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記事 3件
  • 「学歴秀才が日本を劣化させる」小林よしのりライジング Vol.484

    2023-10-24 17:10  
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     先週号で書いた「イスラエルよりウクライナだ」は、ライジングの読者には大好評で、やっと納得がいったという感想を多数もらった。
     しかし、予想通りとはいえ、これと同じ意見を唱える知識人は一人もいない。こんな意見は、マスコミには皆無である。
     決して「逆張り」などしていないのに、わしの意見は圧倒的少数となることが非常に多い。時には今回のように、唯一の意見になってしまうこともある。
     なぜ、いつもそうなるのだろうか?
     最初に結論を言ってしまおう。
     それは、知識人やマスコミの全員が 「学歴秀才」 だからだ。
     学歴秀才は、テストでいい点を取ることだけを目指して生きてきた人間だ。
      出題者が求めているとおりの答案を書くことしか知らない人間だ。
      出題者が間違っているかもしれないなんて発想は、死んでも思いつかない人間だ。
      学歴秀才は褒められる解答を目指す。学歴秀才は嫌われる解答が書けない。
     だから、学歴秀才は必ず全員が同じことを言う。
     パレスチナ・イスラエル問題では、 「このままでは夥しい民間人の犠牲者が出る。今は双方とも冷静になって、ただちに銃を置き、両者が対話のテーブルに着くべきだ」 と言いさえすれば、100点満点の解答だ。 「パレスチナ問題は放っておけ」 なんて書いたら、0点なのだ。
     どうやったら真実に迫れるかではなく、どうやったら100点が取れるのかということしか考えずに生きてきた人間だけが、東大だの京大だのに入り、その後、ある者は学者になり、ある者は新聞社やテレビ局に就職する。
      だから知識人・マスコミ人は全員が学歴秀才であり、全員が同じ意見しか持たない。そういう構造が出来上がってしまっているのだ。
    「AERA(10月23日号)」では姜尚中が、ハマスに対するイスラエルの報復が「現代のゲルニカ」になる恐れがあるとして 「とにかく即時停戦を叫ぶ必要があります」 と書き、東浩紀が「報復合戦は犠牲者を増やすだけ」として 「一刻も早い停戦を望みたい」 と書いている。
     二人とも、言ってることが全く同じだ。しかも、そんなことを言ったところで、何の意味もない意見だ。だが、それが求められる100点満点の解答なのだ。
     学歴秀才の知識人なんか何百人いても同じことしか言わないのだから、一人いれば用が足りる。いや、今ならチャットGPTで十分だ。
      そして大衆ってものは、そんな学歴秀才に権威を感じてしまっている。
     大衆と庶民は違う。 庶民は、生活に根付いた歴史感覚に基づく自らの常識で判断する。
      だが大衆は、自分では判断しない。高学歴の偉い偉い秀才様がそうおっしゃるんだから、これが正解だと疑いもなく信じる。 やがて、自分も最初っからそう考えていたとまで思い込んでしまう。そして、マスコミに登場する知識人らと同じことを、みんなで言い始めるのだ。
     テレビのコメンテーターには学歴のない芸人やタレントがよく使われるが、これなど典型的な「大衆」代表だ。学歴秀才様のお気に召す意見を言うことだけが求められ、忠実にその役割を果たすのである。
      そうして大衆は学歴秀才の意見と完全に同化し、時にはその意見に反する者をバッシングし、炎上させたりもする。
     だから 「パレスチナ問題は放っておけ」 なんて意見は、絶対にどこの雑誌にも載らない。たとえそれが真実かもしれないと思うマスコミ人がいたとしても、載せたらバッシングされてしまうから、怖くて載せられない。真実なんかどうでもいい。人に好かれなければ商売にならないのだ。
     ジャニーズ問題でも同じである。
     学歴秀才は全員 「子供の人権を侵害したジャニー喜多川を徹底的に断罪せよ」 と唱える。それ以外の意見は、決してマスコミには登場しない。
      そもそもテストで100点を取るためには、「人権」という言葉を決して疑ってはならないのだ。
     現在の法制度が全て「人権」という言葉の下に出来上がっているから、裁判官だろうと弁護士だろうと全員、「人権」は決して疑ってはならない概念として受け入れている。だから「人権」と言われたら、脳がしびれて一切の思考が停止してしまうのだ。
      一度「人権侵害」と認定されたものは、問答無用で「絶対悪」として糾弾しなければ、100点が取れない。
     だからジャニー喜多川が既に故人であるにもかかわらず、ジャニーズ事務所までも「性加害」を犯した組織として糾弾しまくり、消滅させてしまうところまで追い込んでしまうのである。
  • 「パレスチナよりウクライナだ」小林よしのりライジング Vol.483

