じつはこれを観たとき、冒頭からラストまでずーっと泣きっぱなしでした。あまりにも泣きすぎて喉がカラカラになるほど(!)。涙もろいほうではあるのですが、私の中で、思い出すだけで涙ぐむくらい心にしみこみ、体内の水があふれだす作品は、リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』以来でした。まさに近年まれに見る傑作と言っていいでしょう。
観る人の人生に重なる主人公の生きざまスウェーデンを舞台にした本作は、フレドリック・バックマンのベストセラー小説が原作。なんとバックマンは、1981年生まれだそうです。まだ30代という若さの作者が、59歳男性の生きてきた重み、心情、不器用さをリアルに表現しているのも驚きです。
「いるよね、こんなおじさん」
私たち観客は、大いに共感しながら、オーヴェという男性を見守っていくのですが、そのうち気づくのです。オーヴェは、「よくいるおじさん」ではなく、私たち自身であることに。
もちろん性別や世代などの細かい違いはあります。でも、心から愛しあった記憶、愛しい者と離れる悲しみや苦しみ、孤独、自分が思う以上に世界はやさしいこと。そういったものを、誰でも感じた経験はあるでしょう。おそらくそれらは、「幸せ」と呼んでいいものだと思います。たとえ、悲しみや苦しみがあっても、それさえもたぶん「幸せ」なのでしょう。
そして、「幸せ」を味わえるのは、生きているからこそ。自殺を試みようとしても失敗するオーヴェは、すべての感情を味わうことが、人生であり、「幸せ」であり、生きることなのだ、と伝えてくれているようにも見えます。
言いかえれば、もしかすると神様は、すべての感情を味わいきるまでは、あちらの世界に迎えてくれないのかもしれません。だからオーヴェは、最後まで「幸せなひとりぼっち」だったのだなあ、と拍手を送りたくなる生き方を教えてくれるのです。
※12月17日から新宿シネマカリテほか全国で公開
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(尾針菜穂子)