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書評:銃・病原菌・鉄(下) 1万3000年にわたる人類史の謎
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書評:銃・病原菌・鉄(下) 1万3000年にわたる人類史の謎

2019-05-27 23:24


     書評:銃・病原菌・鉄(下) 1万3000年にわたる人類史の謎
     ジャレド・ダイアモンド 著 草思社
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    ●「愛と思いやりの社会」と「恐怖と暴力で支配される社会」

     本書は<銃・病原菌・鉄>を主題とした文明論であるが、人類の「コミュニケーション」について述べた本とも言える。

     「銃による殺し合い」、「病原菌による感染」、「鉄という「知識」の伝達」はどれも、人間と人間の間のコミュニケーションによって発生する。

     著者は「我々が未開だと思っているアボリジニなど狩猟採取生活をしている人々の方が個体としては優秀だ」と述べている。

     筆者も全くその通りだと思う。例えばアボリジニに限らず、ナイジェリアなどでも「弱い乳幼児」はすぐに死亡する。厳しく言えば自然淘汰だ。日本のような先進国ではごく当たり前の「保育器」など提供されない。

     また、高齢者も自分で自分の面倒を見ることができなくなれば自然死を迎える。日本をはじめとする先進国のような長寿社会とは無縁であるし、バリア・フリーや寝たきり生活を支える社会的基盤も無い。

     つまり、先進国社会では、自然淘汰では排除されえるはずの「弱い人々」を高い社会コストをかけて支えているのだ。

     このことは、一見すると無駄なことのように思えるので、共産主義やファシズムなどの国々では「優性主義」に基づいて、「役に立たないように思える弱者」をターゲットとした虐殺が繰り返されてきた。

     しかし、これは人類がどのように発展してきたのかを理解しない愚かな考え方である。

     人類が発展できたのは巨大な「社会」=「チーム」を構築する能力がすぐれているからである。

     例えば、初期の狩猟採集社会では、せいぜい数十人くらいまでの部族単位で行動していたが、より大きく強い部族に吸収される形で、社会(組織)が成長し、国家と呼ばれるものにまで巨大化した。

     例えば、1億人(匹)とか3億人(匹)という単位の集団は、大型哺乳類では到底考えられない大きなものである。

     この巨大集団は二つの要素で統率されている。「暴力と恐怖」と「愛と思いやり」、つまり鞭と飴である。

     どのような先進的な国でも、凶悪犯罪者は暴力によって死刑に処せられたり、刑務所に押し込められたりする。そして、その恐怖が犯罪を抑止し、治安を保つ。

     しかし、それだけでは獣にしか過ぎない。人間だけとは言わないが、少なくとも近代において人間社会を維持する重要な要素として「愛と思いやり」は欠かせない。

     例えば、ギリシャ・ローマ時代のガレー船の漕ぎ手や、かつての米国南部の農園のブラウン人(黒人)奴隷たちを鞭うって無理やり働かせるのは可能であっただろう。ただ、労働を強制する奴隷労働は共産主義の計画経済(働く個人の収入を認めない共産主義は農奴制と全く同じ仕組みで、荘園領主が共産党に変わっただけである)でその非効率性が明らかになったし、豊臣秀吉の墨俣一夜城などの土木工事での成功は、やる気の無い人夫たちにいくら労働を強制しても無駄で、インセンティブを与えてやる気にさせることが、どれほど効率性が高いかを如実に示している。

     したがって、自然淘汰で排除されるはずの弱者を救い上げ守る「愛と思いやりの社会」の方が、「恐怖と暴力で支配される社会」よりも優位に立てるのだ。


    ●創意・工夫を鞭で支配できない

     人間社会が高度な社会を築くことができるようになった最大の理由は、農耕によって余剰生産物を生み出すことができるようになった点にある。

     酋長も皆と同じように狩りに出かける部族社会での専門化は、総人数の点と食料獲得のできない人々を養うことが困難であるという二つの点で実現可能とは言えない。

     余剰食糧の生産だけでは無く、それを貯蔵する手段の発達によって社会集団が大きくなり、専門家を多数抱えることができるようになった。

     この専門知識の集積と「交換」によって、驚くほど高度な文明が人類の歴史と比べれば1瞬ともいうべきここ1万年ほどの間に発展した。特に産業革命以降の驚異的発展をグラフ化すれば、あっという間に天空まで届きそうな驚異的スピードである。

     重要なのは、このような知識=創意・工夫は、より多くの「交換」が行われることによって加速するということだ。

     過去の歴史において、人口密度の高さと社会集団の規模が「交換」を促す重要な要素であった。それは現在でも同じだが、通信技術が発達した現在では「自由な交換」がより一層重要になってくる。

     例えば、ファシズムや共産主義が支配する社会で、自由な情報の交換は望めない。したがって、自由な交換が可能な、資本主義・民主社会が極めて有利なのである。

     米国が金融やITで派遣を握ることができたのも「交換が自由な社会」であるからだ。

     逆に人民を恐怖と暴力で支配する、ファシズムや共産主義の国々では優秀な研究者や起業家の自由な創意工夫が生まれにくい。いくら鞭で打っても、バイオやITなどの先端研究で勝つことはできない(盗むことによって追いつくことはできるかもしれないが・・・・)。

     結局、自然淘汰の結果選ばれた人々が個々人としては優秀であっても、「恐怖と暴力が優勢である社会」は「愛と思いやりが優勢な社会」に、社会(チーム)全体としては勝てないのである。


    (大原 浩)


    ★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
    (JKK)を設立しました。HPは<https://j-kk.org/>です。
    ★夕刊フジにて「バフェットの次を行く投資術」が連載されています。
    (毎週木曜日連載)


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    (情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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