ある日、100円ショップでかぎ針の編み図が書かれたポストカードを見つけたマリアさん。それまで全く興味がなかったのに、なぜかひかれて、糸とかぎ針も購入。さっそくYoutubeで編み方を覚え、その日以来、かぎ針が手放せなくなりました。
「それまではいろいろなやるべきことを、いつも頭のどこかで考えている状態でストレスもかなり溜まっていました。でもかぎ針編みをしていると、ごちゃごちゃしたことを忘れてしまうのです」
おまけに、かぎ針編みをはじめてから、夜もずっとよく眠れるようになったとのこと。ただただ編むという繰り返しの行為が、瞑想する時にマントラを何度も唱える行為と似ているからかも、とマリアさんは言います。
記事によると、マリアさんだけでなく、かぎ針編みにいそしむ若者たちが急増。街には「編み物カフェ」も現れ、手芸店のオンラインショップでも、かぎ針関連グッズが、なんと前年の2.4倍も売れているそうです。そんな現象を、コペンハーゲン大学の社会学者、ベラ・マークマンさんは、こう説明します。
「肉体的反復運動は、脳をリラックスさせます。かぎ針しかり、プールを何回も往復して泳いだり、フィットネスクラブのマシーンで走ったりするのも、同じ効果があります」
また、多くの若者たちから、かぎ針編みをしていると瞑想しているような気持になる、と聞きとりをしているそうです。
「編み物やパン焼き、野菜を育てるなど、手を使って形があるものを生み出すことは、この時代、精神的にとても良いことなのです」
さて、マリアさんは、作品と簡単な編み方をブログで紹介しています。鍋つかみや編みぐるみ、ボレロなど、どれもかわいいものばかり。その中でも大ヒットは、ユニークなマーメイドのレッグ・ウォーマー。「私も作った! 」という読者からの写真がぞくぞくと送られ、そして3月末にはついに、あのロイヤル・コペンハーゲンのカフェでも、マーメイドのレッグ・ウォーマーが特別展示されました。
癒しのキーワードはおばあちゃん世代社会制度が整っている、ストレス度合いが低そうなデンマークですが、やはり誰しも生きていればかならずストレスは生まれるもの。とくにマイロハス年代の女性たちは、「もっと完璧な自分」を求める傾向があり、ストレスにさらされているようです。
彼女たちの「完璧な自分」とは、キャリアを築く、子どもを産む(しかも3人など、多ければ多いほど生活コントロール度が高いと思われる)、女性としていつもきれいに魅力的でいる、という確かに高いハードル。だから常にTo doリストがいっぱいで、疲れ切ってしまうのかもしれません。
そんな彼女たちにとって、ほっとできるキーワードは、おばあちゃん時代のもの。おばあちゃんが作ってくれた昔ながらの料理やお菓子などなど。癒し感のあるレトロなかぎ針編みも、そんな彼女たちの心のスイートスポットにぴったり合ったのかもしれません。
指を動かしている間に、いつの間にかもつれた気持ちがほぐれて、気がついたらすてきな作品が手元にあるなんて、デンマークらしい優しい心のリセット方ですね。