-
75億円はGFLではなくRIZINに投資したほうがいい■シュウ・ヒラタのMMAマシンガントーク
多くのMMAファイターをマネジメントするシュウ・ヒラタ氏が北米MMAシーンを縦横無尽に語りまくるコーナー!15000字でお送りします! この原稿はニコニコ生放送で配信されたものです(聞き手/ジャン斉藤)
・朝倉海の即UFC王座挑戦は「オーストラリアの◯◯」がきっかけ?■シュウ・ヒラタ
・ベラトールファイターが画策するRIZIN移籍■シュウ・ヒラタのMMAマシンガントーク
・朝倉海の即UFC王座挑戦は「オーストラリアの◯◯」がきっかけ?■シュウ・ヒラタ
──今回は後半でUFC独禁法訴訟について聞こうかなと。シュウ ようやく決着がつきましたよね。やっぱり日本でも話題になってるんですか?
──日本人選手向けの説明会で「シュウさんが誰かとケンカした」みたいな中途半端な情報だけが出回っていますね(笑)。シュウ あー、それは例のローズ(・グレイシー)ですね(笑)。わかりました、そのへんをご説明します。
──まずUFCのニュースからなんですけど、PFLからリリースされたパトリシオ・ピットブルがUFCと契約しました。シュウ 契約できてよかったですね。詳しい話を聞いてないのでわからないんですけど。PFLにはリリースしてもらえなくて弁護士を雇ってケンカしている選手も何人もいる中で、彼がリリースされたのはなぜなのかなと思ってるんですけど。──UFC移籍を希望するアーロン・ピコはいわゆるマッチング期間が1年近くあるような口ぶりなんですけど、そこは選手によって違うんですね。シュウ マッチング期間とは、たとえばアーロン・ピコはUFCと交渉してかまわないけど提示された契約内容はPFLに知らせる。PFLが同条件のオファーを出したら、ピコは残留するしかないと。そのマッチング期間がどれくらいあるのか。本来ならばUFC、ベラトール、PFLでもマッチング期間はみんな同じはずなんです。そこは公平にしないと「あの団体はこうなのに」って不満が出るじゃないですか。独占交渉期間やマッチング期間も、3ヵ月や6ヵ月がスタンダードになっているんですよ。ただ、最近のトレンドとしては独占交渉期間がなくなっていることが多いんですよ。要するに契約が終わったら、そこからマッチング期間が必ずあるということですね。その代わり独占交渉期間はない。──でも、マッチング期間1年って長くないですか?シュウ 正直申し上げて、マッチング期間自体がナンセンスだったりしますよね。大昔にエディ・アルバレスがベラトールからUFCに移ったときもすごく揉めたじゃないですか。だってUFCとベラトールではファイトマネー以外にも違いがある。UFCは公式ユニフォームのVenumからお金が出る。5万ドルのファイトボーナスが取れる可能性がある。チャンピオンになったらPPVのシェアがもらえる。それをマッチングできる団体って基本的にはないですよね。──UFC以外は無理ですよね。もしくは基本給を莫大な金額にするしかない。シュウ そうなんです。UFCが30万ドルを提示して、PFLが同じ金額でマッチングしたとしても、他に付属する条件まですべてマッチングできるかというと……弁護士闘争するとほぼ選手側が勝っちゃいますよね。実際にエディもベラトールからUFCに移ったわけですから。はっきり申し上げると、UFCに移籍したい選手にとって、1年間は長いと思いつつも、マッチングできないから大丈夫だろう……という安心感はすごくあります。──すぐに勝負がつくものだからこそ、1年という期間はもったいないですよね。シュウ 裏を取ってないかわからないですけど、もしかしたらPFLの選手たちは独占交渉期間があったりするのかもしれないですよね。パトリック・ミックスなんかもリリースされてないし、(セルジオ・)ペティスのコーチもよく知ってるから、時々やり取りするんですけど、やっぱり弁護士を雇ってPFLと交渉しているみたいなことを聞いてるので。──団体からすれば大金を払っていたわけだから、1年くらいの足かせはつけさせてくれってことなんでしょうけど。シュウ そういう理由もあると思いますね。たとえばペティスがRIZINに行こうとしても、RIZINがPFLと同じ条件を出さないといけないじゃないですか。──ベラトールから引き継いだファイトマネーは高すぎるんですよね。だからPFLも使えないんですけど(笑)。