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  • 偉大な先達の伝説を超えてゆけ!ヴィジュアル系の明日はどっちだ!?(市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』最終回)

    2018-08-02 07:00  
    550pt

    80年代以降の日本の音楽を「V系」という切り口から問い直す、市川哲史さんと藤谷千明さんの対談連載『すべての道はV系に通ず』。最終回となる今回は、ヴィジュアル系のこれからについてです。音楽性でも「お化粧」でもないV系の本当の定義。そして、成功体験を持たない新世代ヴィジュアル系バンドの課題と可能性について語ります。(構成:藤谷千明)
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    本メルマガの内容に大幅な加筆を加えて、8月6日刊行予定。
    『すべての道はV系へ通ず。』 著者:市川 哲史、藤谷 千明 発売日:2018年8月6日 価格:1944円 版元:シンコーミュージック Amazonでの予約はこちらから。
    現代のヴィジュアル系は前ほど成功しなくてもいい?
    藤谷 今回で連載の最終回になります。足掛け3年……その間にもヴィジュアル系シーンはいろいろなことがありましたが。なので最後に、2010年代のシーンの意味合い、そして《あしたのヴィジュアル系》はどうなっていくのかということについて、話していきたいと思います。
    市川 燃え尽きて白い灰になったと思って油断したら、その中からまた何かが飛び出してくる感じなんじゃない?
    藤谷 (ものすごく無視)。10年代のトピックというと、まずはゴールデンボンバーの大ブレイクですね。2009年に発表した〝女々しくて〟を契機に、2012年末には『NHK紅白歌合戦』にも出場しました。そんな金爆景気に連動してか、2011年あたりからνやHERO、ViViD、ダウトなど当時のシーンを牽引していたバンドのメジャー・デビューが続きます。
    市川 そうなんだ? 世間一般には届いてなくても確実に胎動している、と。
    藤谷 そのνもHEROもViViDも、いまは解散or活動休止していますが……。
    市川 ほえ?
    藤谷 その一方で、インディーズ・シーンではR指定や己龍らが頭角を現し、MEJIBRAYやDIAURAといった〈ダークなヴィジュアル系〉を現代の感覚で再解釈したようなバンドの勢いもあり、全体的に活気づいていた印象があります。
    市川 そうなんだろうけどゴールデンボンバー以外、大衆性を獲得できていないわけだよね。なぜだと思う?
    藤谷 うーん。象徴的な出来事としてまずは、ゴールデンボンバーの《メジャー行きま宣言》が挙げられますよね。
    市川 制作も宣伝も流通も、インディーズで十分できちゃう時代だからな。メジャーでデビューするメリットは一切失くなった。むしろ自前のインディーズでやった方が全然儲かるのは、金爆が実証したし。そういえば前回書いた《hide20周忌記念ニコ生》で、ユニバーサル時代に生前のhideその後PIERROTの宣伝担当だった奴に久々に再会したのさ。で来週からの新しい職場の名刺貰ったら、某ユニバーサルに本部長で復帰ときたもんだ。
    藤谷 それって大出世なんじゃないんですか。
    市川 うん。だからちょうど知人から頼まれてた、某ユーミンの10月神戸公演のチケットを融通してもらおうと思って。ところが出社二日目の彼から来たメールが、「軽く断られました、びっくりです、まだ力不足です(泣)」だって。いやあ本部長が所属アーティストのチケットも融通できないだなんて、メジャーの権威も地に落ちたよ。
    藤谷 チケットはチケ発して自分で勝ち獲るものです!!
    市川 お、さすがのバンギャ脳。
    藤谷 で、2010年にSIDとthe GazettEの東京ドーム公演以降、ドーム規模でライヴを行なったヴィジュアル系バンドは出てきていません。ゴールデンボンバーも人気から考えると数年前にやってて全然おかしくないけれど、むしろ自分たちのライヴ――《ゴールデンボンバー ホントに全国ツアー2013~裸の王様~》において、〈バンドを捨ててソロ・デビューした鬼龍院のドーム公演が大失敗〉みたいなネタをすでにやっているんですよね。
    市川 「らしい」なぁ相変わらず。
    藤谷 それに、去年だったかな――とある中堅V系バンドのリーダーに取材したら、「『高さ』ではなくて『距離』を目指したい」と。
    市川 あん?
