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記事 4件
  • マクガイヤーチャンネル 第95号 【『聲の形』と『レイダース!』と作中で映画を作る意味】

    2016-11-28 07:00  
    220pt
    さて、今回のブロマガですが、ニコ生でも話題にした『レイダース!』と 『聲の形』 について語らせて下さい。 この二作には共通点があるのです……というか、『聲の形』の原作漫画で理解しづらい終盤の映画製作エピソードは、『レイダース!』(と以前のニコ生でも言及した 『リトル・ミス・サンシャイン』 )を補助線にするとぐっと分かりやすくなると思うのですよ。 日本ではネットフリックスのみで公開されている『レイダース!(Raiders!: The Story of the Greatest Fan Film Ever Made)』は、どうかしてる映画です。 https://www.amazon.com/Raiders-Story-Greatest-Blu-Ray-Digital/dp/B01EG1R9IO 1981年に公開された『インディ・ジョーンズ シリーズ』の第1作 『レイダース/失われたアーク』 について知らない人はいないでしょう。 往年の冒険活劇を(当時としては)現代的なSFXと10分に1回はピンチが訪れる現代的なテンポで再現した本作は、今となっては 『スター・ウォーズ』 と並ぶ名作シリーズとして位置づけられています。最初の三部作の評価が高く、21世紀になってから作られた4作目以降の評価が低いのも同じですね。
  • マクガイヤーチャンネル 第94号 【今だからこそちょっとだけ観たいテレビドラマ版『この世界の片隅に』」】

    2016-11-21 07:00  
    220pt
    さて、今回のブロマガですが、テレビドラマ版『この世界の片隅に』について語らせてください。
    一応、明示するまではなるべくネタバレしないような表現で書きますね。
    漫画、映画、テレビ、小説……というのはそれぞれ異なるメディアです。
    だから、同じ物語を語るとしても、違う表現になるのは当然です。
    たとえば、原作漫画版『この世界の片隅に』では直接的だった玉音放送後のすずの台詞が、映画版では若干ぼかした表現になっています。○○旗も短い時間しか映りません。これは、直接的な台詞にするとあまりにも説教臭くなり、観客が白けてしまうからです。漫画は自分のペースで読み進められますし、いつでも中断できます。一方で、映画は、観客を二時間暗い室内に拘束し、強制的に映像を見せ続けるメディアです(上映途中に退席するのは作品に対してはっきりと「NO」をつきつけるメッセージとなってしまいます)。映画の観客は、漫画の読者と比較して、集中力・読解力がある程度引き上げられた状態になっていることが前提となるわけです。
    映画版ではリンさんテルさんのエピソードがかなりの部分カットされ、すずが周作の「秘密」に気づいてない状態にあります。自分はこの点が不満で、映画版を手放しで絶賛できず、既婚者である片淵須直監督が結婚後に○○したり○○に行ったりしているにも関わらずこの改変(というか削除)をしたのなら、それは男にとって都合のいい世界になってしまったのではないか――というのはニコ生放送でお話しした通りですが、これも漫画と映画の違いに周知していた監督による選択の結果なのなのかもしれません。
    再読可能であり、長さに制限のない漫画(や小説)というメディアでは「戦争」、「家族」、「夫婦」、「日常」……といった複数のテーマを並列に扱えますが、映画ではそうはいきません。一つのテーマに絞り込むことが、映画が傑作になる鍵です(ハリウッド式、ともいえますが)。
    映画版『この世界の片隅に』は「戦争」という大きな一つのシンプルなテーマに絞り込み、「戦争における家族」、「戦争における夫婦」、「戦争における日常」……等々を上手く描きましたが、「戦争における不貞」「戦争における夫婦の裏切り」等は、戦争よりも「不貞」や「裏切り」の方が勝ってしまうので、映画版では省略した……そういうことかもしれません。
  • マクガイヤーチャンネル 第93号 【科学で映画を楽しむ法 第2回:『コンテイジョン』――科学的正確さと映画的面白さの両立―― その3】

