サイレント・ディジーズと呼ばれる歯周病。痛み、出血があったら要注意報!
Q.歯周病とはなんですか?歯周病の原因は? 歯肉炎との違いとは?
歯周病で歯肉から膿が出たりする原因は、歯周病原菌が出す毒素です。つまり、歯周病という状態は、歯周病原菌が口の中で繁殖している状態になります。
歯周病原菌がいれば歯周病ですし、いなければ単なる歯肉炎です。単なる歯肉炎は歯磨きすれば治りますが、歯周病原菌がいれば、どんなにきれいに歯を磨いても歯周病は治らないのです。
歯周病になると、歯の周囲の骨が溶けてなくなります。一方で歯肉炎は歯肉だけに炎症が起きた状態です。これは大きな違いですが、意外と自分ではわかりにくいので専門的な診断をお勧めします。
口の中に蓄積される細菌のかたまりであるプラークには、600~800種類の細菌が存在していると考えられています。中でも赤信号という意味の「レッド・コンプレックス」と呼ばれる3種類の菌が歯周病に関連が深く、歯周病原菌と考えられます。プロフィロモナス・ジンジバリス、トレポネーマ・デンティコラ、タンネレラ・フォーサイシアです。この歯周病原菌がいるとなると大変です。歯周病が進み、骨がどんどん溶けてなくなってしまうと考えて下さい。また、歯周病は菌の種類によってタイプが違いますので、正確な診断には歯周病原菌の検査が有効です。
さて、日本人が歯を失う原因の第一位は何だと思いますか?
答えは、歯周病です。全体の4割を占め、虫歯を上回っています。歯を残すために、最も取り組むべきは歯周病ですよね。
Q.歯周病を防ぐために必要なことは?歯周病はうつる?
歯周病はうつります。歯周病原菌は、歯ブラシやキスなどによって口から口へとうつるので気を付けなければなりません。ただし、歯周病原菌が定着するかは、個人の免疫の状態によって変わってきます。免疫の力が強ければ、入ってきた歯周病原菌をやっつけることができるのです。ですから、歯周病原菌が口の中に入っても、必ずしも感染することはありません。
歯周病原菌の感染を防ぐためには、歯ブラシの共有は避けた方がよいです。また、キスのときにはいやな口臭があるかどうかのチェックは忘れずに。
一方で、菌の繁殖を防ぐために歯ブラシは定期的に新しくするのも大切です。さらに菌の感染には、全身の免疫力が関係しますから、全身を健康に保つことも大事です。
特に歯周病は歯肉の病気なので、歯肉に栄養を与えている血管の健康には注意してください。逆に歯周病が血管を痛めてしまうこともあります。人は血管から老いるということから考えると、歯周病は全身の老化度を映す鏡と言えるかもしれませんね。
Q.歯周病に気が付くきっかけは?歯周病と痛みの関係は?
歯周病は、ごく初期の段階では気がつきません。「サイレント・ディジーズ」と呼ばれることもあるくらいです。歯肉からの出血や痛みが出てくるときには、かなり進行した段階と考えていいです。痛い歯だけではなく、他の歯も歯周病が進行している状態と考えた方が良いでしょう。他には、歯が動いてきたり、口臭がしたりすることから気づくこともあります。いずれにしても、初期には症状がなかなか現れないので注意が必要です。
歯周病が進行し、歯肉に膿がたまったり、歯周病原菌が歯の神経に感染したりすると強い痛みがでます。その様な時、骨はかなり溶けてなくなっていて、すでに歯がグラグラのことが多いでしょう。一度溶けてなくなってしまった骨は、再生医療の進歩をもってしても、健康な状態への回復はほとんど見込めません。歯周病は、なるべく早い段階で発見し治療することが大事です。
歯周病が心配なときには、あとでご説明をしますように歯医者さんで検査を受けることをお勧めします。
Q.歯周病の初期にチェックリストで確認するとしたら、どんな項目を見るといいですか?
自覚症状としては次の点に注意するとよいでしょう。
歯茎から出血したり、膿が出たりする 口臭がする朝、口の中がネバネバする 歯茎が腫れて赤い歯が長くなった 硬いものを噛むと痛い 歯がグラグラする 歯茎がやせてきた 歯並びが悪くなってきた 歯と歯の間のすき間が大きくなり、物がはさまりやすいまた次のような場合にも要注意です。歯周病に取り組んでいる歯医者さんで相談するとよいです。歯医者さんの中でも歯周病に熱心に取り組んでいる人がいますので、その視点から探してみるとよいでしょう。
歯周病は治らないとあきらめている。 よく歯を磨いているのに、ときどき歯肉が腫れる。 定期的にクリーニングに通っているのに、ときどき歯肉から出血する。 体調によって歯茎が痛い。 何年も歯周病の治療をしている。 何年か前に歯周病といわれたが、それ以来治療はしていない。Q.歯周ポケットと歯周病との関係は?
歯と歯肉との間のすき間が、歯周ポケットと言われているところです。従来、歯周ポケットが4mm以上だと歯周病と診断されてきましたが、1~3mmだからといって歯周病原菌がいないわけではありません。昔、たくさんの人を対象に測ったときに、1~3mmの範囲だと、歯周病原菌が少ないと示されたにすぎません。
ですから、歯周ポケットの深さは目安の一つで、歯周ポケットが1~3mmで浅いからといって、歯周病ではないと安心できるわけではありません。ここはポイントです。
歯医者さんで、歯周ポケットが浅いときに歯周病ではないといわれることもありますが、あくまで統計学的な目安ですので、今時、そこを根拠に歯周病を診断するのは正確とは言えないと考えています。歯周ポケットが1~3mmでも、どんどん骨が溶けて歯肉が痩せていくことだってあるのです。歯周病の原因は歯周病原菌ですから、歯周病原菌の検査が大事なのです。
Q.歯周病は遺伝と関係する?
