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  • 2020年の挑戦 カルチャー・メタボリズムとしての“裏オリンピック” (安藝貴範×伊藤博之×井上伸一郎×夏野剛) ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.254 ☆

    2015-02-03 07:00  
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    2020年の挑戦カルチャー・メタボリズムとしての“裏オリンピック”(安藝貴範×伊藤博之×井上伸一郎×夏野剛)
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.2.3 vol.254
    http://wakusei2nd.com


    いよいよ発売となった「PLANETS vol.9 東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」。メルマガ先行配信の第3弾は、グッドスマイルカンパニー代表・安藝貴範さん、KADOKAWA代表取締役専務・井上伸一郎さん、クリプトン・フューチャー・メディア代表・伊藤博之さん、そして慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛さんをお招きした座談会です。サブカルチャー産業のキーパーソン4人が、「オリンピックの裏で開催されるサブカルチャーの祭典」計画についてとことんアイデアを出し合いました。
     
    体育祭としての東京オリンピックに対して、文化祭としての“裏オリンピック”はどうあるべきなのか。2020年までの間に、サブカルの担い手たちはどのように世代交代すべきなのか。その議論にうってつけの4人がここに集結した。
    「ねんどろいど」をはじめとしたフィギュアの制作・販売を行うグッドスマイルカンパニー代表取締役・安藝貴範氏。ゼロ年代の音楽業界に一石を投じた「初音ミク」の生みの親、クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役・伊藤博之氏。出版人としてアニメやマンガと関わり続けてきたKADOKAWA代表取締役専務・井上伸一郎氏。「iモード」「おサイフケータイ」など数多くのサービスを立ち上げ、現在はKADOKAWA・DWANGO取締役などを務める夏野剛氏。現在の国内ポップカルチャーシーンを「実業家」の立場から牽引する4氏が描く青写真とは?
     
    ◉司会:宇野常寛
    ◉構成:稲葉ほたて
     
    ▼プロフィール
    安藝貴範〈あき・たかのり/写真左から2人目〉
    1971 年生まれ。グッドスマイルカンパニー代表取締役。01年創業。「ねんどろいど」をはじめとしたフィギュアや玩具などの企画・制作・販売業務ほか、近年は『ブラック★ロックシューター』『キルラキル』といったアニメーション作品への出資も行っている。GSC傘下にアニメ制作HD会社ウルトラスーパーピクチャーズ保有し、直下に4社のアニメ制作会社を持つ。
    伊藤博之〈いとう・ひろゆき/写真右から2人目〉
    1965年生まれ。クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役。95年、世界のサウンドコンテンツを日本市場でライセンス販売する同社を北海道札幌市に設立。04年からヤマハの音声合成エンジン「VOCALOID」を搭載した音声合成ソフトの開発・発売をスタートする。07年8月、「VOCALOID2」を搭載した「初音ミク」を発売。2013年には藍綬褒章を受章した。
    井上伸一郎〈いのうえ・しんいちろう/写真中央〉
    1959年東京生まれ。株式会社KADOKAWA代表取締役専務。87年4月、ザテレビジョン入社。アニメ雑誌『月刊ニュータイプ』の創刊に副編集長として参加。以後、情報誌『ChouChou』、マンガ雑誌『月刊少年エース』などの創刊編集長などを歴任。07年1月、角川書店 代表取締役社長に就任。13年4月、角川グループホールディングス(現KADOKAWA)代表取締役専務に就任。
    夏野 剛〈なつの・たけし/写真右端〉
    1965年生まれ。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授。KADOKAWA・DWANGO取締役。97年NTTドコモ入社、99年に「iモード」、その後「iアプリ」「デコメ」「キッズケータイ」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。05年執行役員、08年にドコモ退社。現在は慶應大学の特別招聘教授のほか、ドワンゴ他複数の取締役を兼任する。
     
    ▼これまでに配信した、関連インタビュー記事はこちら。
    ・アニメが世界を征服するために必要なのは〈デザイン〉の力――グッドスマイルカンパニー代表・安藝貴範インタビュー
    ・東洋の〈個人〉の在り方に根差したアートのかたちとは――?「初音ミクの生みの親」クリプトン・フューチャー・メディア伊藤博之インタビュー
    ・「Newtype」で振り返るオタク文化の30年、そして「2020年以降」の文化のゆくえ――KADOKAWA代表取締役専務・井上伸一郎インタビュー
     
