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記事 4件
  • 「花形満の時代、星飛雄馬も左門豊作もいない」小林よしのりライジング Vol.190

    2016-08-30 21:10  
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     先週に引き続き、リオ・オリンピックのメダルラッシュから考察を進めてみたい。
     先週、今回のメダリストたちにはナショナリズムの感覚が希薄だと指摘したが、もう一つ彼ら・彼女らに希薄…というより、もはや皆無だと感じたものがある。
     それは 「ハングリー精神」 である。
     読者の中に知っている人がどれだけいるか分からないが、60年代後半から70年代の初頭にかけて、『巨人の星』という漫画が大ヒットした。
     スポーツ根性漫画の最高峰で、梶原一騎原作、川崎のぼる作画、アニメも大人気だった。
     この作品の主人公・星飛雄馬は、父親が元プロ野球選手で今は日雇い人夫の貧乏家庭に育ち、そこから「ハングリー精神」でのし上がっていった。
     なにしろ父親が何かというと癇癪起こしてちゃぶ台返しをするシーンが有名になり、息子・飛雄馬に大リーグ養成ギプスをつけて生活をさせるという、今なら児童虐待で放送できないスパルタ教育をしていたものだ。
     また、そのライバルには両親を早く亡くし、5人の弟妹を自分一人で養うために、泥まみれで這い上がろうとする貧乏人の左門豊作というキャラもいた。
    『巨人の星』が大ヒットした60年代後半は、そういう貧乏から「ハングリー精神」でのし上がっていこうという時代だったのだ。
     しかし、今のスポーツ選手は貧乏からの脱出のために能力を磨いた者たちではない。逆に豊かだからこそ、恵まれた家庭環境で好きな競技の練習に没頭し、才能を伸ばすことができた者たちである。
     金メダルを取るには露骨なまでにカネが要る。まず中流以上の家庭で英才教育を受け、才能を開花させて、優秀なコーチやトレーナーに託された選手が、オリンピックに出場できるまでに育つのである。
     実は過去のデータから、オリンピックの金メダルの数はその国のGDP総額でだいたい決まるということは確認されているのだ。
  • 「オリンピックに見る女性の時代とボコハラム」小林よしのりライジング Vol.189

    2016-08-23 20:55  
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     わしはナショナリストだが、オリンピックに関心が強い方ではない。
     テレビで中継を見始めてしまうと仕事にならなくなるから、あえて関心を持つまいとしてきたということもある。
     わしは女子マラソンのファンだったので、オリンピックでもそれだけは見ていたのだが、最近では日本人の有力選手がいなくなってしまったので、関心を失ってしまったというのも大きい。
     ところが今回のリオ・オリンピックでは、女子選手の活躍につい興奮し、感動までしてしまった。
     特に卓球の福原愛、石川佳純、伊藤美誠の活躍とその背景を見ていると、昔の日本人とはずいぶん違ってしまったなあと感慨深い。
     昔の根性論は、例えば『巨人の星』のように、親父が息子をスパルタ教育するものだった。それは戦時中に軍隊教育を受けた親父が多かったからという事情もある。
     わしの父も、戦時中は徴兵にとられて軍事教練を受けていたし、わしが小学生の頃は、学校の先生も戦時中の体験があるから、スパルタ教師が多かったものだ。
     戦中派の教師が定年退職し、戦後派の教師と入れ替わるころには、『巨人の星』のような父と息子の根性論はやがてパロディのネタにされ、反戦平和教育の中で、スパルタ教師なんていなくなってしまっていた。
      だが今は、母が娘を根性論でスパルタ式に英才教育している。
     福原愛が母親の特訓を受ける姿は、幼児の頃からメディアに出ていたのでよく知られているが、石川佳純や、今回脚光を浴びた15歳の伊藤美誠も同様で、二人とも卓球選手だった母親から英才教育を受けている。
     伊藤が卓球を始めたのは2歳の時。母は伊藤が幼稚園の頃から毎日7時間程度の練習をさせ、どうしてもできない技術があったときは、夜遅くまで練習させることもあったという。
     石川が卓球を始めたのは6歳で、トップ選手になるためには早期教育が特に重要とされる卓球においてはやや遅いスタートだったが、それをカバーするために、母は自宅に卓球場を建てて練習させた。
     そして、伊藤も石川も過酷な練習を強いられているのに、母と仲が良く、母娘密着がものすごく強い。娘は母が自分のためを思って泣く泣くスパルタ教育をしているということを知っていて、それで母に感謝しているのである。
     レスリングでは伊調馨が、女子ではオリンピック全競技を通じて史上初となる個人種目4連覇を達成したが、伊調の場合も母の影響が強いという。
     伊調の家は父と兄姉がレスリング選手だったが、勝負に対する厳しさはむしろレスリング経験のない母から教わったものらしい。何しろ教育方針が 「勝負事には死んでも勝て」 だったというのだから、すごい母親だ。
     伊調の母は一昨年亡くなったが、伊調はその遺訓を噛みしめながら戦い、土壇場の大逆転でオリンピック4連覇を達成。「最後はお母さんが助けてくれた…」と泣いていた。
      いまは母が娘にスパルタ教育をしている。
      不思議なことに、いまはむしろ父がスパルタ教育をできなくなっているのだ。 伊藤美誠、石川佳純は父も卓球経験者らしいが、なぜかその存在はほとんど見えない。
     男がスパルタ教育をやると何か毛嫌いされてしまうし、父と息子がものすごく強く結びついていたら気色悪いという感覚になってしまう。今となっては『巨人の星』の世界などちょっとヘンタイかと思われそうなのだが、母と娘だったら、それが許容されてしまうのだ。
     リオ・オリンピックを見ていてさらにもう一つ、変わってきたと思うことがある。
  • 「天皇陛下に公然と叛逆する国賊たち」小林よしのりライジング Vol.188