歯周病は遺伝と関係すると考えられています。ですから、家族で歯周病になりやすい人がいるような場合には、ご自身も注意すると良いでしょう。遺伝と関係するため、夫婦でも旦那さんと奥さんの両方に歯周病があることがあれば、片方だけに歯周病が見られる場合もあります。両親のどちらかが歯周病であるときには、子供の歯周病には気にするとよいでしょう。
Q.歯茎から出血との関係は?口臭が起こる?
歯茎からの出血は歯周病と関係しています。明らかに出血していると分かるときもありますが、じわじわとにじんで気がつかない程度の場合もあります。一方で、口臭は歯周病ならではの独特なにおいが現れるようになります。唾液がネバネバするようになったら注意するとよいでしょう。
Q.歯周病になると歯への悪影響は?悪化するとどうなる?
歯周病になると、歯を支える骨がなくなります。歯が正常であっても、支える歯がなくなると、噛む力に耐えられなくなり、歯が揺れてくるのです。ひどいと歯を失う結果にもなります。さらに、歯周病で歯肉が痩せたために見えてきたしまった歯の根っこは弱く、虫歯にもなりやすくなるなど、歯への悪影響も出てくることも。
また、歯が動くことで、かみ合わせも悪くなります。そうなると噛む力も出ず、身体全体の力も入らなくなります。ひいては、全身の健康状態にまで問題が及んでしまうのです。
Q.歯周病と歯磨きの関係は?効く歯磨き粉はありますか?
歯磨き粉は何を使ってもいいと考えています。どんな歯磨きペーストでも、その成分で歯周病が治るわけではないからです。歯周病は、残念ながら、そんな簡単な病気ではありません。予防のために歯磨きをすることで、歯を清潔に保つことは大切ですが、治すためには歯医者さんを訪ねることが重要です。1つ付け加えると、特に小さな顆粒が入った歯磨きペーストは要注意です。歯周ポケットに入り込み、細菌が繁殖するきっかけになったりします。
Q.歯周病の検査とは?
歯周病の検査としては、歯周ポケットも参考とされますが、歯周病原菌の存在を調べる検査を行うことがより確実です。歯周病原菌の遺伝子を調べる検査になります。保険適用はされない検査なので自己負担がありますが、「歯周病かどうか」、また「どのタイプの歯周病なのか」を調べるためにはより確実な方法と考えられます。
歯茎の組織が壊れていたり、出血しやすくなっていたりすれば、歯周病が進んでいる可能性があります。歯や歯槽骨の状態は、X線撮影によって確認します。現在では、CTを使った検査でより確実に調べることができます。
Q.歯周病の治療とは?歯周病は薬で治る?歯を抜く必要がある?
歯周病の治療は、歯周病原菌をなくすことが大切です。口の中の治療も大切ですが、歯周病原菌は全身に広がっている可能性があり、口の中はもとより全身をターゲットとした抗生物質を使った除菌が有効です。さらに言うと、歯周病菌の種類によって、効果がある抗生物質が違うので、歯周病原菌を特定する検査が大事になってきます。腫れている歯肉や歯石ばかり見るのではなく、根本的な原因である歯周病原菌をターゲットとした治療が重要です。歯周病というのは見えない菌との戦いなのです。そこを中心に考えるとよいでしょう。
歯のクリーニングをすることも大切です。その際にも全体を一気にクリーニングするのが有効だと分かってきています。歯周病の治療のために、歯の再生治療といった方法も登場していますが、未知数というのが正直なところです。歯周病原菌を踏まえた除菌治療の研究は進行中ですので、今後、まだまだ改善の余地が残っていると考えられます。
Q.歯周病と病気との関連性は?
歯周病は身体の炎症と関連していると知られています。糖尿病があると、身体の炎症が起こりやすくなりますから、歯周病にもなりやすくなります。炎症によって、血糖値を下げるホルモンのインスリンに影響を及ぼしてしまい、血糖値が下がりにくくなることも分かっています。
逆に、歯周病になることで、全身の炎症が起こりやすくなります。歯周病を治療すると、糖尿病の治療効果が改善するようなケースを見ることがあります。
歯周病の炎症の影響で、全身の血管で血液が固まりやすくなってしまいます。この結果、血管が固くなる動脈硬化が起こって、心筋梗塞や脳卒中などの血管の病気が起こりやすくなる恐れもあります。歯周病は口の中の感染ですが、誤ってこの細菌が肺に入ることで、肺炎を起こすこともあります。
歯周病が進行すると、噛めなくなりますので、全身が衰弱することもあります。人が元気であるときには、しっかり食べ物を噛んで飲み込むことができます。その流れの中で、噛めなくなったり、飲み込みにくくなったりすると、栄養摂取の効率が悪くなったり、高齢ですと誤嚥性肺炎の原因になったり、奥歯で噛めないと全身の力が入らなくなったりします。いつまでも噛めると元気にもつながるのです。
いつまでも若く元気でいるために、歯周病の対応は重要ですし、全身が健康でいることが歯周病を防ぐのです。
徳永淳二(とくなが・じゅんじ)先生
歯科医師。医療法人メディスタイル理事長 。 「美しく健康な生活を医学の力でサポートします」のコンセプトの下で、美容皮膚科と形成外科、歯科の診療を同じクリニックで提供。東京医科歯科大学を卒業後、勤務医などを経て、スウェーデンのイエテボリ大学にてDr.ウィドマークに師事し、神奈川県逗子市にて開業。逗子メディスタイルクリニック
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