     
    宇野 ここでは2020年の東京オリンピックを「表の体育祭」と位置づけ、そういう「リア充」たちの表の祭典に対抗して、どうせなら僕たち「非リア充」の裏の文化祭を東京で開催できないだろうかと思い、皆さんをお呼びしました(笑)。
    夏野 素晴らしいね。ちなみに私、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の参与なんです。だから裏とか言わずに、両方でやっちゃったらいいんじゃない。
    宇野 もちろん、「裏」とは言っていますが「表」の、つまり正規の文化プログラムに入り込めたらそれに越したことはないと考えています。ここで重要なのは、その気になれば僕ら民間の人間の手で、つまり「裏」で実現可能なプランを出せることですね。
     戦後のオタク系文化にはどこか現実とは遊離したことを主張して、遊離しているがゆえにロマンティックな価値がある、と考える傾向がある。これってたぶん戦後民主主義の間接的な影響で、理想は現実と遊離していなければならない、というイデオロギーが働いている結果です。だから被害者意識も強いし、何かを実現することに対してみんな臆病なところがある。しかし一方ではオタク系文化は科学の作るワクワクする未来へのあこがれを原動力にもしているのも確かです。だから、このタイミングで、僕たちの妄想や理想を現実にしていくことができたら、日本のサブカルチャー、特にオタク系文化は次のステージに行けるように思うんです。
    伊藤 そういう機会を用意するのは大事だと思いますね。お祭りがキッカケを与えて、みんなにパワーを提供することはあると思います。
    宇野 現実的な話をすると、会期中に東京にやってくる観光客が競技を観戦できるのは一瞬だけで、あとは街をぶらぶらしているわけですよ。そのときにサブカルチャー都市・東京を満喫してもらえればいいのでは、という発想が根底にはあります。
     
     
    街にサブカルチャーをインストールする
     
    宇野 まず考えられるのは、既存のイベントを誘致することです。例えば、2020年のオリンピック期間中(7月24日から8月9日)は東京ビッグサイトが使えないので、コミケが通常とは違った開催になるはず。それを中心に他のイベントを配置していくのは、一つのアイデアですね。例えば、ニコニコ超会議をやって、お盆にコミケをやって、その間にJapan Expoやアニメフェアがあるというように。ただ、そもそもの話として、湾岸の大きい箱がオリンピックに使われてしまうんですよ。
    伊藤 我々がやるべき「裏オリンピック」って、そもそも予算がない(笑)。だから、国家のようにどこで競技をやるかみたいなハードウェアから考えない方がいいと思います。要は、ハードウェアにいかに便乗して、ソフトウェアをインストールするか。だから、東京でやってもいいのだけど、そのときには「街を面白くする」とか「ホコ天を始める」とかみたいな発想がいいと思いますね。そうして、街に何かしらのソフトウェアをインストールして、残していくことが大事ですよ。
    夏野 その「街に日本のサブカルチャーをインストールする」という発想はいいですよ。
    安藝 徳島のマチ★アソビとか、札幌の雪祭りみたいな感じですね。
    夏野 実は、ドワンゴが池袋で歩行者天国をやろうと仕掛けてるんです。そうすれば、歩行者天国で常にコスプレができる。そういう広場が、いまの日本にはないんです。本当は、そういう機能を銀座だけじゃなくて、東京の各所に埋め込みたいんですよ。
     そう考えると、これを機会に日本の都市機能の中にサブカルチャーがビルドインできるんだね。オリンピックの期間だけで終わらせるのはもったいない。表のオリンピックは、その夏で終わりでいいよ。でも、この裏のオリンピックは、そこから日本が始まるようなものにしたい。例えば、駅ごとにキャラがお出迎えする機能を作って、ずっと東京のシンボリックなものにしちゃうとかね。そこから、日本が変わったということにしたいな。
    伊藤 つまり、東京オリンピックという国家的な行事に便乗して、アンダーグラウンドまでひっくるめた、趣味的なポップカルチャーのアイコンを都市に埋め込むわけですよね。
    井上 今、日本は2020年までのビジョンは見えますが、2021年以降が見えづらい。これを機に2021年以降に残るアイコンを作りたいですね。
    宇野 なるほど、東京という都市の「どこを」ハックして裏オリンピックを忍び込ませるかという話ですよね。たしかにそこは競技会場の少ない、旧市街を中心に考えたいです。
    夏野 あとは、寺と神社とかね。文化遺産ですから、これは使えますよ。KDDIは増上寺でプロジェクションマッピングをやっていたし、築地の本願寺でもコンサートをやってますからね。
    伊藤 去年の「TEDxTOKYO」の打ち上げが渋谷の神社でした。案外貸してくれるんですよ。
    安藝 去年、平安神宮で水樹奈々ちゃんがコンサートをやりましたからね。寺を見に来た観光客は嫌がるかもしれないけど。
    宇野 今流行っているスマホの位置ゲー『Ingress』をやっていると、いかに日本に寺社仏閣が多いかがわかるんですよ。もはや東京は、駅と寺社仏閣が延々と並んでいる街に見えるくらいです。
    夏野 そういう外国人向けガイドブックに載っていないところをネットワークで繋げばいいんじゃない。
    宇野 神社や寺社仏閣は狭いところも多いですし、コレクション性で勝負するのはいいですね。それこそ、全部周ることに意味があるとか、行ったぶんだけキャラクターが集まるとか。
    井上 44カ所を巡るとかね。
    夏野 最近は代替わりしていて、若い神主さんも多いんだよ。俺なんて最近、真言宗の若手の僧侶の勉強会に呼ばれて、ITの話を頼まれたからね。「こういう企画を通じて宗教を理解してくれればいい」くらいに考えてくれると思うな。しかも、神社の巫女なんて、サブカル的にはたまんないじゃない。
    伊藤 神社は暗くて、空間的にもいいですよね。
    安藝 プロジェクションマッピングができますね。ホログラムの映像が出てきても、おかしくない。
    伊藤 「リアルお化け屋敷」という感じです。
     
