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大晦日RIZIN.14の前に急遽開催されることになった『平成最後のやれんのか!』、そのメインを締めるのは川尻達也vs北岡悟だ。「やれんのか!」といえば、いまから11年前の大晦日に開催された『やれんのか!大晦日!2007』のオマージュともいえるが、2つの『やれんのか!』に唯一出場する川尻達也に意気込みを伺った。




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――『平成最後のやれんのか!』が急遽開催されますが、川尻さんが出場された『やれんのか!大晦日!2007』があったのは11年前のことですね。

川尻 あっというまですね。ちょっと前にプロデビューした感覚なんですけど(笑)。ジムに来ている子が「2010年頃から格闘技を見てます」って言ってて、じゃあPRIDEやDREAMをリアルタイムで見てないんだなって。ボクにとっては常識的なことが常識ではなくなっているのかもしれないなって。

――2010年以降ってRIZIN誕生まで地上波がなかった時代なんですよね。

川尻 だからなのか、街で「川尻さんですよね?」って声をかけられて「まだやってるんですか?」って聞かれますよ(笑)。「いちおうやってます」と答えますけど。

――でも、それはいま格闘技を見てない人間にも、川尻達也というファイターの記憶は刻まれてるってことですね。

川尻 ああ、そうですね。同世代や上の世代なんでしょうけど。

――『やれんのか!大晦日!2007』に出場した格闘家の中でフルタイムで試合をしてきたのは、川尻さんと青木真也選手だけなんですね。三崎(和雄)さんや石田(光洋)くんは引退。マッハさん(桜井マッハ速人)や秋山成勲はセミリタイア状態で。ヒョードルやチェ・ホンマンも引退後に復帰して。

川尻 あー、そうなんですかね。もう『やれんのか!』に誰が出ていたのかもおぼえてないですよ。

――誰と闘ったか覚えてます?(笑)。

川尻 ルイス・アゼレードですよ!(笑)。

――正解です! 『やれんのか!』って大会開始時間がいつもより遅かったんですよね。20時開始。

川尻 あれですよね、その前に同じ会場でプロレスの大会があったんですよね。

――『大晦日!ハッスル祭り2007』ですね。

川尻 『ハッスル』にミルコ(・クロコップ)が出たじゃないですか。金村(キンタロー)さんがミルコのハイキックを食らって、リング上でいびきをかいちゃって。金村さんはそれでも夜の後楽園ホールの試合に出ようとして周りに止められたことは覚えているなあ。

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伝説のイベント『やれんのか!大晦日!2007』

――なぜ『ハッスル』のエピソードだけ(笑)。あのときはPRIDEが休止して先行きが見えない中、『やれんのか!』をきっかけにして「これから新しい世界ができる」という希望の光に満ちていたところってありましたよね?

川尻 ありましたね。こっから新しい何かが生まれるっていう。『やれんのか!』はPRIDEのケジメの大会と言われていましたけど、ボクはPRIDEに長くいたわけじゃいし、むしろ「ここから新しい何かを作っていこう!」という期待感はありました。それがDREAMで。正直『やれんのか!』よりDREAMのほうが思い入れは強いですよね。

――自分の手で舞台を作るんだ、と。

川尻 翌年の大晦日はキックルールで武田幸三選手に勝って、青木がエディ・アルバレスに勝ちましたよね。テンションが上がったまま佐藤(大輔)さんに連れられて、青木と一緒にけやき広場の特設された神社にお参りした記憶がありますね。DREAMはいろんな苦労があったんですけど、あの大晦日は幸せな雰囲気がありましたよ(苦笑)。

――あの時代って常に重い空気が流れてましたよね。

川尻 いい思い出よりキツイ思い出のほうがありますよ。

――今回対戦する北岡さんとは団体が違ったりしたことで、対戦する機会がなかったです。選手としてどういう認識なんですか?