シュウ ひとつ言いたいのは、ベラトールのトップだったスコット・コーカーは、日本の旧K-1と仕事をしたことがキャリアの始まりだったじゃないですか。これをいうと日本人はイヤな気持ちになるかもしれないですけども、コーカーは日本のプロモーターの悪い部分を受け継いでいると非難を受けているんですよ。──日本のプロモーターの悪いところって、心当たりがありすぎます(笑)。シュウ どういうことかといえば、契約しないでハンドシェイクだけで試合を決めるけど、あとで条件を変えちゃうとか、約束を守らないことがあると。コーカーと一緒に働いていた人たちはそういうふうに言いますよね。そんなコーカーのやり方からすれば、選手によって条件が微妙に違うことはありえるかもしれないです。──それでいえば、ファイトマネーが高すぎて試合が組まれなかったゲガール・ムサシがPFLと揉めてリリースされましたけど。ベラトールをPFLに売却する寸前に契約更新したときに、さらに昇給してるんですよね(笑)。あれじゃPFLはとても使えないです!シュウ それがコーカーのやり方だと思うんです。ストライクフォースからベラトールの流れを見てもおわかりだと思いますけど、引っ張ってくる選手が同じじゃないですか。オランダのゴールデングローリーのルートや、自分のファミリー的なマネージャーやファイターたちを大切にして、お金もいっぱい払ってくれる。そういうファイターたちにとっては、いいプロモーターなんですよね。──でも、「それ以外のファイターからすれば」ってことですね。シュウ そうなんですよ。ボクも1度、2度ばかりスコットとすごく揉めて、試合日の朝3時までずっと交渉したこともあります。ビザを取らないから源泉しないという約束だったのに源泉されたから、その分を取り返すのに数ヵ月かかったとか。これ、最後なんて、ニューヨークに彼が来たときにわざわざ滞在しているホテルまで行って、最後のお金取り立てましたからね(苦笑)。あるときなんかは計量後にファイトマネーの再交渉をしたいと言ってきて。それは当然、断りましたけど。── コーカーはけっこうめちゃくちゃですね(笑)。シュウ だけども、いい部分もあるんですよ。アーロン・ピコみたいな選手は「育てる契約」で優遇していたと思うんですよ。──最初からファイトマネーもいいし、マッチメイクも計画的で。シュウ だから簡単には移籍できない契約だったのではないかなと。──アーロン・ピコがUFCに移っても以前よりギャラはおそらく安くなるはずですよね。それくらい好待遇だった。シュウ そうだと思います。でも、ベラトールがああなってしまって、PFLでもそんなお金は払えない以上、選手たちはそんなに強気なことを言ってられないわけですよ。──セルジオ・ペティスなんかも、早くリリースしてもらって、金額が以前より低くてもRIZINで試合したいんだろうなって感じですもんね。シュウ 私もそう思いますね。たとえば大げさなことをいえば、ベラトールのギャラの半額だろうが、それこそ4分の1だろうが、ゼロよりもいい。だって、仕事をしなくちゃお金を稼げない。自分の家族を養わなきゃいけないわけですから。・新興金満団体GFLの資金は75億円・ヘッドコーチのストリックランド批判・JTTエリー離脱に思ったこと・独禁法訴訟、未登録日本人は1名・日本人選手向けに集団訴訟説明会
・RIZINは「アジアの団体」を超えられる・アメリカのスポーツベッティング・PFLの抜き打ち検査は「?」……15000字インタビューは会員ページへ続くいま入会すれば楽しめる3月コンテンツ
◎佐藤大輔☓笹原圭一■格闘技の煽り方にまつわる雑談24,000字
◎「レスリング虎の穴」のストライカー野村駿太インタビュー
◎赤田プレイボイ功輝ロングインタビュー◎「生殺与奪」を跳ね返したシュートボクサー、奥山貴大
◎【現役復帰】前田吉朗「ボクはプロレスラーのつもりです」
配信アーカイブ福田龍彌のオブリガードMMAトークJMOCとは何か 競技運営の歴史を探る……などなど
関根シュレック秀樹の「格闘技犯罪講座」vol.2
配信予定
佐藤将光「ニワカを見分けるセンターライン配信」
https://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/202503 -
クリス・ブルックスvs高梨将弘の事故について■事情通Z
プロレス格闘技業界のあらゆる情報に精通する「週刊プロレス事情通Z」のコーナー。今回のテーマはクリス・ブルックスvs高梨将弘の事故についてです!