     
    「点」ではなく「線」で考える
     
    夏野 ニコニコ超会議くらいの大きなイベントでやっと十数万人の集客なのだけど、実は一日に公共交通機関を利用する人数となると、渋谷駅だけでも何十万人という数なんだよね。そう考えると、「点としてのイベント」みたいなものはメインにしなくていい気もする。むしろ、そんなことは勝手に興行側が考えればいいんであって、点と点を繋ぐ公共交通機関をハッキングできるように、政府に働きかけた方がいいんじゃないかな。
    安藝 外国や地方から東京に来る人は、タクシーを使わずに電車とバスで移動するのが楽しいとよく言いますね。「あそこにどれくらい早く、安く行けるのか」とか。クエストみたいに楽しめるわけです。
    井上 やはり、街とか道のような空間を大事にした方がよさそうですね。
    宇野 それはキーワードかもしれません。表のオリンピックはなんだかんだで「点」で考えているから、湾岸の大きな競技施設に集中するでしょう。でも、それに対して、この裏のオリンピックは通りや旧市街を中心に「線」で考えていく。
    夏野 であれば、意外とバスが面白いんじゃないかな。ラッピングが50万円くらいでできるんだよね。もう、この時期のラッピングは全て牛耳らせてもらって、サブカルをテーマにしちゃえばいい。
    宇野 位置情報を組み合わせると、重層的なゲームのようなものが作れるんじゃないですかね。5年後にはトレンドが過ぎている可能性もありますが、地図情報を上手く使ったゲームもあり得ますよね。
    夏野 都営バスは既にGPSで各車両の位置情報を公開してるんです。「次の停留所まであと何分」というのも公開していて、そこから類推するゲームもできると思う。壮大なスタンプラリーをやるのも面白いよ。しかも、山手線圏内でいうと、都営バスの本数が一番多いんですよ。オリンピックの主催は東京都なわけだから、話は早いですね。
    宇野 キャラクターと組み合わせれば、東京全体が巨大なゲームボードになるんじゃないですか。スカイツリーに行くと『妖怪ウォッチ』のジバニャンが出てくるとか、不忍池に行くと『ポケットモンスター』のゼニガメが出てくるとかね。東京の地理とキャラクターが連動するようなサービスは面白いと思います。そうなると、オリンピックのチケットを持っていないような、夏休みで単に暇なだけの小学生にとっても、東京が特別な空間に変わるわけです。
    安藝 キャラクターがついたバスが走っていて、それに乗れるのもいいね。電車は駅しか見えないけど、バスは街を観光できますから。
    宇野 実際、これから湾岸開発が進むとして、あそこは電車網がしょぼいので車メインの移動になるはずなんです。そうなると、2020年の街づくりで公共の車をどう使うかはテーマになります。僕らは東京を把握するとき、つい電車網で切ってしまいがちだけれども、自動車網で考えることでもう一つの東京像が見えてくるはずなんですよ。
    井上 でも、電車だって使えますよ。昔はプロ野球の球場を作ってそこに電鉄を通したものですが、今は街に人を運ぶためにキャラクターを利用しています。鉄道会社にもコンテンツホルダーにもメリットがあって、KADOKAWAの『ケロロ軍曹』なんかもずっと西武新宿線でやらせていただいています。
    夏野 地下鉄やJRの駅に行くと、各駅ごとに違うキャラがいて、そのフィギュアがドーンと並んでいるのとかも良くないですか? 僕は六本木ヒルズで66体のドラえもんを見たとき、なんとも言えないリアリティを感じたんです。あれは何かのヒントになるなと思いましたね。
    安藝 僕らは、すぐ都道府県とか擬人化しちゃいますからね。「足立区ちゃん」みたいな。
    井上 そこは、美少女でしょう(笑)。鉄娘や23区コレクションみたいなのもありますしね。駅の構内のベンチに誰かが座っていて……。
    伊藤 「本物の人間かな」と思って覗きこんだら、実は大きなフィギュアだったとかね(笑)。これはもう安藝さんのところで受注ですね(笑)。
    夏野 本気でやりたいですね。構想に4年かけて、1年前か2年前の開発でイケるでしょう。
     
     
    東京中心主義からの脱却
     
    夏野 ただね、この宇野さんの企画は面白いのだけど、警備の面で考えるとオリンピック期間中に裏文化祭をやるのは現実的に厳しいと思うんです。やはり開催の直前や直後とか、オリンピックとパラリンピックの間の期間を狙う方が妥当なんです。やっぱり期間中にぶつけるって、悪ノリしてる感じがあるじゃないですか。
    安藝 ゲリラっぽい印象はありますね。それに、この期間のホテルなんて、ほとんど確保できません。
    伊藤 もっと違うところでやればいいんじゃないですか。東京である必要はないでしょう。
     
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    ▼PLANETSの日刊メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」は2月も厳選された記事を多数配信予定です!(配信記事一覧は下記リンクから順次更新)
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/201502

     
  • アニメが世界を征服するために必要なのは〈デザイン〉の力――グッドスマイルカンパニー代表・安藝貴範インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.223 ☆

    2014-12-16 07:00  
    220pt

    アニメが世界を征服するために必要なのは〈デザイン〉の力――グッドスマイルカンパニー代表安藝貴範インタビュー
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.12.16 vol.223
    http://wakusei2nd.com


