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マティスの生まれたフランス北部小さな町の大きな夢
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マティスの生まれたフランス北部小さな町の大きな夢

2015-11-11 21:00
    その溢れるような色彩で知られる画家マティスは、緑に覆われた植物園のようなアトリエで創作にあたった自然愛好家でした。

    出身は、フランス北部のLe Cateau-Cambrésis(ル・カトー・カンブレジ)という町

    今では主要道路からも離れた静かな町ですが、今も残る、昔の僧院のビール醸造所やカンブレ大司教が住んだフェヌロン邸などの美しい建築物に、かつての繁栄をうかがうことができます。マティスはその晩年、「シーザーにシーザーのものを返すように」と言って、作品の多くをこの町に寄付し、それが今あるマティス美術館の元となりました。

    菩提樹の花がつなげた人々

    じつはこの町では、昨年夏から、数々の面白い試みが生まれています。きっかけになったのは上述マティス美術館が企画した『La vie eat faite de bells rencontres(人生は素敵な出会いでできている)』という大きなテーマ枠の展覧会。

    この中で提案されたのが『Quand Fleurit le Tilleul(菩提樹の花咲くとき)』と題する環境サイクルをテーマにした作品群。マティス美術館のあるフェヌロン邸の庭園に植えられた48本の菩提樹(リンデン)を真ん中に置き、地元の職人たちとアーティストがコラボレートした作品を集めたのです。

    美術館の庭で集めた菩提樹の葉

    マティス美術館のバルコニーで蜂蜜を集める様子
    Le Cateau-Cambrésis, photo E Macarez

    たとえば、地元の養蜂家の協力を得て、菩提樹の花から蜂蜜を作ったり、葉っぱをハーブティにしたり。また、町にあるBrasserie Historique de l'Abbaye du Cateau(ル・カトー僧院歴史ビール醸造所)は、菩提樹風味のビールまで作り出しました。

    加えて、それらに合う陶器や、グラスなども複数のアーティストが作成しましたし、蜂蜜の滴るミツバチの巣箱を子どもたちが見学に来たりと、さながら町全体が青空教室のようなすてきな催しとなりました。

    ミクロなきのことマクロなきのこ

    このコラボレーションの波はここに留まらず、このときの経験にヒントを得て、ル・カトー僧院歴史ビール醸造所はその後も町の薬局と面白い試みを続けています。

    きのこを集めるコクラー氏

    ル・カトーの薬剤師のコクラー氏は、菌学も修めており、平たく言えば、きのこの専門家。つまり、このコラボで作られているのは、ずばり「きのこのビール」なのです。「え?きのことビール?」とちょっと驚きましたが、コクラー氏にとっては、じつに自然な結びつきなんだとか

    「ミクロなきのこ(ビールを作る出芽酵母)とマクロなきのこ(普通のきのこ)の共演ですからね」

    なるほど。一言で納得しました。

    今年のBord'Aleビール製造の様子

    2014年秋には、フランス語で「死のトランペット(Craterellus cornucopioides)」と恐ろしい名前で呼ばれる(けれども)美味なきのこ風味のMort'Aleビールを、そして今年秋には、グルメなきのこ代表セップ茸(boletus edulis)風味のBord'Aleビールを生み出しました。

    この秋作られたBord'Aleビール

    どのくらいきのこを入れるのか聞いてみたところ、先月できたばかりのセップ茸ビールについて具体的に教えてくれました。

    「30リットルの醸造桶で試作して、濃度など決めた後に、2,000リットルの醸造桶で作ったんだ。2,000リットル醸造桶に入れたのは、乾燥セップ茸10キログラム。フレッシュなものなら100キログラムに相当する量だね。それでできたビールが、ボトル1,500本と30リットル樽数個かな。」

    繊細な味はシェフにも人気

    気になるお味ですが、ル・カトー僧院歴史ビール醸造所のPessot(ペソ)氏によれば、試行錯誤の末にたどり着いたのは、きのこ風味を損なわない程度に木の香りの混ざった琥珀色のビール。じつに繊細な味だそうで、それを証拠に、ガストロノミー界からも注目されています。

    同県にある星つきレストランシェフFlorent Ladeyn(フロラン・ラデン)をはじめ、フランス北部の複数のレストランシェフが、料理に合う飲み物として取り扱い始めています。ここにもまた新たな結びつきが生まれていくのが見え、ワクワクします。

    美術館からアーティストと職人へ、そしてビール醸造所から薬局、果てはレストランへと、一見、別な世界に属するように見える人々がつながる様子を目にして、こういう流れが、ひいては町や地方の活性化を呼び起こすのだろうなと思いました

    実際、ペソ氏は一連のコラボレーション体験について、次のように語っています。

    「いちから作り上げていくどの程度もすべてエキサイティングな体験だったよ。(中略)(コラボレーションによる)出会いはひとつひとつ、どれもがかけがえのないものだった。成功は、じつはひたすら「人」にかかっているものなんだ。(異なる分野が専門である)お互いが、お互いの分野に興味を持つことが何より大切なんだと思う。(中略)まさしく最初のテーマ『人生は素敵な出会いでできている』を地でいってるよ」

    地元に根を下ろし、地元の自然から離れず、環境を考えながらも新しい企てを打ち立てるル・カトー・カンブレジの人々の姿勢に、自然を愛してやまなかったマティスの精神が重なって見えるように思えるのは、私だけでしょうか。

    Musée départemental Matisse,Pharmacie du Musée ,Brasserie Historique de l'Abbaye du Cateau

    RSSブログ情報:http://www.mylohas.net/2015/11/050380matisse.html
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