川尻 必死にこの業界を盛り上げようとやってきた中で、パッと隣を見ると、同じようにもがいている格闘家たちがいる中に、北岡悟もいたというイメージですよね。

――一緒に「もがいてきた」という表現なんですね。

川尻 格闘技界自体が盛り下がってる中で……自己顕示欲だったり、自分のものを持っているものをさらけ出してり、なんとか認知させたいというか。それは誰のためでもなく自分のためですよね。「もっと俺たちを見てほしい!!」と、もがいてきたメンバーの中のひとりが北岡くんなのかなって。勝手にそう思っていますね。

――「自分のため」が根っこなんですね。

川尻 そうですね。その思いがなければ、他人のためにも頑張れないですし。「業界のため」ってイコールそれこそ自分のためだと思っているので。

――いまも「自分のため」が根っこですか?

川尻 うーーーん、いまはそうでもないですかねぇ。若い世代がたくさん出ているし、ボクが盛り上げるとかいうレベルではないですよね。あとは自分のやりたいようにやれればいいかなって。バンタム級挑戦もそうですけど、終わったときに心残りがないように。

――今回はギリギリの発表というか、川尻さんが出場する『平成最後のやれんのか!』自体が突然やることになりましたよね。

川尻 もともとは10月頭に某日本人選手との試合が内定してたんですよ。

――おお、それはいいカードですね。その選手は今回の大晦日に出ますけど。

川尻 会見前になって「来年のライト級GPのサバイバルマッチをやるから」ってことで外国人に変更になったんです。そうしたらまた会見前に「北岡戦でどう?」って。

――二転三転したんですね。

川尻 代わりに北岡戦という扱いは納得できなかったんですよ。川尻vs北岡はそんなに軽いもんじゃないでしょ?って。で、RIZINの事務所で榊原さんと話をしたときに「じつは午前中にもう別の大会を……」って切り出されて。ああ、それだったらやる意味があるのかなって。

――最初からそう説明してくれれば納得したのに。

川尻 そうなんですよ(笑)。

――でも、午前中に大会ができるかどうかまだわからなかったんでしょうね。開催が無理だったらRIZIN.14の中でやろうと。

川尻 ボクにとってはRIZIN.14の中に入ってメイウェザーにまぎれちゃうよりは、特別な意義があって燃えるなって。RIZIN14.の前座とかじゃなくて「自分のための大会」ということでテンションが上がりましたよね。RIZIN.14のあとにオールナイトでやろうという案もあったみたいですけど、それは最悪だなって(笑)。

――それはそれで歴史に残りますよ!

川尻 大晦日って12時頃に会場入りするんですけど、メインだと23時くらいに試合じゃないですか。あれ、スゲー地獄ですよ、長いこと待たされるので。むしろ早めに試合を終わらせてくれたほうがありがたいなって。今回は試合が終わったら、そのまま茨城の家に帰ってテレビでRIZINを見ようかなって(笑)。

――ちゃんと会場に残っていてくださいよ!(笑)。

川尻 北岡くんとは7月のRIZINでやるはずだったのが、自分の肩のケガでなくなったんですけど、周りからしても燃えるカードだと思うので。「知らない外国人選手と試合が組まれました」じゃなかなか着火できなくなっているから、そういう意味では凄くゾクゾクして燃える相手です。怖いですよ、北岡くんは。最近は戦績が振るってないけど、対戦相手がこんなに怖いのはひさしぶりですよ。

――肩のケガはもう大丈夫なんですか?

川尻 もう大丈夫です。またフルスイングでパンチができると思っていなかったんですけど。

――あら、そんな深刻なケガだったんですね。

川尻 そうなんですよ。7月のときはもう治りそうにないから、右手だけで北岡くんと闘ってそれで終わりでもいいかなって思っていたくらいなんですけど。あるお医者さんが「絶対に治るから大丈夫」って。無理しなくてホントによかったなって。

――大晦日に試合がないと、格闘家として満たされない感覚ってないですか? 