    2016-08-16 20:15  
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     多くの人が感じたとおり、8月8日に発表された天皇陛下のビデオメッセージは、昭和20年の敗戦時に続く2度目の「玉音放送」というべきものだった。
     天皇陛下が生前退位=譲位を望んでおられることは、もう疑いの余地がない。
      何よりも驚いたのは、陛下が「摂政」の設置に否定的であるというところにまで踏み込まれたことだった。
     先月「生前退位」に関する第一報が流れた後、皇室典範改正に反対する「Y染色体保守派」から 「退位はさせず、摂政を置くべき」 という意見が続出したことを陛下は明らかに知っておられ、それを自らのお言葉で否定されたのである。
     現在、政府は 「一代限りの特別立法」 で対処しようとしているが、それも陛下のご意思に反していることは、このお言葉で明らかである。
    これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました。 「一代限りの特別立法」 では、 「皇室がどのような時にも国民と共にあり」「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていく」 ことにはならない。 陛下は間違いなく恒久法である皇室典範の改正を望んでおられるのだ。
     その上で陛下は締めくくりに、 「国民の理解を得られることを、切に願っています」 とおっしゃっている。 畏れ多いことに、天皇陛下が国民にお願いされているのである!
      ここまで言われれば、国民は「承詔必謹」で陛下のご意向に従うのみであろう。
     71年前の玉音放送ではほとんどの国民が粛然として敗戦を受け入れ、陛下のご意思に反しても抗戦を続けようとした者はごくわずかだった。
      ところが今回2度目の「玉音放送」では、徹底して陛下のご意思を無視しようとする者が続出している。
     しかもその多くが「保守」を自称し、自分には「尊皇心」があるという風を装っているのだから、71年間の日本人の堕落もここに極まれりである。
      天皇陛下の「切なる願い」に逆らおうというのだから、これは「国賊」以外の何物でもない。
     そこで今回は、平成28年8月8日の玉音を拝してもなお反逆を続けた「国賊」を列挙し、歴史の記録としたい。
     自称保守・似非尊皇派の牙城、産経新聞の1面コラム 「産経抄」 は、先月第一報が駆け巡った際には 「たとえ公務がかなわなくなっても、天皇陛下のままでいていただきたい」 と、譲位に反対していた。
     だが陛下のビデオメッセージの翌日、8月9日の紙面では 「大いに反省した。なんとも、甘ったるいことを書いたものだ」 と書き、結論でもこう述べている。
    皇室典範に規定がない「生前退位」の実現までには、課題が山積している。陛下はそれを十分承知の上で、心情を打ち明けられた。日本と皇室の未来のために知恵を絞ろう。国民はこれまで両陛下に甘えすぎていた。  珍しいこともあるものだ、産経もついに改心したか? なんて思ったら甘い。
     ページをめくり、2面に載っている社説を見ると、最初こそ天皇陛下を賛美して「国民は感謝と敬意を新たにしたい」などと言っているが、後半に入ると 「皇位継承の根幹に関わるだけに、退位を認める皇室典範改正には慎重な意見がある」 と言い出し、結局は 「恒久法の改正ではなく、今上陛下の一代に限り、可能にする考え方もある」 と主張するのだ!
     そればかりか「摂政」についても、 「重病など極めて限られたときに置かれる摂政の運用を緩和することなども考えられる」 として、なおも摂政を選択肢に入れるのだ!!
     いくら慇懃に天皇を敬愛しているふりをしても、産経新聞は陛下のご意思を尊重するつもりなど一切ないのである。
     そして産経社説は、こう主張して締めくくっている。
    旧宮家の復帰など、皇統を厚くする方策についても考えなくてはならない。  …もう、脱力する以外にない。
      何万回指摘しても、産経は 「旧宮家の復帰」 という間違った言葉を使い続けている。
     旧宮家の男性は生きていれば年齢的には90歳にもなる。「旧宮家系で一般国民になった男性」という場合は、「旧宮家系国民男子」と表記するしかないではないか。
     しかも、百万歩譲って用語の問題は措いたとしても、 現実問題として「復帰」する「旧宮家」の人間など、この世に1人もいないのだ!
     このことだって、何万回指摘したかわからないのに、産経は今なおこの世に存在しない人物を皇統存続の切り札と固く信じて、一切疑わない。宇宙人は地球に来ていると言い張るアホとまったく一緒である。
     同紙の3面には 櫻井よしこ が見解を述べているが、これも社説と全く同じ構造になっている。
  • 「新自由主義の見本市・韓国――就職浪人と貧困街タルトンネ」小林よしのりライジング Vol.187

