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  • 宇多田ヒカル以降のJ-POPと「作詞」はこれからどうなる? ——作詞家・藤林聖子インタビュー ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.059 ☆

    2014-04-24 07:00  
    524pt

    宇多田ヒカル以降のJ-POPと「作詞」は
    これからどうなる?
    ――作詞家・藤林聖子インタビュー
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.4.24 vol.059
    http://wakusei2nd.com


    今回の「ほぼ惑」は、作詞家・藤林聖子さんのインタビュー。日本のポップカルチャーに大きなインパクトを与えてきた作詞家・藤林聖子の創作の秘密に迫ります。

    藤林聖子は、アニメ・特撮・映画・ドラマの主題歌にとどまらず、J-POPやK-POPの様々なアーティストに歌詞を提供し、年間100本以上のリリックを生み出す、現代日本でも屈指の売れっ子作詞家である。作詞家としてはあの”秋元康”と並び称されうる存在と言っても過言ではない。そして、井上敏樹(脚本家)、白倉伸一郎(TVプロデューサー)と並んで、「平成仮面ライダーシリーズ」の各作品を語る上では最重要人物の一人でもある。
    今回、宇野常寛とPLANETS編集部は、その藤林さんのクリエイティブワークの秘密を探るべく、六本木の事務所を訪ねた。そこで明らかになった「平成ライダーシリーズ」主題歌の作詞の秘密、そして「宇多田ヒカル以降」と日本語ラップ、J-POPの関係とは――!?
     

    ▼プロフィール

    藤林聖子(ふじばやし・しょうこ)

    1995年作詞家デビュー。オフィス・トゥー・ワン所属。サウンドのグルーヴを壊さず日本語をのせるスキルで注目され、独特な言葉選びにも定評がある。
    E-girls の大ヒット曲「Follow Me」を始め、平井堅、水樹奈々、BENI、三代目J Soul Brothers、Hey!Say!JUMP、w-inds.、BIGBANG、BOA、T-ARA等様々なジャンルのアーティスト作品から、テレビアニメ『ONE PIECE』主題歌「ウィーアー!」「ウィーゴー!」、『ジョジョの奇妙な冒険』『ドキドキ!プリキュア』等の主題歌や仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズ、更にはドラマ主題歌、映画主題歌、その他CMソングまで多岐に渡って活躍。映像作品の芯を理解しアーティストの世界観として創り上げる能力とスピード感に定評がある。近年はアーティストのリリックプロデュースも手がけている。
    現在、NHKみんなのうたで放送中の藤林が書き下ろした「29Qのうた」(歌:つるの剛士)が話題沸騰中。
     
    【現在オンエア中】
    ●NHKみんなのうた『29Qのうた』(歌:つるの剛士)
    ●TOKYO- MX系他アニメ「M3~ソノ黒キ鋼~」主題歌 『Re: REMBER』/May’n
    ●テレビ東京系アニメ「マジンボーン」主題歌 『Legend Is Born』/加藤和樹
    ●NHK Eテレ 「すイエんサー」エンディングテーマ 『アンブレラシュークリーム』/すイエんサーガールズ
    ●TOKYO- MX系他アニメ「史上最強の弟子ケンイチ 闇の襲撃」主題歌『Higher Ground』/関智一・エンディングテーマ『BREATHLESS』/野水伊織 
    ●テレビ東京系アニメ「ガイストクラッシャー」主題歌『爆アツ!ガイストクラッシャー』/きただにひろし
    ●NHK Eテレアニメ 「くつだる。」テーマソング『マボロシ☆ラ部』/ 堀内まり菜・金井美樹・佐藤日向・島ゆいか
    ●TOKYO- MX、MBS 他アニメ「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセーダーズ」オープニングテーマ『STAND PROUD』/橋本 仁 
    ●読売テレビ系アニメ「金田一少年の事件簿」主題歌『Brand New Story』/東京パフォーマンスドール
    ●ANB系「仮面ライダー鎧武/ガイム」主題歌『JUST LIVE MORE』/鎧武乃風
    ●ANB系「烈車戦隊トッキュウジャー」エンディングテーマ『ビュン!ビュン!トッキュウジャー』/Project.R
    ●TOKYO‐MX 系他アニメ「彼女がフラグを折られたら」主題歌 『クピドゥレビュー』/悠木碧
     
