『数字で観る日本vs世界』の第3回目。「日本人格闘家のMMA戦績」をテーマに進んできましたが、今回は横道にそれて高田道場のPRIDE戦績を調査してみました。
前回最後に触れましたけど、PRIDE出場は『PRIDE武士道』ができるまでは狭き門でした。基本は重い階級、隔月開催、1大会につき8~10試合程度。無理なオファーを受諾しないと出られないケースもあったと推測されます。
一方、主催者からすればイベントを共に作り上げていく仲間が必要です。急な欠場による代打出場、ケガをおしての強行出場……そうやってピンチを救ってくれるファイターやチームには主催者はチャンスを与えます。ギブアンドテイクの世界。それは現在のUFCでも通じところではありますね。PRIDEの初期、イベントを支えていたのは高田延彦氏が主宰する高田道場でした。
高田道場には高い知名度と興行人気を誇る高田氏と、UFC-Jで優勝したばかりの桜庭和志選手が所属。この2人がいたからこそPRIDEのブレイクの道は切り開かれます。高田氏がいなければPRIDEは生まれませんでしたが、桜庭選手がいなければPRIDEの繁栄はなかったでしょう。
その高田道場のPRIDE戦績は82戦35勝43敗4分。
なんとPRIDE64大会中44大会に所属選手を派遣していました。
次が個人戦績です(勝率5割を色つけ)。
桜庭和志 26戦18勝7敗1分
松井大二郎 14戦5勝7敗2分
高田延彦 10戦3勝6敗1分
山本宜久 8戦3勝5敗
パウエル・ナツラ 4戦1勝3敗
西島洋介 4戦4敗
ユン・ドンシク 3 戦3敗
佐野なおき 3戦3敗
リコ・ロドリゲス 2戦2勝
今村雄介 2戦2敗
浜中和宏 2戦1勝1敗
豊永稔 1戦1敗
予想はしていましたが、勝ち越しは桜庭選手だけ……あ、リコ・ロドリゲスもいた~。彼を「所属ファイター」としてとられるのはいささか疑問が残りますが。なお、高田氏の3勝はカイル・ストゥージョン、マーク・コールマン、アレクサンダー大塚選手から挙げたものであります。
例によって3つの時期に分けてみます。①は創世記、②は4点ポジション後、③は世界最高峰路線のチーム戦績。
①18勝13敗2分(11勝1敗1分)
②9勝15敗2分(2勝3敗)
③8勝15敗(5勝3敗)
カッコ内は桜庭選手の個人戦績。桜庭選手のポイントゲッターぶりがうかがえますし、PRIDE後期は不調のイメージが強かったですが、しっかりとまとめています。WBC戦士内川聖一のような安定感ですが、彼が首位打者、村田修一がホームラン王になっても最下位だった横浜ベイスターズと高田道場がなんだか被って仕方ありません。
そして、これら数字から見えるのはPRIDE創設期はあれだけ密接だった高田道場の存在感の薄さなんです。次の数字を観てください。高田道場の試合機会、カッコ内はPRIDEが実施した試合数です。
①33試合(115試合)
②26試合(106試合)
③23試合(351試合)
PRIDEの大会数が増えるに反比例して出場機会が減少している。これは高田道場の所属選手が結果を残せてなかったため起用しづらかったためでしょう。DEEPなど関連イベントでの結果も芳しくありません。中・軽量級中心の『PRIDE武士道』への派遣もほぼなかったことも③の出場減少につながっています。浜中選手や今村選手以降、育成型ファイターが高田道場ファイターとして登場した機会もありませんでした。
こうして高田道場自体のファイトビジネスが下り坂となり(当時の稼ぎ頭は高田氏が扮する高田総統?)、所属選手がジンギスカン屋での労働を強いられるあたりから、高田道場としても従来通りの雇用はできなくなっていったのか、選手が次々に離れていき、ついに桜庭選手も独立へ。当初、桜庭選手は高田道場からの“暖簾分け”という位置づけでしたが、皆さんご存知のようにFEG主催のMMAイベント『HERO`s』に電撃移籍します。
当時、会見等でスポークスマン的役割を果たしていた桜庭選手の弁護士は「(PRIDEから離れることに悩む桜庭選手を)ボクらが背中を押した」というくらいですから、FEGは最高級待遇で桜庭選手を迎えたのでしょう。しかし、桜庭選手はPRIDEからすれば高田道場から独立しても是が非でも登場してもらいたいスターでしたから、契約内容で押し返すことはできたはずです。そこで桜庭選手は天秤にかけたわけではないので、それはつまり「高田氏がいない新天地」を選んだということなんでしょう。
なにより、今回ご紹介した数字からもPRIDE末期の高田道場のドンヨリ感は伝わってきますから、桜庭選手の周囲が別世界でのリフレッシュを期待するのは当然だったのかもしれません。
次回はその高田道場と入れ替わるかたちでPRIDEの有力チームにのし上がった吉田道場の戦績を見ていきます。日本が誇る柔道のアスリートたちのMMA戦績から見えてくるものは……(ジャン斉藤)
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