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  • 宇野常寛 NewsX vol.6 ゲスト:上田唯人 「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」【毎週金曜配信】

    2018-11-09 07:00  
    550pt

    宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。10月9日に放送されたvol.6のテーマは「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」。「走るひと」編集長の上田唯人さんをゲストに迎えて、部活・体育的なランニングとは一線を画した、〈都市〉と〈生活〉に開かれた新しいランニングの可能性について語り合いました。
    NewsX vol.6「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」2018年10月9日放送ゲスト:上田唯人(「走るひと」編集長) アシスタント:加藤るみ(タレント) アーカイブ動画はこちら
    宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネル、ひかりTVチャンネル+で生放送中です。アーカイブ動画は、「PLANETSチャンネル」「PLANETS CLUB」でも視聴できます。ご入会方法についての詳細は、以下のページをご覧ください。 ・PLANETSチャンネル ・PLANETS CLUB
    上田唯人さんと宇野常寛の過去の対談記事はこちら ライフスタイル化するランニングとスポーツの未来 『走るひと』編集長・上田唯人×宇野常寛 前編|後編
    「自分の物語」としてのスポーツ
    加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは「走るひと」編集長の上田唯人さんです。まずは「走るひと」というランニング雑誌について教えていただけますか?
    宇野 「走るひと」はランニング雑誌なんだけれど、いつか私は高橋尚子になるとか、有森裕子になる、みたいな人が読む雑誌ではないと思うんですよ。
    上田 アスリートのトップ選手を取り扱っている雑誌がいままでの雑誌だとすると、「走るひと」でやっていることは、クリエイターだったり、アーティストだったり、いろんな仕事をやっている人が走っている様を取り上げて、紹介している雑誌ですね。
    加藤 私たちでも馴染みやすいように、一般目線で書かれている雑誌なんですね。
    宇野 みんなで長距離ランナーになろうということではなくて、ランニングというライフスタイルを推奨している、走ると人生や生活が楽しくなるということを提案している雑誌という印象かな。
    上田 いろんなアーティストが、創作活動の中で走ることを必要なものとして位置づけていたりする。それはなぜか、今までは違ったのか、みたいなことを雑誌の編集活動を通じて伝えているという感じですかね。
    加藤 宇野さんと上田さんはどういうきっかけで知り合ったんですか?
    宇野 以前、僕は「走るひと」に取材されたんだよ。どうやら走っているらしい一般人のうちの一人として出てくるみたいな感じでね。
    上田 「走るひと3」が出たときに、宇野さんのことを記事にさせてもらったんです。これを作っているときに、ちょうど宇野さんも「PLANETS vol.9」を作られていて、そのメインテーマが「オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」だったんですよね。僕らは走ることを中心として雑誌をつくっていますけど、ただ走ることだけじゃなくて、もうちょっと広い意味でのライフスタイルとしてのスポーツの今後を考える上で、宇野さんみたいな方が走り出していることだったり、オリンピックの未来を考えていくことが重要だなと思っていたときに、宇野さんを取材をさせていただいたのが最初のきっかけですね。