    最新情報
    http://www.oto.co.jp/profile/profile.php?no=55
     
    ◎構成:葦原骸吉・中野慧
     
     
    ■偶然から「絶滅危惧種」の職業作詞家に宇野 藤林さんは10年以上にわたって、作詞家として第一線で活躍されているわけですが、正直言って僕も含めて、「職業作詞家」というもののことをそもそもよくわかっていないところがあると思うんです。と、いうか、作詞家ってどうやってなっていくものなのかが、前からすごく気になっていて(笑)。
    藤林 気になりますよね(笑)。私はもともと雑誌の編集やライターのような文章を書く仕事をやりたいと思っていたんですが、出版業界への入り口が分からなかったんですね。で、そのうち友達の友達みたいな感じで、たまたま作詞家の人と知り合いになったんです。私たちの世代だと、当時作詞家といえば「おニャン子クラブ」の秋元康先生のイメージがすごく強いので、「カッコ良い!」とか思って「私もやってみたいです!」と言ったら、その方が「じゃあやってみたら? 紹介しますよ」と勧めてくださったんです(笑)。
    宇野 なるほど。それまでは会社員をされていたりしたんですか?
    藤林 いえいえ、普通に東京に来て大学卒業後に専門学校に行ってたんですけど、なんとなく渋谷から先に行けなくなっちゃって、そしたらそういう知り合いができて……という。わりとストリート感の強いイメージで考えていただいて大丈夫です(笑)。
    宇野 なるほど、90年代当時の、ストリート感が溢れてる頃の渋谷の話ですよね。
     僕は今35歳ですが、僕が中学の頃の1990年代初頭から、たとえば小沢健二や、槇原敬之、大黒摩季のようなJ-POPのシンガーソングライターが増えてきましたね。なので逆に、今の時代の「職業作詞家」という存在はすごく面白いなと思っていて。
    藤林 そうですね、絶滅危惧種に近いと思います。当時事務所には阿久悠先生がいらしたので「作詞家がたくさんいるのかな」と思っていたのですが、いませんでした。この事務所は、作詞家を育てるスキームがあって「地道にいろんな所でお仕事できるようになりましょうね」という感じで教育されました。現・Flying Dogにいた女性ディレクターさんにはよく電話で何時間も相談に乗ってもらいましたね。昔はディレクターさんもそういう母心のような感じで接してくれる余裕があったんです。私は生え抜きで、もう18年ぐらいいます。
    宇野 藤林さんが影響を受けた作詞家さんはいらっしゃいますか?
    藤林 私はあんまり他の作詞家さんの歌詞を勉強したりしなかったんですが、あえて言うと、阿久悠先生と、康珍化(かんちんふぁ)先生ですね。阿久先生には、ロングインタビュー取材に同席させていただいたりしました。私と康先生は同じくBoAさんの作詞をしていたり、『仮面ライダーBLACK RX』(1988年)の主題歌を作詞なされていたので、勝手に親近感が湧いて、康先生の80年代アイドル物の歌詞をちょっと見たりしました。やっぱり歌詞に、いきなり「ボーンっ!」と行っちゃうような、突破力があるところがすごいですね。
    宇野 なるほど。藤林さんご自身はどんな楽曲やミュージシャンがお好きなんですか?
    藤林 わりと洋楽の方をよく聴いていてとくにR&Bが好きでした。最近は仕事で打ち込みの曲ばかり聴くので、プライベートでは生演奏っぽい曲を聴きます。たとえばエイミー・ワインハウスやジョン・メイヤー、ブルーノ・マーズのような比較的アコースティックな感じの人ですね。日本のミュージシャンでは久保田利伸さんも好きでした。今にして思うと、久保田利伸さんや鈴木雅之さんに詞を提供なされた銀色夏生さんには憧れがあったかもしれません。
     
