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記事 4件
  • 「正しい宗教のつくりかた」小林よしのりライジング Vol.320

    2019-06-25 20:55  
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    ●わたしの先生
    「溶田研究会にご寄付をしてくださったみなさま、本当に、本当にありがとうございました。厚く、厚く、御礼申し上げま……あっ、溶田先生」
    「今日の練習かい? 偉いなあ。鶴見さん、よろしく頼むね。きみはこの溶田研究会の期待の星だよ。素直で真面目な良い子だし、きみのような若い女の子は、ただ存在するだけでいいぐらいだ。溶田研究会のアマテラスだね」
    「そ、そんな、畏れ多いです。先生、昨日配信の溶田宗泰チャンネルも拝見して勉強させていただきました。今日は先生のお役に立てるよう、精一杯がんばります!」
     楽屋前の廊下で緊張して立ち尽くし、挨拶の練習を繰り返していた私をわざわざ励ましに来てくれたのは、尊敬する溶田宗泰先生だった。旧皇族の溶田家に生まれ、日本と皇室についての著書をたくさん出版している溶田先生は、多数のテレビ出演をこなしながら、国史や伝統文化を学ぶ「溶田研究会」を主宰し、全国で講演活動を行っている。私は研究会に参加して学ぶ一女子大生に過ぎないが、今日は先生の講演の場で、特別に挨拶の時間を任されることになった。壇上で大勢に向かって話すのははじめてのことで、昨夜は緊張で眠れていない。
    「あれ、目が充血してるぞ? 鶴見さんはがんばり屋だからな。僕ね、きみを一番評価しているんだ。リラックスしていこうね」
    「は、はい!」
     四角い眼鏡の奥でやわらかく微笑みながら、先生が一歩こちらへ近づき、私の左肩にそっと手を置いた。先生がこんなに近くにいて、私に触れている――!
     その途端、先生の触れた部分から痺れるような熱い電流が走り出すのを感じた。それは渦を巻いてたちまち全身をかけめぐり、脳の隅々の神経細胞から手足の指先まで細密にゆきわたって、私の内側を感激の恍惚でいっぱいにした。
     なんてことだろう、旧皇族の溶田宗泰先生が、歴代の天皇の血を引く御方が、いま私の体に触れている。そして、私だけを見て微笑んでいるのだ。ここには溶田先生と私だけがいる。先生は、私が緊張でよく眠れていないことに気づいてくれた。一緒にこの会場へやってきた両親ですら言ってくれないことを、すぐに悟ってくれた。やっぱり先生は普通の人じゃない。そんな普通じゃない凄い人に、私は評価されているなんて。
     大地から浮き上がるような感覚だった。胸がいっぱいになり、涙があふれ出そうだった。
    「溶田先生、まもなくお時間です」
     呼び掛けるスタッフのほうを振り向き、壁の時計を確認した先生は、右手でさっと眼鏡の位置を整えると、表情を引き締めて舞台袖へと向かっていった。
     なんて素敵なんだろう。勉強会でもテレビでも、私は先生の横顔を見るのが好きだった。大きな下顎と立派に突き出た喉仏。そこには男性としての強さと逞しさが宿っている。けれども決して粗暴なイメージはなく、全体の佇まいは上品そのもの、時に激しく、時に相手を説き伏せるように、とめどなく繰り出される知識もやはり旧皇族としての凄さを感じさせた。
     生まれも育ちも私なんかとはまるで違って、本来は同じ空間にすらいられない人のはずだ。そんな人が気さくに励ましてくれる。それどころか、肩に手まで置いてくれる。そんな溶田先生のために、今日はがんばらなければ。
     ほどなくして、「君が代」の前奏が流れだした。溶田研究会開幕の合図だ。
  • 「イージス・アショアは媚米購入」小林よしのりライジング Vol.319

    2019-06-18 17:35  
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    「アングロサクソンについていけば、日本は100年安泰」
     安倍晋三は師匠・岡崎久彦の遺訓を忠実に実行しているようだが、これを非難できる日本国民は、いったいどれだけいるだろうか?