    宇野 2015年に出した「PLANETS vol.9」は僕にとって達成感と挫折が両方あった雑誌なんですね。まず、一言で言うと、僕は2020年のオリンピックに反対だったわけなんですよ。グダグダになるのはわかっていたので、こんなオリンピックはやるべきではないとね。  ただ、そこに対して文句ばかり言っているのはカッコ悪いから、自分たちだったらどうするか、ということで、いろんなことを考えたんですよ。競技中継の方法だったり、オープンニングはこうしたいとか、あとは都市開発のプランだったりとか、自分たちの2020年を提案することで、今進んでいるグダグダのオリンピックをポジティブに批判しようとしたんですね。それで、雑誌を完成させて、すごい達成感があったんですよ。でも、同時に挫折感もあった。それはなんでかというと、一言で言うと売れなかったんだよね。今の「PLANETS vol.10」のほうが全然売れている。そこで、なんで売れなかったのかを僕は考えたんですよ。そのときに僕は何をやろうかとしていたのかというと、オリンピックという観るスポーツのアップデートだったんですね。
    宇野 これはチームラボの猪子寿之さんと組んで考えた市民を巻き込んだオープニング。単に派手な開会式を見て、「これが日本だ!最高!」というふうに感情移入するには限界がある。そうじゃなくて、市民が参加できる開会式にしようということで、こういったインタラクティブなインスタレーションを街中で開催しようというプランとかを出したわけなんだよね。
    宇野 あと、これは井上明人さんというゲーム研究者を中心に進めていた、オリンピックのスポーツをもうちょっと拡張していこうという記事なんだよ。結局オリンピックとパラリンピックで分かれていて、ノーマルな身体を持った人間とノーマルじゃない身体を持った人間の競技に分かれちゃっているじゃない。やはり、そのことに壁を感じるわけね。その壁をなくして、誰でもスポーツに参加できる、もっと自由で平等なものにしようと思っていて、新しいスポーツを発明するということを僕らはやったんですよ。  どっちもすごく手応えがあった。これは同時にオリンピックを通して、社会にどう多様性を実装するかとか、社会に対しての参加感を人々にどのようにして植えつけていくのかという思考実験でもあったんですね。  ところが、「PLANETS vol.9」はあまり売れなかったし、僕自身も達成感と同時に限界も感じた。その限界は何かというと、オリンピックは結局「他人の物語」なんだよ。オリンピックはどこまでいってもテレビ産業だし、基本的には画面の中のアスリートの活躍を観て、そこに感情移入をして、自分も勝手に感動するという装置なんだよね。もちろん僕はそれをくだらないことであるとまったく思わないんだけれど、今の時代はインターネットの時代で、もうモニターの中の他人の物語に感動して満足する人間はどんどん少数派になっていっている。やはり自分が参加して、自分が主役の物語を自分でドヤ顔で発信することのほうが、みんな気持ちよくなっている。そこが足りなかったんじゃないかなと思ったわけ。  そんな中で、上田さんと出会って、ランニングというテーマで対談をさせてもらった(参照)ときに、観るスポーツをアップデートするんじゃなくて、「する」スポーツのことを考えたほうがいいんだ、と僕は気づいたんだよね。だから、僕はもう一回走り始めたんですね。なので、「PLANETS vol.10」を作っているときに、上田さんに真っ先に連絡をして「今回一緒にやってくれませんか」ということになったんです。それで、上田さんに、60ページにわたる「走るひと」×「PLANETS」という異なる雑誌のコラボレーションで記事を作ってもらったんですよね。
    ▲『PLANETS vol.10』
    「ライフスタイルスポーツ」と「自己修練」―ランニングを巡る二つの考え―
    加藤 今日のトークのテーマは「僕たちは走ることで、世界に(あたらしく)触れることができる」です。宇野さん、このテーマを設定した理由は何ですか?
    宇野 僕自身が上田さんと出会って、どうしてもう一回ランニングを始めて、今でもずっと続けているかというと、楽しくて、気持ちいいからなんですよね。みんな、実はこのことを意外とわかっていない。ランニングやヨガをライフスタイルスポーツと呼ぶことを、僕は上田さんから教わったんですよ。最初はライフスタイルスポーツを健康管理のためにやる人が多いと思うんだけど、長く続けている人はランニングやヨガが生活の中に組み込まれていることが気持ちよくて楽しいからやっている。街を走ることを通じて、世界の見え方がどう変わるのかということを、今回上田さんとあらためて話して、視聴者に伝えたいなと思って、このテーマを選びました。
    加藤 今日も三つのテーマでトークをしていきたいと思います。最初のテーマは「なぜいま、ランニングなのか」です。