    来年1月末に発売予定の『PLANETS vol.9(特集:東京2020)』(以下、『P9』)。オリンピックの裏側で開催する文化祭を提案する「Cパート=Cultural Festival」メイン座談会では、グッドスマイルカンパニー代表取締役社長、安藝貴範さんが登場します。今回は『P9』に先駆けて、2020年のキャラクター文化やアニメ文化がどうなっていくかについて、安藝さんにたっぷりとお話を伺いました。

    ▼プロフィール
    安藝貴範(あき・たかのり)
    国内キャラクター可動フィギュアの代表である「figma」シリーズ、独特のディフォルメの魅力で大人気を博している「ねんどろいど」の展開で有名な「グッドスマイルカンパニー」代表取締役社長。”グッスマ”の事業はホビー以外にも、カフェやアーティストマネジメント、アニメの製作会社運営と多岐にわたる。カーレース事業「グッドスマイルレーシング」では、初音ミクをプリントしたいわゆる痛車で、SUPER GTのチャンピオンになったことも記憶に新しい。
    ◎聞き手:宇野常寛/構成:池田明季哉、中野慧
     
    ▼前回の幣誌インタビュー記事はこちら
    http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar503684
     
     
    ■世界観が映像の外に染み出していく――アートディレクターの役割
     
    宇野 前回のインタビューでは、西海岸的なギークカルチャーと、東京的なオタクカルチャーをミックスすることによって、新しい21世紀のグローバルなホビー文化が作れるんじゃないか、というお話を伺いましたよね。
    さらにその後に『PLANETS vol.9』掲載予定の、「2020年に向かって日本のオタクカルチャーがどうなっていくのか」をテーマにした座談会(他にKADOKAWA井上伸一郎さん、クリプトン伊藤博之さん、夏野剛さんが参加)にも出てもらいましたが、今回はまず、安藝さんが日本のアニメやキャラクター文化の現状をどう捉えられているかについてお聞きしてみたいと思います。
    安藝 日本のアニメのクリエイター側に足りないことって、実はあんまりないと思うんです。デザイナー、シナリオライター、絵描きさん、監督まで含めて強力な面子が揃っていて、海外と比べてもすごく人材が豊富じゃないですか。
    「作る側の質の問題ではなく、そもそも需要が少ないんじゃないか!?」というとそうでもない。最近では海外から「日本のアニメがほしい」という話を今までよりたくさん聞くようになりました。特に日本のいわゆる深夜アニメは向こうのオタクやアーリーアダプターの人たちに相当浸透しているし、子供たちも『NARUTO』や『ONE PIECE』を経由してよく見ている。
    最近Netflix(ネットフリックス)やHulu(フールー)などの定額動画配信サービスが大流行していますが、全視聴時間の2割ほどが日本のアニメだと言われているんですよ。彼らは5000万人の有料会員を持っていて、かなりのビッグデータで誰が何を見ているのか完全に把握しているからオーダーにも迷いがないんです。「これとこれとこれを、幾らでくれ!こんなのを作った方がいいよ!」とかなりストレートに言ってきますし、値付けもかなり派手なんですよね。
    要するに日本のアニメ業界の制作内部に才能がないわけでもないし、外部の需要がないわけでもない。しかし、ちょっとしたタッチやルックとか、宗教観、デザインのまとめ方だったりが、英語圏の市場に「ほんの少しだけ届かない」であるがゆえにビッグヒットにつながらない。そこがもったいないなと思います。
    じゃあどうするかというと、作品をトータルでグランドデザインできるアートディレクターやプロデューサーのような人たちが必要だと思っているんです。あえて個人名を挙げるなら、メチクロさん、コヤマシゲトさんや草野剛さんのような人たちです。例えばメチクロさんは『シドニアの騎士』の装丁やパッケージデザイン、マーチャンダイジングなんかを手がけているんですが、作品の空気感をちゃんと外に出していくために、パッケージのデザインをどうするかとかいうことまで含めて考えてやっているんですよね。他にもコヤマシゲトさんは、『キルラキル』や、今度公開されるディズニーの『ベイマックス』のコンセプトデザインをやっていて、非常に重要な役割を果たしているアートディレクターです。現場のコントロールも上手ですし、アウトプットへの影響力の示し方も的確です。
     