川尻 ああ、それは毎年ありますよ。「今年の大晦日はあるのかな。そこで俺は闘っているのかな……」って。ずっとですよ。

――大晦日って日本格闘技界の精神的支柱みたいなところはありますね。

川尻 今回もメイウェザーがちゃんと来日して試合が成立するのかなって。もしこの試合がなくなったら、周囲のテンションもタダ下がりじゃないですか。

――ほかにどんなに素晴らしい試合があっても、大会自体にケチが付いちゃいますよねぇ。

川尻 大晦日の格闘技は続けてほしいですね。なくなったら日本の格闘技が終わっちゃうんじゃないかなって。大晦日と佐伯繁がなくなったら日本の格闘技界が終わりそうですよ(笑)。

――佐伯さんはこないだ昼飯に親子丼と天ぷらうどんを平らげて、デザートに「からあげくん」をいただいてましたからね。健康状態が心配ですよね(笑)。いまはSNSもあるから選手の自己顕示欲が満たされやすい環境はあるじゃないですか。

川尻 うらやましいなって思いますよ。放っておいても、という言い方は悪いですけど、試合に勝てば有名になれちゃう。ボクの場合は試合がそんなに面白くなかったからアレですけど、そこまで評価されなかったなって。テレビにもそんなに映れなかったし。

――でも、最初の話に出ましたけど、「まだやってたんですか?」って記憶に残ってるわけじゃないですか。ファンと交互交流がしずらかっただけで、認知度は当時のほうが高かったんじゃないかなって。

川尻 ああ、たしかにブログとか1日のページビュー10万とかあったりしましたからね。

――こないだある人と話をしてて「いまは満たされやすいから、試合に勝ってるわけでもない格闘家が勘違いしやすい」と。

川尻 あー、なるほど。間違っても勘違いできなかったなあ。俺も1回くらい勘違いしたかったですよ。上には上がいるし、そばにマッハさんがいたので。全盛期のマッハさんの強さを知っているから、勘違いはしないですよね。茨城で調子に乗っていたらビンタされますから(笑)

――ハハハハハハハハ!

川尻 五味くんも青木もいたし、俺よりも実績が凄い選手いたので、間違っても天狗にはなれないですよ。そこは勘違いできる環境ではなかったですし、それは北岡くんもそうかもしれないですけど、やっぱり満たされていないんですよね。ファイターである以上、ずっとそうなのかもしれないですけどね。

――この10年間を生き抜いてきた選手は、簡単には満たされてないのかもしれないですね。

川尻 この世代はそうかもしれないですけどね。

――五味ちゃんは「テレビに映りたい」で、青木選手は自分の言動を肯定されたい。川尻さんはなんなんですかね?

川尻 なんなんだろう? これといってチヤホヤされたくないですし。

――「俺だけは違う」と言いたいですか?(笑)。

川尻 「有名になりたい!」とも思ってないんだけど、満たされてない感はすっごくありますよ。納得したいんですよ。

――そこはDREAMでやりきれなかったからですかね。

川尻 それもありますし、DREAMで格闘家としての人格を作られたというか。ああいうつらい思いはしたくないし、何か日本の格闘技界のために協力したというか、それは自分のためですよね。ああいう思いをする人が増えてほしくないので。しんどかったですからね。もうあとは悔いを残すことなくできれば。五味くんや青木ともう1回やれればいいですけどね。あとは堀口くんとかに任せて。彼らはボクらができなかったことをやってるじゃないですか。

――卑屈ですね!(笑)。

川尻 いやいや、大変なんですよ、世界と闘うって。天心くんとかも考えられないことをやってますよ。

――川尻さんがUFCのフェザー級のランカーとやりあっていたのは、ほんの2年前の話なんですけどね。世界とやってたんですよ。 

川尻 UFCで闘ったカブ・スワンソンもデニス・バミューデスもいまは戦績が振るってないし、新陳代謝が激しいですよ。1年前に知らなかった選手が次々に出てきて。同世代のジョン・チャンソン(コリアン・ゾンビ)はよくやってるなって思いますし。

――10年生き残り続けるってだけでも大変ですよ。

川尻 もう1回やれって言われてもイヤですよ(苦笑)。

――「やれんのかって、やるに決まってるでしょ」の人が(笑)。でも、一期一会だから「やれんのか!」という言葉にも重みがあるんでしょうね。<おしまい>

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