宇宙開発の裏話を楽しみつつ、自分の道を切り開く術を学ぼう!
今年2月のアカデミー賞では作品賞ほか3部門でノミネートされた話題作であり、本国では『ラ・ラ・ランド』以上にヒットした話題作がこの『ドリーム』。1960年代のNASAで、人種差別と女性差別のダブルパンチにも決してめげることなく道を切り開いた3人の女性の姿を描いた実話ベースの作品です。で、なぜ本作をぜひ観ていただきたいかと申しますと、エンタテインメントとして面白いっていうのはもちろん、彼女たちが見せる"自分の道の切り開きっぷり"には、現代を生きる我々にも学ぶところが実に多いからなのですよ。
数学的才能でエリートの白人男性たちを軽く凌駕していたキャサリン・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)。現在、NASAには"Katherin G. Johnson Computatuonal Research Facility"という彼女を名を冠した施設もあるほどその貢献度は絶大。
ⓒ2016Twentieth Century Fox
幼い頃から数学の天才っぷりを発揮して10歳で高校へ進学したほどのキャサリンは、NASAでコンピューター(計算する人、として使われていた言葉)として頭角をあらわします。が、白人男性ばかりのセクションで黒人女性が舐めた辛酸は相当なものでした。複雑なロケットの軌道計算をどれほど見事に成し遂げても、誰も彼女の人格を認めない。NASAほどの精鋭かつ能力至上集団であっても、人種差別や性差別が「フェアじゃない、合理的じゃない」と認識されていなかったのかと愕然となったヤワな私ですが、キャサリンや2人の同僚ドロシーとメアリーらは決してくさることがない。いや、散々くさってきたのかもしれませんよね、ここまでの人生で。飽きるほどくさり、しかし、それでは道を切り開けないってことを痛感したのかも。揺るがない何かを、面構えからも感じさせる3人ですから。
一方、黒人女性コンピューターチームのリーダー的存在でもあったドロシーは、館内に搬入されるIBMの大型コンピューター(当時、ようやく登場した機械型コンピューター)を目撃し、自分たちの計算能力は近いうちに機械に取って代わられると気づきます。そのとき彼女がどう行動したか。誰よりも早くフォートラン・プログラミングを習得しようと決意し、同僚の黒人女性たちにもこれを呼びかけたのです。戦略的に"必要な人材"になる努力によって(場合によっては的確にチームを率いながら)道を開く。激変する環境に対応して行かなければならない我々にとっても、これ、少なからず必要な姿勢ではないかと思うのです。白人女性上司(キルスティン・ダンスト、嫌われ役を地味に好演!)が最後にドロシーを何と呼んだか。しっかり見届けてくださいね。
前例になることの意義、前例になることを恐れない勇気メアリーの説得に心揺さぶられずにはいられない
花形宇宙飛行士ジョン・グレンに臆することなく握手する才色兼備、メアリー(ジャネール・モネイ)。センスのいいコスチュームも見どころ。
ⓒ2016Twentieth Century Fox
そして3人目。後にNASAでは黒人女性初のエンジニアとなったメアリーは、鼻っ柱が強い系才色兼備。個人的には最も惹かれた登場人物です。(人種差別を能力で克服したユダヤ人研究者に)能力を見込まれた彼女は、計算専門のコンピューターチームから技術部へ転属。しかし、エンジニアに昇進するためには、白人のみが入学を許される学校で単位を取らねばならないという壁にぶつかります。
この資格を勝ち取るべく、彼女は裁判所で判事にどんな説得の弁をぶつけたか。前例であることの意義を訴える、未来に対する肯定感に満ちたあの台詞はエンジニアやリケジョだけのものにあらず。「今日、処理する案件で100年後も意義があるのは? どの案件があなたを"前例"にしてくれますか? 」と迫る、堂々っぷり。懇願ではなく、賢明な説得。そして、何より心に残るメッセージとしてぜひ立ち会って欲しいシークエンスです。
NASAの宇宙開発が、人による怒涛の計算で支えられていた事実は聞いたことがあっても(それでもスゴすぎますが)、アフリカ系アメリカ人女性が差別に抗いながらこれほどに活躍していたという隠れていた事実に改めて驚かされます。本作、原題は"Hidden Figures"。宇宙開発には欠かせない、しかしまだ"見つけられていない計算式"に、"隠されてきた人たち"が懸命な努力でたどり着こうとする物語につけられた、本当によくできたダブルミーニングのタイトルです。差別という苦難に立ち向かうという大きなテーマを持ちつつ、輝かしい未来を信じて未踏の領域に踏み出していったあの時代の空気がとても清々しく描かれた、エンタテインメントとしても文句なしの快作です。
『ドリーム』
監督:セオドア・メルフィ
原作:マーゴット・リー・シェタリー
出演:タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ、ケビン・コスナー、キルスティン・ダンスト、マハーシャラ・アリほか
音楽:ハンス・ジマー、ファレル・ウィリアムス、ベンジャミン・ウォールフィッシュ
公開表記:9月29日(金)TOHOシャンティ他、勇気と感動ロードショー!
配給:20世紀FOX映画
ⓒ2016Twentieth Century Fox