    2023-10-17 14:50  
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     まさかここに来て、ハマスがガザ地区からイスラエルへ越境攻撃し、イスラエル史上最大規模の戦争状態になろうとは思ってもいなかった。
     こんな時に、まだジャニー喜多川の「性加害問題」なんかを追及している日本のマスコミに、存在する意味なんかあるんだろうか?
     パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織・ハマスは、2021年5月の大規模戦闘の後、イスラエルに対する戦意を喪失したかのように装いながら、周到に計画を練っていたらしい。
     そして10月7日、ハマスはイスラエルの油断を突いて作戦を実行。ドローンでイスラエル軍の監視システムを空爆、複数の戦闘員が電動機付きパラグライダーで空から越境。さらに地上ではガザを封鎖していたフェンスを破って、多くの戦闘員と武器を積んだトラックが越境した。
     これと同時にハマスはロケット弾数千発をイスラエルの中部、南部に向けて発射。イスラエル軍が混乱している間に、野外の音楽イベントや警備の手薄な集落を襲い、多数の住民を殺害し、女子供まで連れ去って人質にした。
     この攻撃は米政権にも「寝耳に水」の奇襲だった。完全に不意を突かれたイスラエルはガザ地区への燃料や水、食料の供給を遮断する「完全封鎖」を実施した上で、地上戦を開始。近く全面侵攻に踏み切るとみられる。
     ハマスとイスラエルの死者は戦闘開始から1週間で合計3500人を超えたが、戦闘の長期化は避けられず、死者数は到底これでは済まないだろう。
     朝日新聞社説は11日、ハマスに対して「いかなる理由であれ、一般市民の殺害や誘拐は卑劣なテロ行為であり、容認できない」と非難。
     だがその一方で、結論では 「イスラエルは占領地への違法な入植を拡大し、解決を遠ざけてきた。パレスチナ人を絶望の淵に追い込んだことが、今回理不尽な形で暴力が噴き出した背景にあることを忘れてはならない」 と、イスラエル側も批判している。
     産経新聞社説は同じく11日、ハマスを 「これは無差別の大規模テロ行為であり、民間人や非軍事目標を攻撃した国際人道法(戦時国際法)違反の非道な戦闘行為である。いかなる理由があれ、到底容認できない」 と非難した。
     ただし、産経はイスラエル側の責任について触れながらも 「だからといって、多くの人命を奪う攻撃が正当化されるわけはない」 として、あくまでもハマスだけを非難する。9.11から1ミリも動いていない「テロは絶対悪」とする単純脳だ。
     だが、この事態にどう対応すべきかという点に関しては、朝日も産経もほとんど意見は同じである。
     朝日はこう書いている。
    「憎悪と報復の連鎖を止め、流血拡大を抑えるため、国際社会は最大限の働きかけを講じる必要がある。」
    「イスラエルに大きな影響力を持つ米国や、ハマスとパイプがあるエジプト、カタールなどアラブ諸国には、連携した外交努力が求められる。」
     一方、産経はこうだ。
    「戦火の拡大はなんとしても防がなくてはならない。」
    「『2国家共存』を支持するバイデン大統領は今こそ『中東の仲介者』としての役割を発揮してほしい。イスラエルやアラブ諸国と良好な関係を持つ日本にも大きな役割があるはずだ。」
     どちらも、国際社会の働きかけで戦争を止めなければならないという論調だ。
     だが、わしの意見は朝日とも産経とも違う。
     国際社会の中で問題を解決するのであれば、当然ながら「国際法」がベースになる。
     だが、ハマス対イスラエルの戦いは、国際法秩序の範囲内には入らない。なぜなら、どちらも国際法を守る気が全くないからだ。
     ハマスがやっている、民間人を拉致して人質にするとか、非軍事目標を攻撃するとかいうことは、産経新聞も指摘するとおり明白な国際法違反である。
     だが、産経はスルーしているが、イスラエルも国際法違反をやりまくっている。そもそもヨルダン川西岸のパレスチナ自治区内でユダヤ人入植地を拡大していることが国際法違反だし、今回のハマスの攻撃以後、ガザのパレスチナ民間人を標的に水や食料、エネルギーを遮断したのも明確な国際法違反である。しかもイスラエル軍はガザへの砲撃で国際人道法に違反する白リン弾も使用している。
     そして、それら数々の国際法違反については、国連やEUや国際人権団体が抗議をしているが、イスラエルは聞く耳を持とうともしないのだ。
  • 「ジャニーズ廃業会見、立証責任の重要さ」小林よしのりライジング Vol.482