    宇野 ランニングと言っているけれど、体育の授業や運動部の走り込みと、今の世界中の都市で現役世代が走っているライフスタイルスポーツとしてのランニングでは、別物だと思うんですね。そのあたりの概念整理から始めたいなと思って、このテーマを設定しました。
    上田 僕らも雑誌を作っているなかで、いろいろ過去を振り返ったときに、2008年のリーマン・ショックとか、あるいは、その後の東日本大震災の影響ってすごく大きいなというのはあった。それは、さきほど宇野さんがおっしゃった、「観るスポーツ」から「するスポーツ」に変わっていった変遷と実は符合するんです。なぜかというと、大きな変化が起こったときに、働いている人や生活している人が自分の生活を見直す契機になったのがすごくあったなと。そのときに、自分の時間をどう使うか、それを豊かにするためにどうするか、と考えたときに、走ることを選ぶ人だったり、ヨガをすることを選ぶ人、あるいは食を見直す人がいたりして、お金の使い方、時間の使い方に対する変化がすごくあったなと思ったんですよ。そういう意味でも、宇野さんご自身が走り出されたこともおもしろいですし、世の中全体もそういう機運を共有しているような感じがすごくあった。それがなぜ今ランニングなのか、ということのひとつの切り口なのかなと思います。
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  • ライフスタイル化するランニングとスポーツの未来 『走るひと』編集長・上田唯人×宇野常寛・後編(PLANETSアーカイブス)

    2018-10-15 07:00  
    550pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、雑誌『走るひと』編集長の上田唯人さんと宇野常寛の対談の後編です。ランニングが持つシンプルさと間口の広さ、「ライフスタイルスポーツ」人口の増加とその背景、新しいホワイトカラーの生活とテーマコミュニティ化するランニングの今後についてなど、「PLANETS vol.10」と『走るひと』のコラボレーションの、思想的な背景がわかる対談となっています。(構成:望月美樹子) ※この記事は2016年2月19日に配信した記事の再配信です・前編はこちら
    【告知】 本記事に登場する『走るひと』編集長の上田唯人さんが、10月17日(水)に開催されるオンラインサロン・PLANETS CLUBの第8回定例会で、ゲストとして登壇されます。イベントチケットはこちらで販売中。PLANETS CLUB会員以外のお客様も購入可能です。ご参加お待ちしております!
    ▼雑誌紹介
    雑誌『走るひと』
    東京をはじめとする都市に広がるランニングシーンを、様々な魅力的な走るひとの姿を通して紹介する雑誌。いま、走るひととはどんなひとなのか。プロのアスリートでもないのになぜ走るのか。距離やタイム、ハウツーありきではなく、走るという行為をフラットに見つめ、数年前とはひとも景色もスタイルも明らかに異なるシーンを捉える。 アーティストやクリエイター、俳優など、各分野で活躍する走るひとたちの、普段とは少し違った表情や、内面から沸き上がる走る理由。もはや走ることとは切っても切れない音楽やファッションなど、僕らを走りたくてしようがなくさせるものたちを紹介している。
    https://instagram.com/hashiruhito.jp
    https://twitter.com/hashiruhito_jp

    ■「走ること」の持つシンプルさが間口を広げている
    上田:2020年のスポーツ文化を考える時に、もっとこういう視点で読み解いたらいいのにと思うところや、他のカルチャーから学ぶことはありますか?
    宇野:他のカルチャーから学べることで言うと、エンターテインメントジャンルのノウハウを取り入れることで、スポーツをアップデートできると思うんですね。まさにeスポーツ学会が実践していることです。近代スポーツや近代体育のロジックが画一的な身体観に基づいている一方で、エンターテインメントは個々のプレイヤーの個性や多様性を使って盛り上げていく特性を持っているので、それを取り入れることでスポーツというゲームの更新ができるはずです。
    もう一つはライフスタイルでしょうね。現在のランニング文化の変化は、適度な運動が健康管理の上でポジティブな効果を持つという認識がようやく浸透して、運動がカジュアルなライフスタイルとしてしっかり根付いてきた結果ですよね。その中で、身体を動かすことを含んだ生活を、多様性を帯びつつどうポジティブに見せていくのかということです。運動することが特別ではなくなるのが大事だし、勝手に変わっていくとも思います。