    2016-11-14 07:00  
    さて、今回のブロマガですが、前回の続き――科学で映画を楽しむ法 第2回:『コンテイジョン』――について書かせてください。
    ●いや増す「この世の終わり」感
    不穏な音楽と共に、「この世の終わり」感がどんどんいや増してきます。
    マリオン・コティヤールは、仲間だと思っていたスン・フェンに拉致され、軟禁されます。故郷の村で感染者が発生し、スン・フェンは治療法を求めているのです。しかし、ワクチンも抗ウイルス薬もこんな短時間ではできないので無駄骨です(ということが、CDC内の模様もみている観客には分かります)。おそらくスン・フェンはネットの陰謀論、それもジュード・ロウに代表される嘘に惑わされているのです。
    ただ「我々は列の最後尾だ」は本当です。スン・フェンが連れて行く故郷の村は、みるからに貧乏そうなアジアというイメージで満載です。こんな村、本当に香港にあるのかどうか疑問ですが、中国の貧乏な村をイメージしているのかもしれません(特別行政区である香港から中国国内への移動は厳しく、国境を越えるのとほぼ同じ扱いになります)。どんなに医療が発達しても、資本主義的格差からくる医療格差が厳然と存在しているのです。
    フィッシュバーンには、(デイモンの妻がトランジットで立ち寄ったシカゴのある)イリノイ州選出の議員がワシントンで発病し、イリノイ州の空港も道路も証券取引所も閉鎖されようとしていることが知らされます。大統領は安全のためにシークレットサービスが居場所を不明にしているそうです。これは、完全な非常事態であることを示しています。新型インフルエンザの時もここまでの状況にはなりませんでした。
    「これが明らかになればパニックになるので公式発表まで伏せる」と言いますが、公式発表されてもどうせ少なからぬパニックがおこります。
  • マクガイヤーチャンネル 第92号 【科学で映画を楽しむ法 第2回:『コンテイジョン』――科学的正確さと映画的面白さの両立―― その2】

    2016-11-07 07:00  
    さて、今回のブロマガですが、前回の続き――科学で映画を楽しむ法 第2回:『コンテイジョン』――について書かせてください。
    ●BSL-4(P4)実験室
    舞台は実験室、それもBSL-4実験室です。
    BSLとはBioSafety Levelの略で、感染症の原因となる微生物やウイルスなどの病原体を取り扱う実験室や施設の国際的な格付けです。かつては物理的封じ込め(Physical containment)の頭文字をとってP4実験室と呼ばれていました。
    病原体は、危険度により4段階のリスクグループに分類され、4段階の実験室で扱う取り決めとなっています。
    通常の実験室であるBSL-1、
    実験に使用した器具を滅菌できるオートクレーブと、エアカーテンで遮断された安全キャビネットが設置され、許可された人物のみが入室できるBSL-2、
    前室が設置され、外部から常に空気が流入し、排気はエアフィルターで除菌されるBSL-3
    ……と、レベルが上がるごとにどんどん施設が厳重になっていきます。
    BSL-4はその中でも最も危険な病原体を取り扱う施設です。宇宙服のような防護服を着用するタイプと、グローブボックス型と呼ばれる外気と遮断された箱をBSL-3に置くタイプがあります。本作に出てくるのは前者ですね。
    直前のシーンで、防護服内に空気だけ入れるのは、穴が開いていないかどうかチェックするためですね。更に安全キャビネット内で操作し、二重に防護措置をとっています。空気感染するウイルスであっても、これだけの施設があれば安全に取り扱えることになります。
    そんなBSL-4実験室ですが、建設だけでなく維持・運用に莫大な費用がかかるので、世界に40~50施設しかありません。また、BSL-4実験室での取り扱うことになっている病原体はエボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッサウイルスなど南半球の熱帯雨林由来のものですが、BSL-4実験室のほとんどは北半球にあるという南北問題もあります。
    日本では、国立感染症研究所と理研の筑波研究所の2箇所にBSL-4実験室がありますが、「病原体が外部へ漏れるリスクはゼロではない」という近隣住民の反対運動により、両者ともレベル4の運用はされていませんでした。しかし、BSL-4実験室がきちんとレベル4で運用されることで危険な病原体への対策がとれるようになるのは、これから本作で描かれる通りです。
    実際、2014年の西アフリカでのエボラウイルスの流行時には、西アフリカに渡航した感染疑い邦人の血液検体を国内で解析することができませんでした。日本で採血し、わざわざアメリカに送って、解析して診断して貰ったのです。当然、国内で調べるよりも日数がかかり、このタイミングでの時間的遅れは対策の遅れと病原体の拡散に繋がります。これを契機としたのでしょう、2015年8月より感染研のBSL-4のみレベル4で運用されるようになりました。