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記事 2件
  • 「日米首脳会談~マスコミが報道しない真実」小林よしのりライジング Vol.27

    2013-02-26 19:10  
    157pt
    2月21日、安倍晋三は首相就任後初の訪米を行った。 日本の新首相の米大統領へのお目通りが、韓国の新大統領に先を越されたら一大事だ。何とか朴大統領が就任する2月25日より前に訪米せねばと、さぞかし必死だったことだろうが、まずは一安心というところか。   しかも22日の「竹島の日」に日本から逃亡できたので、一石二鳥だ。 島根県の式典なんか、政務三役の「最軽量」である政務官の派遣でお茶を濁しておけばいい。   選挙中は政府主催の式典を開くと豪語していたことなんか、国内の安倍信者はみんな忘れて 「毅然とした態度を保ちつつ、関係悪化に歯止めをかける大局的観点からの配慮だ」 と評価してくれる。  そして、非難は全部、「配慮」にも関わらず反発して、日本製品不買運動だとか騒ぎ出す韓国に向く。  本当は 「そんな小細工したってどうせ反発は出るのだから、堂々と政府式典をすべきだったではないか!」 という非難が起きて然るべきなのに、国内の安倍信者ホシュやネトウヨから、それは一切起こらない。  安倍信者はこう叫ぶ。   「信じるのよっ!安倍ちゃんを信じるのっ!」   訪米した安倍は、日米首脳会談を前にアーリントン墓地の「無名戦士の墓」に献花。自国の靖国神社の今春の例大祭には行かないと決めているけれど、アーリントン墓地には躊躇なくお参り。  これにも国内の安倍信者から非難の声は上がらない。   「いつか靖国も行ってくれるって!信じるのよっ!安倍ちゃんだから信じなきゃ!」   米下院では、札付きの反日議員マイケル・ホンダらが「河野談話」の見直しに懸念を示す声明を発表して待ちかまえていたが、安倍はもうその問題からは完全逃亡だ。   官房長官に任せると言ったり、研究者に任せると言ったり、とにかく自分では一切触れるつもりなし! 訪米中は河野談話の「こ」の字も出さなかった。  もちろん、言ったら言ったで大変なことになったのは間違いないことは「ライジング」Vol.17でも書いたとおりなので、わしはかえってホッとしているのだが、 河野談話・村山談話の見直しを最大に期待していたはずのネトウヨ・自称保守どもが一切沈黙しているのは、奇妙としか言いようがない。   「疑っちゃダメ!安倍ちゃんを信じ込むのっ!」  この訪米において、日本で一番注目されていたのはTPP参加問題だった。  安倍は訪米前、オバマとの首脳会談で「聖域があるのかないのか、自身で確認したい」と発言した。  そもそも多国間交渉であるはずのTPPの原則を米大統領にお伺いに行くこと自体がおかしな話で、TPPの正体を恥ずかしげもなく暴露しているのだが、こんなことを言い出した時点で、もう完全にシナリオは見え見えだった。   「聖域はある」かのようなお言葉をオバマにいただいて、それを根拠にTPP参加を決めるというストーリーだ。  案の定、事態は筋書き通りに進んでいる。安倍は 「聖域なき関税撤廃が前提でないことが明らかになった」 とか言って、今週中には交渉参加を表明する方針だ。   「安倍ちゃんだから、悪いようにはしないはずっ!信じるしかないじゃん!」   そして、ほとんどのマスコミもこれを「外交成果」だと評価し、「満額回答」だと大喜びする者までいる有様だ。  しかし、これのどこが「満額回答」だ? どこが「外交成果」だ?   「朝日新聞から産経新聞からテレビまで、『マスゴミ』が大評価よっ!『ネトゴミ』も大評価!さすが安倍ちゃんねっ!」   安倍の 「聖域なき関税撤廃が前提でないことが明らかになった」 という発言を、米国が 「聖域を認めた」 かのように伝えるのは、ほとんど詐欺に等しい。   共同声明に書かれた内容は、単に「結論に制限をつけず交渉を始める」ということだけだ。結論にあらかじめ聖域を認めるとも認めないとも制限はつけず、交渉を始めるということにすぎない。   つまり「聖域なき関税撤廃」が前提でないのと全く同様に、 「聖域を認めた関税撤廃」も前提ではない。 全ては交渉次第だと言っているだけなのである。  要するに、交渉に負ければ「聖域なき関税撤廃」もありうるのだ。   「聖域って何?精液じゃないよね?関税って何?風邪じゃないよね?とにかく信じようよ、安倍ちゃんをっ!」  普通は、自国の国益のために他国を騙すことを「外交」という。  ところが安倍晋三は、米国の国益のために自国民を騙している。   アメリカに貢ぐために、わが国の国民を騙す文言を共同声明に入れていただきたいのですがと、オバマに頼んでいたのである。   その卑屈さはなんだ!?   「真実なんかいるもんかっ!安倍ちゃんを信じるともっ!」  しかも滑稽なことに、自国を売ってまでアメリカに媚びに行った安倍は、散々冷遇されて帰って来たのである。   今回の訪米では、大統領らによる晩餐会や、首脳会談後の共同記者会見が行われなかった。  特に、共同記者会見を行わなかったのは異常である。 