に通い、ケータリングや飲食店の厨房で修行し、いまでは、自ら料理教室を主宰しています。(中略)そんななかで、気づいたことがあります。それは、台所に立つことを、憂うつに感じている人がとても多いことです。(「はじめに」より)
こう語るのは、『考えない台所』(高木ゑみ著、サンクチュアリ出版)の著者。しかし、そういう人には伝えたいことがあるのだそうです。
それは、調理以前に「台所仕事には正しいルールがある」ということ。漠然とこなしている食材の買いものや皿洗いにも同じことがいえるそうですが、つまりはその「ルール」を知らないからうまくいかないだけだということ。
だから、正しいルールを習慣にしてしまえれば、勝手にからだが動くようになるのだとか。その結果として時間が短縮され、かつ完成度が上がるため、気持ちも前向きになっていく。
そして最終的には、自分で自分を認められるようになる。1分1秒を争う料理人の姿を思い出してみれば、納得できる話ではあります。
CHAPTER1 「マインド編 台所に立つ前に」を見てみましょう。
台所仕事にセンスは必要ない
家事も仕事も、それが緊急を要することであれば懸命にこなしているのではないでしょうか? しかし一方、「重要ではないけれど、やらなければならない」ことは、ついつい後まわしになってしまうものです。
そして「いつか、いつか」と思っているうち、あっという間に日が暮れて、「きょうもできなかった」ことにモヤモヤとしたストレスを感じてしまう......。けれど、そんな状況がいいはずがありません。
著者がそんな状況から脱出できたのは、「意識して、正しいルールを習慣にした」ためだったそうです。ここでいう正しいルールとは、「効率的でムダのない動き」。まずは正しいルールを整理し、習慣化するということです。
たとえば、夕飯にカレーをつくるとします。買い出す食材をメモし、スーパーに行き、帰って野菜を洗って切って煮て、食べて洗って片づける。こうした 一連の流れを「無意識に」完璧な手順で行える人はおらず、無意識に作業をすると、どうしてもムダな動きが含まれてしまうのだと著者は説明しています。
でも、たとえば「自宅にある食材をまた買ってしまう」というムダは、買いものに行く前に冷蔵庫をチェックするルールをつくればクリアできます。
このように、正しいルールを習慣にし、それを意識しながら継続すれば、ルールが自分のものになるというわけです。
また、台所仕事を効率的に、段取りよく進めるには「センスのあり・なし」は無関係。なぜなら、正しいルールが習慣になれば、考えなくてもからだが動くようになるからです。(18ページより)
自由な時間で、自分がしたいことを妄想する
効率よくごはんの支度を終えられたとしたら、その結果として生まれた時間にしたいことはたくさんあるはず。
たとえば、「ぼーっとしたい」「落ち着いてコーヒーを飲みたい」などなど。だからこそ、台所に立つ前にまずやってほしいことがあると著者はいいます。それは、「生まれた時間になにをやりたいか」をイ メージすること。具体的なイメージがなければ、そのための準備ができませんし、優先順位も見えてこないというわけです。
それは、些細なことでも、壮大な夢でもOK。ことの大小ではなく、「イメージすること」が行動を変えるきっかけになるということです。
そこで、携帯電話のメモ欄などを利用して、自分がやりたいことをアウトプットしてみる。それだけのことで、「なりたい自分」に一歩近づくことができるといいます。 (24ページより)
ネガティブな感情は、なんの意味もないことを知る
専業主婦の人からも、働く女性からも、「1日中、料理のことを考えて疲れる」「時間どおりにできないと焦る」「面倒くさい」など、ネガティブな発言がどんどん飛び出すと著者は指摘しています。
ただし、後ろ向きの状態でうまくいくことなど、ひとつもなくて当然。それどころか、作業が雑になって食器を割ってし まったり、焦って手順を間違えるなど、どんどんイライラがつのってしまいます。
著者自身も面倒くさい病に襲われることがあるといいますが、ネガティブな自分が顔を出したときは「なぜそれをやるのか」を改めて思い出すのだそうです。たとえば、こんな感じ。
・なぜ献立を考えるのか→子どもにバランスよく栄養を摂らせたい。
・なぜ買いものをするのか→自分の目で安全な食材を買いたい。
・なぜ料理をするのか→おいしいと喜ぶ、家族の笑顔を見たい。
・なぜ掃除をするのか→家族が気持ちよく暮らすため。
(30ページより)
すべて当たり前のことですが、自分が納得すると、自分の行動の意味(役割)がクリアになり、気持ちが前向きになるというわけです。「ポジティブになるなんて無理」と思うかもしれないけれど、訓練としてすべてのプロセスに前向きな理由をつけてみるといいそうです。(28ページより)
自分のやる気スイッチを知っておく
気分が乗らないときは、誰にでもあるもの。そこで著者はここで、料理中に気分を上げるちょっとしたアイデアを紹介しています。
かたちから入る:お気に入りのエプロンをしめたり、髪をキュッと束ねたりするだけで気合いが入り、「楽しんでやるぞ!」とやる気が出るそうです。植物を飾る:台所には彩りも大切。観葉植物がひとつあるだけで、心が穏やかに。調理グッズで気分を上げる:自分が好きな色で調理グッズを揃えてみる。もちろん、機能性もお忘れなく。好きな音楽を流す:オーケストラを大音量で聴いたり、大好きなアーティストの曲をかけたり、その場の気分で自由に選曲。ただし、火をかけているときは音楽を止めた方がいいのだそうです。おいしく焼けている音、焦げている音、湧いている音など、音が教えてくれることがたくさんあるから。たっぷり香りをかぐ:何気なく料理をしている人には、手にとった食材や調味料の香りをかいでほしいと著者は記しています。理由は、よい香りは脳を刺激して活性化してくれるから。香りをかぐことで、料理へのワクワク感が高まるわけです。料理番組を再現する:料理番組の収録をしているつもりで料理するということ。気恥ずかしい気もしますが、ひとりでしゃべりながら進めると、頭のなかが整理され、スムーズにできあがるのだといいます。コマーシャルと競争する:食器や調理器具を洗うのが億劫なときは、「テレビコマーシャルが終わるまでに洗いものを終わらせるぞ」と決め、時間内に終わらせることを目指すというアイデア。自分へのごほうびを:「これが終わったらビールを飲もう」「あのチョコレートを1粒食べよう」など、自分が好きなことをごほうびにすると、終わったあとの達成感や充実感がたっぷり味わえ、それが幸福感に変わるといいます。どうしてもダメなときは休む:なにも手につかないときは、休むことも必要。自分の電源をオフにすると充電され、翌日はもっとがんばろうと思えるものだそうです。 (33ページより)
つまりは、「楽しんでやろう!」という気持ちが大切だということ。手段はなんでもよいので、自分の気持ちが上がるコツを知っておくと、負のスパイラルから抜け出しやすくなるもの。著者はそうまとめています。(32ページより)
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以後も「準備編」「調理編」「冷蔵庫編」「収納・片づけ編」「道具編」と、それぞれ具体的なルールが解説されています。また付録として「仕込み&栄養満点レシピ」もついていますので、なにかと利用価値の高い一冊だといえます。
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(印南敦史)