――DDT旗揚げ28周年記念の後楽園ホールのメインでクリス・ブルックス選手に挑戦した高梨将弘選手が試合後に動けなくなり、緊急搬送されるアクシデントが発生しました。事情通Z 3月22日時点でDDTから公式発表された以上のことは何も伝わってきていない。まだ精密検査を受けている段階。試合直後に高梨選手本人も言ってたみたいなんだけど、腕に痺れがあって下半身が動かない。おそらく首の頚椎を痛めたんじゃないかと。精密検査で終わっても発表まで時間はかかるというか、たとえばリハビリ期間にしても具体的なことは言えないかもしれない。
――ケガは試合のタイミングだったんですか?Z フィニッシュが雪崩式プレイングマンティスボムからの正調プレイングマンティスボムだったんだけど、雪崩式のときにちょっと落ち方が変だった。高梨選手がクリス選手の上に乗っかるようなかたちで落ちて後頭部を打っている。その直後に高梨選手は首を押さえて痛がっていた。もしかしたら何かしら首に違和感がある状態だったから、最後のプレイングマンティスボムを食らったときに受け身がうまく取れなかったのかもしれない。
――つまり雪崩式プレイングマンティスボムのダメージもあって受け身が取れづらかった可能性があると。
Z 雪崩式の直後にカバーがあれば、そのままスリーカウントが入ったり、レフェリーや相手に目や口で異変を合図できたかもしれないけど、流れ的にはそのままフィニッシュに向かってしまったからね……。
――Xでフィニッシュのプレイングマンティスボムが切り抜かれて「こんな危ない技をやってる!」と批判されてますね。
Z プレイングマンって要はダブルアーム式パイルドライバー。これは書けないですけど、基本的には頭から落とさないじゃないですか。――いや、もう書いていいと思います。ものすごく勘違いしてる人が多いから。プロレスの歴史を振り返ると、頭から落とした危ない技もありますよ。でも、頭から落としているように見せる技もある。Z たとえばWWEではパイルドライバーは禁止技になっているが、ちょっと前にケビン・オーエンズが使ったときはよく見ると頭から落としていないし、反則技で出場停止になるストーリーラインだった。WWEの禁止技ポリシーは内部で変更されることがあったり、ビッグマッチでは特例として認められたりする場合がある。話を戻すとプレイングマンティスボムも前提として頭や首から落とす技ではないんだよ。誤解しないでほしいのは、だからってダメージがないわけじゃないし、一般人が受けきれる技ではない。技を繰り出す選手と、受ける選手の技術によって成立する。・プロレスの技はすべて危険・頭から落とす技は少なくなった・純粋なレスリングだけでも試合を作れるか・「昔のプロレスはよかった」のか……続きは会員ページへ
いま入会すれば読める3月更新記事
・プロレス映像作品の世界■今成夢人・【追悼】西村修17,000字インタビュー・ノア道場に闇はあるのか■プロレス事情通Z・中野たむvs上谷沙弥の「引退マッチ」に騙されたい・海野翔太はなぜ優遇されるのか■プロレス事情通Z佐藤大輔☓笹原圭一■格闘技の煽り方にまつわる雑談24,000字
などなど続々更新!
https://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/202503
-
『極悪女王』、『アイアンクロー』……プロレス映像作品の世界■今成夢人
『極悪女王』、『アイアンクロー』……プロレス映像作品の世界をプロレスラー兼映像作家の今成夢人に伺います!(聞き手/ジャン斉藤) *2月3日に配信されたものを再構成したテキストです
――今日はプロレスラーで映像作家の今成夢人さんをお呼びして、昨今のプロレスの映画作品などを振り返っていただきます。今成 よろしくお願いします。
――お久しぶりですね。新宿の居酒屋で松澤チョロさんと取材を兼ねて飲んで以来ですね。
今成 チョロさんと3人でやりましたね(笑)。
――あのときはまだDDT所属でした。
今成 サイバーファイトの社員でしたね。
――あらためて今成さんの現在の立ち位置を説明していただきたいんですけど。
今成 おととしの9月末にサイバーファイトを退社して、いまはフリーの映像作家として仕事をしています。プロレス以外の企業のVTRを作ったりするお固い案件もあったりとか。プロレスラーとしてはいまはガンバレ☆プロレスです。ガン☆プロもサイバーファイトから独立してます。あと飯伏プロレス研究所という飯伏(幸太)さんのチームの一員というか。ほとんど名義貸しみたいな感じですけど(笑)。