     安倍政権は現在、北朝鮮の弾道ミサイルから日本を守るためとして、米国製の地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備を進めている最中だ。
     「アショア(Ashore)」とは「岸に、海岸に、陸に」という意味で、「Aegis Ashore(イージス・アショア)」は「陸地のイージス」という意味である。
     これまで日本の対北朝鮮ミサイル防衛は、海上自衛隊のイージス艦に搭載されたミサイル「SM3」が大気圏外で迎撃、撃ち漏らした場合は地上配備型の「PAC3」が高度十数キロで迎撃するという構想だったが、新たにイージス・アショアを導入することにしたのである。
      イージス・アショアの配備予定地は、秋田県秋田市の陸上自衛隊新屋演習場と、山口県萩市の陸上自衛隊むつみ演習場の2カ所とされている。
     しかし、なぜ秋田と山口なのか? 
     防衛省は5月27日、青森、秋田、山形3県の国有地計19カ所を調査した結果、秋田の新屋演習場が東日本で唯一の適地だとする報告書を公表した。
     だがこの報告書に対して、「『新屋ありき』で数値を改竄した」との疑念が噴出。
     報告書では19カ所のうち9カ所を、弾道ミサイルを追尾するレーダーを遮ってしまう山が周囲にあるという理由で「不適」としたが、その根拠である山頂を見上げた「仰角」が、いずれも実際より大きく記されており、仰角15度としていたところが、実際には4度しかなかった箇所まであったのだ。
      6月8日に秋田市で行われた住民説明会では、このような重大事態が発覚した後だというのに、出席していた東北防衛局の職員が居眠りをして、怒号の飛び交う大紛糾となった。
     このため、もうひとつの配備地である山口県萩市でも、「結論ありき」で進められているのではないかという不信感が広がっている。
     そして実際に、これはあまりにも呆れた理由による「結論ありき」だったことが明らかになった。
     6月13日放送のテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」の「そもそも総研」で、玉川徹氏が軍事ジャーナリストの田岡俊次氏と共同通信社編集局編集委員の石井暁氏に取材したところ、両者の見解は全く一致していた。
      北朝鮮からハワイに向けての弾道ミサイルを撃ったら、秋田がちょうどその軌道の真下。グアムに向けて撃てば、山口がその真下になる。
     ミサイルは真正面から来た方が迎撃しやすいため、イージス・アショアは予想される軌道の真下にあることが望ましい。
      つまりイージス・アショアは日本を守るためではなく、ハワイとグアムを守るために配備されるのだ!
     
     イージス・アショアの射程は2500kmもあるから、1基あれば、どこに置こうが日本全体をカバーできる。できるだけ真正面から迎撃した方がいいということを考えれば、理想的な配備地は、東京を守るためなら能登半島、大阪を守るためなら隠岐諸島あたりである。
     ところがわざわざ、秋田と山口に1基ずつ置くのだから、これはハワイとグアムの防衛が目的としか考えようがないのだ!
      しかも何より危険なのは、イージス・アショアが敵の攻撃対象になるということである。
     北朝鮮からすれば、イージス・レーダーがある限り、ミサイルをいくら飛ばしても迎撃されるわけだから、まず先にこれを破壊しなければならない。
      移動式のイージス艦と違い、イージス・アショアは地上配備型であり、一定の地域に固定されているから、当然その場所が攻撃される。
     戦争のセオリーとしては、「誤爆」として基地周辺の街を破壊するのが効果的とされているともいうから、地域住民がその巻き添えで殺されることも十分ありうる。地域住民が怒るのは、あまりにも当然なのである。
      また、住民にとっては、レーダーの電磁波による健康被害も不安要素である。
  • 「中高年ひきこもりは親の責任」小林よしのりライジング Vol.318

    2019-06-11 20:55  
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     中高年ひきこもりは一過性の話題では済まない。
     もはや、日本の未来を危うくする大問題となっている。
     51歳ひきこもり男が起こした川崎市の20人殺傷事件に誘発される形で、今度は76歳の 父親が44歳のひきこもり息子を刺殺する事件を起こした。
     息子を殺した熊沢英昭は、農水省トップの事務次官にまで上り詰めた元エリート官僚だった。
     殺害された息子・熊沢英一郎は、都内屈指のエリート校である私立駒場東邦中学・高校へ進むが、同校からは毎年数十人が東大に入るのに対し、英一郎が進んだのは代々木アニメーション学院だった。
     その後、数年おいて流通経済大学に入るなどもしたようだが、結局は定職にもつかず、ネットとゲーム三昧の「ネトゲ廃人」といわれる生活を送っていた。 その生活費やゲーム代は全て父親が出しており、1か月のゲーム課金額が32万円にも上っていたらしい。
     英一郎はツイッターで「元農水省トップの父」をしきりに自慢し、 「私は、お前ら庶民とは、生まれた時から人生が違うのさw」 などと他人を見下し、誹謗中傷する書き込みを繰り返していた。