     
    ■「先の展開を予見したライダー主題歌」が生まれた秘密
     
    宇野 僕が藤林さんの作詞を意識したのは、だいたい『仮面ライダーアギト』(2001年)の主題歌「仮面ライダーAGITO」あたりからなんです。
    藤林 『アギト』の主題歌はわりと、今も好きと言ってくださる方が多いですね。わりとシンプルなメロディーで、覚えやすかったのかな。
    宇野 覚えやすいし、シンプルなメロディながら、ちょっと変わった歌詞だと思ったんです。最初の歌い出しの「♪闇の中見つめてる/掴み取れ君求めるもの」という部分が、歌詞カードを見ると「 」の中に入ってるんですね。これは変わってますね。
    藤林 その部分は、曲調もですが、番組冒頭のアバンタイトル直後だから、天の声みたいな感じで聞こえたらいいと思って、ナレーション代わりの感覚なんです。だからその「 」が外れた所から現実に戻ってくるようなイメージで書いた記憶があります。
    宇野 そうなんですか。13年前からの疑問が氷解しました。平成ライダーシリーズの主題歌は、放送開始前に書かれているわけですが、どのように作詞しているんですか。
    藤林 歌詞を書くときは、大まかな企画書とプロット、最初の1、2話の台本が一冊になった物をいただきます。あとは、バンダイさんからのライダーのデザインとベルトの解説などをいただきます。それと、ときどき番組のプロデューサーさんと打ち合わせさせて頂いて、その時点での展望を聞いたりして作らせていただいてます。
    宇野 なるほど。いつも、まだ材料がない状態で歌詞を書いてるはずなのに「なんでこんなに作品世界にマッチしてるんだろう」と、ずっと不思議でした。
    藤林 そうですね、一番は私の「ライダー愛」だと思うんですけれど(笑)。あるプロデューサーさんのお話では、番組が一年もあるので展開に迷ったときは、スターティングポジションに戻って、主題歌を聴いて考えてくださっているそうです。最初に作詞家とのミーティングがあれば、「こういう展開にするはずだった」と思い出すこともあるのかもしれません。だとしたら、光栄です。
     『仮面ライダークウガ』(2000年)の高寺成紀プロデューサー(現:KADOKAWA)とは何回も打ち合わせさせていただきましたね。平成ライダーシリーズ最初の立ち上げということもあり、「昭和ライダーとの違いを出すにはどうするか?」という話になって、「じゃあどうしましょうか?」と聞き返したら、そのままずっと5分ぐらい考え込んでしまって、そのときはたしか夜中だったので「寝てしまったのかな?」と思ってしまったりしました。一番話し合いの時間も長く、直しも多かったのは高寺さんでしたね。
    宇野 なるほど、すごく高寺さんらしいエピソードですね。
    藤林 最近では、武部直美プロデューサー(東映)と最新作の『仮面ライダー鎧武』の打ち合わせをしたときですが、当然ですが武部さんもすごく特撮ヒーローにお詳しく「こういう曲でも良いと思うんですよね」と、かつてのヒーローソングで、「君の青春は輝いているか」という曲を聴かせてくださいました。
    宇野 ああ、『超人機メタルダー』(1987年)の主題歌ですね。ジェームズ三木さんの作詞で、ヒーローの名前が出てこない、当時としてはめずらしい曲ですね。
    藤林 さすがにお詳しいですね。武部プロデューサーは、きっとこういう方向性の歌詞のイメージをお持ちなんだろうなと思いました。今回は鎧武乃風こと湘南乃風さんが歌うということもあって、「♪信じた道を行け」というような命令形の歌詞とか、上から落とし込む様な言い回しをつくったのですが、「これで本当にいいのかな?」という躊躇も、最初はあったんですよ。でも、今まではそこまで「生きる」のようなテーマの歌詞をやってこなかったので、チャレンジしてみようと思って今のような歌詞にしてみたんです。
     歌っている鎧武乃風さんは人数の多いユニットですから、歌詞がストーリー的に繋がっていく感じより、飛び飛びでも大丈夫かなと思って、ちょっとお父さん的な目線があったり、主人公本人らしい目線があったりしますが、どこから取ってもすごくメッセージっぽく刺さるように書きましたね。
    宇野 それで言うと『クウガ』の主題歌は製作者の直接的な目線になっていたと思うんです。たとえば「♪時代をゼロから始めよう」というフレーズは、結果的に「仮面ライダーシリーズを復活させてやり直すんだ」という意味が込められているように聞こえますね。
    藤林 それはもうプロデューサーさんも意図していて、「昭和を引きずらないで、まったく新しいものを始めよう」のような想いがあったのかもしれませんね。
     歌詞の視点について言うと、『アギト』は若い主人公の成長譚でしたが、歌われた石原慎一さんはベテランの方なので、当時は無意識でしたけど、歌詞中の視点という意味でバランスを考えて作った面はあるかもしれません。平成ライダーシリーズはいつも、歌い手さんも主人公ではなく、第三者目線ですね。そのためダイレクトなイメージではなくなるのかと思いますね。自分がすごく照れ屋だから、あまり「俺が俺が」みたいな打ち出しができないのかもしれないですが。
     
