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  • 「ウェスタンラリアート」はいつから「ウェスタンラリアット」になったのか

    2012-11-04 08:30  
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    学生の頃、新日本プロレスがゴールデンタイムで放送していた時代。アントニオ猪木が当然、エースでありヒーローでもあり、ファンの間でもそういう認識があったのだが、僕はどうも当時は猪木のパフォ―マンスが余りしっくりこず(今はそれがプロとして当然だったと理解しているが)、しかしプロレスラーへの超人幻想はずっと持ち続けていた。
    当時、週刊プロレスか週刊ゴングのプロレスラーのポスターを自分の部屋の壁に貼っていたものである。ニック・ボックウィンクル、ハルク・ホーガン、バーン・ガニア、トニー・アトラス、ハーリー・レイス、ビル・ロビンソン、ダスティ・ローデス……(今考えればキン肉マン世代だった)。
     現在、実家にはそれらのポスターはないが、自室のドアにはまだその時に貼ったシールが一枚だけ残っている。そこには一人のプロレスラーが右手を挙げている。ロングホーンのポーズ。
     スタン・ハンセンだ。
     プロレスにのめりこんで行ったのはスタン・ハンセンの登場だった。そして彼は、プロレスにある革命を起こした。「ウェスタンラリアート」である。

    初めてスタン・ハンセンを画面で見たのは猪木が試合を終えて引き上げる時に、花道を突然、嵐のように襲ってきた男がいた。それがハンセンだった。彼は左腕を猪木の喉付近に叩きつけ、猪木を昏倒させた。
     そしてプロレスの試合内容を一変させた。今思うと、彼が受けのプロレスが下手だったという説もあるが、ひたすらエルボーで攻め、ロープに振ったと思ったら左腕を相手の胸に叩きつけフォールしてしまうスタイル。
     実は漫画「プロレススーパースター列伝」「タイガーマスク」の影響で、プロレス技を本気がかけて、よく死なないなと思っていた。特にトップロープからの二―ドロップなど漫画で見ると怖かった。子共心に想像を働かせると、「普通、あの高さから膝を相手の腹に叩き落とせば死ぬよな」と。
     しかし、実際のプロレスでは猪木がやっても大怪我はしないし、それどころか相手が復活し猪木がやられてしまう事さえある。
    「これはおかしいんじゃないか? 本気でやっていないんじゃないか」子供の時分はそう思い、段々マイナスに考えるようになった。
     そんな時にハンセンのウェスタンラリアートを見た。これは凄い。本当に痛そうだ。
    プロレスへの疑惑が吹き飛んだ。現に、今ユーチューブで見返してもハンセンのウェスタンラリアートの威力や当時「活字プロレス」なるものが流行していた頃、よく使用されていた単語なのであまり使いたくないが「技に説得力」が感じられた訳である。
     ハンセンはラリアートを出す時、腕のサポ―ターを上げるが、そういうパフォーマンスをしていなかった時の方が個人的には好みである。ラリアートという呼び名がラリアットに変わっていくのはそれと同じくして、だったような気がしている。

    ハンセンのラリアートはプロレスに技の革命を起こした。色々なレスラーそれを模倣、という言い方が悪ければ自分のモノにしようとした。
    長州力のリキラリアットは当時見た時は、「何、マネしてんだよ」とハンセンファンの僕としては面白くなかったが、徐々に長州はリキラリアットを出す前のあの独特の間で自分のモノにしていった。
     ホーガンのアックスボンバーもどう見てもラリアートである。佐々木健介や中西学、小島聡や小橋健太も使い手を自負しいたようだが、残念ながらハンセンに遠く及ばないし、人によっては、かなり残念な結果に終わっている。長州力だけがハンセンのラリアートを受け継いでいる。
     因みに、WWEのスーパースターのホーガンは2mの巨体と長髪の金髪で初来日した時、ハンセンのパートナーだったが、彼の得意技はオクラホマスタンピートであり、カリフォルニアクラッシュと名付けて使っていた。
     今思えば、ハンセンのファイトスタイルの猪突猛進型は、彼のプロレス下手だったとしても今まで少年たちが何となく思い始めていた「プロレス技ってホントに痛いの?」「本気でやってるの?」という疑惑を吹っ飛ばすものだった。疑惑を「パワーとスピード」でもって吹き飛ばしたのがハンセンだとすれば「技とスピード」で吹き飛ばしたのが初代タイガーマスクだったのだが。

     誰にもひるむ事なく突進していくハンセンのスタイルは僕を魅了したし、それがラグビーのタックルにもつながりラグビー部に入部するのだが、そのハンセンの勇気あるスタイルが通じるのか?というマッチメイクが組まれた。プロレス史上に残る名試合、田園コロシアムの人間山脈アンドレ・ザ・ジャイアントとの激闘である。
     当時、誰も敵わないだろうと言われていたアンドレに引く事を知らないハンセンは、どうなるのか。僕はハラハラしながら見ていた。しかし、ハンセンは頭一つデカいアンドレにひるむ事なく突進していった。その男らしいファイトに圧倒され、熱狂し、僕も含めたプロレスファンは誰もが称賛の嵐を送っていただろう。
     内容はここに記すまでもないが、ラリアート叩き込み、200kgのアンドレをボディスラムで投げ飛ばすハンセン。それは鮮明に記憶に残っている。
     ラリアートの登場でそれまでコブラツイストなどの間接技が見直されていった気がする。有体に言って、フィニッシュで使われなくなった印象がある。当時の心境を表現すれば「分かりにくい」のと(また使用するが)「説得力がないのでは」という事なのだろうが、現在はまたより戻しが来て、アンクルホールドやあるいは魅せ場としてのコブラツイストも使用されている。
     ただ、あの当時のプロレスのフィニッシュ技はラリアートにかなり、影響されていったと思っている。サンダーライガーの掌打も含めて。
     最近、プロのエンターテイメントとしてWWEを観なおしているのだがラリアートが「クローズライン」と称され、つなぎ技になっているのを見て寂しいというより、時代の必然かなとも感じているし、ハンセンや長州力のように完全にあの技を使いこなせる選手がいなくなったのも原因だろう。

     ここまでお読み頂いた方はご想像つくだろうが、ハンセンのファイトスタイルは全日本プロレスのそれとは違い、従って当時は僕も「新日派」だった。なので、ハンセンが全日本に移籍した際、あまりいい印象はなかった。それ以前から、プロレスっぽいアピール、すなわちラリアートを放つさい、左腕を上げてアピールするのもどうなのかなぁと感じていたくらいだ。
     今ではしかし、プロレスラーのそういうアピールは必要だと思っているし、WWEのジョン・シナの手を顔の前で振る「I can,t see you」も好きである。

    ラリアートがラリアットという呼び名に変わっていったのはプロレス史において、どういう意味を持っていたのか。単なる呼び方の問題ではない気がする。プロレスラー超人幻想の衰退とプロレス最強伝説のだと僕は思っている。
     そして、今までのプロレスはフェイクだ。これが本当のプロレスだ、とUWFスタイルが登場してくるのだが……。 (この記事は「久田将義の延長!ニコ生ナックルズチャンネル」の毎週金曜日配信されているブロマガ記事を再構成したものです。)

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