――名義貸し?(笑)。今成 「名乗っていいよ」みたいな感じで。一応2団体所属です(笑)。
――プロレスラーでありながら映像作家の二刀流というわけですね。最近はプロレス映像作品が相次いで発表されてますね。
今成 めっちゃ増えましたよね。びっくりしたのは『アイアンクロー』をA24という配給会社が制作したことですね、A24はかなりエッジの効いた作品を作っているところで、そこがプロレスの映画を取り扱うんだって驚きました。いま一番品質が保証されてるのはA24の作品なんですよ。
――「シビル・ウォー アメリカ最後の日」もA24ですね。
今成 アート系でもありエンタメもやるというか、監督がやりたいことを応援するスタンスのスタジオ。作家性みたいなものは浴びれますよね。
――『アイアンクロー』で鉄の爪一家を取り上げるとなったら、外れるわけがない。
今成 ホントにそうです。『アイアンクロー』はどういうふうに取り扱うんだろうって、公開される前から期待してたんですけど、やっぱりすごかったです。主人公のケビン・フォン・エリックを演じたザック・エフロンは、昔はアイドルチックな俳優だったんですけど、この映画のためにあれだけ筋肉をつけて。ミッキー・ロークが落ちぶれたレスラーを演じたときとは、ちょっとわけが違うというか。
――ミッキー・ロークが『レスラー』という映画でベテランプロレスラーの悲哀を演じましたね。ここ最近のプロレス映像作品の成功は、俳優がプロレスラーの肉体に極限まで近づけていることもひとつの理由ですよね。
今成 肉体的なアプローチですよね。「ガチ☆ボーイ」という学生プロレスの映画があったじゃないですか。佐藤隆太が主演なんですけど、絶妙だったのが学生プロレスだから身体ができてなくても許されるんです(笑)。俳優にめちゃくちゃ負担をかけなくても学生プロレスだから成立できる。でも、プロのプロレスラーを取り扱う以上、身体ができてないと説得力に欠けるんですよね。
――プロレスよりボクシングに名作が多いのは、ボクシングはそこまでガッチリ身体を作らなくてもいいからかな?
今成 でも、『レイジング・ブル』のロバート・デ・ニーロはしっかりボクサー体型に仕上がっていたし、『ロッキー』のシルベスター・スタローンはスパーリングではなく、ひたすら山小屋で鍛えてるところをモンタージュして(笑)。
――そこは力こそ正義のスタローンだけあります(笑)。『アイアンクロー』は出演者全員がプロレスラー仕様の身体になっている時点で感動しますよね。
今成 大柄のフリッツ・フォン・エリックを演じた俳優(ホルト・マッキャラニー)さんは『マインドハンター』というNetflix系の連続ドラマに出てる方で。そこではFBI捜査官の役なんですけど、比較的おとなしめの硬派なキャラだったんですよね。『アイアンクロー』では怖い親父役にもアプローチができる。やっぱり役者ってすげえなってシンプルに思いました。
――ミッキー・ロークの『レスラー』もそうですけど、制作者側がプロレスを理解して取り組めるようになってますよね。
今成 『アイアンクロー』はチャボ・ゲレロがプロレスの監修に入ってましたよね。そういう監修が入りつつも、あくまで『アイアンクロー』はスリラー映画っていうか。プロレス映画を一丁描いたるか!っていう感じでもないんじゃないかなって思いますけど。
――たしかに「エリック一家の悲劇」はプロレスファンなら誰もが知っているけど、結末がわかっていてもドキドキしますよねぇ。
今成 どんどん人が死んでいきますからね……。
――ケリー・フォン・エリックがバイクに乗るシーンでもゾクゾクするじゃないですか。死に向かっていくサインというか。今成 事故のシーンは直接描かずに、なんの説明もなくケリーが片足で生活しているシーンは本当に怖かったですよねぇ。プロレスの映画を観に行くつもりだと、面食らうっていうかやっぱりスリラー映画なんですよ(笑)。――『アイアンクロー』はプロレスの構造、仕組みがわかってないと理解できないシーンも多かったじゃないですか。
今成 ディティールがすごかったですよね。
――お父さんがNWAの政治的世界を批判するシーンはとくに必要なかったはずなんですよね。70年代80年代のプロレスファンしかわからないのに、それでも描写する。
今成 そのへんはやっぱりA24の力なんじゃないかなと思いますね。普通のメジャースタジオなら「いやいや、いらないでしょ」ってスルーするんですけど、A24だと時代背景の作り込みをする。美術に力を入れるかのようなアプローチはさすがだなと思いました。