    ▲藤林さんからいただいたおみやげのCD
     
     
    ■藤林作詞のポイントは「アクセントを合わせる」
     
    宇野 僕は詩人の水無田気流さんとJ-POPの歌詞分析の授業を大学で行ったことがあるんですが、1990年代中盤の小室哲哉さん以降、「踏切の前であなたを待ってる」といった具体的なシーンではなく、抽象的で観念的に「この世界の歴史の中、私はあなたを〜」といった歌詞になっているんです。藤林さんはやはり、「小室以降」の作詞家さんだと強く感じますね。
    藤林 わざとそっちに寄せている面もありましたね。以前、私は「大人っぽい」ということを「余裕のある、何でも笑い飛ばせる」と解釈していたんですが、ある他の音楽関係者の方が、「私の痛みを云々」といった観念的なフレーズのほうが大人っぽいと思っていらして、私の感覚とは違って話がうまく通じなかったことがあります。世の中的には小室さんが作ったそういう感じをアーティストっぽいとか、大人っぽいって言うんだなと学んだ時期はありましたね。
    宇野 あの時期の小室さんって、間違った英語を意図的に歌詞に入れていますよね。ネットでもよく話題になっていましたが、「Feel Like dance」とかって明らかに文法的に間違っている。でも今聴くと、音として単純に使ってるんですよね。その後の浜崎あゆみさんのようなアーティストは「具体的な描写はしない」「英語を音として使う」という小室メソッドで歌詞を作っていっているわけです。
     1980年代後半以降、J-POPは「英語を日本語の歌にどう入れるか」に悪戦苦闘してきたと思うんです。小室さんのように英語フレーズを単に音として使ったり、サビだけ英語にするといった試行錯誤があったあとに出てきた藤林さんの歌詞は、日本語と英語の接続がすごく滑らかで、完成度が高いと思いますね。
    藤林 ありがとうございます。2000年ごろのR&Bブームの時期に「どうしたらグルーヴを壊さないように、スムーズに曲に日本語が乗るんだろう?」と、すごく試行錯誤したんです。そこで学んだコツは、「楽曲のリズムと歌詞のアクセントを合わせる」ことなんですね。