    ▲「シドニアの騎士」BDパッケージ。
     
    宇野 アートディレクターというのは、映像の中身だけでなく、その作品の世界観やBDパッケージのようなプロダクトのデザイン、もしくはイベントのディレクションなんかも含めてビジュアルをトータルに管理する人たちですよね。キャラクターが映像作品の中に閉じこもっていられない時代に対応するには、そういうプレイヤーが必要だと。
    安藝 監督が意識的にやっていない部分も含めて、「この作品のどこが売りなのか」をピックアップしてアウトプットするアートディレクターがいた方が、外にちゃんと伝わるということだと思います。マーチャンダイジングの担当がチェックすることもあるんですが、それは単に間違いがないかどうかを見ているだけで、デザインがいいかどうかを見ているわけではない。そういう部分をいいディレクターが補ってくれるだけでだいぶ違ってくるんです。
    来年あたり、有能なアートディレクターや映像チームが集まってずっと議論をしているようなスタジオをつくりたいと思っているんです。例えばさっき名前を挙げた、メチクロさん、コヤマシゲトさん、草野剛さんなんかが同じところにいたら衝撃的だと思うんですよ。一階は誰でも立ち寄れるように、原画とか、他のメーカーとコラボしたスニーカーのようなグッズも売っているお店にして、ちょっとしたギャラリーとしても使いたい。その建物全体を、外国人観光客にも「ここおもしれえな!」って思ってもらえるクールな場所にしたいと思っているんです。
    宇野 安藝さんの最終目標って「日本のオタクカルチャーによって、ホビーや体感型のエンターテイメントも含めたディズニー的な総合性を実現する」ということじゃないかと思うんです。この先グッスマがどんどん成長していったときに、行き着く先は「グッスマランド」じゃないですか? そこでアニメがたくさん上映されていて、グッズもフィギュアもいっぱいあって、もちろんレースもやっている、という。
    安藝 グッスマランド! それいいなぁ(笑)!
    宇野 さっきの「映像の外側を含めてアートディレクターが管理していく」という話にも通じると思うんですけど、USJとかって今すごく調子がいいですよね。大金をかけて「ハリー・ポッター魔法の世界」をつくって、それが大人気になっている。今って「体験」しか意味がない時代だと思うんです。そこで、「映像」という体験の種をバラ撒いてグローバルにヒットを出して、それを体験としてもう一度与えるモデルが一番強くなっていくんじゃないか。
    安藝 そうなるためにはやっぱり、「10年、20年と長期にわたって長く愛される作品をつくる」ということが必要だと思うんですよね。『トイ・ストーリー』シリーズって第1作は20年前なんですが、いま見ても本当によくできていて素晴らしいですよね。そして『トイ・ストーリー』シリーズの強みは、衒いなく続編をつくれるところ。もともと作品をチームで作っているから、ヒットして続編をつくろうというときに、クリエイターが何人か変わっても、ちゃんとしたものができる。
    一方でたとえば日本のジブリは一本一本で完結させて作るという考え方が強いし、制作にあたって属人性が強すぎるのでそれが難しい。もの凄いパワーでやりきっているので、そもそもあまり続編を作る気がもなさそうですしね。悲しいけれど、作品の長期化というのはそういったチームのマネジメントも含めて、考え直していかないといけないのかもしれないと思います。
     
     
    ■思春期を終えて、成熟するために――アニメ産業の現在と未来宇野 ちょっと角度を変えてお聞きしたいのですが、このあいだ福田雄一監督の『アオイホノオ』(原作:島本和彦/庵野秀明や山賀博之の大学時代を描いている)が放送されていたじゃないですか。あの作品を見たときに、30年前に生まれた日本のオタク文化、キャラクター文化が、今はもう思春期から熟年期に入ってきていると思ったんですね。ただ、必ずしも「キャラクター文化はこれからおじさんたちのものになっていく」というわけでもない気がしています。アニメ文化の成熟を受け入れながら、どうやって新鮮なものを出し続けていくのかが課題になっているのかなと。
    安藝 それはみんなすごく悩んでいるポイントで、いろいろな要因があると思うんですが、深夜アニメって数が多くてチャンスは増えている割に、新人の活躍の機会が逆に減っていたりするんですよ。
    たとえば作品の本数が増えて監督がたくさん必要になると、人気監督は4年ぐらい先まで予定が埋まってしまう。当然、監督が足りなくなるから、演出の人たちがすぐ監督になってしまって、演出で本来鍛えられるべき期間がなくなってしまう。そして演出がすぐ監督になると、今度はテレビシリーズで必要な各話演出のスタッフが足りなくなって、結局は経験の浅い監督が一人でやるか、もしくはまだ経験不足の新人の子たちがやらざるを得なくなっているんです。
    作品が多い環境というのは一見豊かに思えるけれど、実はスタッフがスムーズに育っていく環境ではなくなっている。現場が地獄絵図のようになっていくと、働くこと自体が辛すぎるし、自分の成長過程もイメージできないからすぐに辞めてしまう。理想的には新人にきっちり時間をかけて育ってもらって、新しい作品を出していかないといけないんですけど、そこをうまく巻き取れていないしケアできていない。構造的に人が育たず、新たなチャレンジもし辛いというネガティブな状況になっています。
    宇野 普通に考えれば、現状ではアニメの数が多すぎるので、適正な数に戻ればその状況も改善されていくかと思うのですが、そうではないんでしょうか? 
  • 僕らに『スターウォーズ』さえあれば――グッスマ社長・安藝貴範が語るオタク文化の世界戦略 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.052 ☆

    2014-04-15 07:00  
    524pt

    僕らに『スターウォーズ』さえあれば――グッスマ社長・安藝貴範が語るオタク文化の世界戦略
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.4.15 vol.052
    http://wakusei2nd.com