    藤谷 つまり、一瞬の絶頂よりも長く続けたいみたいで。
    市川 「太く短く」ではなく「細く長く」だとぉ? 男のくせに金玉ついてんのか、志が低いんだよコラてめワレたこ。でもV系に限らずどのポップ・カルチャーも、タコツボ化が甚だしい昨今だと思うよ。
    藤谷 前々回の《ゼロ年代篇》でも言いましたが、いまや90年代のヤンキー的〈イケイケどんどん〉の価値観ではないというか。
    市川 そりゃ当たり前か。考えてみれば数多の再結成バンドたちだって、ゼロ年代に復活するときは本人も周囲も「あの成功体験をもう一度!」と目指してたはずでさ。だけどいざ再結成してみたら、盛り上がりはしたけど「あの」熱量には及ばない。そしてその成功のサイズ・ダウンは、リスナー環境の変化や音楽市場のド低落とも無縁ではないから、「前ほど成功しなくてもいいんだよ」的な言い訳が成立する。〈言い訳〉と書くとネガティヴだけどさ、却って健全になってる証拠なんじゃないかな。だって再結成バンドの皆が皆、また武道館や横浜アリーナや東京ドームを目指してたら、絶対失敗するに決まってるじゃん、このご時世。
    藤谷 なんせバブル自体がもう20年前の話ですよ、現場の人でもそこにリアリティーを感じる人もいないのでは。
    市川 だって誰も幸福になってないもん、結局。やたら羽振りが良かったはずの各マネジメントも畳んでるか権利関係で細々と食べてるかだし、あんなに契約金や制作費や宣伝費を大盤振る舞いしてたレコード会社だって、外資系に吸収されたかと思ったら本社ごと消滅したり、軒並み失くなっちゃった。あのイケイケの活況は二度と訪れはない。そういう意味では、再結成ってV系の〈夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡〉感をより鮮明に映し出したのかもしれない。でも逆に〈夢の跡〉だからこそ、V系がいまの時代の音楽シーンと共存できたんじゃないかなぁ。
    藤谷 なんとか軟着陸できた、と。
    市川 みんな、欲望が人並みになったんだよ(←しみじみ)。
    ヴィジュアル系とは〈バンギャル〉がついているバンドである
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  • 10年後にたどり着いた〈幸福な関係〉? 復活バンドブームは何をもたらしたか(市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第16回)

    2018-07-12 07:00  
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    80年代以降の日本の音楽を「V系」という切り口から問い直す、市川哲史さんと藤谷千明さんの対談連載『すべての道はV系に通ず』。近年、LUNA SEAやX JAPANなど、V系全盛期を築いたバンドの再結成が相次いでいますが、約10年ぶりの再起動をどう捉えるべきなのか。V系バンドの「再結成」のあり方を議論します。(構成:藤谷千明)
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    LUNA SEAとX JAPANの再結成をどう考えるか
    藤谷 そもそも〈復活バンド〉という呼び方そのものが失礼なんですけど、ゼロ年代後半、90年代に活躍したバンドたちが立て続けに復活しました。なかでも、2007年のD’ERLANGER再結成、LUNA SEAの一日限定復活ライヴ、X JAPANの再結成、09年には無期限活動休止状態だった黒夢の〈解散〉ライヴなどなど。この《再合体ムーヴメント》の契機は、私は間違いなくD’ERLANGERだったと思うんです。なんていうか……〈誰が観てもカッコいい再結成〉だったんです!
    市川 このブームの口火を切ったのは、D’ERLANGER再結成だったと?
    藤谷 ええ。D’ERLANGERの復活に関しては、06年の末に公式サイトで発表されたんですよね。たしか仕事の昼休みを待ちわびて、チケットのFC申し込みに郵便局へ突撃したのを憶えてます! それから再結成ライヴの前に復活第一作『LAZZARO』をリリースして、なんと17年前のラスト・ライヴと同じ日比谷野音で復活するというドラマチックさ! 何から何まで美しかったんですよ!!(口角泡)。
    市川 うわ、D’ERLANGERらしい悪意に満ちた配慮がまた、いやらしいわ(苦笑)。それにしても藤谷さんの世代なら、それが初D’ERLANGERなんじゃない?
    藤谷 そうです。リアルタイム世代ではなかったです。解散中のkyoのソロやCRAZEもFCに入るほど好きでしたから当然、既に伝説となっていたD’ERLANGERのライヴを観てみたいじゃないですか。だから正直、彼らが超恰好いい復活をしていなかったら、その後のLUNA SEAの復活も無かったと思うんですよね。
    市川 そのLUNA SEAは最初の復活ライヴに際して、「本当に一回こっきり」って言及してたはずなんだけどなぁ。
    藤谷 なんたって《One Night Déjàvu》でしたからね、最初のライヴ・タイトル。
    市川 完璧主義を徹底的に貫いたあのLUNA SEAなら、「いくら一夜限りだろうといいかげんな復活ライヴを見せるはずがない」と皆が皆思ってたし、実際おそろしく〈ちゃんとした〉公演だったから、さすがだった。私の《輝け☆再結成ライヴ歴代完成度ランキング》の、堂々第2位に輝いてるからさ未だに。
    藤谷 へ? あんな素晴らしいライヴだったのに、1位じゃないんですか!?