    上田:これまで取材をしてきた中で、面白いと思っているのが、ロックバンドのアーティストにめちゃめちゃ走る傾向があることなんです。特に、ボーカルとドラムの人がすごく走っているんですよ。
    宇野:へえー。ギターやベースのひとはあんまり走らない(笑)
    上田:走ってる人もいるんですけど、気付いたらボーカルとドラムが一緒に走っている。理由の一つはボーカルとドラムが特に体力を使うことです。アーティストにとって、今はCDを売ってどうこうよりも、ライブツアーをしていかに食っていくかが重要だから、それに耐える体力が必要になったということです。
    でも、それ以外の背景があるような気もしているんです。ロックの表現が衝動的なことや、有り余ったエネルギーを表現のモチーフにしていることと、走ることの間に関係があるのかなという想像もしていて、『走るひと2』でロックの精神性のようなテーマを少し紐解いてみたんですよ。
    例えば、AKB48のまりやぎちゃんが走ったというので、その理由を聞いたんですけど、喘息を患わっていたぱるるの快気を祈って走ったと言うんです。「祈って走る」というのは、論理的に因果関係がないですよね。でも、彼女にとっては、走るという方法で祈りを示すことが、ぱるるを勇気付ける手段になっている。これはどういうことなのかと疑問に思ったんです。
    宇野:まりやぎ結構いい奴ですね(笑)。
    上田:良い奴なんですよ。クールに見せて、割とそういう人間ぽいところがある。話を聞いているとすごく家族思いだったり、近しい人間への愛情がある人だなというのをすごく感じました。そういうふうに、『走るひと』では人が走ることをいろいろな捉え方でやっているんです。
    宇野:面白いですね。変な例えですけど、僕の中で長距離ランナーといえば村上春樹なんです。趣味でずっと走っていて、マラソンまで出ちゃう。ああいう人って、イメージとしては草食動物で穀物を食べている感じなんですよ。一方で、ロックバンドとか短距離ランナーの人たちは、朝まで飲んで喧嘩するような、肉食のイメージがある。だから今のアーティストの話を聞いて思ったのは、もともと草食な人たちのものだったランニングが、肉食の人たちまで巻き込もうとしてるということです。ランニングが多様になってメジャー化していく中で、本来ならコツコツ走ることが性に合わないタイプの人も巻き込みつつある。この比喩で言うと、僕自身はお酒を飲まなくて甘いものが好きなので、お菓子の人間なんですよね。
    上田:お菓子の人間かわいいですね(笑)。
    宇野:だから僕は歩いて適当にカフェに入って、本読んだりお菓子つまんだりする。僕みたいに、酒飲まなくて甘いモノが好きでオタクで、というようなお菓子型の人間も、ロッカーのような肉食型の人間も、ランニングは同時に包摂しようとしている。僕はランニング史には詳しくないのですが、ガジェットが充実してきたことや、ランニングが都市部のライフスタイルとして定着してきているといった背景があって、間口がどんどん広くなっている。それで、本来なら対象外にあるタイプの人間まで巻き込もうとしている感触があるんですよね。
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  • ライフスタイル化するランニングとスポーツの未来 『走るひと』編集長・上田唯人×宇野常寛・前編(PLANETSアーカイブス)

    2018-10-01 07:00  
    550pt

    今朝のPLANETSアーカイブスは、雑誌『走るひと』編集長の上田唯人さんと宇野常寛の対談の前編です。10月5日発売「PLANETS vol.10」で、“雑誌内雑誌”としてコラボしている『走るひと』ですが、提携の発端になったこの対談では、体育とは違うランニングのあり方や、自分の物語性が求められるようになったスポーツの現在、2020年の東京オリンピックとスポーツの関係などを語り合いました。(構成:望月美樹子) ※この記事は2016年2月12日に配信した記事の再配信です。
    【告知】 本記事に登場する『走るひと』編集長の上田唯人さんが、10月17日(水)に開催されるオンラインサロン・PLANETS CLUBの第8回定例会で、ゲストとして登壇されます。イベントチケットはこちらで販売中。PLANETS CLUB会員以外のお客様も購入可能です。ご参加お待ちしております!