新首脳の就任訪問では、よほどの事情がないかぎり首脳の共同会見が行われるのは外交儀礼といってもいいほどで、それをやらないということは、国際常識上ありえないほど失礼な扱いなのである。   「元々オバマってクールな人なのよっ!安倍ちゃんには冗談言ってくれたってさ!盲信!盲信!」  そして、この共同会見見送りは米側が要請したということを、沖縄タイムスの取材に答えて米政府筋が明かしている。  そもそもこの訪米自体、1月中に予定されていたものが米国側の要請で延期され、ずれ込んだという経緯もある。  安倍はすでに米国からは「信用ならないヤツ」と見られていることを「ライジング Vol.24」で書いたが、オバマ政権も微妙に距離を置いている。  ところが、オバマにふられて単独で記者会見を開いた安倍に対して日本メディアは、日銀総裁人事がどうのこうのといった国内問題ばかり質問し、安倍がオバマに冷遇されたこともろくに報道しなかった。   安倍が冷遇された事実を報じていたのは中国や韓国のメディアなのだが、ネトウヨ連中は 「中韓のメディアなんか信じるな!」 とネットの中で暴れまわるだけだった。   「中韓なんか信じるなっ!安倍ちゃんだけ盲信中っ!」
  • 「真のアベノリスクは何か?」小林よしのりライジング Vol.25

    2013-02-12 17:20  
    157pt
    安倍政権は支持率が70%にまで上昇したらしく、国民の圧倒的多数が株価の上昇を喜び、景気回復を期待してるようだ。  自称・保守派は 「ポピュリズム」 という言葉を使うのが好きだが、この場合は使わないのだろうか?どうせ民主党ならポピュリズム、自民党なら正当評価というご都合主義でしか言葉を使用しないのだろう。   「アベノミクス」 の評価が、途中まで大前研一とほぼ同じになっていて可笑しい。  「SAPIO」を見てたら、大前研一が、名目GDPの事実上ゼロ成長が続いているのは、先進国では日本だけで、22年間もデフレ不況なのだから、これは第1次安倍内閣を含む自民党政権のときからずっとである、民主党政権はそのうち3年3か月に過ぎないと書いていた。  まったくその通りで、この原因を安倍政権は日銀の金融緩和が不徹底だったからと責任転嫁しているわけだが、 「根本的な問題は日本が『高齢先進国』の先行指標になったからだ」 と大前は言う。  アメリカは海外から移民を年間67万5000人も受け入れているから、人口が高齢化しにくい。  EUは27か国の共同体だから、人々の意識の中で高齢化問題が顕在化しにくい。   だが、日本人はもう誰もが少子高齢化の未来を確信している状態なのだ。  つまり「将来不安」が世界一高い国民ではないか? これでは企業に、家庭に、内部留保されたカネが市場に循環するとは思えない。  ここまでの分析はうなずけるのに、大前研一はここから企業の国籍に意味はないと唱え、問題は日本企業の 「内向き志向」 にあると言い始める。日本企業が真にグローバル化して、一旦国外に出た企業は祖国回帰をするなというのが、大前の主張だ。これがわしの考えと食い違う。  そもそも、今よりさらにグローバル化して、弱肉強食の市場絶対主義で国境を超えた人々が競争し、さらに貧富の格差を拡大することで、なぜ日本人の1500兆円の個人金融資産が市場に出ていくのだ?「将来不安」がもっと増すではないか。   高度経済成長の幻影を追いかける限り、国民はカネを使わない。その陥穽に墜ちているという点では、安倍政権も大前研一も「みんなの党」や「維新の会」なども全部同じ穴の貉である。     わしが考えているのは「成長戦略」を捨てて、 「成熟戦略」 を立てよ!である。  「坂の上の雲の、さらに坂の上を目指すより、坂の下の土地を耕せ」と言ったのと同じだ。今のところそれを目指す政党がないから、これから政治家を育てねばならない。  ローソンが働き盛り世代の年収を15万円増やすというが、これはローソンの新浪剛史社長が政府の産業競争力会議のメンバーに入っているからである。やらせみたいなものだ。他の企業が追随していくかどうかを注視しよう。  昔の労働組合は強力で、交通機関は完全にストップするほど、ストライキは徹底していたが、今の連合という組織は雇用者側との合意がすぐに成立する。基本的には正社員の代理にしかならないし、非正規雇用者は蚊帳の外だ。こんな労働争議で賃金アップが勝ち取れるとも思えない。良くてボーナスに微々たる額を反映させるというレベルで決着だろう。   消費者としては、給料が増えないまま、円安でガソリン・電気料金・アパレル・食料品・海外旅行などの物価高に対処しなければならなくなる。  株主や富裕層は益々儲かり、建設会社関連は儲かるが、消費に繋がるおカネは限定的になる。  安倍首相は浜田宏一という経済学者に完全に依存して、アベノミクスを進めているらしい。この浜田という人物は米イェール大学の名誉教授だが、アメリカのヘッジファンドの回し者じゃないのかと邪推してしまう。  今再びのマネーゲームで、実態の伴わない株価だけが異常に吊り上っている。どの週刊誌も 「安倍バブル」 と書いてるが、バクチのヘタな素人を誘い入れて、高値でつかませて売り抜けるプロの投機家が最後に笑うだけではないか。