    2023-10-04 11:00  
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     10月2日のジャニーズ事務所記者会見を見たが、くだらなさが極限に達していた。
     なにしろその会見場にいる者が誰ひとり、事の本質を一切理解していないままに進行していくのだ。まるで異次元の会話を延々と聞かされているようで、ストレスが溜まって仕方がなかった。

      今後、「ジャニー喜多川」という人物の痕跡はこの世から完全に消し去られるらしい。
      史上最大・最速のキャンセルカルチャーの成立である。
    「ジャニーズ事務所」の名称は「スマイルアップ」に変更され、「被害者」への補償などの業務のみをする会社として存続し、その業務が終了次第廃業するという。そして現在所属しているタレントのマネジメント等の業務は新たに設立する別会社に移行し、その新会社の名称は公募するのだそうだ。
     先月7日の会見に引き続き、ジャニーズ側はひたすらベタ折れ、平謝り。自ら血祭りに遭いに行っているのだから、どれだけマゾなのかと言いたくなった。
     この問題はわしから見れば、これほどまでにチンケな話ってあるのかっていうくらい、卑小な話だ。弁護しようと思えばいくらでも方法はあった。
     それをものすごい大事件のようにデッチ上げられ、そのままに流されてしまったのだから、こんな情けない話はない。

     そんなジャニーズに対して、さらに図に乗って襲いかかろうというハイエナみたいなマスコミの醜悪さは、とても見られたものではなかった。
     前回の会見の質疑応答で「1社1問まで」という取り決めを無視して、ひとりで10分以上東山紀之を糾弾しまくった東京新聞の望月衣塑子は、今回も最前列中央に陣取り、質疑応答で挙手しまくっていたが、さすがにジャニーズ側も前回のルールもマナーも無視した所業を見かねたようで、司会者は徹底的にスルーし続けた。
     そして、今回は決して指名されないと察した 望月は、マイクなしで勝手に東山に「セクハラ疑惑」を糺したり、野次を飛ばしたりし始めた。
     東山が「セクハラはしていません」と答えても望月は何度も「セクハラ」について怒鳴りまくり、その様子はまるで総会屋か、ストーカーみたいだった。
     いくらなんでもこれはひどいと他の取材陣も思ったらしく、井ノ原快彦が「落ち着いていきましょう」と諭した時には拍手まで起きた。
     記者会見後のネットの反響を見ても、やはり今回はマスコミ側の異常さを指摘するものが多く、望月がやったことは完全にオウンゴールになった。もっとも、自分が絶対正義だと信じて疑わない望月は、絶対に気づいていないだろうが。

     そんな望月の隣で挙手し続け、一緒にスルーされた記者が憤慨してX(旧ツイッター)に長文の恨みつらみを書き連ねていたが、その中でジャニー喜多川がやったことをこう評していた。
    「ジェフリー・エプスタイン事件やハービー・ワインスタイル (ママ。正しくはワインスタイン) 事件よりおぞましい、戦後史に残る、世界でも最悪といっていい性加害事件」
     これだけで、この記者が何もわかっていない馬鹿だということが完全に露呈している。
     アメリカの著名な実業家だった ジェフリー・エプスタイン は児童への性的暴行などの容疑で2006年に起訴され、2008年に禁固18カ月の有罪判決を受けた。そして2019年には別の性的虐待事件で再び逮捕され、拘留中に死亡。自殺と発表された。
     アメリカの有力な映画プロデューサーだった ハービー・ワインスタイン は、長年にわたる性暴力や性的虐待事件によって2018年に逮捕され、2022年にニューヨークの裁判所で禁錮23年の判決を受け、2023年にはロサンゼルスの裁判所で更に禁錮16年が上乗せされ、現在服役中である。

      だが、ジャニー喜多川は犯罪者ではない。
      ジャニー喜多川は逮捕も起訴もされなかった。
     ジャニー喜多川の「性加害」は、1件の刑事事件にもなっていないのだ。
     会見中、記者たちの発言に「ジャニー氏の犯罪」などという言葉が平気で出て来ていたが、それを聞いても、誰ひとりこのことすら認識していないのは明らかだった。
      ジャニー喜多川の「性加害」の事実は最高裁で認められているというが、それは 民事裁判においてである。
     民事裁判と刑事裁判は全く違う。というより、裁判には「刑事」と「民事」があるということすら、はっきりわかっていないのではないか?