    市川 第1位は、1995年5月18日キング・クリムゾン@英ロイヤル・アルバート・ホール公演に決まってるだろ。
    藤谷 ……どうでもいいです。
    市川 第一報を最初に知ったとき、私は正直「日和りやがったな」と失望したの。だってSUGIZOにせよJにせよ、20世紀末に空中分解しちゃうほどの、チョモランマより高い理想とプライドをLUNA SEAに抱いてたのを知ってるから、絶対再結成なんかしない――いや、できるわけがないと思ってた。実際、JもSUGIZOも終幕後、再結成を嫌がってたからそれだけに違和感があったよ。
    藤谷 それでもすごくいい、これぞLUNA SEAなライヴでしたよね(嬉笑)。
    市川 あの夜は楽屋打ち上げの場所がブルペンだったんだけど、すごくニコニコしてたJや清々しさ全開のSUGIZOの姿に、かつて頂点を極めたバンドマンの性(さが)というか業を見た気がしたな。
    藤谷 裏側のことは知る由もないですが、SUGIZOが最後の最後までステージに残っていて、ずっとお辞儀をしていたことが印象に残っています。それが答えなのかな、と。
    市川 かつて熱狂した元スレイヴたち全員が納得した出来で、しかも当事者であるメンバー5人がニコニコ笑えているのならいいじゃん、みたいなね。
    藤谷 LUNA SEAの再結成はそれに尽きます。その後の2010年《REBOOT宣言》以降もずっと定期的にライヴ観ていますけど、相変わらず皆ニコニコがちで。
    市川 再結成に至るまでの紆余曲折は大変だったけども、いざ踏み切ったら新作リリースに国内外ツアーと現役復帰に意味を見い出せたことが、本人たちを笑顔にしてるわけじゃない? に較べて同じケースでも、Xの方は〈笑顔なき再結成〉だったよね、しばらくの間は。
    藤谷 またそんな。
    市川 だってフロントマンの自己啓発洗脳問題は全っ然解決しておらず、頼みの綱のhideは二度と還ってこないうえに、そもそも再結成する大義も見当たらないまま、でも再結成せざるをえない諸事情を抱えた〈袋小路への見切り発車〉だったんだから、翌年のHEATH脱退未遂事件やらも含めて、そりゃ笑えないよなぁ。当時、日本で活動しづらい事情があって苦肉の海外進出だったとも聞いたし。
    藤谷 ぱ、パスいち。
    市川 結局、当のYOSHIKIが心から愉しめるようになれたのは、〈働き者の後輩〉SUGIZO正式加入や瓢箪から駒の海外〈visualkei〉ブームでやっと手応えが感じられた、2010年代突入以降なんじゃないかと思うよ。
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  • 90年代は遠きにありて思ふものーーネオ・ヴィジュアル系の奮闘と哀愁(市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第15回)

    2018-06-21 07:00  
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    80年代以降の日本の音楽を「V系」という切り口から問い直す、市川哲史さんと藤谷千明さんの対談連載『すべての道はV系に通ず』。2000年代中期に勃興したネオ・ヴィジュアル系は、先達の様式美を取り入れた大衆性で人気を集めますが、その一方で、かつてのV系にあった〈業〉は抜け落ちていました。V系カルチャーの2000年代以降の変質について語ります。(構成:藤谷千明)
    ヴィジュアル系を「自ら名乗る」世代
    藤谷 前々回、蟹めんまさんをお呼びしてネット以前以後の、ヴィジュアル系におけるファンカルチャーの変化の話をしましたけど、あの時期はV系バンドそのものも色々な意味で地殻変動が起きた時代だったと思うんです。例えばサイコ・ル・シェイム(02年にメジャーデビュー)以降、〈大型新人がメジャー・デビュー〉的な風潮は減っていったような気がします。
    市川 ごめん、アレは大型新人だったんだ? シーンの停滞ぶりを逆説的に象徴したかのような終末感に、私は涙を誘われました。あのコントっぽい風体がまた、空虚だったんだこれが。
    藤谷 ちなみに再結成してます。
    市川 あ、そ。
    藤谷 2002年にはcali≠gariが、03年にはMUCCがそれぞれメジャー・デビューしました。どちらも熱狂的なファンを抱えているバンドですが、〈そこからお茶の間に進出!〉的なバンドではありませんでしたし、シーンそのものの主戦場がインディーズに移っていったというのが、私の中でのゼロ年代初頭の空気感ですね。
    市川 世間的にはブームが終わっていたなか、それでもインディーズがV系にとって一種の〈避難場所〉として機能していたと。それがゼロ年代以降のいちばんの特徴である、「V系を演りたくてやってるんだ!」的な自発性に繋がっている気がするね。外部の視線がないから社会現象までは至らないけれど、幸か不幸か偶然〈身近感〉が生まれたというか。
    藤谷 マイナー感半端ないっスね、そう言われちゃうと。
    市川 それ以前に、やはり自らV系と名乗るニュー・カマーたちの出現が、やはり私には衝撃的だった。だって20世紀の先人たちは決してV系バンドと呼ばれたかったわけではなく、その過剰な雑食性の赴くままに自己陶酔してたら、いつの間にか勝手にそう呼ばれるようになっちゃった。だから〈V系〉と自ら名乗ることに、抵抗と違和感があるんだよ。
    藤谷 たとえばtheGazettEあたりが、邦ロックやメタルのフェスに出る場合に「僕らV系バンドが〜」と自己紹介するみたいな?
