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記事 2件
  • 「戦争写真家ロバート・キャパのこと」小林よしのりライジング Vol.276

    2018-07-10 21:00  
    150pt
     今日は、世界中の戦争報道に多大な影響を与えた20世紀を代表する戦場カメラマンを紹介しようと思う。
     
    ●ロバート・キャパ(1913-1954)
     ハンガリーのブダペストに生まれたユダヤ人で、スペイン内戦、日中戦争、第二次世界大戦におけるヨーロッパ戦線、イスラエル独立とパレスチナ戦争、第一次インドシナ戦争と数々の戦争を文字通りの「最前線」で取材し報じてきた“世界最高の”と冠のつく報道写真家だ。
     これまで仕事でいろんな写真事務所に出入りしてきたけれど、このキャパの肖像写真はあちこちで見かけた。スタジオに、まるで神棚のように飾っている写真家もいた。キャパに憧れ、影響を受けて報道を目指した人は世界中に大勢いるだろう。
     過酷な戦闘のなかで撮った写真に、ちょっとユーモアを交えたキャプションや体験レポートをたくさん添えて残している人物で、写真展ではじっくり目を通したくなる文章も多く展示されていた。まずは代表的な写真を紹介したい。
     
     (C) ICP / Magnum Photos (横浜美術館蔵)
      1944年6月6日撮影、第二次世界大戦、ノルマンディー上陸作戦。
     連合国側のキャンプに同行して招集がかかるのをひたすら待ち、フランスのオマハ・ビーチに上陸するアメリカ軍の第一陣と一緒になって船に乗り込み、大荒れの海へ出発。兵士らと一緒になって、銃弾が雨あられのように降り注ぐなか、大荒れの海に飛び込み、命懸けで上陸しながら撮影したものだ。
     周囲の兵士たちは、海水のなかでどんどん撃たれて死んでゆく。それを撮る。負傷者を救護するために飛び込んだ衛生兵も目の前でたちまち撃たれてゆく。それも撮る。フィルムを交換していると、突如として全身がニワトリの白い羽で覆われ、「誰かがニワトリを殺したのか」とあたりを見渡すと、砲撃に吹き飛ばされた兵士の防寒コートから噴出したものを浴びていたことに気づく。それも、撮る。
     キャパはノルマンディー上陸作戦で134枚を撮影。ところが、ロンドンの『ライフ』誌編集部に届けられたネガを受け取った暗室アシスタントが、編集者から「はやくプリントしてくれ!」と急かされて、興奮して慌ててしまったあまり、現像の過程で温度設定に失敗。なんと98枚ものフィルムを溶かしてしまい(!)、なんとかプリントされた写真は、たったの11点だったという。しかも、ピンボケしたりブレたり、きちんと撮れていないものばかり……。
     ところが、『ライフ』誌は商魂たくましい、というか、まったくふざけてるというか、この事実をまだ戦場にいるキャパに内緒にしたまま、残されたピンボケ写真に
    《その瞬間の激しい興奮が、写真家キャパのカメラを震わせ、写真にブレをもたらすことになった》
     というもっともらしいキャプションを勝手につけて、誌面で大々的に発表。すると、このピンボケブレブレ写真が、戦場の凄まじい衝撃をイメージさせることになり、大変な反響となった。
     キャパ自身も 「戦闘の興奮を伝えるためには、ほんの少しカメラを動かしてみるといい」 と何度も後進の報道写真家たちのために語っており、あえてボケ・ブレで撮った戦場写真は多数残っている。銃弾が降り注ぎ、どんどん人が血まみれで死んでいくなかで、表現のためにカメラを動かしながら撮るなんて、それだけで普通の精神状態じゃないが、キャパの代表作は、こんなユーモラスなタイトルだ。
     
     『ちょっとピンぼけ』(ダヴィット社)
    ●反骨精神と架空の写真家「ロバート・キャパ」
     ロバート・キャパは、本名を アンドレ・フリードマン という。アンドレの出身地ブダペストは、もともとは「ブダ」と「ペスト」の二つの都市が合併した場所だ。
  • 「二重低頭外交に向かう日本」小林よしのりライジング Vol.49