     一方、母親については 「中2の時、初めて愚母を殴り倒した時の快感は今でも覚えている」「愚母を殺したい」「貴様の葬式では遺影に灰を投げつけてやる」 などと憎悪をむき出しにしている。
     また、真偽は不明だが 「私は肉体は健康だが脳は生まれつきアスペルガー症候群だし、18歳で統合失調症という呪われて産まれた身体。私が1度でも産んでくれと親に頼んだか?」 というツイートなどもあり、ネット内では「ヤバい人」として有名だったらしい。
     英一郎はここ10年ほどひとり暮らしをしていたが、近所とゴミ出しのトラブルを起こし、5月末に実家に戻ってきた。 するとたちまち両親に対して殴る蹴るの暴行を繰り返すようになり、父親は身の危険を感じたという。
     そして、川崎の事件から4日後の6月1日、 家に隣接する小学校の運動会に英一郎は 「うるせぇな、ぶっ殺してやる」 と騒ぎ、それを注意した父親と口論となった。
      そこで父親は、息子が川崎のような事件を起こすことを恐れ、台所の包丁で胸など10数か所を刺し、殺害した。英一郎が実家に戻ってから、わずか1週間ほど後のことだった。
     ひきこもりなどの自立・更生支援等の事業を手掛け、ジャーナリストとしても活動する押川剛氏が『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)という著書を出している。
     押川氏のもとには毎日のように、子供の暴力や暴言に悩む親からの相談や依頼がある。 「子供を殺してください」 は実際にその中で言われた言葉で、他にも 「いっそ子供が死んでくれたら」 などという訴えをよく聞くという。
     これは単に「家庭内暴力」の一言で済まされるような問題ではなく、その背景には重度の統合失調症、うつ病、強迫症、パニック症といった精神疾患や、薬物やアルコール、ギャンブル、ネット、ゲームへの依存症や嗜癖、ストーカー、DV、性犯罪などの問題が存在する。
     そして「ひきこもり」も、それらの問題のうちの一つなのである。
     押川氏は同書で「近年、爆発的に増えている」ケースとして、こんな特徴を挙げている。
    「年齢は三十代から四十代で、ひきこもりや無就労の状態が長くつづいている。暴言や束縛で親を苦しめる一方で、精神科への通院歴があることも多く、家族は本人をどのように導いたら良いのかわからないまま手をこまぬいている。
     そしてもう一つの典型例は、本人に立派な学歴や経歴がついていることである。中学や高校からの不登校というよりは、高校までは進学校に進みながら、大学受験で失敗した例や、大学卒業後、それなりの企業に就職したが短期間で離職した例が多い。強烈な挫折感を味わいながらも、『勉強ができる』という自負がある」
     熊沢英一郎は、完全な典型例だったのである。
     そしてその根底にある要因を、押川氏はこう指摘する。
    「その生育過程においては、親からの攻撃や抑圧、束縛などを受けてきている。過干渉と言えるほどの育て方をされる一方で、そこに心の触れ合いはなく、強い孤独を感じながら生きてきたのだ」
    「常に緊張を強いられ、安心感を得ないまま大人になったような子供が、受験や就職の失敗により人生を見失ったとき、その怒りは親に向かう」
      結局のところ、問題行動の原因は「親の愛情不足」に尽きるようだ。
     生まれてこの方、この世には愛情や信頼で成り立つ人間関係があるということを知らない。「支配・被支配」の関係しか知らない。相手を攻撃する、束縛する、支配するというコミュニケーションの取り方しか知らない。
     当然、そんな人間はどこへ行っても嫌われ、孤立する。それでひきこもりになって、自分が何もかもうまくいかないのは親のせいだと、憎悪の念を持つようになるのだ。
     押川氏は 「子供の頃に親からされたことに、今になって仕返しをしているのではないかと思うほどです」 と記している。
      自分が子供に愛情をかけず、モンスターに育ててしまったのだから、そいつが他人の子供を殺す前に自分で始末をつけるというのも、子育てに失敗した親のひとつの責任の取り方として、わしは肯定する。
     ところが、メディアではそんな意見は言ってはいけないことにされていて、「どんな理由があろうと、殺してはいけない」という意見しか許されないような状態になっている。
  • 「川崎殺傷事件:自殺テロの防ぎ方」小林よしのりライジング Vol.317

    2019-06-04 20:10  
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     何とも痛ましい事件が起こってしまった。
     川崎市の20人殺傷事件である。
     犯行は計画的で、スクールバスを待つ小学生らに背後から無言で忍び寄り、両手に持った刃渡り30㎝の柳刃包丁で手当たり次第にめった刺ししてから自殺、その間わずか十数秒だったというから、これではいくら警備を強化しても防ぎようがない。
     しかも目的が「自殺」にあるのだから、どんなに刑を厳罰化しても何の抑止力にもならない。
     それならば、同様の事件の再発を防ぐにはどうしたらいいのだろうか?