    市川 なんでそうなっちゃったんだろうねえ。
    藤谷 10代の頃から聴いて育ったもの、そのシーンでバンドとしてやってきたことの誇りというか自負というか、を〈あえて切り捨てる必要がない〉ですよ。私自身、ヴィジュアル系以外の仕事もやっていますけど、「藤谷さん、ヴィジュアル系のライターですよね?」と言われて、わざわざ否定する必要はないと思いますもん。
    市川 うん、藤谷さんの世代だからそうなわけで、ここらへんに時代の経過と蓄積が見えて感慨深いな。
    〈普通の人〉と多様化するシーン
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  • ヴィジュアル系の海外展開から〈クールジャパン〉を一方的に考える(市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第14回)【不定期連載】

    2018-06-06 07:00  
    550pt



    80年代以降の日本の音楽を「V系」という切り口から問い直す、市川哲史さんと藤谷千明さんの対談連載『すべての道はV系に通ず』。今回のテーマは、ヴィジュアル系の海外進出です。90年代以降、積極的にアジア進出してきた日本のV系バンドですが、近年はK-POPの勢いの前に元気がありません。なぜ日本のエンタメは海外で勝てないのか、その原因について掘り下げます。(構成:藤谷千明)

    ビジュアル系の海外進出の先駆者たち
    藤谷 今回は、ヴィジュアル系と海外展開をテーマに話をしたいと思います。 ここ20年くらいの流れを簡単に説明しますと、90年代のX JAPANの海外進出宣言を始めた、90年代末からゼロ年代頭にあったGLAYやLUNA SEAのアジア公演などありましたよね。そことは別の流れ――インディーズのヴィジュアル系バンドたちが,インターネットを経由してアメリカのアニメ・コンヴェンションに参加するようになりました。 その一方で、DIR EN GREYやMUCC、MIYAVIらが単独ツアーを行うようになり、07年にはアメリカでYOSHIKIが関わり、MIYAVIらも出演した《J-Rock Revolution Festival》なんてイヴェントもありました。これ以降もラルクやX JAPANのMSG公演を筆頭に、定期的に海外ライヴを行うバンドは規模を問わず存在する……という形です。今年はX JAPANが《コーチェラ・フェスティヴァル》に出演しました。
    市川 そもそも藤谷さんとは知り合ってもう長いけど、最初のころから不思議だなと思ってたのは、〈V系と海外進出〉みたいなことをやたら意識してるじゃない? V系シーンにおいて少なくともYOSHIKIだけは1990年前後から「海外進出する!」とずーっと一人で宣言し続けていたんだけれども、我々世代はV系のことをやたら独創的で面白いけどあくまでも〈日本独自のドメスティックなロック〉と捉えていたわけ。しかも商業的にもカルチャー的にも一大ムーヴメントを築いてたのだから、「なんでこのひとは海外の評判や評価を気にしてるのかしらん」と。
    藤谷 気になるというか、X JAPANやDIR EN GREYの海外での活躍は勿論のこと、10年以上前から都内の小さなライヴハウスのイヴェントでも、海外からのお客さんを少なからず目にすることがありました。だから、「日本国内でもあまり知られてないバンドを、こんなスーパーの地下にあるライブハウス(※高田馬場AREA)まで観に来るなんてすごいなー!」みたいな。
    市川 純真な童ですかあんたは。
    藤谷 Instagramの〈J-ROCK〉のタグをみると、BABYMETALやONE OK ROCKと並んで、例えばMEJIBRAYだったりNOCTURNAL BLOODLUSTだったりとインディーズのヴィジュアル系バンドの名前が目立つんです。日本国内市場の規模を考えるとアンバランスですよね。実感としては「海外進出!」「クールジャパン!」というよりは「知らないうちに日常になっていた」というか。例えるなら、新宿のゴールデン街がここ数年外国人観光客が押し寄せてきてるのに近いというか……ドメスティックなことだからこそ、一部の人を惹き寄せているというか。