    2016-08-02 23:10  
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     前回のトンデモ見聞録では、先進国の格差社会のなかに生まれる、一見してそうとは把握しづらい《相対的貧困者》の実態として、「格差の先進国アメリカ~貧困だから太る子供たち」を書いた。アメリカ人といえば「ジャンクフードが好きで太っている」という大雑把なイメージを持つ人は多いと思うが、その実態は「カネがすべて」の新自由主義による際限なき競争のなかで、「野菜が買えず、ジャンクフードやスナック菓子しか食べられない」状態に置かれる《家畜化させられた貧困米国民》でもあった。
     こんな米国の奴隷に甘んじ、「NO」と言えずに次々と「構造改革」させられてゆく日本の今後は、一体どうなってしまうのか?
     そこで今回からは、 日本よりも先に米国民間企業からのドメスティック・バイオレンスを浴びまくり、新自由主義を突き進めてしまった韓国の実態 を、何回かに分けて紹介していきたいと思う。
    ◆日本の現状が進行するとこうなる! 韓国の生き残り受験戦争
     非常に深刻な格差社会に陥っている韓国は、いま、 上位1%の富裕層が国家全体の収入の45%を独占し、中間層は崩壊、国民の平均年収は3000万ウォン(約290万円)に満たないという状態 である。
     多くの若者は就職できずにニートとなるか、跋扈するブラック企業に子供の小遣いのような低賃金で搾取され、年金未加入者は増大。晩婚化・少子化・高齢化も急激に同時進行して、結果、 65歳以上のなんと50%が貧困状態、高齢者世帯の負債率は160.9%の借金漬け という凄まじさである。
     日本の若者は「正社員になりたかったけど、派遣でなんとか食うしかない」といった感覚だが、韓国の若者はさらに進行した悲惨さに晒されており、
    「大企業(財閥系企業)に入れない……ならば、死」
     
    といった状態だ。
     なにしろ、自由競争の進みまくった韓国のブラック企業の《ブラックさ》は、日本の比ではない。
     ある有名ホテルは、全従業員140名の従業員のうち、100名を「インターン」として雇い、月収たった3万円で、正社員同様の長時間労働を強いていた。「経歴」が重視される韓国では、インターンとして社会経験を積んでおくと就職が有利になるという考えがあり、多くの就職難の学生たちが、この弱みにつけこまれてインターンとして異常な低賃金で雇われ、残業代も夜勤手当もすべて踏み倒されていたという。
     社員を自己破産に追い込んだ製菓会社もある。社員別に日別の販売ノルマを割り当て、これを達成できない社員は帰宅を許さず、また、担当した菓子の在庫返納も一切認めなかった。結果、精神的にも肉体的にも追い込まれた社員は、売れなくても「全部売れた」と報告し、自腹で売り上げを補填しつづけ、自己破産に至ったという。
     日本に報じられているものがこれだけ壮絶なのだから、平均的な企業でもどれほどブラックな面を孕んでいるのか、想像すると身震いする。
    「我慢してでも働けるだけありがたく思え」
     まともな就職先がない韓国社会、そこに「カネがすべて」と手段を選ばず暴利をむさぼる企業の姿勢が横行してしまうのである。
     この状況のなかで、韓国の親たちは、なんとかしてわが子を熾烈な受験戦争に勝ち残らせようと、巨額の教育費をつぎ込むのだが……ゴールとなるはずの《まともな就職先》、つまり大企業・財閥系の門は、ほんのわずか。実態はなんと、 大卒者の97%が「まともな就職先争奪戦争」に敗れ、再トライを目指して親元に残り、就職浪人と化してしまう のである。
     生き残るために、小さいころから親子一丸となって必死で戦って、戦って、やっと学歴を獲得したのに、中小企業に就職してしまっては、奴隷同然となり一生涯を棒に振る。それならば、親のカネが尽きるまでニートとして粘るほかない、というのが 現実 なのだ。
    ●ニート増加について韓国人の若者たちは……
    「大企業や公務員への就職が難しい中、中小企業に行けば年俸1800~2400万ウォン(約198~264万円)、週6日労働または隔週土曜日勤務、年次休暇なし、手当なし、夜勤・休日勤務手当なし、ビジョンなし、希望なし。ニートが増える訳だ」
    「良質の雇用を求めてニートになっているのではない。みんな自分が食べていくのに汲々としているのが実情だ」
    「外国人や幼い子供たちは理解できないだろうが、これは韓国の若者の問題ではなく、努力しても明るい未来が望めないことに原因がある」
     こうして、韓国には就職浪人が増え続け、ついに2015年、国内の全就業者数のうち、 50代以上の親世代の就業者数(965万5000人)が、20代~30代の青年層の就業者数(936万9000人)を上回るという事態に至ってしまった のである!
    ◆リストラ・早期退職で「自営業」に転向させられる親世代!