    今朝の「ほぼ惑」に登場するのは、グッドスマイルカンパニーを率いる同社代表取締役・安藝貴範氏。宇野と彼が語り合ったのは、新しい日本文化の姿と、そして、それを創りだす人々がいかに生きていくか。現代カルチャーの最先端が垣間見えるインタビューです。

    figma 初音ミク 2.0
     
    国内キャラクター可動フィギュアの代名詞である「figma」シリーズ、そして大胆なデフォルメが一目見たら忘れられない「ねんどろいど」シリーズ。今回、PLANETS編集部が訪ねたのは、それらの企画発売元及び製造元のグッドスマイルカンパニーである。
    オフィスのエントランスに立っていた公式マスコット「ぐま子」"グッスマ"といえば一般に、「ねんどろいど」に代表されるグッズ・フィギュアの展開で有名だが、実はそうしたホビー事業に加えて、カフェやアーティストマネジメント、さらにはアニメの制作会社運営にカーレーシング事業と多岐にわたる。そんな多彩な顔を持つグッスマを率いるのが、同社の代表取締役・安藝貴範氏だ。
    今回のインタビューでは、一見バラバラのテーマを手がけてきたように見える氏に、宇野がその背後にある思想や"野望"について聞いていく。二人の話題は、先進国を覆い始めた西海岸のカルチャーにどう応答するかに始まり、やがて日本のクリエイターをいかに世界へと発信していくかに移っていった。
     
    ◎構成・稲葉ほたて
     
     
    ■新しい日本人の文化をことごとく押さえる謎の企業
     
    宇野 グッドスマイルカンパニーって、フィギュアを中心にアニメやゲームといったコンテンツビジネスに進出している会社といったイメージが一般的だと思うんですね。でも、僕の見立てでは、安藝さんはもっと広い意味での「文化」を作ろうとしているように思えて仕方がないんです。
    例えば、いま僕が20代、30代に向けた若い「BRUTUS」のような雑誌を作ろうとしたら、単にグッスマがやっていることを全ジャンルフォローして行くと思うんですね。アニメ、ゲーム、ホビー、自転車、アウトドアグッズにガジェット系、それにアイドル……これって、実は20代~30代の若い文化系男性の必修科目で、それをグッスマが片っ端から押さえていっている印象があるんです。
    安藝 そう言って下さると、嬉しいですよ。自分でも何をやってるのか分かってないんで(笑)、自信がつきますね。
    宇野 たぶん、安藝さんが好きなものは、みんな好きなんですよ。僕が思うに、そうやってグッスマが押さえているものって、実は戦後の中流家庭の人たちが考えてきた「文化」とは違う、新しい文化のスタンダードに近いものという気がするんです。
    去年出した『日本文化の論点』という新書で、僕は「新しいホワイトカラーが都市部を中心に登場してきた」という話を書いたんです。彼らはテレビを見ないし、百貨店でモノを買わない。情報の収集は基本的にネットで、ECサイトでの購入が多い。服装もアウトドア系がなぜか好きで、自転車やスニーカー集めが趣味で、ガジェットが大好き。
    安藝 僕の生活スタイルですね(笑)。でも、僕が知ってる外国の一線級のアーティストの連中も、ほとんど一緒ですよ。
     

    グッドスマイルカンパニー代表取締役社長・安藝貴範氏
     
    宇野 たぶんこの10年くらいで、IT業界を中心に米国の西海岸的な文化を日本的に受容する動きがあるんだと思います。おそらく、昭和のサラリーマンが米国式のライフスタイルを受容する中で、東京を西に延長しながら戦後的中流文化にローカライズしていったのと同じように、これから西海岸文化のローカライズがはじまっていくのだと思います。そしてそのポスト戦後中流文化になっていきそうなジャンルをことごとく押さえている謎の企業が、グッスマです(笑)。
    安藝 はっはっは(笑)。僕らのやっていることは、そういう文化の表層でしかないですが、きっと掘り下げていくと色んなものが出てくるんじゃないですか。深いところで繋がっていますよ。
     
     
    ■ "オーバースペック"という新しい美学宇野 例えば、アウトドアの服にしても、普通に東京でデスクワークをしている人間には、本当は「異常に丈夫な服」とか絶対に必要ないはずなんですよ。
    安藝 「これを着てると、全然寒くないんだぜ」みたいな服もあるよね(笑)。
    宇野 これは過剰なスペックへの「萌え」みたいなもので、一つの新しい文化と見てよいと思うんです。ああいう20代~30代のカジュアルなオタクセンスって、僕の周囲のホワイトカラーに凄く広がっているんですが、何か昔の銀座の「ゴルフ文化圏」的ものの次になり得る予感も僕にはあるんです。
    安藝 確かに衒いなくオーバースペックを求めるのはありますね。実は今度、変形するヘッドフォンを作ってるんです。
    宇野 へええ。ヘッドフォンですか。
    安藝 いま、ヘッドフォンが面白いんですよ。iPhoneのお陰でみんなが音楽を持ち歩くようになって、ヘッドフォンへの需要がファッションアイテムの一面もあって高まってるんです。その人気の先駆けになったのが「Beats」で、いま世界中の若い子たちにとって、あの「かっこいい」ヘッドフォン持っているのが、ある種のステータスなんです。
     