    ▼雑誌紹介
    雑誌『走るひと』
    東京をはじめとする都市に広がるランニングシーンを、様々な魅力的な走るひとの姿を通して紹介する雑誌。いま、走るひととはどんなひとなのか。プロのアスリートでもないのになぜ走るのか。距離やタイム、ハウツーありきではなく、走るという行為をフラットに見つめ、数年前とはひとも景色もスタイルも明らかに異なるシーンを捉える。 アーティストやクリエイター、俳優など、各分野で活躍する走るひとたちの、普段とは少し違った表情や、内面から沸き上がる走る理由。もはや走ることとは切っても切れない音楽やファッションなど、僕らを走りたくてしようがなくさせるものたちを紹介している。
    https://instagram.com/hashiruhito.jp
    https://twitter.com/hashiruhito_jp

    ■「体育」ではなく「ライフスタイル」としてのランニング
    上田:日本に「走るひと」というのはすごく多いんですね。トップアスリートもいるし、1970年くらいにジョギングブームがあって、マラソンをする中高年の方も大勢現れました。だけど、東京マラソンが2007年に始まって以降、それまでとは違うタイプの20代〜30代で走る人が増えてきたんです。
    そこで雑誌『走るひと』では、今までの「ランナー」という言葉を使わずに「走るひと」という象徴的な言葉を使って、これまでの枠組みとは関係のない動機で走ってる人たちを大きく捉えて、その人たちがなぜ走っているのか、そこから文化として何が言えるのかを紹介しています。アーティストやタレント、モデル、文化人の方に話を聞いていくことで、新しい「走るひとのリアル」が見えてくるというのが、『走るひと』を始めた動機であり、作っている中での結果でもあります。
    宇野:なるほど。よくわかります。
    上田:走ることは身体を動かすということなので、東京オリンピックに向けて東京がどうなるのかについての関心は我々としてもすごく高かったんです。それでオリンピックにどう関わっていくかを考えていた時に『PLANETS vol.9』を拝見しました。そこで、どんなことをお考えなのかや、この本ができた経緯、見えてきた視点を伺えればというのが、今回取材をお願いさせていただいた経緯です。今ざっくりと、我々が見たランニングの市場の変化や様子をお話したんですけど、どんなことを思われましたか?
    宇野:まず、僕自身のランニング経験から話しましょうか。震災前後くらいの半年間ですけど、一時期走ってたんですよ。時間のある時に自宅から新宿東口のヨドバシカメラまで走って、ミニカー1台買って帰ってきていました。ダイエットが目的だったんですけど、今は、事務所に電話して仕事しながらできるし、人と話しながら歩くのも楽しくてウォーキングに切り替えています。自営業だから細かい時間を取れるので、1日5キロとか7キロとか、時間があれば10キロくらい歩いてるんですよ。
    僕はずっとマラソン大会を始めとする「走ること」が大嫌いでした。走ること自体も嫌いだったけど、「苦しさを我慢して肉体を痛めつけないと一人前にはなれない」というような、マッチョな世界観に基づいた体育会系なイデオロギーがものすごく嫌だったんですね。走ることが苦手な人も、体が弱い人もいるのに、そういうところを全然考慮せずに、あるタイプの運動を我慢してこなせないと「ちゃんとした」人間じゃない、という価値観が嫌で、スポーツ文化自体にどちらかというと苦手なものを感じていたんです。
    でも、会社をやめて独立して少し経ったころかな、体重が80キロくらいになっていた時期があって、医者に「あんたこの数年ですごい太ってるから痩せなよ」と言われ、食生活を変えて運動も始めて20キロくらい痩せたんです。その時に友達から「最近ランニングが面白い」と言われたんですね。当時NIKE+がすごく流行ってる時期で、彼が言うには、自分の走っているスピードや消費カロリーが全部計測されるから、どうすれば速くなるかを考えながらゲーム的に走るのが面白いということだったんです。
    それで、友達と一緒に新宿東南口のオッシュマンズに行って、ランニング用のウェアやグッズを一通り大人買いしました。僕は普段からジャージとかを着ている人間なんですよ。伊勢丹のメンズ館にある衣類よりも、オッシュマンズにある服の方がデザイン的に好きで。トレーニングウェアは普通にかっこいいし、ガジェット的にスペックにも萌えられるし、オタク的な感性にフィットするんですよね。そうやってグッズを身に付けて走ったらすごく楽しくて、それでハマりました。その流れで今でもウォーキングしています。