     犯人の51歳男性・岩崎隆一は両親の離婚後、父母のどちらにも引き取られず、父方の伯父夫婦家族と暮らし、中学卒業後は定職にもつかず、30年以上子供部屋に籠って社会との繋がりをほぼ拒絶して生きていた。
     NHKが取材をしても、 中学卒業後、犯行に至るまでの間の岩崎について知っている人は一人も見つからなかったというし、当人の写真も中学の卒業アルバム以降のものは、どうやら一枚も存在していないようだ。 近所の人も、事件を起こす間際に見かけるようになるまで30年以上、その家に岩崎が住んでいることも知らなかったという。
     伯父夫婦とのコミュニケーションも断絶していたようで、ひとつ屋根の下に住んでいながら、何か言うにも部屋の前に手紙を置かなければならないような状態だったらしい。
      親の愛情も、社会との関わりも何もない、一切の束縛を失った「自由」の中では、人間は狂う。 わしは『戦争論』などで何度もそのことを描いてきたが、今回もまさにその典型例と言うべきだろう。
    「自分を一番自由にしてくれる束縛は何か?それを大事に思う心を育てよう」
    『戦争論』でそう描いたのに、誰もそこを重要視しない。日本軍は正義だったか、悪だったかと、喧嘩してるばかりで、「個と公」というテーマには、右も左も熟考することがなかった。
     岩崎が「ひきこもり」傾向にあったことで、ひきこもりが「犯罪者予備軍」であるかのような偏見が助長されることが危惧されるとして、ひきこもり当事者の支援団体「ひきこもりUX会議」は声明文を発表した。
     声明文では「『ひきこもり』かどうかによらず、周囲の無理解や孤立のうちに長く置かれ、絶望を深めてしまうと、ひとは極端な行動に出てしまうことがあります」と主張している。
     確かに、今回の犯行は池田小事件の宅間守、秋葉原通り魔事件の加藤智大や、新幹線通り魔事件の小島一朗らと同種のものであり、それらの犯人たちはひきこもりだったわけではない。
     ひきこもりによる孤立感や、80代の老親が50代のひきこもりの子を養っている「8050問題」による、将来に対する絶望感が要因となったことは考えられるが、ひきこもりだから事件を起こしたというよりは、今回はたまたまひきこもりの男が、宅間守や加藤智大と同様の心理状態になって起こしたものと考えるべきであろう。
      ひきこもりかどうかに関係なく、未来に孤独と絶望しかなく、自暴自棄になって凶行に及びかねない「予備軍」は、いつどこにいるかわからないと思っておかなければならないのである。
      強い自殺願望を抱いている者が社会に恨みを持ち、一人で死ぬのは嫌だ、バカらしいと考え、誰かを巻き添えにして死のうとすることを「拡大自殺」というそうだが、わしはこれを「自殺テロ」と呼びたい。
     失うものがない「無敵の人」がヤケクソで起こした自殺テロの巻き添えで、幼い子供や将来有望な人物が犠牲になるなんてとても許せるものではなく、わしとて「死ぬなら一人で死ね!」と言いたくもなるが、公にそう言っては、かえって危ないらしい。
     自殺テロ予備軍の人間は、宅間や加藤や今回の岩崎隆一のような人間に感情移入し、自分と重ねて見ていたりするので、彼らが「一人で死ね!」と言われると、自分が「一人で死ね!」と言われているように感じ、社会から疎外されているように思い、社会に対する恨みを募らせてしまうのだという。
     勝手な被害者感情だとは思うが、そう感じるのをやめさせることはできないのだから、それならなるべく刺激しないようにしておくしかない。その代わり、社会や行政がそういう人間を孤独から救い、就職の面倒まで見るようにする施策が必要である。
     岩崎隆一は携帯もパソコンも持っておらず、かつて所有していた形跡も一切なかったという。