Omasuki Fightの北米MMA抄訳コラム――今回のテーマは北米から見たRIZINです!
RIZINが終了した(9月25日(日)開催「RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2016 無差別級トーナメント」)。みなさんはこの大会をご覧になって、どのような感想を持たれたであろうか。
今回はいつもとやや趣向を変え、筆者の個人的なRIZIN観戦記を書き記すことをお許しいただきたい。後半には、この大会が海外でどのように見られていたのかについても簡単にまとめたい。なお、筆者はフジテレビ地上波版のみで観戦したことを申し添える。
結論から言えば、筆者は今回のRIZINを大変楽しく観戦した。これまでの大会と比べても、相当に内容が充実していたように感じた。
前回までと今回の違いは、地上波版を見る限りにおいては、ほぼほぼ戦績の乏しい選手のオンパレードに振り切ったところにある。戦績の乏しい選手のオンパレードだと、普通はつまらなく感じるのではないかと思われるところ、今回は、戦績が乏しければ乏しいほど、試合がおもしろく感じたのだ。
たとえば『スーパーハルク・トーナメント』であったり、ベラトールのメジャー大会など、セレブファイターが登場するフリークファイトでは、大会の進行に伴い、いかんともし難い緩さが生じてくるのが常であった。フリークファイトは実際に試合が始まるまでが旬なのである。勝ったから、あるいは負けたからと言って、どうなるわけでもない場合が多いので、結果への関心はどうしても薄くなる。ところが今回のRIZINは、ほとんどフリークファイト、セレブファイトだと呼んでもいいようなカードなのに、勝敗にこだわるピリピリ感がしっかり残っている。とてもシンプルに、いろんなバックグラウンドを持ったMMA戦績の浅い選手が、同じ土俵の上で真剣に勝負している、その一生懸命なところに目が吸い寄せられる。
こんなもの、「大食い+柔道のミックスルール対決」とどこが違うのかと言われると困るが、あれだって真剣に勝負する姿に、ウルッとさせられることもあるものである。
個人的にはこの爽快感の根っこには、ああ、この人たちのモチベーションは必ずしも、カネだけじゃないな、というふうに見るところにあるのではないかという気がする。「けなげ」さに泣けるのである。
だからといって団体は選手にカネを払わなくてよいということにはならないし、プロ選手がカネのために戦うのはよくないと言うつもりもない。
思えば、同じようなけなげさは、ベテラン選手の中に見いだせることもある。たとえば第1回RIZINで勇姿を披露した高阪剛、今回のRIZINで肩固めで勝ったミルコ・クロコップには、勝ち星に対する合理性や効率性だけを追求すれば、こういう試合にならなかったのではないか、と思わせるところがある。我々を泣かせるのは、そんなけなげさなのである。
逆に「モチベーションはカネだけ」であり、「勝ち星に対する合理性や効率性だけを追求」するのが、UFCである。筆者はUFCも大変に楽しい娯楽であると思っているし、プロファイターの思考回路としてはそれが至極当然であるとも思うが、毎週UFCばかり見ていた自分が今回のRIZINの戦績の浅い選手のけなげさを見て、忘れていた何かを思い出したというのか、凝り固まっていた頭がほぐされたというか、新鮮な気持ちになれたことは確かなのであった。
UFCで、インヴィクタで、判定勝利を飾った日本人ファイターが観客に向かって、フィニッシュできなかったことを謝るシーンがときおり見られる。頭がUFCモードになっているときの筆者は、そのような発言に違和感を抱く。勝ってファンに謝罪するとはいったいどういう意味なのか。謝罪された青い目のファンも、何を謝罪されているのか、よくわかっていないのではないか。こういうどこか遠回りで余計なメンタリティが、日本人ファイターがUFCで勝てない理由の1つなのではないかと思ってしまうこともあったのだ。しかし、今回頭をRIZINモードに切り替えてみると、そういうところが日本の格闘技のおもしろいところなのではないかと思えてくる。
MMA戦績は浅くとも、他分野でスターである選手たちだから、地上波の絵としても貧乏くささがなく、しっかりしたエンターテイメント・コンテンツに見たのもよかった。マッチメークの妙もあって、MMAの戦闘能力はともかく、各選手のアスリートとしてのポテンシャルがよく見るようになっていたのもよかった。UFCとRIZINを比べて鼻で笑ってみるようなことは、もはや無意味な行為になっているし、もしかすると作り手も、そこはもうすっかり振り切ったのではないだろうか。これはこれで、こういうものだと思って味わうことが、肝心なのではないかと思う。青い目のファンにはわからんであろう機微がちゃんとある。
以下、個別に気がついたことを箇条書きでまとめておきたい。