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  • ライフスタイル化するランニングとスポーツの未来 『走るひと』編集長・上田唯人×宇野常寛・後編(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.523 ☆

    2016-02-19 07:00  
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    ライフスタイル化するランニングとスポーツの未来 『走るひと』編集長・上田唯人×宇野常寛・後編(毎週金曜配信「宇野常寛の対話と講義録」)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.2.19 vol.523
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    今朝は、雑誌『走るひと』編集長の上田唯人さんと宇野常寛の対談の後編をお届けします。ランニングが持つシンプルさと間口の広さ、「ライフスタイルスポーツ」人口の増加とその背景、そして新しいホワイトカラーの生活とテーマコミュニティ化するランニングの今後について、語りました。(前編はこちら)
    毎週金曜配信中! 「宇野常寛の対話と講義録」配信記事一覧はこちらのリンクから。
    ▼雑誌紹介
    雑誌『走るひと』
    東京をはじめとする都市に広がるランニングシーンを、様々な魅力的な走るひとの姿を通して紹介する雑誌。いま、走るひととはどんなひとなのか。プロのアスリートでもないのになぜ走るのか。距離やタイム、ハウツーありきではなく、走るという行為をフラットに見つめ、数年前とはひとも景色もスタイルも明らかに異なるシーンを捉える。 アーティストやクリエイター、俳優など、各分野で活躍する走るひとたちの、普段とは少し違った表情や、内面から沸き上がる走る理由。もはや走ることとは切っても切れない音楽やファッションなど、僕らを走りたくてしようがなくさせるものたちを紹介。
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    ▼プロフィール
    上田唯人(Yuito Ueda)
    走るひと編集長 / 1milegroup株式会社 Founder CEO。早稲田大学在学中にアップルコンピューター(現Apple Japan)にてipodのプロモーション、上場前のDeNAで新規事業に携わる。卒業後、野村総合研究所に入社、企業再生・マーケティングの戦略コンサルタントとして、主にファッション・小売業界のコンサルティングを行う。その後、スポーツブランド役員としてファイナンス・事業戦略・海外ブランドとの事業提携などを手がける。
    2011年7月、1milegroup株式会社を設立。『走るひと』の前身となるWEBメディア・クリエイティブ組織を立ち上げ、様々なブランドのクリエイティブ、ブランディングプロジェクトを実施。2014年5月、雑誌『走るひと」創刊。
    現在、ひととカルチャーに関わる領域にて様々な制作・メディア事業を手掛ける。
    http://instagram.com/yuito_ueda
    https://twitter.com/yuito_ueda
    ◎構成:望月美樹子
    ■「走ること」の持つシンプルさが間口を広げている
    上田:2020年のスポーツ文化を考える時に、もっとこういう視点で読み解いたらいいのにと思うところや、他のカルチャーから学ぶことはありますか?
    宇野:他のカルチャーから学べることで言うと、エンターテインメントジャンルのノウハウを取り入れることで、スポーツをアップデートできると思うんですね。まさにeスポーツ学会が実践していることです。近代スポーツや近代体育のロジックが画一的な身体観に基づいている一方で、エンターテインメントは個々のプレイヤーの個性や多様性を使って盛り上げていく特性を持っているので、それを取り入れることでスポーツというゲームの更新ができるはずです。
    もう一つはライフスタイルでしょうね。現在のランニング文化の変化は、適度な運動が健康管理の上でポジティブな効果を持つという認識がようやく浸透して、運動がカジュアルなライフスタイルとしてしっかり根付いてきた結果ですよね。その中で、身体を動かすことを含んだ生活を、多様性を帯びつつどうポジティブに見せていくのかということです。運動することが特別ではなくなるのが大事だし、勝手に変わっていくとも思います。
    上田:これまで取材をしてきた中で、面白いと思っているのが、ロックバンドのアーティストにめちゃめちゃ走る傾向があることなんです。特に、ボーカルとドラムの人がすごく走っているんですよ。
    宇野:へえー。ギターやベースのひとはあんまり走らない(笑)