    Beats by Dr.Dre beats studio ノイズキャンセリングヘッドフォン ブラックカラー BT OV STUDIO V2 BLK
    http://www.amazon.co.jp/dp/B00F3V3RYW商売としても大きくなっていて、一個3万円するものもあるのに一ヶ月に10万の桁で売れることもあるらしいです。一ヶ月に3万円×20万個だと仮定すると、60億ですよ。
    実はいま、日本のFostexさんっていう凄腕の音響メーカーさんが、自分たちのブランドでヘッドフォンを作ろうとして、グッドスマイルカンパニーに声かけて下さったんです。それで考えたのが、「トランスフォーミング・ヘッドフォン」というもので、さっきも言ったように変形するヘッドフォンですよ(笑)。
    もうね、これを作るのに下町の技術からなにから寄せ集めてます。昔のガラケーに、SONYのわけわからない変形をするヤツがあったじゃないですか。その辺の職人さんたちなんかも呼んできて、複雑でもスムーズネスがあって、しかも強度も両立させるようなヒンジ設計をしてもらっています。音についても、一般的なものでは10万円クラスであろうと言われるドライバーが入っていて、チューニングも最高です。4万円前後くらいで販売するつもりなんですが、これにGizmodeさんがが凄く良いタイトルをつけて紹介してくれたんです。
     
    GEEK JAPANを代表するプロダクツになるかも?グッスマ×フォステクスの可変ヘッドフォン : ギズモード・ジャパン
    http://www.gizmodo.jp/2014/02/geek_japan.html
     
    宇野 なるほど、「ギークジャパンを代表するプロダクト」。
    安藝 いや、良いタイトルでしょう(笑)?
    これを今度、Linkin Parkのジョー・ハーンと一緒に展開します。今、そのチューニングセッションのために、スタッフがロサンゼルスに行ってます。更にこのプロジェクトには、グラミーアーティストなんかも興味持ってくれてます。Skrillexって知ってます? ダブステップで今一番人気があるアーティストなんです。
     

    SKRILLEX - Scary Monsters And Nice Sprites
    (https://www.youtube.com/watch?v=WSeNSzJ2-Jw)
     
    カップスタックという遊びで米国の女の子が新記録を出した瞬間の声をYouTubeからサンプリングして曲の冒頭に使っちゃったりして、話題づくりも上手い。グラミー賞ホルダーです。
    宇野 あ、ニコ動的な感じなんですね。
    安藝 そうそう、「キーボードクラッシャー」みたいな。YouTubeを上手く使うアーティストで、全米を席巻してます。その彼が『ブラック★ロックシューター』のhukeくんのアートを凄く気に入って、彼らがとっても仲良しなんです。Skrillexのキャラクターをhuke君がデザインしてみたり。彼らの協業もこれから実現したいと思っています。
    skrillexのPVは爆発的な再生数です。1億5000万再生とかされてるわけです。そうすると、hukeくんとのコラボPVとかあったら凄い認知が広がるなぁと……夢が広がりますよ! こうやって、だんだん色んなものが繋がっていくんですよ。
     
     
    ■「日本のスーパーアニメーターはワンカット8000円」
     
    宇野 いまのお話は西海岸的なギークカルチャーのグローバル化に対して、日本のオタクカルチャーがどう応答していくかという話でもありますね。
    安藝 いやもう、その二つは混ざります。日本のローカルなオタクカルチャーが、外国人は大好きなんですよ。最大の発信源である西海岸の人たちが、特に大好き。Skrillexもそうですが、みんな東京で何かやりたがるんです。日本に来ても、京都に行かないですからね。ひたすら秋葉原や中野、浅草なんかを回ってますよ(笑)。
    宇野 社会学者の知人が香港にいるのですが、彼がこの間、「東京の人たちは、東京の西側に文化があると思っている。それは外国からみたら大きな間違いで、外国人にとっての東京は、やはり浅草と秋葉原と銀座とビックサイトである」と言っていたんですね(笑)。つまり、昔ながらのスキヤキ・フジヤマの日本と、クールジャパンのサブカルチャー・ジャパンの二つにしか彼らは興味がなくて、それは東京の東側の文化なんだ、と。いま西海岸的なギークカルチャーがインテリ層へと世界的に広がっている中で、それを一番ホットに打ち返せる場所の一つが東京の、それも東側なのだと思うんです。僕は21世紀前半の日本が新しい文化を発信できるのは、この文脈しかないとさえ思うんですよ。
    安藝 そういう意味では、ロサンゼルスとのマッチングがまだうまく行ってないかもしれませんね。ハリウッドがあるので、どうしてもエンターテイメントはそこで完結してしまうんです。でも、アパレルやアートの人たちは、非常に東京に注目していますね。
    実は僕らもロスに数百坪くらいの大きなウェアハウスを借りていて、そこに一流どころの絵描きやミュージシャンなんかが集まっているんです。でも、彼らと遊んでいると、なんかこうちょっと"嫌な気分"になるんですよ。
    というのも、基本的には普通のヤツラなんです。会話の節々や人柄、そして作品にカリスマや天才性は大いに感じられるんですけどね。でも、日本に帰ってくると、彼らのような、いやもしかしたら彼ら以上に凄い連中が、普通にフィギュアの原型を作っていたり、アニメの世界でLAの絵描きとは段違いのギャラで絵を描いていたりするんです。かたや絵を一枚何千万円で売ってる連中がいるのに、相変わらず日本のスーパーアニメーターはワンカット8000円ですよ。
    これ、僕にもどうしたらいいか答えがないですね。一時期、もう少しアート寄りに作品の価値をつけた方がいいのかと悩んだりしたけど、それも違っていて……。
    宇野 例えば、そこに竹谷隆之さんのフィギュアがありますよね。彼は一部の日本人にしか知られていないけど、現代日本における最大のアーティストですよ。将来的には絶対に名前が残る人だと思うんです。
     