●桜庭がコーチとして、参謀として、フル回転している様子が窺えたことはうれしかった。桜庭には名伯楽として、RIZINを支えるファイターをこれでもか、これでもかと育成していただきたい。そしてゆくゆくは日本人UFCチャンピオンを育ててほしい。オクタゴンでグレッグ・ジャクソンに向かって、卑猥(ひわい)な落書きを仕込んだ腹を見せつけてバカにしてやってほしい。ゲーム理論やらフラクタルやら、そんな小賢(こざか)しいものに対抗できるのは、桜庭のIQであろう。
●村田夏南子。この人はちょっとおかしい。ディフェンスとか、ガス欠とか、そういう概念がすっぽり欠けている。特に試合が終わった後の涼しげな表情は異常である。フランキー・エドガー的なクレイジーさがある。痛快この上ない。
●RENAはシュートボクサーだから、そもそも立ち関節のマスターなのである。RENAともつれあいながら立ち上がってはいけない。ただ筆者は、山本美憂はRENAに頭を月まで蹴り飛ばされるのではないか、大事故が起きるのではないかと心配していたところ、なんだ、これならCMパンクなんかよりよほど勇敢でかっこいいじゃないかと惚(ほ)れた次第だ。なお、フジヤマファイトクラブでの美憂のトークは絶品だった。放送席での活躍にも期待したい。
●木村ミノルはKrush時代からずっと見ているが、この人はもともと、今回のような負け方をする才能がある選手なのだ。同時に、ゲーオ・ウィラサクレックからダウンを奪ってしまうという、びっくりするような勝ち方をする選手でもある。連戦連勝というタイプではない。必ずこれからドラマがあるから、長い目で見てあげる方がよい。
●クロンはこれまで相手を厳選している感があったが、今回はよくぞ崖から飛び降りたものだと思う。本当に強いらしいことがよくわかった。アーセンが追いつくまで、RIZINにそびえ立つ巨大な敵として君臨していただきたい。なおこの人は打撃の練習をディアス兄弟と一緒にやっているはずである。そのうち、打撃でも手が付けられなくなるかもしれない。
●テレビではズタズタに編集されていたので、後でネットで確認したが、クレイジーホースのトラッシュトークはとんでもないレベルになっている。こんなにしゃべれる人が、なぜ米国で埋もれていたのか、なぜベラトールで大活躍していないのか、誠に不思議なことである。今ごろスコット・コーカーが慌ててオファーを出しているのではないか。ちなみにクレイジーホースの戦績は今回の勝利で30勝30敗、2016年にすでに5試合をこなしている。大変な働き者でもある。
●なんだこのアホらしい大会は、と思う現役格闘家の人はたくさんいるんだろうなと思う。そう思うのは当然だが、思ったところでどうにもならない。サラリーマンでも、「えっ、このプロジェクトのリーダーが、どうしてオレじゃなくてあいつなんだ?」などと地団駄を踏んでいるケースは山のようにある。UFCだって、CMパンクのファイトマネーが一番高いのだ。
米国では深夜から早朝にかけてライブフィードされたRIZIN、米MMA記者のTweetはそれなりの賑わいを見せていた。僕の目が届く範囲で言えば、Tweet数はこれまでに比べても多く、内容もポジティブなものが増えているように感じたが、まだまだツッコミレベルに留(とど)まっていることも確かだ。その一部を紹介しよう。
・カナコ・ムラタはクソ強い。MMA戦績1.5戦くらいなのに、とっくに日本がこれまでに生み出した最高のアマレス転じてMMAのスター候補選手だ。
・ムラタをもっと見たい。彼女はすばらしい。
・ムラタの今後が楽しみだ。能力が多彩だね。キーラ・バタラも最後までよくやった。
・CMパンク対カップヌードルマンを希望。
・水を差すようだが念のため。クレイジーホースはソシオパスであり、恋人を車のトランクに閉じ込め、チームメイトをパイプで殴ったことがある。
・サイボーグ対ガルシアの無差別級戦を希望。減量していないサイボーグを想像してみ。
・インターミッションに入った。これまでのところ強力なカード。迷っている人は見るべし。
・クロコップ、ヴァンダレイ、タカダ、サカキバラが12月の試合をリング上で交渉している。これはRIZINの最初の名シーンだ。
・ヴァンダレイの目はショーの序盤に黒ずんでいなかった。クレイジーホースとバックステージで揉(も)めたせいか。
・クロコップとヴァンダレイの大変に紳士的な交渉。コナー・マクレガーは見習うべき。
・RENAが使ったチョーク、あれは何だ?
→ フィギュア・フォー・ギロチン。UFCでランディ・ブラウンが最近使っていたよ。マーシオ・クロマドの得意技だ。
・クロンはグラウンドの魔術師だね。彼にとって大きな勝利。なんだRIZIN、ムチャクチャおもしろいじゃないか。
・またしてもクロンが印象的だった。近年で最高のグレイシーになってきている。BJJとMMAの移行はクロンの手にかかっている
・おもしろかった!朝早くまで起きていてよかった。なんだか昔を思い出したよ・・・
(文 高橋テツヤ)
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