    2013-08-13 17:50  
    154pt
    麻生太郎副総理兼財務相の「 ナチスの手口見習ったらどうかね 」発言は、さすがに自民党の御用新聞である産経新聞ですら擁護する気になれなかったようだ。  産経は8月3日の社説で「お粗末な失言であり、撤回したのは当然である」「発言は日本のイメージや国益を損なった。麻生氏は重職にあることを自覚し猛省してほしい」「ナチスの行為を肯定すると受け取られかねない表現を用いたのはあまりに稚拙だった」「『いつの間にか』『誰も気づかないで』憲法が改正されるのが望ましいかのような表現は不適切だ」と批判している。珍しく、実に真っ当な社説である。  ところがこんな麻生の失言まで徹底擁護する、デリカシーの欠けた自称保守言論人がいる。 櫻井よしこ だ。  そもそも麻生の今回の失言は、櫻井が理事長を務める「公益財団法人 国家基本問題研究所(国基研)」のセミナーで飛び出したもので、櫻井はその主催者兼司会者という当事者中の当事者だった。  立場上、擁護しなければならないのかもしれないが、その理屈はあまりにもデタラメだ。 何しろ麻生の発言は正当なもので、朝日新聞が発言を「歪曲」して騒動を起こしたと言い張るのだから!  櫻井は8月5日の産経新聞コラム「美しき勁き国へ」で「 朝日の報道は麻生発言の意味を物の見事に反転させたと言わざるを得ない 」と断じ、「 朝日は前後の発言を省き、全体の文意に目をつぶり、失言部分だけを取り出して、麻生氏だけでなく日本を国際社会の笑い物にしようとした 」と非難している。   完全にネトウヨと同レベル、「都合の悪いことは何でもかんでも朝日新聞の陰謀!」という「朝日新聞陰謀論者」になっている。  しかし今回は産経の社説も朝日とほぼ同じ批判をしているが、産経は「陰謀」じゃないのだろうか?  朝日新聞が過去に政治家の片言隻句を文脈から切り取り、歪曲して「失言」をでっち上げたことがあるのは周知の事実だ。だが今回の麻生の発言は既に全文がネットに上がっていて、正当化しようがないシロモノなのは明白である。  ところが櫻井は「 一連の発言は、結局、『ワイマール体制の崩壊に至った過程からその失敗を学べ』という反語的意味だと私は受けとめた 」と言うのだ。  反語的意味?????  ほとんどガキの言い訳だ。こんな言い逃れが通じるのなら、言いたい放題暴言吐いて、非難されたら「 それは反語的意味で、真意は、逆のことを言いたかったのだ 」と言えば済むことになってしまう。   ところが「国基研」は団体の見解としても、「あれは反語」だと表明しているのだから、あきれ果てる。  音声で聞くと麻生はいかにも冗談・軽口といった口調で「 あの手口、学んだらどうかね 」と言っており、それに対して会場から笑い声が上がっている。   だが一国の副総理が公の場で 「 ナチスの手口、見習ったらどうかね 」 なんて、たとえ冗談でも言えないことくらい常識のはずだ。しかもこの発言は文字に起こすと冗談とは一切伝わらない。  さらにナチス云々を別にしても、 憲法を「誰も気づかない間に変わった」手口に学んで改正しろというのは、あまりにも不謹慎、不適切であり到底正当化できるものではない。  こんなことを軽率に口にできること自体が、憲法改正について真面目に考えていない証拠であり、冗談めかして言いながら実際には「 誰も知らないうちに、こっそり憲法改正できたらいいな~ 」というのが本音だとしか思えない。   これに笑っていた客席の感覚も異常だし、まして、これが「反語的意味」なんて解釈はどうひっくり返ったって不可能である。  麻生の発言は二重にも三重にも無知が絡まり合っていて、もう一点根本的な誤りがある。朝日も産経も社説で指摘し、東京新聞(8月8日)が詳しく解説していたが、 麻生はナチスの台頭に関する世界史の常識を全然知らないのだ。  麻生は日本の憲法改正論議を「狂騒の中でやってほしくない」としたうえで、「 ある日気づいたら、ワイマール憲法がナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった 」と言っている。   まず第1に、「ナチス憲法」なんてものはない。ナチスは「全権委任法」を成立させて、ワイマール憲法を事実上死文化させたのである。   しかもそれは「誰も気づかない間に」行なわれたのではない。それはまさに狂騒の中での出来事だったのである。