    竹谷隆之監修の「巨神兵」のスタチュー。「巨神兵を、現代的でインパクトのある姿に作りかえた」(宇野常寛)
     
    安藝 いや、本当に大天才ですよ。他に匹敵する人はいるのかな……。
    宇野 S.I.Cの初期に、竹谷隆之の造形が3500円とか売られていたでしょう。当時、こんなことが許されるのかとびっくりしましたね(笑)。この3500円のフィギュアが、もし世界中のトイザラスで売れたらと思うんです。そのとき、きっと彼の制作環境は今の10倍どころではなく良くなる。
    安藝 彼のような作家に、しっかりしたギャラリーがつけば……ただ、竹谷さんの場合は、そもそも値段をつけることに興味がなさそうですね。「その値段で!」とびっくりするような額を聞いたことがあります。
    宇野 いや、竹谷さんの一点物が買えるんなら、僕はいくらでも出しますよ。僕は生まれ変われたら、ホビージャパンの撮影スタッフになりたいと思ってますからね。そうしたら毎回、竹谷さんの造形を撮影できるじゃないですか。
    安藝 別に今からでも竹谷さんのところにちょいちょい遊びに行かせてもらえば、全然中に入れてくれるようになりますよ(笑)。宇野さん詳しいし!
    話を戻すと、フィギュアをアートとして売ることは何回も考えたんです。だけど、やっぱり「こっちはオリジナルのコピーです。こっちはマスプロダクトです」というふうに分けるのは難しい。
    それに、アートとある種のキャラクターグッズとしてのフィギュアをどう折衷させるかも悩ましい。やっぱり中途半端なところに価値を置いておきたくて……(笑)。アートと呼ぶには、元の作品を愛しすぎていて、おこがましいわけです。
     

    figma 仮面ライダードラゴンナイト
     
    宇野 日本のアートの文脈って、巻き込まれて幸せになるのか微妙ですしね。あそこに巻き込まれると、むしろ作家は死んでいくとよく言われている。だから、村上隆さんはあんなに苦労しているわけでしょう。
    安藝 竹谷さんも、アートに行ってないから幸せという気がするんです。人からオファーがあって、作りたい人なんですよね。
    宇野 しかも竹谷さんは、日本においてホビーと映画美術とアートの間に区別がないことの象徴ですからね。いや、本当はホビーが美術よりレベルが高いことをみんな知っているわけですからね。
    彼らはあまりにも過小評価されているし、コンテンツ産業の末端にいる人も多い。でも、アートの世界に行ったら行ったで、その才能がうまく花開かない可能性が高い。そういう状況の中で、安藝さんは例えば質の高い商品化でお金を回したり、企画そのものにスポンサーとして入ることで、彼らの創作環境を整えていくことを考えているわけでしょう。
    安藝 上手い着地点を探しています。でも、探しても、探しても、難しい。結局、エンターテイメントもアートも、成功するケースって稀なんですよ。だからこそ、そのときにはもっとお金がしっかり入るようにしたい。フィギュアやアニメがそこそこ売れた程度では、日本のクリエーターやユーザーが求める品質感やエンターテイメント性は実現できない。成功したときの最大値が日本では低いんですよ。
    宇野 この日本のサブカルチャーのまま、グローバルに支持されるしかないと思うんですよね。
    安藝 まったく、その通りです。ただ、それに気付いてもらうために、アメリカの音楽を使ったりするのはアリだと思っていますね。日本のサブカルチャーに憧れや敬意を持っている外国人たちとパートナーシップを組んでね。そろそろできるような気がするんです。
     
     
     ■「僕らにスターウォーズさえあれば」

     
    安藝 そういう意味で、いま考えてるのは『スターウォーズ』ですよ。何十年、ヘタしたら百年持つような、バカみたいに稼げる状態を、今の日本の作家たちが生きていくために作りたいんです。
    宇野 そこで必要なのは「作品」である、と考えるんですね。
    安藝 それさえあれば、僕らに『スターウォーズ』さえあれば、と思います。たぶん、海外では200億円かかるものでも、日本でなら3分の1の予算でできるはずなんです。
    宇野 でも、3分の1のお金を集めるのも大変でしょう。それに、日本中のクリエーターを総動員体制にしないといけないですし。
    安藝 確かにお金はかかるけど、お陰様でグッスマは今なら多少キャッシュがあるんです。だからこそ、いまのうちにある種の博打を打ちたいんです。ここから、あと何年かでこのキャッシュを使い切って制作して、そのときに僕らはヒットを手にできているか……という。まあ、もし手にしていなかったら、また一から貯めなきゃいけないですね(笑)。
    そういう作品を制作できたとき、僕が手を広げてきた全てがつながる気がするんです。ヘッドフォンも格好よくなるし、自転車ももっと格好いいものが出せるかもしれない。F1にもフィギュアにも使えるかもしれない。そういう、会社のすべてを振り返るような作品になると思う。