気がかりなのは、「鈍化」という現象。見映えのするものばかり追い続けると、刺激になれて感受性が鈍くなるため、日常的な場面に「おもしろい」より「つまらない」と反応することが増えてしまうのです。
となりの芝生の青さを気にせず、今を楽しむには行動心理コンサルタント 鶴田豊和さんの『「つまらない」がなくなる本』(フォレスト出版)は、私の「鈍化対策マニュアル」とでもいうような一冊で、自分がちょっと余計なことをしかけているなと思ったとき、この本を参考に意識を変えるようにしています。
鶴田豊和 著 『「つまらない」がなくなる本』/ 1,400円(税別)効果実証済みの心理テクニックを用いて「つまらない」とうまく付き合う方法を、わかりやすく解説してくれています。
目の前のことに無我夢中になるSNSで頻繁に投稿していると、自分の内側に意識が向きすぎて視野がせまくなることも。「この写真、つまらないかな」「自分のしていることがつまらないんじゃないかな」「こういうことをしている自分ってつまらない人間かな」と自分の行動の意味を問いすぎる状態を、この本では「自分病」と呼んでいます。そういうときは、むりに画像を盛ったりネタに走ったりしては自意識をこじらせることに。
自分病を克服するには目の前のことにただ夢中になればいい、と鶴田さん。無我夢中になってしまえば、自分がどんな顔をしているか、おしゃれかどうかなんてどうでもよくなる。我(自分)という意識がないから、自然にリラックスしてそこにいられます。
人との比較で価値をはからない自分が微妙に調子を落としているタイミングでインスタグラムをチェックすると、他の人と比べてそのものの価値をはかりがち。社会学用語で「相対的剥奪」と呼ばれる状態に陥ることに。
これには、比べることに意味がないと気づくことが大切。好きなもの、しあわせを感じるモノやコトというのは、あくまでも個人的に意味や価値があるので、客観視しすぎると良さがわからなくなる場合も少なくないのです。他者からの評価とは関係なく自分自身の「好き」に正直に向きあっていけば、つまらない感じは遠のいていきます。
「好き」や「しあわせ」を特別視しない「好きなこと」「しあわせなこと」をむりに探そうとしないことでも、つまらなさを手ばなすことはできます。なぜって、「好き」や「しあわせ」は探すのではなく気づくものだから。
この本は、何もしていないのにいつの間にか訪れる「理由なきしあわせ」を大切にしています。インスタ映えしそうにもない特別ではない時間を淡々と過ごしていれば、だんだん「ちょっと好き」「ちょっとしあわせ」になってくる。じつは、そういうタイミングで撮った写真のほうが、ねらって撮ったものより評判がいいという逆転現象も多いです。
実感がわくようなチャレンジをでも、目に映るものがどうしてもつまらないなら、チャレンジが必要。鶴田さんは、本当はやりたかったけどこわくてやめていた何かに挑戦すると、「生きている実感」が湧いてつまらなさを消してくれると言います。
そういえば、SNSがご近所散歩写真だらけで地味......という理由ではじめたソロキャンプに、すっかりはまってしまった女性のエッセイを読んだことがあります。著者のインスタグラムを覗いてみたら、つまらなさを完全に消し去った充実感にあふれていました。その人の内面を満たせるなら、インスタ映えを意識した行動も否定できないと思いました。挑戦のポイントは、手が届くか届かないかというギリギリの線をねらうこと。大がかりなキャンプは大変でも個人で楽しめる規模なら、といった具合に、少しむずかしいけれどがんばればできるレベルのことが、「つまらない」の解消にはぴったり。
「つまらない」はちょっぴり「ありがたい」この本が教えてくれるのは、「つまらない」という感覚は自分に大切な何かを伝えようとしているシグナルだということ。派手なことに逃げずにそのつまらなさにじっくり向きあってみれば、おのずと原因が見えてくる。つまらないのは自意識のせいか、人との比較がもたらすものか、あるいは挑戦が必要なのか。
原因を知って解消できたとき、「つまらない」はだいたいが「楽しい」に変わってくれます。真っ只中にいるうちはあまりうれしい気がしませんが、「つまらない」は結構役に立つ、ありがたい感覚なのかもしれません。
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