    市川 需要があってこそ、だよなぁ(←しみじみ)。ただ海外進出に関して忘れちゃいけないのは、90年代というあのV系黄金時代においてバンド自らが「海外進出するぜ!」と積極的だったケースは、前述したYOSHIKI以外に実はほとんどいなかった気がするよ。実際に海外公演が目立ち始めたのはゼロ年代だし――最初はアジア圏でさ。 たとえばラルクだと、2005年にソウルと上海で、2008年には上海台北ソウル香港そしていきなりパリ(苦笑)。で2012年にはもう、香港→バンコク→上海→台北→唐突にマディソン・スクエア・ガーデン(爆笑)→ロンドン→パリ→シンガポール→ジャカルタ→ソウル→ホノルル……ほとんど実写版“アジアの純真”みたいな。
    藤谷 ……刺しますよ?
    市川 私の記憶ではあの当時、本人たちは誰一人「海外進出したい」なんて思ってなかったはず。TETSUYAなんか「行ったからって何になるんですかねー」と冷めきってたもの、心の底から。「事務所の社長が金儲けしたいだけ」とまで言ってたな。まあ実際、日本の音楽市場が完全に頭打ちどころか下落傾向にあっただけに、海外進出がビジネスチャンスというか打開策のひとつと期待されたのは事実だけど。豪華ライヴDVD出す小商いもできるし。ラルクに関していえば、何年かに一度の再稼働の際の〈わかりやすい手続き〉として重宝されてたんじゃない?
    藤谷 相変わらず身も蓋もないおっさんですね。当初はそうだったかもしれませんが、世界ツアーのドキュメンタリー映画『Over The L' Arc-en-Ciel』内のインタヴューでも、メンバーが「海外での動員の少ない地域」を明確に意識した発言をしていたし、課外活動ですがHYDEのVAMPSが尋常じゃないほどの海外ツアーを繰り返していたのは、ある種の使命感の発露でもあるのでは。
    市川 うーん。でもゼロ年代末期に再開幕してしばらくの頃のLUNA SEAは、まだ本人たちも再始動の意義や大義を見い出せなくて、「欧州ライヴとかの海外公演を目的に仮設定したことで、とりあえずベクトルを収束できた」とSUGIZOが漏らしてたしなぁ。
    藤谷 どうして市川さんの時代のひとたちって、海外も活動範囲に入れることに対してネガティヴなんですか。悲観的すぎるというか。
    市川 うん、猜疑的というか価値を見い出せないんだよ昔からずっと。90年代には、V系以外でも海外ライヴに積極的なバンドがいたことはいた。THE BLANKEY JET CITYもTHE MAD CAPSULE MARKETSもそうだった。ただし「向こうでひと旗あげるぜ!」という海外進出願望ではなく、「俺らの音を聴いた本場のガイジンが、どんな反応するか見たいんだわ(←ベンジーの物真似)」的な腕試し、道場破り的なライヴハウス廻りだったわけ。それはそれで美しかったなぁ(←遠い目)。 同じ頃だと思うんだけど、ロンドンでTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが何本かライヴ演るってんで同行したのよ。そのときたまたまGLAYのTAKUROもオフで現地に来てたので、一緒に観に行ったの――トラファルガー広場で待ち合わせしてさ。
    藤谷 おのぼりさんですか。
    市川 当時のTAKUROはまだまだ発展途上中だったから、そうかもなぁ(苦笑)。でミッシェルのスーパー・モッズな轟音は、小さなライヴハウスだったけど初見の英国人を一瞬で叩き潰したんだけど、その光景を目の当たりにした〈史上最大のいいひと〉TAKUROは「俺こんなとこでライヴ演る勇気ないっス」と言ってたよ(苦笑)。あれから四半世紀以上の時が過ぎ、いつの間にか当たり前のようにV系バンドたちが渡航するようになるとはなぁ。
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