    上田:走ってる人もいるんですけど、気付いたらボーカルとドラムが一緒に走っている。理由の一つはボーカルとドラムが特に体力を使うことです。アーティストにとって、今はCDを売ってどうこうよりも、ライブツアーをしていかに食っていくかが重要だから、それに耐える体力が必要になったということです。
    でも、それ以外の背景があるような気もしているんです。ロックの表現が衝動的なことや、有り余ったエネルギーを表現のモチーフにしていることと、走ることの間に関係があるのかなという想像もしていて、『走るひと2』でロックの精神性のようなテーマを少し紐解いてみたんですよ。
    例えば、AKB48のまりやぎちゃんが走ったというので、その理由を聞いたんですけど、喘息を患わっていたぱるるの快気を祈って走ったと言うんです。「祈って走る」というのは、論理的に因果関係がないですよね。でも、彼女にとっては、走るという方法で祈りを示すことが、ぱるるを勇気付ける手段になっている。これはどういうことなのかと疑問に思ったんです。
    宇野:まりやぎ結構いい奴ですね(笑)。
    上田:良い奴なんですよ。クールに見せて、割とそういう人間ぽいところがある。話を聞いているとすごく家族思いだったり、近しい人間への愛情がある人だなというのをすごく感じました。そういうふうに、『走るひと』では人が走ることをいろいろな捉え方でやっているんです。
    宇野:面白いですね。変な例えですけど、僕の中で長距離ランナーといえば村上春樹なんです。趣味でずっと走っていて、マラソンまで出ちゃう。ああいう人って、イメージとしては草食動物で穀物を食べている感じなんですよ。一方で、ロックバンドとか短距離ランナーの人たちは、朝まで飲んで喧嘩するような、肉食のイメージがある。だから今のアーティストの話を聞いて思ったのは、もともと草食な人たちのものだったランニングが、肉食の人たちまで巻き込もうとしてるということです。ランニングが多様になってメジャー化していく中で、本来ならコツコツ走ることが性に合わないタイプの人も巻き込みつつある。この比喩で言うと、僕自身はお酒を飲まなくて甘いものが好きなので、お菓子の人間なんですよね。
    上田:お菓子の人間かわいいですね(笑)。
    宇野:だから僕は歩いて適当にカフェに入って、本読んだりお菓子つまんだりする。僕みたいに、酒飲まなくて甘いモノが好きでオタクで、というようなお菓子型の人間も、ロッカーのような肉食型の人間も、ランニングは同時に包摂しようとしている。僕はランニング史には詳しくないのですが、ガジェットが充実してきたことや、ランニングが都市部のライフスタイルとして定着してきているといった背景があって、間口がどんどん広くなっている。それで、本来なら対象外にあるタイプの人間まで巻き込もうとしている感触があるんですよね。

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    今朝は、雑誌『走るひと』編集長の上田唯人さんと宇野常寛の対談をお届けします。東京マラソン以降現れたアスリートとも、かつてのジョギングブームで走っていたランナーとも異なる、新しいタイプの「走るひと」たち。体育とは違うランニングのあり方や、自分の物語性が求められるようになったスポーツの現在、そして2020年の東京オリンピックとスポーツの関係について語りました。
    毎週金曜配信中! 「宇野常寛の対話と講義録」配信記事一覧はこちらのリンクから。
    ▼雑誌紹介
    雑誌『走るひと』
    東京をはじめとする都市に広がるランニングシーンを、様々な魅力的な走るひとの姿を通して紹介する雑誌。いま、走るひととはどんなひとなのか。プロのアスリートでもないのになぜ走るのか。距離やタイム、ハウツーありきではなく、走るという行為をフラットに見つめ、数年前とはひとも景色もスタイルも明らかに異なるシーンを捉える。 アーティストやクリエイター、俳優など、各分野で活躍する走るひとたちの、普段とは少し違った表情や、内面から沸き上がる走る理由。もはや走ることとは切っても切れない音楽やファッションなど、僕らを走りたくてしようがなくさせるものたちを紹介。
    待望の第3弾となる『走るひと3』(2016年1月16日発行)は、発売後まもなくAmazonカテゴリー新着「1位」、総合「19位」をつけるなど、大変な好評を博している。
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    https://twitter.com/hashiruhito_jp

    ▼プロフィール
    上田唯人(Yuito Ueda)