――ああ、なるほど。ドラマの美術っていちいち説明がないですもんね。リック・フレアー役も「そこまでやるか!」って感心するくらいそっくりで。
今成 ただ似てる以上の何かになってくるんですよね。誇張したリック・フレアーでもあるし、映画俳優が演じたリック・フレアーでもあるし。そこは「プロモがうまいレスラー」と「そうじゃないレスラー」の比較が必要で。あそこまで演じることでフレアーがお客さんを呼べるNWAのチャンピオンであることが一発でわかりますよね。
――そのフレアーに挑戦した主人公のケビンが暴走して試合を壊すじゃないですか。ケビンはプロレスの社会の中では低評価を受けるんですけど、フレアーが試合後の控え室にわざわざやってきて「最高だった」と興奮しながら褒める。いびつなものも楽しめることもチャンピオンの資格であるわけですけど、あのへんもプロレスファンじゃないとわからないんじゃないかなと。
今成 配給会社さんの試写で見た感想をnoteに書いたんですね。そうしたらパンフレットの寄稿を依頼されて、どう考えてもプロレスファンじゃないとわからないシーンの解説も1ページ使いましたからね(笑)。ドロップキックをやった側がケガするシーンがありましたよね。
――マイク・フォン・エリックが自殺に繋がるケガを負うシーンですね……。
今成 プロレスには後ろ受け身と前受け身というのがあって、前受け身を失敗してるから肩を痛めた。それってプロレスファンじゃないとわからない。そういう解説だけで1ページ書きました。でも、映画の中で変に解説しちゃうと説明ゼリフばっかりになっちゃうんですよ。
――派手な大技を食らってケガした……と安易に変えなかったのが素晴らしいわけですね。
今成 ミッキー・ロークの『レスラー』のときはビジュアライズするためにデスマッチを選択していたと思うんですよ。凶器を使うことで外傷ができるわかりやすさ、痛みを伝えるためのデスマッチだったと思うんですけど。『アイアンクロー』の時代はその手のデスマッチがないから、痛みを伝える方法が大変だったと思います。控え室にいるシーンから、次のまた控え室にいるシーンになって、身体のテーピングの数が増える描写になってくる。ダメージが積み重なって、痛み止めを飲まないとやってられなくなる……あのへんの編集はすごいうまいなと思いました。
――細かい積み重ねが映画のクオリティの高さにつながっていくわけですね。『アイアンクロー』でケビンだけ生き残った理由は、ケビンにプロレスラーの才能がなかったからじゃないか……って見えたんですよね。デビット追悼試合の挑戦者はコイントスに委ねられた。長兄なのに選ばれないことは親父から認められていないってことだし、プロモーターとしても成功できず、プロレスの世界に浸からなかったからこそ一般人として生きのびたんだなと。
今成 才能がある弟たちが次々に死んでいきますからね。
――実在したもうひとりの弟クリスのことは、最初からいなかったことにしてましたね。彼も自死するので残酷すぎるから映画では省いたそうですけど。
今成 何を描写して、何を描写しないか……そのへんもいろいろありましたね。だからエンドロールで、いまは幸せに暮らす大家族の集合写真はよかったです。最後の最後に救いがあるという……。
――救いのあるスリラー映画だったと。Netflixで配信されたビンス・マクマホンドキュメント「Mr.マクマホン:悪のオーナー」。今成さんがnoteで書いた感想を読ませていただいたんですが、「この作品は踏み絵にもなっている。ビンスの創り上げてきたプロレスに興奮してきた自分に楔を打つような感覚がある。ビンスに向けられた刃がこちらにも向けられていく」には頷きました。裏側は狂っていたWWEを楽しんできた自分は、はたしてよかったんだろうかと。・「Mr.マクマホン:悪のオーナー」の衝撃・刺さらなかった『極悪女王』とブック問題・作品から戻ってこれなくなったジム・キャリー・飯伏幸太のドキュメンタリー……17000字インタビューは会員ページへ続く
いま入会すれば楽しめる3月更新記事・【追悼】西村修17,000字インタビュー・ノア道場に闇はあるのか■プロレス事情通Z・中野たむvs上谷沙弥の「引退マッチ」に騙されたい・海野翔太はなぜ優遇されるのか■プロレス事情通Z佐藤大輔☓笹原圭一■格闘技の煽り方にまつわる雑談24,000字
などなど続々更新!
https://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/202503
1 / 1117
次へ>