    走るひと編集長 / 1milegroup株式会社 Founder CEO。早稲田大学在学中にアップルコンピューター(現Apple Japan)にてipodのプロモーション、上場前のDeNAで新規事業に携わる。卒業後、野村総合研究所に入社、企業再生・マーケティングの戦略コンサルタントとして、主にファッション・小売業界のコンサルティングを行う。その後、スポーツブランド役員としてファイナンス・事業戦略・海外ブランドとの事業提携などを手がける。
    2011年7月、1milegroup株式会社を設立。『走るひと』の前身となるWEBメディア・クリエイティブ組織を立ち上げ、様々なブランドのクリエイティブ、ブランディングプロジェクトを実施。2014年5月、雑誌『走るひと」創刊。
    現在、ひととカルチャーに関わる領域にて様々な制作・メディア事業を手掛ける。
    http://instagram.com/yuito_ueda
    https://twitter.com/yuito_ueda
    ◎構成:望月美樹子
    ■「体育」ではなく「ライフスタイル」としてのランニング
    上田:日本に「走るひと」というのはすごく多いんですね。トップアスリートもいるし、1970年くらいにジョギングブームがあって、マラソンをする中高年の方も大勢現れました。だけど、東京マラソンが2007年に始まって以降、それまでとは違うタイプの20代〜30代で走る人が増えてきたんです。
    そこで雑誌『走るひと』では、今までの「ランナー」という言葉を使わずに「走るひと」という象徴的な言葉を使って、これまでの枠組みとは関係のない動機で走ってる人たちを大きく捉えて、その人たちがなぜ走っているのか、そこから文化として何が言えるのかを紹介しています。アーティストやタレント、モデル、文化人の方に話を聞いていくことで、新しい「走るひとのリアル」が見えてくるというのが、『走るひと』を始めた動機であり、作っている中での結果でもあります。
    宇野:なるほど。よくわかります。
    上田:走ることは身体を動かすということなので、東京オリンピックに向けて東京がどうなるのかについての関心は我々としてもすごく高かったんです。それでオリンピックにどう関わっていくかを考えていた時に『PLANETS vol.9』を拝見しました。そこで、どんなことをお考えなのかや、この本ができた経緯、見えてきた視点を伺えればというのが、今回取材をお願いさせていただいた経緯です。今ざっくりと、我々が見たランニングの市場の変化や様子をお話したんですけど、どんなことを思われましたか?
    宇野:まず、僕自身のランニング経験から話しましょうか。震災前後くらいの半年間ですけど、一時期走ってたんですよ。時間のある時に自宅から新宿東口のヨドバシカメラまで走って、ミニカー1台買って帰ってきていました。ダイエットが目的だったんですけど、今は、事務所に電話して仕事しながらできるし、人と話しながら歩くのも楽しくてウォーキングに切り替えています。自営業だから細かい時間を取れるので、1日5キロとか7キロとか、時間があれば10キロくらい歩いてるんですよ。
    僕はずっとマラソン大会を始めとする「走ること」が大嫌いでした。走ること自体も嫌いだったけど、「苦しさを我慢して肉体を痛めつけないと一人前にはなれない」というような、マッチョな世界観に基づいた体育会系なイデオロギーがものすごく嫌だったんですね。走ることが苦手な人も、体が弱い人もいるのに、そういうところを全然考慮せずに、あるタイプの運動を我慢してこなせないと「ちゃんとした」人間じゃない、という価値観が嫌で、スポーツ文化自体にどちらかというと苦手なものを感じていたんです。
    でも、会社をやめて独立して少し経ったころかな、体重が80キロくらいになっていた時期があって、医者に「あんたこの数年ですごい太ってるから痩せなよ」と言われ、食生活を変えて運動も始めて20キロくらい痩せたんです。その時に友達から「最近ランニングが面白い」と言われたんですね。当時NIKE+がすごく流行ってる時期で、彼が言うには、自分の走っているスピードや消費カロリーが全部計測されるから、どうすれば速くなるかを考えながらゲーム的に走るのが面白いということだったんです。
    それで、友達と一緒に新宿東南口のオッシュマンズに行って、ランニング用のウェアやグッズを一通り大人買いしました。僕は普段からジャージとかを着ている人間なんですよ。伊勢丹のメンズ館にある衣類よりも、オッシュマンズにある服の方がデザイン的に好きで。トレーニングウェアは普通にかっこいいし、ガジェット的にスペックにも萌えられるし、オタク的な感性にフィットするんですよね。そうやってグッズを身に付けて走ったらすごく楽しくて、それでハマりました。その流れで今でもウォーキングしています。

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